知らないけど分かってる。
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知らないけど分かってる。4
* * *
船長室に〇〇を運び、そっとベッドに置く。前に何度か戯れで「お姫様抱っこしてよ」とせがまれたが、いつも渋い顔をして無視を決め込んでいた。あの時、素直に〇〇の小さなワガママを聞いてやれば、こんなタイミングで叶えることにはならなかったのだろうか…そんな風に全て目の前の悲劇に結びつけて考えてしまう。
「早く目ぇ、覚ませ。」
ドカッと音を立てて〇〇の寝るベッドに腰掛け、そっと汗で額に張り付いた前髪を手で払ってやる。静かな呼吸音と、呼吸に合わせて小さく動く胸元を見て、少しでも安心感を得ようとするが、このまま目を覚まさないのではという不安が覆い被さってきて、思わず顔をしかめて目を閉じた。
* * *
どれくらい時間が経ったのか、「う…ん」と小さく声が聞こえた気がした。〇〇を見ると長い睫毛が小さく震えた後、ゆっくりと目を開けて、その瞳に小さく俺が映り込む。
「目、覚めたか?」
安堵で胸を撫で下ろしながら、できる限り穏やかな口調で問いかける。
「…ここは?」
まだ意識が朦朧とするのか、〇〇は焦点が定まらないまま俺の方に顔を向ける。俺の顔をまじまじと見た後、その表情を一気に強ばらせた。
なんだ、どうした?と声をかけようとすると、悲鳴にも近い声で〇〇が叫ぶ。
「七武海!?なんで、どうして!!」
「〇〇、おまえ何言ってやがる…」
さっきまで目覚めたら少しは優しく気遣ってやろうと思っていたが、〇〇の想定外の反応に今さら何をふざけてるんだ、こっちがどれだけ心配したと思っている…と説教でもしてやろうかと思わず手を伸ばす。
…が、〇〇に触れる前に手を止め、更には行き場を失った手を慰めるように腕を組むと、気を落ち着かせるために深く一呼吸する。
〇〇の様子は異常だった。
全身を緊張で強ばらせて、恐怖で目を見開いた〇〇。まさかそんなことあるわけない、と嫌な予感を打ち消しながら、医者としてどこか冷静にこの状況を受け止めている。
大丈夫だ、落ち着け。
相手を警戒させてはいけない。そう自分に言い聞かせた後、できる限り感情を抑えて〇〇に質問する。
「お前、自分の名前は分かるか?」
「〇〇…」
「俺の名前を知っているか?」
「王下七武海、死の外科医トラファルガー・ロー…」
〇〇と二人で過ごすときは名前で呼ばせていたが、未だ慣れないのかいつも気恥ずかしそうに呼んでいた。それすらも愛しくて「あ、聞こえねえな?」とからかっていたのだが…。今の〇〇は淀みなく答える、ただ恐怖で声を震わせながら、だ。
「…お前、自分が何故ここにいるか分かってるか?」
俺の質問に対して考え込むが、言葉は見つからないようで、視線を下に落とし強く拳を握りしめている。ここに長居しても〇〇にとって、何ら良いことはないだろう。
「少しここにいろ」
一言、〇〇に声をかけると、後ろ手でドアを締めながら船長室から廊下に出た。
おそらく一時的な記憶障害だとは思う。
俺の名前、世間からの評価、自分の名前も分かっているようだった。ただ明らかに俺やこの船との関係性は抜けてしまっているようだ。
今、俺がすべきことは何か考える。
一時的な記憶障害であれば、何かしらのきっかけや時間の経過を経て戻ることはあるかもしれない。ただ、本人にとって、海賊団の一員であるということは衝撃以外のなにものでもないだろう。先ほどの反応を見ても、海賊(特に俺、王下七武海)に対してはネガティブな印象を持っているのがありありと見てとれた。
クルー達と少しずつでもコミュニケーションをとらせて、記憶の断片から芋づる式に思い出させるしかない。ただ、〇〇の抱える不安と辛さは相当なものだろう。こちらから思い出すことを強要したり、本人に先入観を植え付けるような発言だけは避けるべきだ。その最たる例が…
「俺の女だと知ったら、舌を噛んで自害しそうだな…」
思わず深いため息が出る。
さっきも自分のことを覚えていないなら力ずくでも思い出させてやろうと思ったが、いざ惚れた女の怯えた顔を見るのは想像以上のダメージがあり、思わず船長室を後にしたのが正直なところだ。
〇〇の望まないことはしたくねぇ。
それが最終的に自分の船を離れる選択だったとしても、だ。でもみすみすこのまま成り行きに任せるつもりもない。
