知らないけど分かってる。
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知らないけど分かってる。14
* * *
「……ところで、その目の下の隈はなんだ?」
『あっ...…』
話は終わったと油断していたこともあり、不意をつかれたイッカクと私の間の抜けた声が揃う。
熱いシャワーのおかげで、血の気が感じられない不健康な顔色と目の下の隈は多少マシにはなったものの、それでも依然として赤く充血した目と、影が落ちたような目元をこの男が見逃すはずがなかった。
「寝れてないのか?」
ローの追及は続く。
どう言い訳すべきか逡巡してる間に、ローは私達を囲むように集まったクルー達をぐるりと見回し、僅かながら怒気を含んだ声で続ける。
「……お前ら、俺が抜けた後も遅くまでコイツを付き合わせたのか??」
クルー全員に良からぬ嫌疑がかけられていることに気がつき、背中に冷たい汗がつたう。シャチとペンギンはまるで背中に金属板でも入っているかのようにピンッと姿勢を正すと、顔の前で力の限り手を振り、自分達の身の潔白を訴えた。
「いやいやいやいやいや……キャプテン!俺達、ちゃんと日付越える頃には解散しましたよ!それに〇〇にアルコール一滴すら、飲ませてないし。」
「そうそう、お酒を勧めても『今日はちょっと……』って困る〇〇がまた可愛いのなんのって。ちょっ、待って待って!」
ローの親指がそっと鬼哭の鍔に触れたのを視界に捉えたシャチが悲鳴のように叫んだ。
「ロー、違う!皆はちゃんと遅くなる前に部屋に返してくれたよ。私が眠れなかった…だけ。」
シャチに食ってかからんばかりのローを止めようと声を張って異を唱えるも、なけなしの勇気は続かず最後は次第に小声になってしまう。ローが肩をピクリと動かし、ゆっくりとこちらに向き直った。
視線がこちらに向くだけで圧が……
視線が合う前に目を伏せたので、こちらに向き直ったローがどんな表情かは想像もつかない。死の外科医の前で不養生など言語道断だった…、ローの鬼の形相を想像して、絶対に視線は上げるまいと心に決める。
どんな叱責も甘んじて受け入れようと体に力を入れて待ち構えるも、いっこうに何も起こらない。代わりに、イッカクやペンギンのやけに楽しそうな声が耳に入る。
「あら、あらあらあらあらあら~」
「キャプテン、もしかして〇〇に呼ばれ……」
「うるせぇ!……暇なやつは全員に外に出ろ。久しぶりに、俺が直々に稽古をつけてやる。イッカク、ペンギン、お前らが一番手だ……覚悟しとけ。」
『えーっ!!』
話が急転直下で、思わず顔を上げる。ローは既に食堂を出るところで、ドアの隙間から白いシャツと僅かにタトゥーの腕が見えたが、次の瞬間、大きな音をたてて閉まるドアにすぐに視界を阻まれた。
ペンギンとイッカクは互いに「悪ノリしなきゃ良かった」と顔色悪く地面に座り込んでいる。訳が分からず呆然とする私の肩を、誰かがポンと叩いた。
「まぁ、うちのキャプテン、ああ見えてシャイなのよ。」
振り向くと、シャチが困ったような笑顔で肩を竦めている。そして混沌とした食堂で「おら、準備できたやつから甲板だ。キャプテンと稽古だぞ!」と声をかけ、私を甲板に連れ出した。
* * *
静かな廊下を、わざと音を立てるように乱暴に歩く。
ドッ、ドッ、と体内で響く早い鼓動を足音で搔き消すことは難しく、元来の自身の能力のせいか、それとも常日頃から体の変化に耳をすます癖がついているせいか、大量の血液が顔や耳の毛細血管に運ばれているのが分かった。
所謂、赤面するほど火照っている、という状況だ。
一刻も早く、熱エネルギーを発散させたかった。
「ありえねぇ……」
自分を嘲笑するように、呟く。
本当にこんな自分、不甲斐なくてありえねぇ。
何で名前ごときに、こんなに心を搔き乱されないといけねぇんだ。
耳に手をやると、熱を帯びた肌と冷たくザラリとした手触りのピアスが対照的で、先ほどクルー達に揶揄われたことを嫌でも思い出す。
遠慮がちに「ロー」と呼んだ、〇〇の声を頭の中で反芻する。その声は記憶を失う前の彼女のままで、それが余計に自分を昂らせている。このやりきれなさを鍛練で昇華しようなんざ、どこぞの海賊同盟の三刀流の剣士のようだと考えながら、久しぶりに鈍った身体を鍛えるべく甲板に足を運んだ。
