人を呪わば
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「ねぇ、ナマエ。ポケモンバトルはしんけんじゃないとつまらない。ぼく、そうおもう」
「うん。そうだね」
「じゃあ、聞くね。からかってるの?それとも、ふざけてるの?」
フィールドに繰り出された正真正銘の私のポケモンたちにクダリくんは不満の声を上げる。
「からかっても、ふざけてもないよ。あのね、クダリくん。あの時たたかったポケモンは私のポケモンじゃなかったの」
「…どういうこと?」
「あれ、私のお父さんのポケモンだったの。あの日、間違えてもってきちゃったんだ。私、あのバトルであの子たちに命令なんて出してないの」
「………」
「…初めよっか。ポケモンバトル。モンメン!すいとる!」
戦闘不能になった2匹をボールに戻して、同じようにボールにポケモンを戻しているクダリくんを見る。
いつもの笑顔は複雑そうに歪められていて、以前きいた"もやもや"が晴れているようには微塵も見えなかった。
「帰ろっか。家までおくる。いいんちょうのポケモン、たたかえなくなってるから」
帰り道はずっと無言で、お互い喧嘩の最中みたいにずっと顔を逸らしていた。
「じゃあね。また明日」
「うん…」
結局その後、いつものクダリくんの笑顔を見ることはなかった。
「いいんちょう!おはよ!」
「お、おはよう…」
だけど翌日、クダリくんはいつも通りに戻っていた。
「きのう、おりがみでね。バチュルのおりかたしった!いいんちょうにも教えてあげる!」
それよりも、前にも増して私の席に訪ねてくることが多くなった。
不可解そうな目を向ける私に、聞くよりも早くクダリくんが教えてくれた。
「いいんちょうに勝っても、もやもやとれない。あれからずっと、いいんちょう見ると、お腹がぐつぐつする。きっとぼく、いいんちょうが嫌い」
心臓がズキリと嫌な音を立てる。
面と向かってお前が嫌いだと言われれば誰だってそうだろう。
口元は笑ったま、目だけが据わっているちぐはぐな顔にピエロのようだと思いすごく怖かった。
「……じゃあ、どうしてまいにち私の席に来るの?」
「かくにんしたいことがある。ぐつぐつのほかにある、もう1個」
それ以上はどれだけ聞いても教えてくれず、けれども毎日私の席に来るのは変わらなかった。
話題は前のようにポケモンバトル一色じゃなく、もっと沢山のこと。
「しゅくだいの答えあわせ!先にしよ!エスパータイプがニガテなタイプは?なんてかいた?」
バトルの勧誘以外の話題が圧倒的に増えた私たちを見て、クラスのみんなは見方を変えたことだろう。
クダリくんはクラスの人気者。
特に女の子はみんなクダリくんに夢中。
そのクダリくんは側から見ると私に夢中。
その条件が揃った私の行末は想像に難くなく、私は女の子のお友達グループから見事に孤立した。
ほどなくして、無視を筆頭とする嫌がらせが始まった時、私はクダリくんに少し距離を置いてくれるようにお願いをした。
「やだ!これ、ぼくにとってすごく"じゅうようなこと"をかくにんしてるの!だからだめ!」
後ろ向きな思考は悪い方向にばかり働いて、仕返しのつもりなのかと疑った。
女の子嫌がらせは陰険で目に見えにくい。
精神的にもまだまだ子供だった私は毎日のそのヘイトに憔悴しきっていた。
「ねぇ!いいんちょう!」
そんな私の状況も知らず、自分の都合で無神経にも話しかけてくる彼に嫌気がさしていたのも事実。
「ねぇってば!ナマエ!」
特にその日はお気に入りだった消しゴムをどこかに隠されて心がとても不安定だったのだ。
「いいかげんにしてよ!」
だから、後ろから肩に置かれた手を少し強めに払ってしまった。
───ここが階段である事も忘れて。
「…ぁ…」
よろけたクダリくんの身体は重力に従って落ちていく。
その様子がスローモーションのようにゆっくり見え、今でも網膜に焼き付いている。
その後の事はどうだったか、あまり思い出せない。
職員室までがむしゃらに走って先生を呼んで。
一連の騒ぎの傍、私はずっと口を噤んでいた気がする。
後日、母親に連れられて病院に謝罪に行った時、クダリくんの両親は笑って許してくれた。
「お話はクダリから聞いております。自分が突然後ろから声をかけたから驚かせてしまったんだと」
