独占欲
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少し驚いたように目を丸くしたと思ったら、今度は綺麗に目と口が弧を描いた。
──まるで花が綻ぶようだ
と、らしくない叙情的な表現が頭に浮かぶ。それだけ彼女の一挙手一投足に、私の心は激しく揺さぶられてばかりだ。
「土井先生?どこか体調が?」
障子戸を閉めるのも忘れ、入り口で呆然と立ち竦んでいたが、〇〇先生の心配そうな、ともすると怪訝そうな声にはっと我を取り戻す。
「伊作に、薬を、処方して、もらいまして」
子供のお使いか。
と、歯切れの悪い自分の言葉に思わず悪態をつく。一年は組のよい子達の方が、今の私に比べたらずっと滑らかに用件を伝えられるだろう。
「あぁ!あれは土井先生のお薬でしたか。」
「と、言うと?」
「新野先生から引き継いだものの、どなた宛か不明で……。」
パチンと軽い音を立てて手を合わせると、謎が解けたと嬉しそうに微笑む。
なるほど、伊作から新野先生へ、新野先生から〇〇先生へ、伝言はいつの間にか必要な情報が削ぎ落とされてしまったらしい。
「善法寺くんの薬はよく効きますよね!なんだか、最近は『伊作の不運は伝染する』なんて、食満くんが脅すものだから……。」
嬉しそうに伊作を褒めたり、不運の伝染という人智を超えた噂話に顔を曇らせたりと、〇〇先生の表情は一喜一憂、忙しそうだ。
「そんな、『不運の伝染』なんて……流行り病じゃあるまいし──、
刹那。
ゴゥという音ともに突風が学園に向かって吹き下ろした。障子戸はガタガタと音を立て、遠くの演習場の方で「わぁー!!」「砂が!目が痛いー!!」と子ども達の騒ぐ声が聞こえる。
障子戸を閉め忘れていたのは完全に自分の落ち度だ。突風は障子戸の間を抜け、遠慮なく医務室内を荒らし回る。文机の上の書物や薬包用の紙、これから巻き付けるであろう包帯用の古布などは、私たちを揶揄うようにあちこちに散らばっていく。
ほんの一瞬の出来事。
「自然の悪戯」と言えば聞こえは良いが、新野先生から留守を預かった〇〇先生からすると、この惨状では顔面蒼白になるのも仕方がない。
全ての元凶は私だ。
今更だが慌てて障子戸を閉めると、床に散らばった書類を慌ててかき集める〇〇先生に駆け寄る。
新野先生がお戻りになるまで「現状復帰」という忍務を全うせねば。
障子戸を開けたままにした罪悪感と、懸想する〇〇先生と二人きりという下心を天秤にかけながら、私は一際遠くに飛ばされた包帯用の古布に手を伸ばした。
* * *
書類や古布は、風の悪戯のせいで、てんで好き勝手の方角に散らばっている。新野先生が戻るまでの限られた時間の中で、現状復帰できるのだろうか……。
最悪の場合、これまでのように医務室にお世話になるのは難しくなるかもしれない。そんな危機感のせいか、暑くもないのに額にじっとりと嫌な汗をかく。
これは『不運の伝染』なのかもしれない。
先日、食満くんが苦笑しながら言っていた。その時は冗談めかして受け流したが、いよいよ善法寺くんの底が見えない不運の威力に、少しだけ恐怖を覚える。
「……そう言えば、薬は?!」
「あ、あぁ。良いですよ、〇〇先生。今はそれどころじゃないですし。先に一緒に片付けてしまいましょう。」
善法寺くんに想いを馳せ、そのまま土井先生の胃薬の存在を思い出す。文机の上に置いてあったはずの薬包が、あるべき場所に見当たらない。何処に消えたと見渡すも、それらしきものは見つからない。
──というか、この物が散乱した状況下で探すのは至難の業だ。上から眺めていても仕方がないと、床に膝をつき、体を屈めると今度はぐっと地面に近いところを探した。
