知らないけど分かってる。
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知らないけど分かってる。12
* * *
「本当にあんたは…」
シャワー室から場所を移し、イッカクと私は甲板に出て座り込む。雲一つない青空、太陽に温められた甲板は少し熱いが、座れない温度ではなかった。ちょうど群れがいるのか、外はウミネコのミャオミャオという鳴き声で賑やかだ。
やれやれと言わんばかりのイッカクに抵抗する術もなく、イッカクは私の背後に回ると、膝立ちになりタオルで髪の毛を乾かしてくれた。先ほどの大声の理由を追及されなかったことに安堵はしたが、イッカクは終始何か考え込んでいるようだった。
「なんか、前にもこんなことあったのよねぇ」
「?」
イッカクの穏やかな声が頭上から降ってくる。顔は見えないが、髪を乾かす手付きもさっきより幾分か優しくなっていた。
「前に夏島に近づいた時に、〇〇と一緒に貯蔵庫の管理をしていたらさ…、ふと棚の隙間に黒光りするものが見えて。」
イッカクの話を聞き、当の本人である私に記憶はもちろんないものの、何となくイメージを膨らます。
「で、それを見た〇〇が当然アレだと思って絶叫してね。〇〇の尋常じゃない叫び声を聞いたキャプテンがすぐさま能力で駆けつけて、シャチやペンギンも貯蔵庫に慌てて乗り込んできて…」
楽しそうに話すイッカクの言葉を頼りに、私はイメージを続ける。ただでさえ狭い貯蔵庫にローとシャチ、ペンギンといった屈強な男性陣が密集し、息苦しいような状況下で「今の悲鳴は?」「何があった」と矢継ぎ早に質問される。震える指先を何とかおぞましい物体に向けると、視線を私の指先からアレに滑らせたローが、怪訝な顔をした。
「お前ら、こんなもので悲鳴をあげたのか。」
「だって、陸ならまだしも船内にいると思わないし。ちょっとあんた達!下手に刺激しないで、飛ぶかもしれないでしょ。」
イッカクが黒光りする物体に気取られぬように、そろそろと距離をとる。「キャプテン、これさぁ…」と呆れるように肩をすくめるペンギンにローは溜め息をつきながら、手を宙にかざした。
『シャンブルズ』
黒光りする物体がいた場所には、先ほどまで私の手に握られていたペンが。…ということは、恐る恐る自分の手元に目にやると親指サイズの黒い物体が握られている。
「いやぁぁぁぁぁ」
渾身の悲鳴をあげ、腰が抜けてその場に力なく座り込む。そしてこんな仕打ちをクルーにするなんて冗談でも許されないと、イッカクがローを睨み付けた。
「…で、お前らはそんなにコレが怖いのか?」
ローはこちらの視線など痛くも痒くもないようで、ニヤリと口の端を緩ませると私の手元を顎で指す。なけなしの勇気を振り絞り、恐る恐る手の中に視線を向けると…
これって…
『チョコドーナツ?』
イッカクと声が重なる。
チョコレートでコーティングされた一口サイズのドーナツが手の中に収まっていた。夏島が近づいており船内の気温も比較的高いせいか、コーティングは溶けており、貯蔵庫の蛍光灯の光を反射させて不気味な光沢を放っている。
ローは私の手首を掴むと、それを自分の顔に近づけた。そして少しだけ鼻先を動かして匂いを確認すると、あろうことか私の指についたチョコレートらしき物体をペロリと舐めた。
「なっ、にしてんの!!!」
咄嗟のことに手を振りほどくこともできなかったが、なんとか抗議を示すべく強めの口調でローに言い返す。
「間違いない。チョコレートだな。」
ローは私の怒りなどどこ吹く風という澄まし顔で、「本当に虫が沸くから、掃除しとけ」と言い残すと、シャチとペンギンを連れて貯蔵庫を後にする。
チョコレートドーナツに騒ぐ2名の女性陣だけが取り残された、あまりにもシュールな日常の一コマだ。
* * *
「〇〇、あんた犯人覚えてる?」
「…その後、ドーナツを落としたってベポが騒いでて犯人も発覚したんだよね。」
当時のローの呆れた顔や悪びれないベポの顔が思い出されて、自然に笑みがこぼれた。
いつの間にか私の髪も乾いており、タオル越しにイッカクの手も止まっているのが分かる。微動だにしないイッカクが気になり、そっとタオルを外して振りむくと、イッカクを見上げた。
「イッカク?」
イッカクは目を潤ませて私をじっと見ている。そしていつものようにニッと目を細めて笑うと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「なんだ、ちゃんと思い出せたじゃない!」
