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人を呪わば

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主人公の名前

"積もる話あるから、お店に入ろっか"

クダリくんにそう提案され、断れるはずもなく案内されたのは私もよく利用するファミレス。
深夜に差し掛かりそうな時間帯の客足はまばらで、クダリくんは端っこの席を指定した。

「甘いもの、好きだったよね。今も?」

「うん…」

対面に座り機嫌よくメニューを広げるクダリくんとは反対に、私はこれから始まるであろう責問に押し潰されそうだった。

「苺パフェと抹茶サンデー。後は……」

私が注文する気がないと分かっているのか、こちらを確認せずに淡々とメニューを指差す。

「バナナパンケーキのヒウンアイス乗せ。ソースはチョコレート。2枚じゃなくて1枚で」

奇しくも、クダリくんが注文した最後のメニューは私がこの店で必ず頼むメニューで、尚且つオーダーの仕方も同じだった。

ナマエが好きそうだと思って。半分こしよ」

どこか薄ら寒いものを感じたが、直ぐに勘違いだと思い直す。

不意に眼鏡をかけてマスクをつけるクダリくんに怪訝な目を向けるとニッコリと笑顔を返された。

「ぼく、今、サブウェイマスターをしてる。すっごく人気。カミツレさんほどじゃないけど、パパラッチにも大人気」

だから変装。

「パパラッチはゴシップ大好き。過去のネタだって引っ張り出そうとする」

こんな時間に女と2人で密会なんて、格好のネタになる。

「お待たせしました」

「んー!美味しそう!」

それを理解しているはずでの変装を、並べられた料理を前にさっさとマスクをとってしまったクダリくんを見て、小さく息をついた。

「最近は凄いよね。ネットである事ない事、すぐ拡散されちゃう」

苺パフェをつつくクダリくんと雑談に花を咲かせる。

「熱愛が発覚したアイドル、全然テレビで見なくなっちゃった。でも、あれ、誤報だったらしいけど。広がっちゃったイメージって払拭するの、難しいもんね」

とはいえ、蓋を開ければクダリくんが一方的に話すことに私が相槌をうつだけだった。
クダリくんの言葉に一言一句注意を向けるが、内容はなんて事ない雑談ばかり。


違うだろう。クダリくんが話したい事は。
私に言いたい事はそんな事じゃないだろう。
ギリギリと胃が妙な音を立てて、押し出された言葉が喉に張り付く。

心臓にナイフを突きつけられ、貫かれるのを待っている。

そんな言葉がしっくりくるこの状況に、当時のことが私の脳裏を目まぐるしく駆け回る。


あの後、引っ越した後も私の両親はクダリくんの事を気にかけ、クダリくんの両親と密に連絡をとっていた。
後から聞いた話だが、私の両親は元々クダリくんの両親と仲が良かったらしい。

『クダリくん、もうすぐ退院するんだって。退院の挨拶をって言ったらクダリくんのご両親がそこまでは大丈夫よって』

その言葉を聞いた時、心底安心してしまった。

『だからせめて、何か贈り物を渡さなくちゃ。ナマエからも』

何をあげたらいいのか分からなくて、その時大切にしていたものを全部箱に詰めた。

きれいなハネ、ハートのうろこ、かみなりのいし。

拾ったり貰ったりした大切なものと、"ごめんなさい"の一言しか書けなかった手紙を入れて送った。

精一杯の、独りよがりだけど、罪滅ぼしのつもりだったのだ。




「食べないの?ヒウンアイス、溶けちゃうよ?」

クダリくんが新しいフォークとナイフを出してパンケーキを一口大に切り分ける。

「……あの、クダリくん今日は…

「はい、口開けて」

雑談ばかりで中々本題を切り出さないクダリくんに耐えきれなくなり、自ら口火を切ろうとしたとき、遮るようにフォークを差し出された。

じっと見据えるその目に、あの日の"約束"を思い出し微かに小指が疼く。

「…ぁ、む…」

アイスで多少緩和されているとはいえ、パンケーキが口の中の水分を全て吸い取って、飲み込むのが難しい。

水分の足りないそのかけらは喉を引っ掻きつつ、繰り出そうとしていた言葉をも絡めとり、一緒に胃袋に落ちていった。
コトリと目の前に水の入ったグラスを置かれ、飲むように促される。

さっきまで楽しそうに喋っていたクダリくんが口を閉ざして無言になり、不意に訪れた静寂に息が詰まって心臓が徐々に加速する。

昔から、クダリくんが時折纏うこの空気が苦手だった。

いくら水を流し込んでも喉が乾く。

決定打はまだ打たれない。



「ねぇ、ギアステーションで働かない?」

無言の中、私の様子をずっと観察していたクダリくんがそう言葉を発した。

「仕事は主に書類整理。ヒウンでOLやってるナマエなら凄く簡単」

どうして知っているのか。
私の顔にそう書いてあったのだろう、クダリくんが笑いながら答えた。

「おばさんに聞いた。正確にはおばさんに聞いた母さんに?ま、どっちも一緒」

納得のいく答えに少し安堵したものの、すぐに直面した次の悩みに顔を曇らせる。

「そんな急には…」

「うん。だから来月からとかでいい。今の仕事の引き継ぎ終わったら」

「えっと…」

尻込みながらも断ろうと口を開きかけて、変装用にとかけた眼鏡の奥からこちらを凝視する目と視線が交わる。
頬に手を当て肘をつき、こちらの回答を待つクダリくんは嗤っていた。


"パパラッチにも大人気"
"過去のネタだって引っ張り出そうとする"
"ネットである事ない事、すぐ拡散されちゃう"
"広がっちゃったイメージって払拭するの、難しいもんね"


なんて事ない雑談なんかじゃなかったのだ。
全部この為の布石。

お前に拒否権なんか無いんだと、理解させる為の話題。

ヒヤリと心臓に冷たい何かが流れ込み、呼吸が一瞬止まる。

言葉を失っている私に、クダリくんはニッコリと笑みを作り直して首を傾ける。
頬杖を付いている手とは反対の手の小指を立てて、とどめの一言を私に突き刺した。


「ねぇ、どうかな?"委員長"?」
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