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短い話

ぴりり。足先からとどいたかすかな音を今月になってから何度聞いたのか、もう数えることもやめた。裂かれた穴から冬のつめたい空気が入りこむのを感じ、じとりと先生をにらみつけて「先生、また?」そうやってあきれたようにため息混じりに言うと、すこしも自分の行いを悪いとも思っていない顔で先生は「ごめんな」と謝った。聞きあきた言葉だ。だというのに、眉をさげた子犬を彷彿とさせる顔で言われてしまうとわたしはいつも「…いいよ。今日だけね」と先生ゆるした。今日も怒ることができなかった。
引き裂かれたところから先生のごつごつした長い指が一本ずつ入りこんで、ゆるゆると撫でられた。先生の指先は想像していたより冷たかったのに、いまはその冷たい温度も馴染んだものになっていた。時々かすめる爪が跡を残そうとしているようだったけど、やわらかく往復する指はわたしを傷つけなかった。
「跡くらいつけてもいいのに」
「ん?」
いつもそうだ、黒色に包まれた肌ばかり可愛がってめったにわたしの顔さえ見上げてくれない。先生は最初から明確な一線をひいている。
タイツを破る以外は行為の跡をなにひとつ残してくれない先生に「もっと先生のものって証がほしい」とお願いするとタイツの中を往復して穴を上へと広げていく手がぴたりと止まった。一瞬の硬直ののち、いつもいじわるく細まっている先生の目がこちらを見上げた。そうして、ふっと目をそらして困ったような顔をして「だめ」と小さな声で言う。
「どうしても?」
「どうしてもだめ」
「なんで、先生。タイツを破るのはいいのに?」
「タイツは物だろ。先生はこれで我慢してんの。破ったタイツっていうわかりやすい証拠残して、お前にさわったって満足を得てんだよ」
そうしてまた、ぴりと音をたててタイツを引き裂いた。
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