知らないけど分かってる。
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知らないけど分かってる。13
* * *
イッカクと〇〇は遅めの朝食をとりに食堂に向かい、この喜ばしい報告は朝食を共にしたシャチを発信源として、あれよあれよと数分でポーラータング号の皆が知るところとなった。
もちろん船長室に籠っていたトラファルガー・ローも例外ではなく、「キャプテン、キャプテーン!!」とベポが猛烈な勢いで船長室に突入してくると、溜め息混じりに読みかけの本を机に置いた。
「ベポ、ノックと同時に部屋を開けてりゃ、ノックの意味はねぇ。そしてもう少し静かにしろ。うるせぇ。」
「大変だよ!〇〇が記憶を取り戻したんだ。」
ローが椅子から勢い良く立ち上がると、椅子はガタンと大きな音をたてて背後の本棚にぶつかった。
「〇〇は、どこに?」
「まだ、イッカクと食……
ベポが言い終わらないうちに、ローの姿は忽然と消えた。
「……もう、そんなに心配なら普段から側にいれば良いのに。」
この不器用なキャプテンは、〇〇が少なからず自分に対して萎縮しているのを知っている。だからこそ彼女が記憶を失ってからは敢えて時間を共有したり、同じ空間にいることを避けていた。
ベポは半分呆れたように呟くと、先ほどまでキャプテンが座っていた椅子に彼の代わりにポツンと落ちている、食堂のフォークをつまみ上げた。
* * *
「わぁ!!!」
片や食堂では、急にダイニンテーブルの上に現れたローが、〇〇を含めたクルーを驚かせていた。周囲の驚きなど気にもとめず、軽やかにダイニンテーブルから飛び降りると、〇〇の正面に立つ。
「……記憶が戻ったのか?」
「えっと……」
「正しくは一部の記憶が、ね。」
ローのあまりの迫力に声を詰まらせた〇〇に代わって、横からイッカクが救いの手を差しのべる。先ほど横目で、食堂から興奮した様子で飛び出したベポを見た時から、遅かれ早かれローが食堂に現れること、慌てん坊の航海士によって事実が多少ねじ曲がる可能性は念頭に置いていた。
「一部?」
怪訝な顔をするローに、イッカクはまずは座れと言わんばかりに椅子を勧める。そして〇〇をローの隣に座らせると二人の間に立つように説明を始めた。
〇〇曰く、全ての記憶が甦ったわけではない。今回のように、類似した経験に紐付けられて過去の経験が思い出されたようだ。それは明確に記憶が戻ったという感覚ではなく、ちょうど眠りが浅い時分に夢を見て、起きた時に現実と夢の境目が曖昧になる感覚に似ているらしい。
「こんなことあった気がするけれど、これは夢か現かどちらなのだろう」という具合だと、〇〇は食堂でイッカクに説明してくれた。それをそっくりそのままローに伝える。
ローが最後まで話を聞き終えたタイミングで、気を利かせたコックが〇〇とローの前に温かいお茶を置いてくれる。それを一口飲むと、ローは〇〇の方に改めて向き直る。
「良かったじゃねぇか。イッカクのアシストはあったとは言え、自力で思い出したんだろ。たとえ、一部であっても十分すぎる成果だ。」
そこまで言うと手を伸ばし、〇〇の頭を掠めるように軽く二度撫でた。
* * *
正直に言えば、ベポの言葉で勝手に全ての記憶が戻ったと期待したこともあり、イッカクの口から事実を聞き落胆したことは否めない。ただ、これは〇〇が悪いわけではなく、あくまでも俺が勝手に期待値を上げただけだ。だからそれを表情に出すのは筋違いだと分かっているし、それをすれば〇〇のことだ、自分を責め、俺に対する壁は一層高くなるだろう。
今はただ、この船を少しでも知ってもらえれば良い、これは俺の嘘偽りない気持ちだ。そんな想いが伝わればと自然と彼女に手を伸ばす。一瞬、〇〇が記憶を失った当初、手を伸ばす俺から身を捩って逃げようとした記憶がよぎった。
しまった、触れるのは早かったか……
〇〇は僅かに体を強張らせたものの、以前のように拒絶することなく素直に俺の手を受け入れ、こそばゆそうに目を細めた。
久しぶりに触れた〇〇の温かさに、このまま抱き寄せてめちゃくちゃにしてやりたいというドロドロした想いに絡めとられそうになる。そんな俺の汚い部分が〇〇に気取られぬよう、今度は俺の方から視線を外した。
