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厄介な猫を拾いまして

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命よりも大切に思っていたはずのネックレスは、あの人の手で簡単に壊された。
その瞬間に心臓を引きちぎられたようなショックを受けて、呆然とする俺を蹴り飛ばして笑いながら去るあの人の後ろ姿になんで俺はこの人にここまで執着していたんだろうとようやく自分の異常性に気が付いた。でもそのあとはすっごく疲れて、ホテルを借りる気力もなく、途方に暮れていたら顔見知りのボーイが紙切れと五千円札を渡してきて。
『タクシーが前に止まってます。乗られていかれますか?』
『……ありがと』
ほとんどなんも考えずにあの人のマンションに向かって、促されるままに体を綺麗にされるのはすごく心地よくて。わざわざ傷の手当までしてくれたたかひさが俺は心底不思議だった。ぽっきり割れた十字架のネックレスを見て身も世もなく泣いても、他人が聞いいたところで面白くもない話を聞いてくれて、ただただ不思議でならなかった。なんでそんなことしてくれるの?って聞いたって、『俺がやりたいから』とか言うだけでちゃんとした答えは返ってこない。でも家事の手伝いとかは出来る範囲でもうやってしまっているし、追加でやれることはなかなかない。だから前みたいにサービスしてあげようとしたのだけれど、
「……なにしてんの」
「何って、ナニでしょ。前もやったじゃん?…あ!後ろを使うのも言ってくれれば準備出来るけど。治ったし」
「そうじゃねーよ」
ばっさり断られてしまった。前若干抵抗されたことにも驚いたけど、抱いてもいいよという俺の誘いを断ったのはたかひさが初めてで暫し面食らう。
「えー、もったいない」
「何言ってんだよ」
「だって俺めっちゃ人気あるんだから。50万払えば抱かせてくれるかって現金押し付けられたこともあったし」
そう言うと少し彼の眉間が険しく顰められる。あれ、俺変なこと言ったっけ?
「抱かせたの?」
「へ?」
「そいつに抱かせたのかって聞いてんの」
「それは無いって。俺下手なセックスされんの嫌いだから、ある程度の保証がないと嫌なの」
「……ああ、そう」
呆れたのかなんなのか、ソファーに脱力したらしい彼の足元に座り込んでいる自分の頬を彼のあそこ辺りにくっつけて頬擦りしてみる。もったいないな、こんなでっかいのなかなか見ないしどうせなら……って思ってたのに。
俺は最近見ていなかったスマホを取り出して、通知の溜まっているであろうトークアプリを開いてみると、やはり馴染みからの連絡がいくつも溜まっていた。そのうちの一つに返事をしようとした時、大きな手に端末をひったくられた。一目で内容を察した彼は睨むような視線を向けてきた。奥二重と短くもみっしり生えた睫毛のせいで、見下ろして睨まれるとなかなか迫力がある。
「ユウヤ」
「はい」
「お前は、俺とヤリたいの?」
「……え、」
一瞬フリーズしたけれど、すぐに気を取り直して大きく頷く。
「舐めてもいいの?」
「その辺はお前が決め……」
「うん!シたい!」
むしろ歓迎だ、と心を躍らせたのもその時だけだった。たかひさは無情にも俺にひどい条件を突きつけてきたのだ。連絡先にある、俺が触られてきた全ての人達と関係を絶てというのだ。じゃなきゃこれからは指一本触ってあげないと。
俺が口でスるのが好きな理由は、喉をつかれんのが気持ちいいってのもあるけど、舐められることや背徳感に興奮しながらも快感に顔を歪めるのを見るのが好きだからって言うのが大きな理由だ。たかひさはいいカラダしてるくせにえっちなとこを全く人に見せないムッツリだ。でもいざ咥えてあげたら優しく髪を撫でてくれながら雄の本能で今にも飛びかかりそうな瞳で強く見下ろしてくれるのが堪らないんだ。背筋がぞくぞくっとして、今すぐ触って欲しいとすら思う。今までこんな人いなかったのに。
それに我慢出来なくて、一回彼を本気で誘って逆レイプ?みたいなことしちゃったし。思い出したくもない元彼に無理矢理突っ込まれて切れた後ろも治ったところだったのと、熱が体に燻り始めた時期が同じ頃で、つい先日、すやすや子供みたいな顔で眠るあの人のそれをゆっくり舐めて勃ち上がらせて緩めたあそこに挿れた。今まで届いたとこよりずぅっと奥を刺激されて、挿れただけで中イキまでしちゃって。起きたら俺を下ろそうとしたたかひさだけど、俺が締め付けすぎたせいで諦めてそのまま抱いてくれた。それが信じられないくらい気持ち良くって!俺はまた世話になろうと思ってたのに……ひどい。
この連絡先にいる男達にはフェラもしてあげてたし身体を触らせるのもOKにしてた。挿れる以外ならいいよ〜ってことにして、あとは自由にさせてあげてた。理由はさっきも言ったけど、下手なやつは嫌いだから。タカは確かに上手い。彼一人か、キープしてる男数十人か。

