知らないけど分かってる。
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知らないけど分かってる。10
* * *
「おはよう、〇〇」
二段ベッドの階段を降りながら、イッカクは下の段を使う〇〇に声をかけた。こちらに背を向け縮こまるようにして、ブランケットにくるまっている姿は冬眠中の小動物のようだ。モソモソと動く彼女はまだ起きる気配がない。先に身支度を済ませようと静かに廊下に出る。洗面所に向かい、手早く洗顔と歯磨きを済ませて部屋に戻ると、既に〇〇は着替えを済ませていた。まだ揃いの繋ぎを着るのに抵抗があるのか、麻の涼しげなパンツに白いシャツとシンプルな装いだ。彼女の華奢な体のラインを見ていたが、少し視線を上げて表情を伺う。昨日は夜遅くまで盛り上がったがアルコールはほとんどいれていないはずだ、二日酔いの心配はないだろう…
「ちょっと、その顔どうしたのっっ!!!」
イッカクの声は廊下にまで響き渡り、なんだどうしたと廊下を歩いていたクルー達が部屋の外から声を掛けてきた。慌てて僅かなドアの隙間から顔だけ覗かせて、「なんでもない、気にするな」と畳み掛けるように廊下に滞留する男性陣を蹴散らす。
廊下が落ち着くと、イッカクはようやく部屋の扉をがっちりと閉め、改めて〇〇に向き直った。
目の前の〇〇の顔、目の下には青々とした隈がはっきりの残っており、目は真っ赤だ。
「〇〇…あんたまさか一睡もしてないの?」
〇〇は力なく頷く。
イッカクはイビキをかく人間ではない。そのため自分の存在が〇〇の睡眠を妨害したとは思えなかった。
「寝よう寝ようと思ったんだけど、焦れば余計に目が冴えて…」
姿勢を維持するのも辛いのか、〇〇は立ってはいるもののフラフラと海に揺蕩うクラゲのようだ。こんな顔で食堂に連れていけるわけもなく、イッカクは〇〇の頭にタオルをかぶせると、さっさと風呂場に連行した。
「とりあえずシャワーでも浴びましょ」
* * *
ポーラータング号はシャワー室があり、コンパクトながら小さな湯船もついている。イッカクは脱衣場の扉の前で〇〇に使い方を簡単に説明した。
「本当は一人で気ままに入りたいだろうけど、頭の怪我だし、何かあってからじゃ遅いから私は扉の外に待機してる。気分悪くなったら声をかけるんだよ」
それ以前に寝不足で風呂の中で溺れかねないと、いっそうイッカクを不安にさせる。
「了解です」
フラフラと脱衣場に入り〇〇はドアを締める。イッカクはドア越しに衣擦れの微かな音とカチャリとシャワー室のドアが開く音を聞いて、とりあえず〇〇が無事に風呂から上がってくれることと、少しでも目の下の隈がマシになるよう祈った。
* * *
眠い…
眠いのに寝れなかった。
朦朧とする頭を抱えながら、緩慢な動きで服を脱ぎ、重たい体を引きずってのろのろとシャワー室に入った。まるで雨上がりの夏島のように熱気と湿度が体にまとわりつく。
とりあえず熱いシャワーを頭からかぶって、少しでも体を目覚めさせ、血の巡りを良くしよう…と考える。それにしてもイッカクが引くほどの顔なのだろうか、恐る恐るシャワー室の姿見に映る自分を見る。湯気で曇った鏡にぼんやりと自分の顔が浮かぶが、そこまで隈が酷いのか判断が付かない。〇〇は手元のシャワーで鏡の曇りを流した。強い水圧を至近距離で受けた鏡から、大きな水滴が辺りに飛び散る。ようやく鮮明に映る自分の顔に、ああ確かにこれは酷いと思いながら、〇〇はそのまま鏡に映る自分の顔から体に視線を下げた。
* * *
「いやぁぁぁぁぁ」
絹を裂くような悲鳴に脱衣場の扉に寄りかかっていたイッカクは思わずバランスを崩す。何が起きたか状況は全く飲み込めないが、〇〇のただならぬ悲鳴が、良くない事態を物語っている。
