高飛び
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初めての下見は観光に近かった。
まとまった時間が取れたので少しだけイッシュを離れたくなり、衝動的に便をとってしまったのだ。
「とりあえずは物見遊山かな」
大都市コガネシティのベンチでいかりまんじゅうを食べながら観光マップを広げる私は、誰がどう見てもよそ者感丸出しだろう。
「っ!ちょっ!!イーブイ!あかんて!!」
「イ、ブイー!」
小さな塊が私の食べていたいかりまんじゅうに飛びついた。
ムシャムシャと頬張る顔には満面の笑顔が浮かんでいる。
「あー!!す、すんません!こらっ!イーブイ!」
この子のトレーナーであろう男性がイーブイを引き剥がしペコペコと頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ。小腹が空いて買ってみただけなので」
「イブ!ブイ!!」
もっとくれと言わんばかりに前足を振って主張するイーブイに新しいいかりまんじゅうを差し出す。
「よかったらどうぞ」
「あー、はは…堪忍なぁ、おおきに」
差し出したいかりまんじゅうを困り笑いで受け取る男性。
腕の中のイーブイはつぶらな瞳を輝かせている。
「可愛いですね。イーブイ」
イーブイを褒めると、その人は申し訳なさそうな顔を一変イーブイと同じように目を輝かせた。
「せやろ!?せやろ!?」
グイッと顔を近づける男性に思わず仰反る。
「しかも可愛いだけやないねん!野生では見かけへんからめっちゃ珍しいねんで!」
「え?でもヒウンに…あ、そうなんですか」
ヒウンに生息してると言いかけてここがイッシュでない事を思い出した。
その人はパチパチと瞬きをして首を傾げる。
「ヒウン?あっ!もしかしておねーさん他所の地方から来た人か!え!!まさかイーブイが野生で生息してんの!?何処の地方!?」
「イ、イッシュです…」
勢いに負ける形で恐る恐るいうと、顎に手を当てて頷き、"イッシュ…イッシュかぁ…"と何かを考え込みだした。
ぶつぶつと呟き長考する男性と2人という、妙な空間に置いてけぼりになりそうなので当たり障りのない会話を振る。
「イーブイって確か、いろいろなポケモンに進化できるんですよね」
「ん?せやで。おねーさんその辺詳しいん?」
「恋び………、知人に教えてもらったんです。進化するポケモンによってタイプも覚える技も、ステータスすら変わるって。彼、バトルで型を見分けるのが凄く楽しいんだって……」
"ですので、ギアステーションでイーブイを連れたトレーナーを見かけると少し楽しみになるのです。何に進化させて、どのような戦法を組んで挑んでくるのか"
「ほぉん、その知人の人、中々のやり手やろ?しかも生粋のバトル狂!普通ポケモン見て型、見分けるなんて並のトレーナーは考えへんで」
「バトルを仕事にしてる人なんですよ。だからポケモンにもバトルにも詳しくて。ほんとに凄く楽しそうに沢山教えてくれて……」
こんな遠い地方に来ても、考えるのはノボリさんの事ばかり。
些細な会話すら、彼を関連付けて思い出してしまうのだからもうどうしようもない。
「よっしゃ!ほんならわいがおねーさんの知らん珍しいポケモン教えたるわ!!」
少ししんみりした雰囲気を陽気な声が霧散させる。
「わいな、ジョウトのボックスの管理してんねん。色んなトレーナーが捕まえた珍しいポケモン、ちょこっと覗き見出来るから、おねーさんがその知人に教えてもろてないポケモンもおるよ!人呼んでポケモンマニアなわいが解説を挟みつつ教えたるわ!」
その人は私の隣に腰掛けて、小さな機械をいじりだした。
ポケモン図鑑とはまた違うように見える。
「えーっと、コトネちゃんのボックスは…っと……お!あったあった!このポケモン!知っとる?」
その機械に投影された水色の綺麗なポケモン。
私が首を振るとその人は得意げにニッと笑った。
「スイクン言うてな、レア中のレア!伝説のポケモンやねんで!世界中を駆け巡って水を清めとるんやて!こっちのポケモンは───
───でな、その時意識を失ってしもうて気がついたらポケモンセンターやってん!次こそは絶対捕まえたる!って思っとったんやけど、コトネちゃんに先こされてもうてなぁ…。見つけたんはほんまにわいが先やってんで!」
口を挟む間すらないマシンガントークにこの人は本当にポケモンマニアなんだなと実感させられる。
圧倒されている私にその人はハッとしたように謝った。
「すまんすまん!おねーさん観光しに来たんやったな。つい長話してもうたわ」
「いえ、凄く面白かったです。それに観光ってほど目的を持ったものでもないですし。諸事情でまたちょくちょく来るつもりなので…」
「そうなん?…あ、せや!おねーさんポケギアもっとる?」
「ポケギア…?」
「これこれ!電話できるやつ!イッシュには無いん?」
さっきまでポケモンを映していた機械を指差す。
「ライブキャスターなら…」