少しの間考え、腹を決めて真っ直ぐに彼を見上げる。
「ねえ、本当に抱いてくれる?」
「そこにいる全員と関係切ったらな。もちろんこれからは絶対に身体をそいつらに触らせんな」
「諦めてくれるかな……」
「頑張れ」
頑張れだって。冷たいでやんの。むっとして、よく話を聞いてくれた男にたかひさに言われたことを頼むついでに愚痴ったら、彼は良かったじゃないと喜んだ。大切にすべきな恋人に手を上げて自分以外の男の相手をさせるような奴と今まで付き合ってたんだろうと指摘されたことで、大分彼に対する考え方が変わった。無理矢理咥えた時、身体を交えた時、彼は終わった後俺の頭を撫でながら言っていた。こういうのは、本当に好きな人とするんだよって。どちらの時も少し悲しそうだった気がする。

好きな人……好きな人…。

初めて好きになったのがあんなんだったから、いまいちピンと来ないのが難点だ。ただ執着していただけのようだった気がする。好きって、好意がどこまで行ってから好きっていう風になるんだろうという今まで考えたこともなかった議題を頭の中で整理していたら電話がかかってきた。山下くんからだった。
『今までの客をどんどん切ってるんだって?』
「金取ってないから客って言わないけど。…うん、これからはごめんねって、みんなにメールした」
『残念がる人が殆どみたいだけど、中にはちょっと喜んでる人もいたみたいだよ』
「うん……なんか、幸せにって言う人もいたけど。まともな人と付き合うのが初めてだからよく分かんなくて」
スマホの向こうで彼が少し笑った気配がした。
「ねえ智くん」
『なに?』
「好きって、なに」
『どうしたの急に』
「たかひさが、身体を他の人達に触らせるのを辞めるまで抱いてくんないって言うから今こうしてるんだけど、前にあの人、セックスは好きな人とするんだよって言ってきてて……もしかしたらこんなことしてても好きにならなきゃ抱いてもらえないんじゃないかって……」
『え、手越はもう増田くんのこと好きでしょ』
「……は、はあ!?」
何を根拠に、と言い募ろうとした俺に彼は淡々と言うことには、あの気まぐれ手越がいくら助けてくれた人とはいえ抱いてもくれない人の近くにずっといることが先ず珍しいし、なんか相性良さそうに見えるから、だとかなんとか。他にも言っていたが、彼は「そんなことないもん」を繰り返す俺を面白がって笑った。いずれ自覚するよ、そう予言みたいなことを言って、彼は通話を切った。
「……なんなんだよ」
「ゆうやー、買い物付き合うの?付き合わないの、どっち?」
「行く行く!!」
慌てて彼の背を追いかけて家を出た後も、たかひさの背中を見ながら好き、好きじゃない、と脳内花占いをし続けていたせいで俺はすっかり警戒心を解いてしまっていた。