物腰柔らかに応対するクダリくんの両親に母と一緒に深く頭を下げた。
"クダリがナマエちゃんに会いたがっていたから、良かったら病室に顔を出してあげて欲しい"
本人への謝罪も兼ねて、私は病室を数回ノックする。
「はーい!……来てくれたんだ!久しぶり?いいんちょう」
久々に見たクダリくんは頭に包帯を巻いて、病院指定の白のパジャマを着ていた。
「こんにちは。クダリくん。ナマエが本当にごめんね。怪我は大丈夫?」
俯く私に、母がまず謝罪の言葉をかける。
「んーん!ぜんぜん!おばさん、あのね、ナマエちゃんと2人だけでとってもだいじなお話したい!だめ?」
「そう、分かったわ。ナマエ、ちゃんと謝りなさいね」
私の背中に手を当ててから、母は病室を出て行った。
「いいんちょう」
ベッドに腰掛けてこっちこっちと手招きするクダリくんの側に寄る。
「………あの……ごめんなさ
「ゆるさない」
びくりと肩が跳ねる。
服の裾を握る手に汗がじわじわと滲んでいく。
「ゆるしてほしい?」
さっきのピシャリと言い放った冷たい言葉とは反対に、今度は優しく慈愛が篭っているような囁きだった。
その温度差に思わず後者の響きに縋るように頷く。
「じゃあね、ぼくとやくそくして。これからずっと、ぼくの言うことなんでもきいて。いい?」
目を泳がせて困惑する私に"どうなの?"と、また冷たい音が宿る。
心臓を撫でられているような気分だった。
「………わかった…」
「ほんとに?じゃあゆびきり。手、だして」
私と小指を繋いだクダリくんが歌い出す。
「ゆーびきーりげーんまーん、うそつーいたら、はーりせーんぼんのーます。ゆーびきった」
指をきって宙に浮いた私の手をとって、自分の額に巻いてある包帯に持っていく。
「ぼく、やくそくをやぶるひと、ぜったいゆるさない。わすれないで」
指先に触れた包帯の感触は今でも鮮明に思い出せる。
その数日後のことだ。
父の仕事の都合でこの土地を離れることが決まっているのを知ったのは。
「クダリくんの両親にはもう話してあるけれど、クダリくんには貴女の口からちゃんと言いなさい」
そう母に送り出されたが、私には再度病室をノックする勇気がなかった。
結局、入院中のクダリくんにはロクに挨拶もせず私は彼から逃げ出した。
「うん。そうだね」
「じゃあ、聞くね。からかってるの?それとも、ふざけてるの?」
フィールドに繰り出された正真正銘の私のポケモンたちにクダリくんは不満の声を上げる。
「からかっても、ふざけてもないよ。あのね、クダリくん。あの時たたかったポケモンは私のポケモンじゃなかったの」
「…どういうこと?」
「あれ、私のお父さんのポケモンだったの。あの日、間違えてもってきちゃったんだ。私、あのバトルであの子たちに命令なんて出してないの」
「………」
「…初めよっか。ポケモンバトル。モンメン!すいとる!」
戦闘不能になった2匹をボールに戻して、同じようにボールにポケモンを戻しているクダリくんを見る。
いつもの笑顔は複雑そうに歪められていて、以前きいた"もやもや"が晴れているようには微塵も見えなかった。
「帰ろっか。家までおくる。いいんちょうのポケモン、たたかえなくなってるから」
帰り道はずっと無言で、お互い喧嘩の最中みたいにずっと顔を逸らしていた。
「じゃあね。また明日」
「うん…」
結局その後、いつものクダリくんの笑顔を見ることはなかった。
「いいんちょう!おはよ!」
「お、おはよう…」
だけど翌日、クダリくんはいつも通りに戻っていた。
「きのう、おりがみでね。バチュルのおりかたしった!いいんちょうにも教えてあげる!」
それよりも、前にも増して私の席に訪ねてくることが多くなった。
不可解そうな目を向ける私に、聞くよりも早くクダリくんが教えてくれた。
「いいんちょうに勝っても、もやもやとれない。あれからずっと、いいんちょう見ると、お腹がぐつぐつする。きっとぼく、いいんちょうが嫌い」
心臓がズキリと嫌な音を立てる。
面と向かってお前が嫌いだと言われれば誰だってそうだろう。
口元は笑ったま、目だけが据わっているちぐはぐな顔にピエロのようだと思いすごく怖かった。
「……じゃあ、どうしてまいにち私の席に来るの?」
「かくにんしたいことがある。ぐつぐつのほかにある、もう1個」
