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短い話

硝子ちゃんって甘いもの食べられるんだね。という彼女のために、私は好きでもない棒つきのあめを口の中で転がしているわけだが、禁煙をしてほしいとのたまったことを忘れているのか。それともわざとなのか。
「本気で言ってる?」
「うん?めずらしいなあと思って」
どうやら怒らせるために言っているわけでもないことを確認して、ようやくため息が出た。
そもそも、彼女が不平不満を言わなければこの先も棒つきのあめをくわえることもなく、煙を吸って吐き出す作業をしていたことだろう。いわく。硝子ちゃんとキスをするのは大好きなんだけど煙草のせいで口の中が苦いからやめてほしい、禁煙しよう、硝子ちゃんが甘かったら私もうれしい、ということらしかった。あまりにもわがままである、寝言は寝て言えと突っ返したのに、次の日にはコンビニで棒つきのあめを購入していた。頭を抱えた。あんたのせいだよ、わかってんの、と言って頬をつねることもできないのは私が彼女に甘いからだと自覚していた。
「あんたは甘いもの好きだよね。こたつでアイス、出先でスイパラ、誕生日には必ずケーキ。煙草とか吸いたくならないの」
「ううん…ならないかな。あのね、甘いものって幸せな気持ちになるの。だからね、硝子ちゃんとキスをしたとき、あんなふうに甘い味がしたらもっと幸せ」
「……」
きっともう吸うこともない煙草は、コンビニのごみ箱に捨ててきた。これからはあのときのようにいそいそと棒つきのあめを用意することになるのだろう。しばらくは口寂しくもなるが、その時は彼女を思って買ったあめか、もしくは彼女で紛らせてしまえばいい。目の前であんまりにも幸せそうににこにこしている彼女が否と言うことは、たぶん無い。
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