医務室の文机は、皆が調合作業や書き物をする機会も多く、作業がしやすいように教室の机と同じくらい長い仕様だ。だからこそ机の下には、調合を記した書き付けや図書館から借りてきた書物、巻いている途中の包帯など、いろんな物が一時的に片付けられている。
……と言えば聞こえは良い。
ただ実態は「教室戻る前に片付けなさいね」と委員会終了間際に新野先生に声をかけられた子ども達が一時的に避難させている場所なので、雑多にものが置かれている状態だ。
その詰め込まれた書物と机の間、奥の方に先ほど預かった白い包をようやく見つけて胸を撫で下ろす。少しだけ文机の下に頭を潜らせて手を伸ばした。
「土井先生、ありましたよ。良かった、良かっ──痛っ!!」
* * *
嬉しそうに弾んだ声が聞こえた。
そして、最後は鈍いゴンっと言う音と、次いでガタンと〇〇先生が倒れ込む音。
急いで振り返るも衝立が邪魔で〇〇先生の姿は見えず。走るほどの距離ではないが、慌てて衝立の奥に体を滑り込ませると、文机から這い出た〇〇先生は片手で後頭部を押さえ、もう片方の手で白い薬包を私に差し出す。まずは彼女を助け起こさねばと手を差しのべ、次いで怪我はないかと彼女の全身に視線を走らせる。
〇〇先生は軽く座してはいるものの、崩した正座のせいで、私の方に伸びた足先から腰にかけての緩やかで美しい曲線が視界に飛び込む。
目を奪われそうで思わず固く目を閉じた。
──が、それが良くなかった。
『不運は伝染する』
先ほど〇〇先生が冗談めかして言った言葉が脳内で反芻される。
目を閉じた拍子に、先ほどまで〇〇先生が使っていた薬研車に足をとられ、そのまま私の体は〇〇先生の方に投げ出される。咄嗟に受け身をとろうにも真下には〇〇先生が……、出来ることなら私の下敷きにならぬよう身を捩るなり、突き飛ばすなりしてほしいくらいだが、先ほど思わず視線を奪われたあの姿勢から急に身を捩って私を避けるのは難しいだろう。
……となると、私に出来るのは〇〇先生に怪我を負わさず倒れ込む、一択だ。
ここまで、実に数秒。
その直後、ガタンと大きな音と共に私の体は〇〇先生の方に倒れこむしかなかった。
──まるで花が綻ぶようだ
と、らしくない叙情的な表現が頭に浮かぶ。それだけ彼女の一挙手一投足に、私の心は激しく揺さぶられてばかりだ。
「土井先生?どこか体調が?」
障子戸を閉めるのも忘れ、入り口で呆然と立ち竦んでいたが、〇〇先生の心配そうな、ともすると怪訝そうな声にはっと我を取り戻す。
「伊作に、薬を、処方して、もらいまして」
子供のお使いか。
と、歯切れの悪い自分の言葉に思わず悪態をつく。一年は組のよい子達の方が、今の私に比べたらずっと滑らかに用件を伝えられるだろう。
「あぁ!あれは土井先生のお薬でしたか。」
「と、言うと?」
「新野先生から引き継いだものの、どなた宛か不明で……。」
パチンと軽い音を立てて手を合わせると、謎が解けたと嬉しそうに微笑む。
なるほど、伊作から新野先生へ、新野先生から〇〇先生へ、伝言はいつの間にか必要な情報が削ぎ落とされてしまったらしい。
「善法寺くんの薬はよく効きますよね!なんだか、最近は『伊作の不運は伝染する』なんて、食満くんが脅すものだから……。」
嬉しそうに伊作を褒めたり、不運の伝染という人智を超えた噂話に顔を曇らせたりと、〇〇先生の表情は一喜一憂、忙しそうだ。
「そんな、『不運の伝染』なんて……流行り病じゃあるまいし──、
刹那。
ゴゥという音ともに突風が学園に向かって吹き下ろした。障子戸はガタガタと音を立て、遠くの演習場の方で「わぁー!!」「砂が!目が痛いー!!」と子ども達の騒ぐ声が聞こえる。
障子戸を閉め忘れていたのは完全に自分の落ち度だ。突風は障子戸の間を抜け、遠慮なく医務室内を荒らし回る。文机の上の書物や薬包用の紙、これから巻き付けるであろう包帯用の古布などは、私たちを揶揄うようにあちこちに散らばっていく。
ほんの一瞬の出来事。