それ以上はどれだけ聞いても教えてくれず、けれども毎日私の席に来るのは変わらなかった。
話題は前のようにポケモンバトル一色じゃなく、もっと沢山のこと。
「しゅくだいの答えあわせ!先にしよ!エスパータイプがニガテなタイプは?なんてかいた?」
バトルの勧誘以外の話題が圧倒的に増えた私たちを見て、クラスのみんなは見方を変えたことだろう。
クダリくんはクラスの人気者。
特に女の子はみんなクダリくんに夢中。
そのクダリくんは側から見ると私に夢中。
その条件が揃った私の行末は想像に難くなく、私は女の子のお友達グループから見事に孤立した。
ほどなくして、無視を筆頭とする嫌がらせが始まった時、私はクダリくんに少し距離を置いてくれるようにお願いをした。
「やだ!これ、ぼくにとってすごく"じゅうようなこと"をかくにんしてるの!だからだめ!」
後ろ向きな思考は悪い方向にばかり働いて、仕返しのつもりなのかと疑った。
女の子嫌がらせは陰険で目に見えにくい。
精神的にもまだまだ子供だった私は毎日のそのヘイトに憔悴しきっていた。
「ねぇ!いいんちょう!」
そんな私の状況も知らず、自分の都合で無神経にも話しかけてくる彼に嫌気がさしていたのも事実。
「ねぇってば!ナマエ!」
特にその日はお気に入りだった消しゴムをどこかに隠されて心がとても不安定だったのだ。
「いいかげんにしてよ!」
だから、後ろから肩に置かれた手を少し強めに払ってしまった。
───ここが階段である事も忘れて。
「…ぁ…」
よろけたクダリくんの身体は重力に従って落ちていく。
その様子がスローモーションのようにゆっくり見え、今でも網膜に焼き付いている。
その後の事はどうだったか、あまり思い出せない。
職員室までがむしゃらに走って先生を呼んで。
一連の騒ぎの傍、私はずっと口を噤んでいた気がする。
後日、母親に連れられて病院に謝罪に行った時、クダリくんの両親は笑って許してくれた。
「お話はクダリから聞いております。自分が突然後ろから声をかけたから驚かせてしまったんだと」
物腰柔らかに応対するクダリくんの両親に母と一緒に深く頭を下げた。
"クダリがナマエちゃんに会いたがっていたから、良かったら病室に顔を出してあげて欲しい"
本人への謝罪も兼ねて、私は病室を数回ノックする。
「はーい!……来てくれたんだ!久しぶり?いいんちょう」
久々に見たクダリくんは頭に包帯を巻いて、病院指定の白のパジャマを着ていた。
「こんにちは。クダリくん。ナマエが本当にごめんね。怪我は大丈夫?」
俯く私に、母がまず謝罪の言葉をかける。
「んーん!ぜんぜん!おばさん、あのね、ナマエちゃんと2人だけでとってもだいじなお話したい!だめ?」
「そう、分かったわ。ナマエ、ちゃんと謝りなさいね」
私の背中に手を当ててから、母は病室を出て行った。
「いいんちょう」
ベッドに腰掛けてこっちこっちと手招きするクダリくんの側に寄る。
「………あの……ごめんなさ
「ゆるさない」
びくりと肩が跳ねる。
服の裾を握る手に汗がじわじわと滲んでいく。
「ゆるしてほしい?」
さっきのピシャリと言い放った冷たい言葉とは反対に、今度は優しく慈愛が篭っているような囁きだった。
その温度差に思わず後者の響きに縋るように頷く。
「じゃあね、ぼくとやくそくして。これからずっと、ぼくの言うことなんでもきいて。いい?」
目を泳がせて困惑する私に"どうなの?"と、また冷たい音が宿る。
心臓を撫でられているような気分だった。
「………わかった…」
「ほんとに?じゃあゆびきり。手、だして」
私と小指を繋いだクダリくんが歌い出す。
「ゆーびきーりげーんまーん、うそつーいたら、はーりせーんぼんのーます。ゆーびきった」
指をきって宙に浮いた私の手をとって、自分の額に巻いてある包帯に持っていく。
「ぼく、やくそくをやぶるひと、ぜったいゆるさない。わすれないで」
指先に触れた包帯の感触は今でも鮮明に思い出せる。
その数日後のことだ。
父の仕事の都合でこの土地を離れることが決まっているのを知ったのは。
「クダリくんの両親にはもう話してあるけれど、クダリくんには貴女の口からちゃんと言いなさい」
そう母に送り出されたが、私には再度病室をノックする勇気がなかった。
結局、入院中のクダリくんにはロクに挨拶もせず私は彼から逃げ出した。