ボディーソープを探しにたかひさのそばを離れた時、腕がもげるかと思うほど強引に引っ張られて狭いトイレの個室に俺を連れ込んだのは、この前自分を捨てたはずの男だった。ここに来るまで離せ離せと抵抗していたけれど誰か気づいてくれただろうか。
以前だったらホイホイ喜び抱きついていたはずの依存体質だった俺が抵抗を示したのに機嫌を損ねた男はなんの躊躇いもなく頬を殴ってきた。痛い、痛いってば。そう言いたいのに、身体も口もやり返したり言い返すことさえできない。ただ震えてごめんなさいと言うのが精一杯。
便器の蓋に座り込んだ俺の目の前でジーンズのチャックが下ろされ、取り出したモノを頬に擦り付けられて「舐めろ」と命じられる。ほんの数週間前の自分なら喜んで咥えているはずだった。なのに、今では青臭い匂いに吐き気がする。顔を背けていたら無理やり顎を掴まれ口に突っ込まれて、後髪を掴まれて強制的に抜き差しされる。慣れてはいるから苦しくはならない。けれど、匂い云々よりも”あの人の”じゃないということが一番気持ちが悪くなる理由だった。形も長さも大きさも当たり前に違う。俺が求めていたものはコレじゃないのに、口に出されて、反射的にかつてこの人に教えこまれた通りに飲み込んでしまって、耐え切れないくらいの穢れが自分に食道を通って身体を汚していくのをイメージして、それがかなり悲しく思えて涙が溢れてきた。俺が泣きだすと悦ぶのは変わっていないようで、にんまりと笑った男は断続的に腹を蹴る。痛い、痛いよと泣く俺を更にいたぶるのが好きだったもんね。だから必死に嗚咽を堪えようとするけれど、それが逆に男を煽ることを祐也は知らなかった。そして久々に受けた激しい痛みと恐怖に耐えきれず、痛みをシャットアウトするように意識を飛ばした。

そして夢を見た。

毒々しいピンク色の窓のない部屋で首輪に繋がれて座り込んでいる。その首輪に繋がったリードを握っていた人は、リードの持ち手を投げ捨てて去っていった。部屋にはどこにも繋がっていないリードと、それに繋がる首輪をつけた自分が残った。寂しさのあまり更に部屋に閉じこもっていた自分を突然誰かが引きずり出して、その人はリードを握ることなく、慎重に首輪を外して俺に捨てさせた。でもその代わりに俺を求めることはなく、守ってくれはするが野放しにしていた。そんな彼に興味を持った俺は、どんどん彼に構われたくなり触られたくなっていって、できることならなんでもしようとしたけれど、ある時元の飼い主がやって来て、俺の努力を全部無効化してしまう呪いをかけてしまった。呪いをかけられるのは怖かったけれど、それよりもあの人に嫌われちゃうんじゃないかってことが怖くて……怖くて…………こわくて─────



