"埋め合わせ"はきちんと行われた。
仕事が落ち着いたのであろう日にライブキャスターに連絡が入り、夜、レストランで食事。
どうやらノボリさんは本命の彼女がいても、私との恋人ごっこは続けるらしかった。

楽しい会話、美味しい食事、2人きりの時間。
中身の無い作り物でも、この空間がたまらなく幸せでとても虚しかった。


「…ご気分が優れませんか？」

お店を出て駅まで歩いていた時、不意にそう投げ掛けられた。

「そんな事ありませんよ。…どうしてですか？」

「いえ…先程からどこか上の空のようでしたから。やはり先日、約束を反故してしまった事をまだ怒ってらっしゃいますか？」

針で刺されたような鋭い痛みが心に奔る。
ゆるゆると首を振るとノボリさんはいつもの仏頂面に申し訳なさを滲ませた。

「本当にすみませんでした。あの日は…」

「もう！いいですから…分かってますので…」

私が少し強引に言葉を切ると、ノボリさんは「そうですか…」と呟いたきり口を閉ざした。

彼の口から嘘を聞きたくなかった。
今までの時間も思い出も、全て同じ嘘で彩られたまやかしだったのだと突き付けられたくなかった。

2人無言のまま駅に向かって歩いていると、不意にノボリさんに腕を引かれた。

「本日はもうご帰宅されますか？それとも…」

少し目を伏せたノボリさんが私の頬に手を添える。
纏う雰囲気がしっとりしたものになった彼に、"あぁ、そう言うことか"と理解した。
一つ、小さく頷いた私に合意ととったノボリさんが私の腰を引き寄せて足を返す。

身体だけでも求められている事に喜びを感じる自分に自嘲しながら、それでも進む足を止められなかった。