高飛び
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そういえば1度だけ、ノボリさんに手ひどく抱かれた事があった。
「大体5週目ね。うん、順調に育ってるわ」
検診をしてくれた先生がカルテを書く姿をぼんやりと眺めながらふとそんな事を思い出した。
5週目…時期的にも誤差の範囲からおそらくその時の行為で出来た子だろう。
あの時のノボリさんは珍しくとても機嫌が悪かった。
深夜に突然寝ていたところを起こされて、押さえつけられる形で行為に及んだのだ。
私の家の方がギアステーションに近いし、合鍵は渡していたので、以前から仕事上がりに寄る事はあったが、深夜に押しかけてきたのは初めてだった。
きっと余程の何かがあり、本命の彼女にぶつけられない感情を私で発散しに来たんだろうか、と。
私を抱くノボリさんの顔はずっと不快気で何かを押し殺していたようにも見えたが、乱暴な行為に意識がついて行けず途中で気を失ってしまった。
翌朝、目が覚めた時に彼はいなかった。
一瞬夢だったのかと考えたが、清潔な衣服とは裏腹に、のし掛かるような倦怠感と腰の鈍痛が昨日の行為を現実だったんだと理解させる。
単に朝一の仕事だったのか、それとも彼女のもとに帰ったのか。
幸いその日1日は休みだったので、体の要求に応えて泥のように眠った。
起きた時、"昨日の夜はすみませんでした。お体は大丈夫ですか?"とライブキャスターにボイスメールが入っているのを見た時は浮気相手にどこまで律儀なんだと笑ってしまったことを覚えている。
本当に、勘違いしそうな程律儀な人だと泣きそうになった。
「この時期だと人によっては悪阻が始まる時期でもあるけど、体調はどう?」
「はい、少しご飯を食べるのが辛いです」
「ドンピシャね。無理せず、固形のものより食べやすいゼリー状のものとかを口に入れるといいわよ。脱水症状に注意して、水分補給だけはしっかりね。…ほか、何か気になる事とかありますか?」
「いえ、概ね聞きました」
「そう、何かあったらすぐに来ていいからね。緊急の際は遠慮なくさっきの番号に連絡を。それじゃ、次の受診日は……」
今日の診察を全て終え深々とお辞儀をすると、先生はドアを開けて扉を支えてくれた。
「妊娠初期はまだまだ安心できない事が多いから、念のため、この院の番号は1番上に設定しておいてね。私たちも全力でサポートするから一緒に頑張りましょうね、お母さん?」
綺麗にウインクを決めて笑顔を浮かべる先生に温かい気持ちになる。
よろしくお願いします、ともう一度頭を下げてから診察室を後にした。
産婦人科からの帰り道、ノボリさんと最後にあったのはいつだったかと考え、あぁ、まだ妊娠が発覚する前かと思い至る。
この前のお詫びも兼ねてと、私の家で彼が作ったご飯を食べた。
だけど、気分が悪くなってしまい戻してしまったのだ。
今思えば悪阻の症状だったんだろう。
「大丈夫でございますか?落ち着きましたら少し横になりましょう」
ずっと咽せる私にノボリさんは真摯に寄り添って、背中をさすってくれた。
彼の優しさに触れるたびに何度も思う。
"勘違いだったんじゃないか"と。
「……落ち着きましたか?寝室に運びます。どうか楽な体制で」
私を横抱きにして丁寧に運ぶノボリさんの腕には愛が篭っているように感じた。
あの時の執務室での会話は何かの間違いで、本当はもっと別の理由が、なんて。
私に布団をかけ一定のリズムを刻んで優しく寝かしつけようとする彼に、そんな小さな期待を抱く。
微睡の中、ふと思い出す執務室の会話。"2ヶ月後"の記念日。あの日から2ヶ月ならそろそろなんじゃないかと考え、唐突に心が重く沈む。
言いようのない不安にノボリさんを盗み見ると、彼はカレンダーを凝視していた。
「ノボリさん」
嫌な胸騒ぎから思わず声を上げ彼の名前を呼ぶ。
「…どうされました?」
視線を私に戻したノボリさんは気のせいか、やけに機嫌がいい気がした。
上擦りそうになる声を抑えて至って普通に、努めて冷静に声をかける。
「ノボリさん、なんだか機嫌が良さそうですね。いい事でもあったんですか?」
「あった…そうですね。もう直ぐある、が正しいでしょうか」
「もうすぐ……」
「ええ、もう直ぐ、とても素敵なことが…」
女の感、というやつだろうか。
どこか浮かれているような表情で布団越しに私をさするノボリさんは、確かに私じゃない"誰か"を見ていた。
『それは、もう直ぐ迫る本命の彼女さんとの記念日の事ですか?』
「……っ……そう、なんですか…」