「祐也?…祐也!!ねえ、分かる?」
あの人だ。嫌われてないのかな、手を伸ばそうとしてその手が握られていることを知りまだ開けてもいない目に涙が滲む。ぱっと目を開いたらやっぱりたかひさがいてくれていて、俺が目を覚ましたのを見て「よかった」と笑ってくれた。その笑顔を見た瞬間、何かが限界突破して思いっきり彼に抱きついた。管がどっかに引っかかって点滴が抜けたらしく少し痛みが走ったけれどそんなのどうでもよかった。「痛くない?」と聞いてくれるのがよく分かんないけどめちゃくちゃ嬉しかった。以前殴られ慣れていたせいかそこまで大きな怪我は無くて、腹も痣が残っただけだったからすぐに貴久の家に帰ることが出来て、彼から離れたくなかった自分としてはめちゃめちゃ嬉しかった。
「ねえたかひさ、俺、多分たかひさのこと好きだよ」
家に帰った後、風呂に入って濡れた髪を彼に乾かしてもらっている時にそう言うと、ドライヤーの風がピタリと動かなくなって、やがて電源が落とされる。
「……どうしてそう思うの?」
「さっき起きた時にあなたがいてくれたことが、本当に嬉しかったから。だから一緒にいたいの。……もう、あなたが嫌がることしないから」
もう他の人のを触んないし触られない。連絡先だって変えた。全部あなただけにするから。
「じゃあ、一つ聞いていい?」
「うん」
「祐也は、俺に何して欲しいの?」
「……わかんない。でも、」
「……」
「あ、甘やかして…ほしい」
どうせ恋人になるんなら、もう躾られるのは懲り懲りだし、めいっぱい甘やかされてみたい。抱きしめて欲しい時はさっき病院であったみたいに、優しく受け止めて欲しい。でもこんな事言うのは目を見て言えるはずもなく、ドライヤーをかけられていた時のまま彼に視線を後頭部で受け止めていた。
ああもう、恥ずい……!!
俺達に流れる静かな間に耐え切れないほど恥ずかしくなった俺はたかひさの目を見ないようにして彼の手を引き、寝室のベッドにその厚みのある身体を無理矢理座らせて前を寛げてあげようとしたら、両頬を両手で掴まれ強制的に目を合わせらせる。薄暗い部屋だから分からないと思うけれど、絶対赤くなっている自分らしくもない顔を見られていると思うと死にそうになって目をぎゅっと閉じた。
──あれ?でも何も起こらない。でも彼の顔を見るのは恥ずかしい。なんなんだ、そう思った時、
「……かわいい」
今まで聞いた中で一番甘い声だった。あなたそんな声出せんのね、いっつもクールだったから知らなかったわ。とか、普段の自分ならそういうセリフをペラペラと話せていたと思うのに、色々パンクしてて頭も口も全然動かない。
「なんだ、照れるとそんなんになっちゃうんだ。祐也って」
「え、いや、」
「顔も真っ赤だし……耳なんてめっちゃ熱いじゃん」
「そ、そんな、こと…」
「あるよ。目も潤んじゃってるね、ふふ」
目を細めながらも彼は俺の事を穴が空くほど見つめてきて、何故か俺もその深い黒の瞳から目を離すことが出来ない。
「祐也、俺のこと好き?」
「……うん」
「どのくらい?」
「わか、んない…けど、少なくとも、今めっちゃどきどきしてる」
きゅっと指先でパーカーの胸元を握れば皮膚の上からでもドクドクと心臓が暴れているのが分かるって相当だ。めちゃくちゃに殴られて息が苦しくなる時だってここまでじゃない。まだキスさえもしていないのにこんなことって普通じゃない。
正直に答えた俺に口角を上げると、「そっか」と小さく呟いて。
「俺も好きだよ。ねえ、手越もちゃんと言って?俺のことが好きって」
「えっ、あ、」
なんなんだこんな、誘導尋問みたいな…恥ずかしくって顔も爆発しそうに真っ赤で今にもメーター振り切ってバーストしそうなのに、彼の声を聞いていたらあってないような理性がふわふわと解されていくようで。
「す、好きだ……たかひさのことが」
綺麗に笑った彼は、床に座り込んだままの自分をひょいと持ち上げベッドに押し倒し、前髪の上からキスをする。
「祐也」
「な、なに」
「それならもう抱いてあげてもいいけど、どうする?」
「……いじわる。何週間も我慢させられて、こっちはもう死にそうなんだかんな!」
こっちが押し倒し返してやろうと腕を突っ張るが意味は無く、代わりに鼻と鼻が触れ合うほど顔が近くなる。耳に伝わるたかひさの声は少しだけ舌っ足らずに聞こえて、少し低めで、幼いふうにも聞こえるのになぜか身体が震える。
「だめだよ。祐也今まで二回も俺のこと襲ったでしょ?だから今日は、俺がお前に触る番だよ。大人しく感じててよ」
「やっ、でも、俺だって……」
「代わりばんこ。二回襲ってくれたぶん気持ちよくしてやるから」
「けど、でもっ」
「優しくするよ。こいびと、でしょ?」
「〜〜ッ!!」