「自然の悪戯」と言えば聞こえは良いが、新野先生から留守を預かった〇〇先生からすると、この惨状では顔面蒼白になるのも仕方がない。
全ての元凶は私だ。
今更だが慌てて障子戸を閉めると、床に散らばった書類を慌ててかき集める〇〇先生に駆け寄る。
新野先生がお戻りになるまで「現状復帰」という忍務を全うせねば。
障子戸を開けたままにした罪悪感と、懸想する〇〇先生と二人きりという下心を天秤にかけながら、私は一際遠くに飛ばされた包帯用の古布に手を伸ばした。
* * *
書類や古布は、風の悪戯のせいで、てんで好き勝手の方角に散らばっている。新野先生が戻るまでの限られた時間の中で、現状復帰できるのだろうか……。
最悪の場合、これまでのように医務室にお世話になるのは難しくなるかもしれない。そんな危機感のせいか、暑くもないのに額にじっとりと嫌な汗をかく。
これは『不運の伝染』なのかもしれない。
先日、食満くんが苦笑しながら言っていた。その時は冗談めかして受け流したが、いよいよ善法寺くんの底が見えない不運の威力に、少しだけ恐怖を覚える。
「……そう言えば、薬は?!」
「あ、あぁ。良いですよ、〇〇先生。今はそれどころじゃないですし。先に一緒に片付けてしまいましょう。」
善法寺くんに想いを馳せ、そのまま土井先生の胃薬の存在を思い出す。文机の上に置いてあったはずの薬包が、あるべき場所に見当たらない。何処に消えたと見渡すも、それらしきものは見つからない。
──というか、この物が散乱した状況下で探すのは至難の業だ。上から眺めていても仕方がないと、床に膝をつき、体を屈めると今度はぐっと地面に近いところを探した。
医務室の文机は、皆が調合作業や書き物をする機会も多く、作業がしやすいように教室の机と同じくらい長い仕様だ。だからこそ机の下には、調合を記した書き付けや図書館から借りてきた書物、巻いている途中の包帯など、いろんな物が一時的に片付けられている。
……と言えば聞こえは良い。
ただ実態は「教室戻る前に片付けなさいね」と委員会終了間際に新野先生に声をかけられた子ども達が一時的に避難させている場所なので、雑多にものが置かれている状態だ。
その詰め込まれた書物と机の間、奥の方に先ほど預かった白い包をようやく見つけて胸を撫で下ろす。少しだけ文机の下に頭を潜らせて手を伸ばした。
「土井先生、ありましたよ。良かった、良かっ──痛っ!!」
* * *
嬉しそうに弾んだ声が聞こえた。
そして、最後は鈍いゴンっと言う音と、次いでガタンと〇〇先生が倒れ込む音。
急いで振り返るも衝立が邪魔で〇〇先生の姿は見えず。走るほどの距離ではないが、慌てて衝立の奥に体を滑り込ませると、文机から這い出た〇〇先生は片手で後頭部を押さえ、もう片方の手で白い薬包を私に差し出す。まずは彼女を助け起こさねばと手を差しのべ、次いで怪我はないかと彼女の全身に視線を走らせる。
〇〇先生は軽く座してはいるものの、崩した正座のせいで、私の方に伸びた足先から腰にかけての緩やかで美しい曲線が視界に飛び込む。
目を奪われそうで思わず固く目を閉じた。
──が、それが良くなかった。
『不運は伝染する』
先ほど〇〇先生が冗談めかして言った言葉が脳内で反芻される。
目を閉じた拍子に、先ほどまで〇〇先生が使っていた薬研車に足をとられ、そのまま私の体は〇〇先生の方に投げ出される。咄嗟に受け身をとろうにも真下には〇〇先生が……、出来ることなら私の下敷きにならぬよう身を捩るなり、突き飛ばすなりしてほしいくらいだが、先ほど思わず視線を奪われたあの姿勢から急に身を捩って私を避けるのは難しいだろう。
……となると、私に出来るのは〇〇先生に怪我を負わさず倒れ込む、一択だ。
ここまで、実に数秒。
その直後、ガタンと大きな音と共に私の体は〇〇先生の方に倒れこむしかなかった。