* * *
「本当にあんたは…」
シャワー室から場所を移し、イッカクと私は甲板に出て座り込む。雲一つない青空、太陽に温められた甲板は少し熱いが、座れない温度ではなかった。ちょうど群れがいるのか、外はウミネコのミャオミャオという鳴き声で賑やかだ。
やれやれと言わんばかりのイッカクに抵抗する術もなく、イッカクは私の背後に回ると、膝立ちになりタオルで髪の毛を乾かしてくれた。先ほどの大声の理由を追及されなかったことに安堵はしたが、イッカクは終始何か考え込んでいるようだった。
「なんか、前にもこんなことあったのよねぇ」
「?」
イッカクの穏やかな声が頭上から降ってくる。顔は見えないが、髪を乾かす手付きもさっきより幾分か優しくなっていた。
「前に夏島に近づいた時に、〇〇と一緒に貯蔵庫の管理をしていたらさ…、ふと棚の隙間に黒光りするものが見えて。」
イッカクの話を聞き、当の本人である私に記憶はもちろんないものの、何となくイメージを膨らます。
「で、それを見た〇〇が当然アレだと思って絶叫してね。〇〇の尋常じゃない叫び声を聞いたキャプテンがすぐさま能力で駆けつけて、シャチやペンギンも貯蔵庫に慌てて乗り込んできて…」
楽しそうに話すイッカクの言葉を頼りに、私はイメージを続ける。ただでさえ狭い貯蔵庫にローとシャチ、ペンギンといった屈強な男性陣が密集し、息苦しいような状況下で「今の悲鳴は?」「何があった」と矢継ぎ早に質問される。震える指先を何とかおぞましい物体に向けると、視線を私の指先からアレに滑らせたローが、怪訝な顔をした。
「お前ら、こんなもので悲鳴をあげたのか。」
「だって、陸ならまだしも船内にいると思わないし。ちょっとあんた達!下手に刺激しないで、飛ぶかもしれないでしょ。」
イッカクが黒光りする物体に気取られぬように、そろそろと距離をとる。「キャプテン、これさぁ…」と呆れるように肩をすくめるペンギンにローは溜め息をつきながら、手を宙にかざした。
『シャンブルズ』
黒光りする物体がいた場所には、先ほどまで私の手に握られていたペンが。…ということは、恐る恐る自分の手元に目にやると親指サイズの黒い物体が握られている。
「いやぁぁぁぁぁ」
渾身の悲鳴をあげ、腰が抜けてその場に力なく座り込む。そしてこんな仕打ちをクルーにするなんて冗談でも許されないと、イッカクがローを睨み付けた。
「…で、お前らはそんなにコレが怖いのか?」
ローはこちらの視線など痛くも痒くもないようで、ニヤリと口の端を緩ませると私の手元を顎で指す。なけなしの勇気を振り絞り、恐る恐る手の中に視線を向けると…
これって…
『チョコドーナツ?』
イッカクと声が重なる。
チョコレートでコーティングされた一口サイズのドーナツが手の中に収まっていた。夏島が近づいており船内の気温も比較的高いせいか、コーティングは溶けており、貯蔵庫の蛍光灯の光を反射させて不気味な光沢を放っている。
ローは私の手首を掴むと、それを自分の顔に近づけた。そして少しだけ鼻先を動かして匂いを確認すると、あろうことか私の指についたチョコレートらしき物体をペロリと舐めた。
「なっ、にしてんの!!!」
咄嗟のことに手を振りほどくこともできなかったが、なんとか抗議を示すべく強めの口調でローに言い返す。
「間違いない。チョコレートだな。」
ローは私の怒りなどどこ吹く風という澄まし顔で、「本当に虫が沸くから、掃除しとけ」と言い残すと、シャチとペンギンを連れて貯蔵庫を後にする。
チョコレートドーナツに騒ぐ2名の女性陣だけが取り残された、あまりにもシュールな日常の一コマだ。
* * *
「〇〇、あんた犯人覚えてる?」
「…その後、ドーナツを落としたってベポが騒いでて犯人も発覚したんだよね。」
当時のローの呆れた顔や悪びれないベポの顔が思い出されて、自然に笑みがこぼれた。
いつの間にか私の髪も乾いており、タオル越しにイッカクの手も止まっているのが分かる。微動だにしないイッカクが気になり、そっとタオルを外して振りむくと、イッカクを見上げた。
「イッカク?」
イッカクは目を潤ませて私をじっと見ている。そしていつものようにニッと目を細めて笑うと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「なんだ、ちゃんと思い出せたじゃない!」