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短い話

「カメちゃんが泣くのはどうしてですか?恋しくて泣くのですか?好きだからですか?好きなのにそんなに悲しいのですか」
彼女にはおおよそわからないことだと私は思いました。彼女とは小学校からの縁ですが、とても無感動なひとです。笑った顔だなんて片手の数も見たことがないような気もします。そんな彼女が言うのです。不思議そうに首をかしげて言うのです。
「カントクさんは好きなひとがいると聞きました。カメちゃんの事ではないと知りました。誰かは知りません。それでもカメちゃんが必死になる理由が知りたい。」
私はカメラの縁をなぞる。落ち着け、彼女は何もしらない、まだ。
口を開いて出てくるものが空気でしかないと気づくころには、彼女はカップの紅茶をからにしていました。私の頼んだココアは冷たくなって白く膜がはっていました。彼女はそれでも待ちます。気のながいこだから、いつまでだって。
唇をひらく。冷めきったココアを飲みました。
「…私は諦めきれないからこうしているだけですぞ。」
諦めきれないから、伝えられないから。泣きたいけど、泣いてるけど。怖くて、ずっと、いつまでたっても足踏みして、動けないから。あの人に。
「…言いたいことがいっぱいあるのに、自分なにも言えないだけで。見ているだけです。」
「……、」
うつむくとカメラのレンズが見えました。膝の上で今にも泣きそうな私を無機に写していました。
それから、彼女は何も言いませんでした。私も何も言いませんでした。ただ、私がひとつだけ、彼女に嘘をついていることがあります。情けないお話です。カントクがいつも、暇なときに誰に付きっきりなのか。誰を見ているのか。私は知っています。彼女が自分でわからない彼女の心が、誰に向いているのかを知っています。それを私は彼女に、彼に、言うことはおそらくないのです。

彼女は別れ際、一言だけ…ではないけれども付け加えてからお別れの言葉を言いました。
「カメちゃん。私はあなたやカントクさんがほんとうはもうお互いの感情を知り合っているのだけは分かります、いつも見ていますから。え?どっちを?カントクさんをですがそれがなにか」
あなたのそういう無自覚なところは、昔からあんまり好きじゃありません。
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