「〇〇!!どうしたの、大丈夫?」
* * *
「おはよう、〇〇」
二段ベッドの階段を降りながら、イッカクは下の段を使う〇〇に声をかけた。こちらに背を向け縮こまるようにして、ブランケットにくるまっている姿は冬眠中の小動物のようだ。モソモソと動く彼女はまだ起きる気配がない。先に身支度を済ませようと静かに廊下に出る。洗面所に向かい、手早く洗顔と歯磨きを済ませて部屋に戻ると、既に〇〇は着替えを済ませていた。まだ揃いの繋ぎを着るのに抵抗があるのか、麻の涼しげなパンツに白いシャツとシンプルな装いだ。彼女の華奢な体のラインを見ていたが、少し視線を上げて表情を伺う。昨日は夜遅くまで盛り上がったがアルコールはほとんどいれていないはずだ、二日酔いの心配はないだろう…
「ちょっと、その顔どうしたのっっ!!!」
イッカクの声は廊下にまで響き渡り、なんだどうしたと廊下を歩いていたクルー達が部屋の外から声を掛けてきた。慌てて僅かなドアの隙間から顔だけ覗かせて、「なんでもない、気にするな」と畳み掛けるように廊下に滞留する男性陣を蹴散らす。
廊下が落ち着くと、イッカクはようやく部屋の扉をがっちりと閉め、改めて〇〇に向き直った。
目の前の〇〇の顔、目の下には青々とした隈がはっきりの残っており、目は真っ赤だ。
「〇〇…あんたまさか一睡もしてないの?」
〇〇は力なく頷く。
イッカクはイビキをかく人間ではない。そのため自分の存在が〇〇の睡眠を妨害したとは思えなかった。
「寝よう寝ようと思ったんだけど、焦れば余計に目が冴えて…」
姿勢を維持するのも辛いのか、〇〇は立ってはいるもののフラフラと海に揺蕩うクラゲのようだ。こんな顔で食堂に連れていけるわけもなく、イッカクは〇〇の頭にタオルをかぶせると、さっさと風呂場に連行した。
「とりあえずシャワーでも浴びましょ」
* * *
ポーラータング号はシャワー室があり、コンパクトながら小さな湯船もついている。イッカクは脱衣場の扉の前で〇〇に使い方を簡単に説明した。
「本当は一人で気ままに入りたいだろうけど、頭の怪我だし、何かあってからじゃ遅いから私は扉の外に待機してる。気分悪くなったら声をかけるんだよ」
それ以前に寝不足で風呂の中で溺れかねないと、いっそうイッカクを不安にさせる。
「了解です」
フラフラと脱衣場に入り〇〇はドアを締める。イッカクはドア越しに衣擦れの微かな音とカチャリとシャワー室のドアが開く音を聞いて、とりあえず〇〇が無事に風呂から上がってくれることと、少しでも目の下の隈がマシになるよう祈った。
* * *
眠い…
眠いのに寝れなかった。
朦朧とする頭を抱えながら、緩慢な動きで服を脱ぎ、重たい体を引きずってのろのろとシャワー室に入った。まるで雨上がりの夏島のように熱気と湿度が体にまとわりつく。
とりあえず熱いシャワーを頭からかぶって、少しでも体を目覚めさせ、血の巡りを良くしよう…と考える。それにしてもイッカクが引くほどの顔なのだろうか、恐る恐るシャワー室の姿見に映る自分を見る。湯気で曇った鏡にぼんやりと自分の顔が浮かぶが、そこまで隈が酷いのか判断が付かない。〇〇は手元のシャワーで鏡の曇りを流した。強い水圧を至近距離で受けた鏡から、大きな水滴が辺りに飛び散る。ようやく鮮明に映る自分の顔に、ああ確かにこれは酷いと思いながら、〇〇はそのまま鏡に映る自分の顔から体に視線を下げた。
* * *
「いやぁぁぁぁぁ」
絹を裂くような悲鳴に脱衣場の扉に寄りかかっていたイッカクは思わずバランスを崩す。何が起きたか状況は全く飲み込めないが、〇〇のただならぬ悲鳴が、良くない事態を物語っている。
「〇〇!!どうしたの、大丈夫?」