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カズテル

テルミを勢いよく倒したベッドは、2人分の重さを受け止めたからか、激しい音を立てて鳴いた。しかし明らかに害意を隠しきれなくなっている自分を前にしても、テルミはいつもの笑みを湛えている。
カズマはテルミの首に手を掛けた。今までテルミからカズマに接触してくることはあれど、自らテルミに触れるのはこれが初めてとなる。テルミの肌に触れれば低い体温が心地よく、それがカズマの苛立ちを助長させた。

テルミは不気味なまでに抵抗をしなかった。開かれた両腕はベッドに投げ出されたまま脱力している。手に加えていた力をさらに強めると、流石に彼の表情が険しいものへ変わった。低く呻き声を上げ、歯を食い縛っている。しかし視線は交わったまま。

金の瞳がこちらを見つめている。自分の内側の奥まで入り込みそうな瞳だった。
眼光は衰える気配を見せなかった。

「…僕には、できません」
カズマは震える手をテルミの首からゆっくりと離した。テルミの口の端から漏れ出た涎が光を反射している。
生の匂いが曖昧なこの男が激しく酸素を求める様が、少し興味を引かれた。

「ゴホッ、ゴホッ、ッ゛え、ゲホッ、ぁ゛、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハァー…………」
「………テルミさん?」
「…ヒッ、ヒヒッ、マジかよ!テメェが、テメェがこの俺を!ヒィッ、ヒヒヒヒ、ヒャハハハハハ!!」
否や、テルミは咳き込みで枯れた声もそのままに、狂ったように笑い出した。
カズマは不可解なテルミの笑いの意図が読めず、ただその様子を眺めることしか出来なかった。

瞬間、視界がぐるりと回る。
そして部屋の天井と、テルミの顔が目に映った。
横に裂けた真っ赤な三日月が開かれる。

「俺様は出来ちまうんだよなぁ」

カズマの首は並々ならぬ圧迫感に襲われた。息ができないどころの話ではない。痛い。骨がへし折れるほどの力ではないか。しかし本当に折れてしまっているのかわからない。その前に、いしきが、とおい。


そしてカズマの意識は闇中へと落ちていった。
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