「そうだ、ジョウトに住もう」

思い立ったが吉日という言葉をご存知だろうか。
何か物事に着手すると決めた場合、日付を選り好みせずに行動をまず起こすべきだという有り難い教訓だ。

私はこの手の教訓と反りが合わず、計画がずるずると延期の一途を辿る事が多々あった。

夏に向けてのダイエットはヒウンシティの新作アイスで延期、スクール時代の夏休みの宿題はラスト2日間が勝負所だった。

生後間もない寝返りでさえ、他より遅かったと聞くのだからもう、幼少の頃より根付く遺伝子レベルの性質と言ってもいいだろう。

ジョウト移住計画もその例に漏れず、実は今思い立った訳では無かったりする。

以前から密かに発足してはいたのだが、やれ職場の都合や、引越し先探しやらで考えると腰が重く、ジョウトに下見には何度か赴けど、職場に相談なぞした事はなかった。

そんな吉日に縁の無かった私が、掌を返すが如く断行する結果を生んだのが、今、目の前に鎮座している陽性反応を記した妊娠検査薬だったりするわけで。

「……ふぅ…そうと決まれば本格的に住むところ探さなきゃな」

あ、その前に病院行かなきゃ。
まだふくらみを見せないお腹を少し撫でる。
1人で育てると決めたからには寂しい思いをさせないように他の誰よりも目一杯の愛情を注がなくては。


"もちろん、わたくしにとって彼女は無くてはならないかけがえの無い存在ですから"


「………私がしっかりしないと」

もう一つの命が宿っている事が判明した身体は知る以前に比べて鉛のように重く感じた。