「ライブキャスター…いけるかな?ちょっと見して」
特に疑問を持たずにライブキャスターを手渡した。
その人は自分のポケギアと私のライブキャスターを少しいじって満足気に頷き私に返す。
「…ほい!わいのポケギアの番号登録しといた!わい、普段はハナダに住んでんねんけど最近こっちでの仕事が増えて頻繁に来とるから、なんか困った事あったら連絡してな!」
「優しいんですね。ありがとうございます」
「いかりまんじゅうと長話のお礼や。出血大サービスやで?」
悪戯気に笑う彼に、もはや警戒心は皆無だった。
早い段階で夢の中に旅立っていたイーブイを抱えてベンチから立ち上がる。
「めっちゃ今更やけど、わいはマサキ。よろしゅうな」
「ナマエです。よろしくお願いします。お言葉に甘えて、こっちで何かあれば頼りにさせてもらいます」
「そうしたって。ジョウト観光ならちょっと距離有るけど、エンジュとか王道でええで!」
「…住むとしたら何処がいいと思いますか?」
私の質問に一瞬目を丸くしたものの、間髪を入れずに答えてくれる。
「治安がええんもエンジュやな。交通の便で言うならリニアが走っとるコガネもめっちゃええで?なんや、ナマエさん家出か?」
「当たらずも遠からずですかね。移住しようかなって」
「そうなん。せやったら物件ピックアップしといたろか?自分、イッシュ在住やろ?」
「いえ、流石にさっき会ったばかりでそこまでお世話になる訳には…。それにまだ決めた訳じゃないですし…」
「ええってええって!袖振り合うも多少の縁ってやつや。コガネは人情の街やからな。それに、検討しとるんやったら知っとくだけ損はないやろ?」
「……ありがとうございます。では宜しくお願いします。とはいえ、私も自分の目と足で見て回ることにします」
「そうしい。目ぼしいとこあったらまた連絡入れとくわ!」
"ほなな!"と片手を振ってマサキさんは去っていった。
この短時間でこうも気を許してしまったのは彼の優れた社交性のおかげだろうか。
何となくだが、彼は悪い人では無いような気がした。
「…さてと」
せっかく来たのだからもう少しコガネシティを見て回って、エンジュシティにも行ってみようと計画を練る。
コガネデパートで名産品でも買って帰ろうかと考えた時、ノボリさんの顔がうかんで否定するように首を振った。
ジョウトに来た目的を考えると、彼にこの旅の事を言うべきでは無い。
お土産を渡すなんてもっての他だ。
どの道もう直ぐそんな間柄ですら保てなくなる日が来るのだから、とため息を吐いて、重くなった足に鞭打を打ちつつコガネの街を歩きだした。
まとまった時間が取れたので少しだけイッシュを離れたくなり、衝動的に便をとってしまったのだ。
「とりあえずは物見遊山かな」
大都市コガネシティのベンチでいかりまんじゅうを食べながら観光マップを広げる私は、誰がどう見てもよそ者感丸出しだろう。
「っ!ちょっ!!イーブイ!あかんて!!」
「イ、ブイー!」
小さな塊が私の食べていたいかりまんじゅうに飛びついた。
ムシャムシャと頬張る顔には満面の笑顔が浮かんでいる。
「あー!!す、すんません!こらっ!イーブイ!」
この子のトレーナーであろう男性がイーブイを引き剥がしペコペコと頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ。小腹が空いて買ってみただけなので」
「イブ!ブイ!!」
もっとくれと言わんばかりに前足を振って主張するイーブイに新しいいかりまんじゅうを差し出す。
「よかったらどうぞ」
「あー、はは…堪忍なぁ、おおきに」
差し出したいかりまんじゅうを困り笑いで受け取る男性。
腕の中のイーブイはつぶらな瞳を輝かせている。
「可愛いですね。イーブイ」
イーブイを褒めると、その人は申し訳なさそうな顔を一変イーブイと同じように目を輝かせた。
「せやろ!?せやろ!?」
グイッと顔を近づける男性に思わず仰反る。
「しかも可愛いだけやないねん!野生では見かけへんからめっちゃ珍しいねんで!」
「え?でもヒウンに…あ、そうなんですか」
ヒウンに生息してると言いかけてここがイッシュでない事を思い出した。
その人はパチパチと瞬きをして首を傾げる。
「ヒウン?あっ!もしかしておねーさん他所の地方から来た人か!え!!まさかイーブイが野生で生息してんの!?何処の地方!?」
「イ、イッシュです…」
勢いに負ける形で恐る恐るいうと、顎に手を当てて頷き、"イッシュ…イッシュかぁ…"と何かを考え込みだした。
ぶつぶつと呟き長考する男性と2人という、妙な空間に置いてけぼりになりそうなので当たり障りのない会話を振る。
「イーブイって確か、いろいろなポケモンに進化できるんですよね」
「ん?せやで。おねーさんその辺詳しいん?」
「恋び………、知人に教えてもらったんです。進化するポケモンによってタイプも覚える技も、ステータスすら変わるって。彼、バトルで型を見分けるのが凄く楽しいんだって……」