「俺は海賊だ。欲しいものは必ず奪う。」
* * *
船長室に〇〇を運び、そっとベッドに置く。前に何度か戯れで「お姫様抱っこしてよ」とせがまれたが、いつも渋い顔をして無視を決め込んでいた。あの時、素直に〇〇の小さなワガママを聞いてやれば、こんなタイミングで叶えることにはならなかったのだろうか…そんな風に全て目の前の悲劇に結びつけて考えてしまう。
「早く目ぇ、覚ませ。」
ドカッと音を立てて〇〇の寝るベッドに腰掛け、そっと汗で額に張り付いた前髪を手で払ってやる。静かな呼吸音と、呼吸に合わせて小さく動く胸元を見て、少しでも安心感を得ようとするが、このまま目を覚まさないのではという不安が覆い被さってきて、思わず顔をしかめて目を閉じた。
* * *
どれくらい時間が経ったのか、「う…ん」と小さく声が聞こえた気がした。〇〇を見ると長い睫毛が小さく震えた後、ゆっくりと目を開けて、その瞳に小さく俺が映り込む。
「目、覚めたか?」
安堵で胸を撫で下ろしながら、できる限り穏やかな口調で問いかける。
「…ここは?」
まだ意識が朦朧とするのか、〇〇は焦点が定まらないまま俺の方に顔を向ける。俺の顔をまじまじと見た後、その表情を一気に強ばらせた。
なんだ、どうした?と声をかけようとすると、悲鳴にも近い声で〇〇が叫ぶ。
「七武海!?なんで、どうして!!」
「〇〇、おまえ何言ってやがる…」
さっきまで目覚めたら少しは優しく気遣ってやろうと思っていたが、〇〇の想定外の反応に今さら何をふざけてるんだ、こっちがどれだけ心配したと思っている…と説教でもしてやろうかと思わず手を伸ばす。
…が、〇〇に触れる前に手を止め、更には行き場を失った手を慰めるように腕を組むと、気を落ち着かせるために深く一呼吸する。
〇〇の様子は異常だった。
全身を緊張で強ばらせて、恐怖で目を見開いた〇〇。まさかそんなことあるわけない、と嫌な予感を打ち消しながら、医者としてどこか冷静にこの状況を受け止めている。
大丈夫だ、落ち着け。
相手を警戒させてはいけない。そう自分に言い聞かせた後、できる限り感情を抑えて〇〇に質問する。
「お前、自分の名前は分かるか?」
「〇〇…」
「俺の名前を知っているか?」
「王下七武海、死の外科医トラファルガー・ロー…」
〇〇と二人で過ごすときは名前で呼ばせていたが、未だ慣れないのかいつも気恥ずかしそうに呼んでいた。それすらも愛しくて「あ、聞こえねえな?」とからかっていたのだが…。今の〇〇は淀みなく答える、ただ恐怖で声を震わせながら、だ。
「…お前、自分が何故ここにいるか分かってるか?」
俺の質問に対して考え込むが、言葉は見つからないようで、視線を下に落とし強く拳を握りしめている。ここに長居しても〇〇にとって、何ら良いことはないだろう。
「少しここにいろ」
一言、〇〇に声をかけると、後ろ手でドアを締めながら船長室から廊下に出た。
おそらく一時的な記憶障害だとは思う。
俺の名前、世間からの評価、自分の名前も分かっているようだった。ただ明らかに俺やこの船との関係性は抜けてしまっているようだ。
今、俺がすべきことは何か考える。
一時的な記憶障害であれば、何かしらのきっかけや時間の経過を経て戻ることはあるかもしれない。ただ、本人にとって、海賊団の一員であるということは衝撃以外のなにものでもないだろう。先ほどの反応を見ても、海賊(特に俺、王下七武海)に対してはネガティブな印象を持っているのがありありと見てとれた。
クルー達と少しずつでもコミュニケーションをとらせて、記憶の断片から芋づる式に思い出させるしかない。ただ、〇〇の抱える不安と辛さは相当なものだろう。こちらから思い出すことを強要したり、本人に先入観を植え付けるような発言だけは避けるべきだ。その最たる例が…
「俺の女だと知ったら、舌を噛んで自害しそうだな…」
思わず深いため息が出る。
さっきも自分のことを覚えていないなら力ずくでも思い出させてやろうと思ったが、いざ惚れた女の怯えた顔を見るのは想像以上のダメージがあり、思わず船長室を後にしたのが正直なところだ。
〇〇の望まないことはしたくねぇ。
それが最終的に自分の船を離れる選択だったとしても、だ。でもみすみすこのまま成り行きに任せるつもりもない。
「俺は海賊だ。欲しいものは必ず奪う。」