その時、意気地のない私は震えそうになる声でそう一言返すことが精一杯だった。
「大体5週目ね。うん、順調に育ってるわ」
検診をしてくれた先生がカルテを書く姿をぼんやりと眺めながらふとそんな事を思い出した。
5週目…時期的にも誤差の範囲からおそらくその時の行為で出来た子だろう。
あの時のノボリさんは珍しくとても機嫌が悪かった。
深夜に突然寝ていたところを起こされて、押さえつけられる形で行為に及んだのだ。
私の家の方がギアステーションに近いし、合鍵は渡していたので、以前から仕事上がりに寄る事はあったが、深夜に押しかけてきたのは初めてだった。
きっと余程の何かがあり、本命の彼女にぶつけられない感情を私で発散しに来たんだろうか、と。
私を抱くノボリさんの顔はずっと不快気で何かを押し殺していたようにも見えたが、乱暴な行為に意識がついて行けず途中で気を失ってしまった。
翌朝、目が覚めた時に彼はいなかった。
一瞬夢だったのかと考えたが、清潔な衣服とは裏腹に、のし掛かるような倦怠感と腰の鈍痛が昨日の行為を現実だったんだと理解させる。
単に朝一の仕事だったのか、それとも彼女のもとに帰ったのか。
幸いその日1日は休みだったので、体の要求に応えて泥のように眠った。
起きた時、"昨日の夜はすみませんでした。お体は大丈夫ですか?"とライブキャスターにボイスメールが入っているのを見た時は浮気相手にどこまで律儀なんだと笑ってしまったことを覚えている。
本当に、勘違いしそうな程律儀な人だと泣きそうになった。
「この時期だと人によっては悪阻が始まる時期でもあるけど、体調はどう?」
「はい、少しご飯を食べるのが辛いです」
「ドンピシャね。無理せず、固形のものより食べやすいゼリー状のものとかを口に入れるといいわよ。脱水症状に注意して、水分補給だけはしっかりね。…ほか、何か気になる事とかありますか?」
「いえ、概ね聞きました」
「そう、何かあったらすぐに来ていいからね。緊急の際は遠慮なくさっきの番号に連絡を。それじゃ、次の受診日は……」
今日の診察を全て終え深々とお辞儀をすると、先生はドアを開けて扉を支えてくれた。
「妊娠初期はまだまだ安心できない事が多いから、念のため、この院の番号は1番上に設定しておいてね。私たちも全力でサポートするから一緒に頑張りましょうね、お母さん?」
綺麗にウインクを決めて笑顔を浮かべる先生に温かい気持ちになる。
よろしくお願いします、ともう一度頭を下げてから診察室を後にした。
産婦人科からの帰り道、ノボリさんと最後にあったのはいつだったかと考え、あぁ、まだ妊娠が発覚する前かと思い至る。
この前のお詫びも兼ねてと、私の家で彼が作ったご飯を食べた。
だけど、気分が悪くなってしまい戻してしまったのだ。
今思えば悪阻の症状だったんだろう。
「大丈夫でございますか?落ち着きましたら少し横になりましょう」
ずっと咽せる私にノボリさんは真摯に寄り添って、背中をさすってくれた。
彼の優しさに触れるたびに何度も思う。
"勘違いだったんじゃないか"と。
「……落ち着きましたか?寝室に運びます。どうか楽な体制で」
私を横抱きにして丁寧に運ぶノボリさんの腕には愛が篭っているように感じた。
あの時の執務室での会話は何かの間違いで、本当はもっと別の理由が、なんて。
私に布団をかけ一定のリズムを刻んで優しく寝かしつけようとする彼に、そんな小さな期待を抱く。
微睡の中、ふと思い出す執務室の会話。"2ヶ月後"の記念日。あの日から2ヶ月ならそろそろなんじゃないかと考え、唐突に心が重く沈む。
言いようのない不安にノボリさんを盗み見ると、彼はカレンダーを凝視していた。
「ノボリさん」
嫌な胸騒ぎから思わず声を上げ彼の名前を呼ぶ。
「…どうされました?」
視線を私に戻したノボリさんは気のせいか、やけに機嫌がいい気がした。
上擦りそうになる声を抑えて至って普通に、努めて冷静に声をかける。
「ノボリさん、なんだか機嫌が良さそうですね。いい事でもあったんですか?」
「あった…そうですね。もう直ぐある、が正しいでしょうか」
「もうすぐ……」
「ええ、もう直ぐ、とても素敵なことが…」
女の感、というやつだろうか。
どこか浮かれているような表情で布団越しに私をさするノボリさんは、確かに私じゃない"誰か"を見ていた。
『それは、もう直ぐ迫る本命の彼女さんとの記念日の事ですか?』
「……っ……そう、なんですか…」
その時、意気地のない私は震えそうになる声でそう一言返すことが精一杯だった。