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短い話

五条よりもずっと小さな彼女の体躯を抱きしめて、ふるえる肩を大きな手のひらで優しく撫でた。五条くん、と耳元で囁く声はあまりにも心許ない。
怖い夢をみたと言って泣き出す彼女をあやすのははじめてではなかった。どうやら眠りの浅い体質のせいで夢見が悪い彼女は、度々こうして夜中に起きては五条の隣で声をころして泣いている。五条の服をたよりない指でにぎりしめて、どこにもいかないで、とすすり泣く。その度に五条も、どこにも行かないよ、大丈夫だから、と頭や肩をなでて、飽きることなくなだめている。
「今日はどんな夢だった?」
「今日…?今日は…五条くんが」
けれどもたまにこうして、悪夢を思い出させるように優しく問うては意地悪をするのもまた、五条の楽しみのひとつだった。彼女の泣き顔はかわいらしい。
「今日はね…う…あの、」
「うん?」
「…五条くんに捨てられちゃう夢。好きじゃなくなっちゃったんだって。ねえ、どうしよう、本当に五条くんが私のことを好きじゃなくなっちゃったら」
言いながら、また新しく、彼女の真っ黒な丸い瞳からは涙がぽろぽろと溢れて落ちた。彼女の目元を優しく撫でて拭っても、次から次に落ちる滴は五条や彼女の服に落ちて染み込んだ。それを少しもったいない思った五条は頬を撫でる指を止めて、唇で彼女の輪郭をそっとなぞってあまやかなそれを受け止めた。
「こわいの?」
「うん、こわいよ…五条くん、」
「大丈夫だって。こんなに近くにいるだろ。死んでもずっと一緒って約束したの忘れた?」
「忘れてないけど…」
「地獄の果てまで連れていくつもりでいるから。死んでも一緒ってそういうことだよ」
そう言うとようやく、少しだけ彼女は肩の力をぬいたように見えた。そうして、うん、と返事をした彼女に五条も少しだけ口角をあげた。
目元から輪郭をたどっていた唇はやがて、彼女の喉元にまで到達する。さんざん泣いたせいでおさまらない嗚咽で、ひく、と動く喉元は白くて柔らかいパンか何かのようだ。五条は彼女に断りもなくそこへ噛みついた。吸い付くと簡単に痕の残る白さや柔らかさ、たったひとりだけだけに無防備な様を五条は気に入っている。
ひと通り無防備な首元も可愛がってから、もう一度彼女と目を合わせるべく大きな手のひらで頬を覆って顔を五条へと向けさせた。彼女の真っ黒な目はもう怖さや寂しさを訴えて涙を耐えているものではなく、五条に触れられた安堵から潤んで滴をこぼしていた。
「もう大丈夫になった?」
「うん、うん…五条くん、あの」
「なに」
「…もっとさわって」
今度はあやすためでもなぐさめるためでもなく五条に触れられることを望んだ言葉を、五条が自ら無駄にする理由はひと欠片もない。
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