高飛び
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私の彼氏は真面目が服を着ているような人間だと思っていた。
丁寧な口調に、紳士的な態度。
整えられた身嗜みに、スラリと伸ばされた背筋。
遠巻きにみる第一印象からどんな人間かを物語っていた。
事実、10人中10人が彼の人柄を堅物や実直といったイメージの評価を下すだろう。
だからよもや、彼の特別な女性が自分以外にもいるなんて想像もしていなかった。
その事実が発覚したのはいつだったか。
約束していたデートがノボリさんの仕事で流れてしまった翌日の事だった。
仕事漬けの彼に差し入れをしようとギアステーションの執務室に向かった時だ。
「───それで、完全にへそ曲げられちゃった。ボクが話しかけてもツーンって。忙しくなると相手出来ないから後が大変」
「そうでございますね。この時期は特に」
あ、と思ったら駄目だった。
執務室から聞こえてくる話し声に好奇心から聞き耳を立ててしまった。
「でも、大切だからなあなあはダメ。きちんと向き合わないと。どうしたら機嫌、直してくれるかなぁ」
「根気強く接していく他ないでしょう。大丈夫です。クダリの気持ちはきちんと伝わっていますよ」
クダリ。会話の相手は双子の弟さんだった。
直接会った事は無いけど、存在は知っている。
「うん、そっか。そういえば、ノボリは大丈夫?忙しいのはノボリも一緒。彼女、スネてない?女の子は怒ると大変」
「わたくしは時間を見つけては常に会話をする様に心がけております」
「そうだった!昨日の夜も執務室でラブラブ!不純〜!」
「変な揶揄い方をしないでくださいまし、クダリ」
ひやりと、背中に冷たい汗が流れた。
心臓がバクバクとうるさくて、繰り広げられる会話の処理に時間がかかる。
"昨日"、それは私が彼とデートの約束をしていた日だ。
ノボリさんの仕事が終わったら外食に行く予定で、何日も前から着て行く服に頭を悩ませていた。
『申し訳ございません…どうしても本日中に片さなければならない仕事が出来てしまい、行けなくなってしまいました。この埋め合わせは後日、必ずさせて頂きます』
疲れた顔で心底申し訳無さそうに言う彼に、がっかりしたのは事実だがそれよりも心配の方が勝っていた。
なのに…
「そういえば、彼女との記念日!迫ってきたね!」
「まだ2ヶ月以上も先ですよ」
「2ヶ月なんて直ぐ!うんっと構ってあげるんでしょ?大好きだもんね」
やめて、お願い、否定して。
ここに来て何かの間違いかも知れないと、希望的観測に縋ろうとする自分の何と惨めなことか。
そんな私の心境などいざ知らず肯定の言葉は無慈悲にも放たれた。
「もちろん、わたくしにとって彼女は無くてはならないかけがえの無い存在ですから」
一度、大きく深呼吸をしてその場を離れた。
簡単な事だ。
私はノボリさんの彼女なんかじゃなかった。
ただそれだけの事実。
トボトボと歩いて帰る道すがら、ネオン眩しいライモンの景色はノボリさんとの思い出ばかりが目に浮かぶ。惨めだ。
「引っ越そうかなぁ……」
どうせなら地方ごと離れてしまおうかと、ジョウトに下見に行く日が続くのは、このすぐ後の事だ。
丁寧な口調に、紳士的な態度。
整えられた身嗜みに、スラリと伸ばされた背筋。
遠巻きにみる第一印象からどんな人間かを物語っていた。
事実、10人中10人が彼の人柄を堅物や実直といったイメージの評価を下すだろう。
だからよもや、彼の特別な女性が自分以外にもいるなんて想像もしていなかった。
その事実が発覚したのはいつだったか。
約束していたデートがノボリさんの仕事で流れてしまった翌日の事だった。
仕事漬けの彼に差し入れをしようとギアステーションの執務室に向かった時だ。
「───それで、完全にへそ曲げられちゃった。ボクが話しかけてもツーンって。忙しくなると相手出来ないから後が大変」
「そうでございますね。この時期は特に」
あ、と思ったら駄目だった。
執務室から聞こえてくる話し声に好奇心から聞き耳を立ててしまった。
「でも、大切だからなあなあはダメ。きちんと向き合わないと。どうしたら機嫌、直してくれるかなぁ」
「根気強く接していく他ないでしょう。大丈夫です。クダリの気持ちはきちんと伝わっていますよ」
クダリ。会話の相手は双子の弟さんだった。
直接会った事は無いけど、存在は知っている。
「うん、そっか。そういえば、ノボリは大丈夫?忙しいのはノボリも一緒。彼女、スネてない?女の子は怒ると大変」
「わたくしは時間を見つけては常に会話をする様に心がけております」
「そうだった!昨日の夜も執務室でラブラブ!不純〜!」
「変な揶揄い方をしないでくださいまし、クダリ」
ひやりと、背中に冷たい汗が流れた。
心臓がバクバクとうるさくて、繰り広げられる会話の処理に時間がかかる。
"昨日"、それは私が彼とデートの約束をしていた日だ。
ノボリさんの仕事が終わったら外食に行く予定で、何日も前から着て行く服に頭を悩ませていた。
『申し訳ございません…どうしても本日中に片さなければならない仕事が出来てしまい、行けなくなってしまいました。この埋め合わせは後日、必ずさせて頂きます』
疲れた顔で心底申し訳無さそうに言う彼に、がっかりしたのは事実だがそれよりも心配の方が勝っていた。
なのに…
「そういえば、彼女との記念日!迫ってきたね!」
「まだ2ヶ月以上も先ですよ」
「2ヶ月なんて直ぐ!うんっと構ってあげるんでしょ?大好きだもんね」
やめて、お願い、否定して。
ここに来て何かの間違いかも知れないと、希望的観測に縋ろうとする自分の何と惨めなことか。
そんな私の心境などいざ知らず肯定の言葉は無慈悲にも放たれた。
「もちろん、わたくしにとって彼女は無くてはならないかけがえの無い存在ですから」
一度、大きく深呼吸をしてその場を離れた。
簡単な事だ。
私はノボリさんの彼女なんかじゃなかった。
ただそれだけの事実。
トボトボと歩いて帰る道すがら、ネオン眩しいライモンの景色はノボリさんとの思い出ばかりが目に浮かぶ。惨めだ。
「引っ越そうかなぁ……」
どうせなら地方ごと離れてしまおうかと、ジョウトに下見に行く日が続くのは、このすぐ後の事だ。