* * *
イッカクと〇〇は遅めの朝食をとりに食堂に向かい、この喜ばしい報告は朝食を共にしたシャチを発信源として、あれよあれよと数分でポーラータング号の皆が知るところとなった。
もちろん船長室に籠っていたトラファルガー・ローも例外ではなく、「キャプテン、キャプテーン!!」とベポが猛烈な勢いで船長室に突入してくると、溜め息混じりに読みかけの本を机に置いた。
「ベポ、ノックと同時に部屋を開けてりゃ、ノックの意味はねぇ。そしてもう少し静かにしろ。うるせぇ。」
「大変だよ!〇〇が記憶を取り戻したんだ。」
ローが椅子から勢い良く立ち上がると、椅子はガタンと大きな音をたてて背後の本棚にぶつかった。
「〇〇は、どこに?」
「まだ、イッカクと食……
ベポが言い終わらないうちに、ローの姿は忽然と消えた。
「……もう、そんなに心配なら普段から側にいれば良いのに。」
この不器用なキャプテンは、〇〇が少なからず自分に対して萎縮しているのを知っている。だからこそ彼女が記憶を失ってからは敢えて時間を共有したり、同じ空間にいることを避けていた。
ベポは半分呆れたように呟くと、先ほどまでキャプテンが座っていた椅子に彼の代わりにポツンと落ちている、食堂のフォークをつまみ上げた。
* * *
「わぁ!!!」
片や食堂では、急にダイニンテーブルの上に現れたローが、〇〇を含めたクルーを驚かせていた。周囲の驚きなど気にもとめず、軽やかにダイニンテーブルから飛び降りると、〇〇の正面に立つ。
「……記憶が戻ったのか?」
「えっと……」
「正しくは一部の記憶が、ね。」
ローのあまりの迫力に声を詰まらせた〇〇に代わって、横からイッカクが救いの手を差しのべる。先ほど横目で、食堂から興奮した様子で飛び出したベポを見た時から、遅かれ早かれローが食堂に現れること、慌てん坊の航海士によって事実が多少ねじ曲がる可能性は念頭に置いていた。
「一部?」
怪訝な顔をするローに、イッカクはまずは座れと言わんばかりに椅子を勧める。そして〇〇をローの隣に座らせると二人の間に立つように説明を始めた。
〇〇曰く、全ての記憶が甦ったわけではない。今回のように、類似した経験に紐付けられて過去の経験が思い出されたようだ。それは明確に記憶が戻ったという感覚ではなく、ちょうど眠りが浅い時分に夢を見て、起きた時に現実と夢の境目が曖昧になる感覚に似ているらしい。
「こんなことあった気がするけれど、これは夢か現かどちらなのだろう」という具合だと、〇〇は食堂でイッカクに説明してくれた。それをそっくりそのままローに伝える。
ローが最後まで話を聞き終えたタイミングで、気を利かせたコックが〇〇とローの前に温かいお茶を置いてくれる。それを一口飲むと、ローは〇〇の方に改めて向き直る。
「良かったじゃねぇか。イッカクのアシストはあったとは言え、自力で思い出したんだろ。たとえ、一部であっても十分すぎる成果だ。」
そこまで言うと手を伸ばし、〇〇の頭を掠めるように軽く二度撫でた。
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正直に言えば、ベポの言葉で勝手に全ての記憶が戻ったと期待したこともあり、イッカクの口から事実を聞き落胆したことは否めない。ただ、これは〇〇が悪いわけではなく、あくまでも俺が勝手に期待値を上げただけだ。だからそれを表情に出すのは筋違いだと分かっているし、それをすれば〇〇のことだ、自分を責め、俺に対する壁は一層高くなるだろう。
今はただ、この船を少しでも知ってもらえれば良い、これは俺の嘘偽りない気持ちだ。そんな想いが伝わればと自然と彼女に手を伸ばす。一瞬、〇〇が記憶を失った当初、手を伸ばす俺から身を捩って逃げようとした記憶がよぎった。
しまった、触れるのは早かったか……
〇〇は僅かに体を強張らせたものの、以前のように拒絶することなく素直に俺の手を受け入れ、こそばゆそうに目を細めた。
久しぶりに触れた〇〇の温かさに、このまま抱き寄せてめちゃくちゃにしてやりたいというドロドロした想いに絡めとられそうになる。そんな俺の汚い部分が〇〇に気取られぬよう、今度は俺の方から視線を外した。