* * *
「……ところで、その目の下の隈はなんだ?」
『あっ...…』
話は終わったと油断していたこともあり、不意をつかれたイッカクと私の間の抜けた声が揃う。
熱いシャワーのおかげで、血の気が感じられない不健康な顔色と目の下の隈は多少マシにはなったものの、それでも依然として赤く充血した目と、影が落ちたような目元をこの男が見逃すはずがなかった。
「寝れてないのか?」
ローの追及は続く。
どう言い訳すべきか逡巡してる間に、ローは私達を囲むように集まったクルー達をぐるりと見回し、僅かながら怒気を含んだ声で続ける。
「……お前ら、俺が抜けた後も遅くまでコイツを付き合わせたのか??」
クルー全員に良からぬ嫌疑がかけられていることに気がつき、背中に冷たい汗がつたう。シャチとペンギンはまるで背中に金属板でも入っているかのようにピンッと姿勢を正すと、顔の前で力の限り手を振り、自分達の身の潔白を訴えた。
「いやいやいやいやいや……キャプテン!俺達、ちゃんと日付越える頃には解散しましたよ!それに〇〇にアルコール一滴すら、飲ませてないし。」
「そうそう、お酒を勧めても『今日はちょっと……』って困る〇〇がまた可愛いのなんのって。ちょっ、待って待って!」
ローの親指がそっと鬼哭の鍔に触れたのを視界に捉えたシャチが悲鳴のように叫んだ。
「ロー、違う!皆はちゃんと遅くなる前に部屋に返してくれたよ。私が眠れなかった…だけ。」
シャチに食ってかからんばかりのローを止めようと声を張って異を唱えるも、なけなしの勇気は続かず最後は次第に小声になってしまう。ローが肩をピクリと動かし、ゆっくりとこちらに向き直った。
視線がこちらに向くだけで圧が……
視線が合う前に目を伏せたので、こちらに向き直ったローがどんな表情かは想像もつかない。死の外科医の前で不養生など言語道断だった…、ローの鬼の形相を想像して、絶対に視線は上げるまいと心に決める。
どんな叱責も甘んじて受け入れようと体に力を入れて待ち構えるも、いっこうに何も起こらない。代わりに、イッカクやペンギンのやけに楽しそうな声が耳に入る。
「あら、あらあらあらあらあら~」
「キャプテン、もしかして〇〇に呼ばれ……」
「うるせぇ!……暇なやつは全員に外に出ろ。久しぶりに、俺が直々に稽古をつけてやる。イッカク、ペンギン、お前らが一番手だ……覚悟しとけ。」
『えーっ!!』
話が急転直下で、思わず顔を上げる。ローは既に食堂を出るところで、ドアの隙間から白いシャツと僅かにタトゥーの腕が見えたが、次の瞬間、大きな音をたてて閉まるドアにすぐに視界を阻まれた。
ペンギンとイッカクは互いに「悪ノリしなきゃ良かった」と顔色悪く地面に座り込んでいる。訳が分からず呆然とする私の肩を、誰かがポンと叩いた。
「まぁ、うちのキャプテン、ああ見えてシャイなのよ。」
振り向くと、シャチが困ったような笑顔で肩を竦めている。そして混沌とした食堂で「おら、準備できたやつから甲板だ。キャプテンと稽古だぞ!」と声をかけ、私を甲板に連れ出した。
* * *
静かな廊下を、わざと音を立てるように乱暴に歩く。
ドッ、ドッ、と体内で響く早い鼓動を足音で搔き消すことは難しく、元来の自身の能力のせいか、それとも常日頃から体の変化に耳をすます癖がついているせいか、大量の血液が顔や耳の毛細血管に運ばれているのが分かった。
所謂、赤面するほど火照っている、という状況だ。
一刻も早く、熱エネルギーを発散させたかった。
「ありえねぇ……」
自分を嘲笑するように、呟く。
本当にこんな自分、不甲斐なくてありえねぇ。
何で名前ごときに、こんなに心を搔き乱されないといけねぇんだ。
耳に手をやると、熱を帯びた肌と冷たくザラリとした手触りのピアスが対照的で、先ほどクルー達に揶揄われたことを嫌でも思い出す。
遠慮がちに「ロー」と呼んだ、〇〇の声を頭の中で反芻する。その声は記憶を失う前の彼女のままで、それが余計に自分を昂らせている。このやりきれなさを鍛練で昇華しようなんざ、どこぞの海賊同盟の三刀流の剣士のようだと考えながら、久しぶりに鈍った身体を鍛えるべく甲板に足を運んだ。