"ですので、ギアステーションでイーブイを連れたトレーナーを見かけると少し楽しみになるのです。何に進化させて、どのような戦法を組んで挑んでくるのか"
「ほぉん、その知人の人、中々のやり手やろ?しかも生粋のバトル狂!普通ポケモン見て型、見分けるなんて並のトレーナーは考えへんで」
「バトルを仕事にしてる人なんですよ。だからポケモンにもバトルにも詳しくて。ほんとに凄く楽しそうに沢山教えてくれて……」
こんな遠い地方に来ても、考えるのはノボリさんの事ばかり。
些細な会話すら、彼を関連付けて思い出してしまうのだからもうどうしようもない。
「よっしゃ!ほんならわいがおねーさんの知らん珍しいポケモン教えたるわ!!」
少ししんみりした雰囲気を陽気な声が霧散させる。
「わいな、ジョウトのボックスの管理してんねん。色んなトレーナーが捕まえた珍しいポケモン、ちょこっと覗き見出来るから、おねーさんがその知人に教えてもろてないポケモンもおるよ!人呼んでポケモンマニアなわいが解説を挟みつつ教えたるわ!」
その人は私の隣に腰掛けて、小さな機械をいじりだした。
ポケモン図鑑とはまた違うように見える。
「えーっと、コトネちゃんのボックスは…っと……お!あったあった!このポケモン!知っとる?」
その機械に投影された水色の綺麗なポケモン。
私が首を振るとその人は得意げにニッと笑った。
「スイクン言うてな、レア中のレア!伝説のポケモンやねんで!世界中を駆け巡って水を清めとるんやて!こっちのポケモンは───
───でな、その時意識を失ってしもうて気がついたらポケモンセンターやってん!次こそは絶対捕まえたる!って思っとったんやけど、コトネちゃんに先こされてもうてなぁ…。見つけたんはほんまにわいが先やってんで!」
口を挟む間すらないマシンガントークにこの人は本当にポケモンマニアなんだなと実感させられる。
圧倒されている私にその人はハッとしたように謝った。
「すまんすまん!おねーさん観光しに来たんやったな。つい長話してもうたわ」
「いえ、凄く面白かったです。それに観光ってほど目的を持ったものでもないですし。諸事情でまたちょくちょく来るつもりなので…」
「そうなん?…あ、せや!おねーさんポケギアもっとる?」
「ポケギア…?」
「これこれ!電話できるやつ!イッシュには無いん?」
さっきまでポケモンを映していた機械を指差す。
「ライブキャスターなら…」
「ライブキャスター…いけるかな?ちょっと見して」
特に疑問を持たずにライブキャスターを手渡した。
その人は自分のポケギアと私のライブキャスターを少しいじって満足気に頷き私に返す。
「…ほい!わいのポケギアの番号登録しといた!わい、普段はハナダに住んでんねんけど最近こっちでの仕事が増えて頻繁に来とるから、なんか困った事あったら連絡してな!」
「優しいんですね。ありがとうございます」
「いかりまんじゅうと長話のお礼や。出血大サービスやで?」
悪戯気に笑う彼に、もはや警戒心は皆無だった。
早い段階で夢の中に旅立っていたイーブイを抱えてベンチから立ち上がる。
「めっちゃ今更やけど、わいはマサキ。よろしゅうな」
「ナマエです。よろしくお願いします。お言葉に甘えて、こっちで何かあれば頼りにさせてもらいます」
「そうしたって。ジョウト観光ならちょっと距離有るけど、エンジュとか王道でええで!」
「…住むとしたら何処がいいと思いますか?」
私の質問に一瞬目を丸くしたものの、間髪を入れずに答えてくれる。
「治安がええんもエンジュやな。交通の便で言うならリニアが走っとるコガネもめっちゃええで?なんや、ナマエさん家出か?」
「当たらずも遠からずですかね。移住しようかなって」
「そうなん。せやったら物件ピックアップしといたろか?自分、イッシュ在住やろ?」
「いえ、流石にさっき会ったばかりでそこまでお世話になる訳には…。それにまだ決めた訳じゃないですし…」
「ええってええって!袖振り合うも多少の縁ってやつや。コガネは人情の街やからな。それに、検討しとるんやったら知っとくだけ損はないやろ?」
「……ありがとうございます。では宜しくお願いします。とはいえ、私も自分の目と足で見て回ることにします」
「そうしい。目ぼしいとこあったらまた連絡入れとくわ!」
"ほなな!"と片手を振ってマサキさんは去っていった。
この短時間でこうも気を許してしまったのは彼の優れた社交性のおかげだろうか。
何となくだが、彼は悪い人では無いような気がした。
「…さてと」
せっかく来たのだからもう少しコガネシティを見て回って、エンジュシティにも行ってみようと計画を練る。
コガネデパートで名産品でも買って帰ろうかと考えた時、ノボリさんの顔がうかんで否定するように首を振った。
ジョウトに来た目的を考えると、彼にこの旅の事を言うべきでは無い。
お土産を渡すなんてもっての他だ。
どの道もう直ぐそんな間柄ですら保てなくなる日が来るのだから、とため息を吐いて、重くなった足に鞭打を打ちつつコガネの街を歩きだした。