そう言って彼はちゅっとキスをしてきた。小鳥がつっつき合うような可愛いバードキス。なんで舌入れないんだろうと思ったら唇を撫でられて「そんなに緊張すんなよ」ってクスリと笑われる。そして自分が真一文字に口を閉ざしていたことに気が付き顔から火が出るかと思った。いや、なんで俺、こんなに恥ずかしがってんだよ…今更。口元が緩んだ隙ににゅるりと肉厚な舌が入り込んでくる。俺も負けたくなくて向こうの歯列をなぞると「ふふ」と彼は楽しげに笑って更に深く口付け合う。
「ひぃうッ」
いつの間にかパーカーの中に入り込んでいた手に胸の飾りを摘まれびくんと身体が跳ね、目じりに溜まっていた涙がこめかみに流れた。不意打ちは卑怯だ、なんて言うつもりもないけど、演技ではなく彼に言わされた喘ぎ声があまりに甘ったるくてなんだか焦る。
俺は全くもって、この人に主導権を握られて、彼に本当の意味で愛されて抱かれるってことをわかっていなかった。
キスで必死になっていているうちに下も解され、息を詰めながら何本入ってるのか聞いた時には既に三本でナカを弄られていて、今までにないほど敏感になったそこをかき混ぜられてひっきりなしに高い声が出る。抑えようにも背中に回した手を外すのも無理で、唇を噛もうとしても彼にキスされたら力が抜けてそれも出来なくなる。
「たか、ひさ…もう…ッん」
「タカでいいよ」
「タカぁ…ッ…も、むり」
「うん」
いざ挿れるってなったら彼の手付きは尚更優しくなった。腰に手が添えられて、力抜いて、と囁かれると圧倒的な質量が俺を割り開いた。
「う、ふ……ぁああッ!!!………は、うぁ、…ンッ…〜〜〜〜」
ビクビクビクっと体が痙攣して、飛んでしまわないように必死でその背中に爪を立てる。感じすぎて苦しい。この前俺がこの人を襲った時だってここまで悶えなかったのに、なんでだろ。好きって言ったから?たったそれだけでこんなに気持ちよくなんのかな。
「ゆうやッ、へいき、か?」
「へぇき……ゃんッ、う、やば……」
快楽をただ享受しながら考え、ゆっくり抜き差しを繰り返すそれがちゃんと根元まで入り切っていないのに気がついた。でもそれを指摘する前に上り詰めてしまって、ゼェハァするする俺に気遣うタカ。いいよ、あなたも気持ちよくなってよって足で彼の腰をクイッと引き寄せる。それでも感じすぎてる俺をさらに深く抉るのを遠慮している彼が優しくて泣きそうになる。ほんと、変な人だ。
「…ッちょ、ゆう……」
「いいから、あなたも、」
背中に回した手にも力を込めてキスをせがむ。そのうちに彼も腰の動きを再開して、俺の中でゴム越しに熱を放った。でもタカがイクまでこっちは色んなところを辿られてまさぐられ、その指に嵌った指輪の冷たさが肌に触れる度に体を震わせて感じて「きもちい」と甘ったるい声ですすり泣いた。
今まで、セックスを含めたえっちな行為は相手が自分の急所を晒して間抜けに喘いでいるのが面白くてやっていたってのもあったのだが、そんな余裕、全くない。オマケに袋詰めの砂糖を全部鍋でグツグツ煮た液体の中で溺れるってくらい甘ったるくて、今まで聞いたことも無いほどにめいっぱい喘いでしまった。何よりあの人の「好きだよ」だったり「祐也」とかって囁き呼ぶ声が、気がおかしくなりそうなほど恥ずかしくって。でもその甘やかしさえも嬉しくて、俺の虚勢なんて簡単に溶けてしまった。
「疲れたでしょ」
「ん……でも、」
「寝てな。俺が全部やっとくから」
「……たか」
「どした?」
「いっちゃだめ、寝るまで…ここ」
「……ふふふ、うん」
プライドなんてどっかに消えて、『寝るまでどこにも行かないで』みたいなことが言えるくらいには、俺はこの人に溶かされてしまった。

彼の腕の中で目が覚めた時は驚いた。腰はまあまあ痛かったけれど、身体も服も全部綺麗になっていて、あの後の処理を全てやって貰ったのかと思うとかぁっと顔が熱くなった。
「───思い出しちゃった?」
顔熱いよ、とからかうのは昨夜俺を散々可愛がり尽くした人だ。「別に」と返す俺をくすくすと笑いながら甲斐甲斐しく腰を摩ってくれていた。
そろそろ起きたいと言ったらわざわざ抱き起こし、よろけて転ばないように背筋に手を当て長い間支えてくれていた。リビングでのんびりしていたら、俺が馬鹿な判断をして遠ざけてしまった友人達がタカの一報でここに飛んできて、心配してたんだからって慶ちゃんに泣かれて、シゲに怒られて、まあゆっくり話そうよとソファーに座らされるまでずっと。

俺、祐也と恋人になっちゃったんだ。ちゃんと好き合った上で付き合ってるけど許してくれる?

タカはあっけらかんと二人にそう告白して頬にちゅっと軽いキスを落とした。ぽかんと口を開ける二人。彼らが正気を戻してタカと三人で話し始めても俺は黙りこくったままだった。さっき唇を押し当てられた右頬がじんじんと痛いくらいの熱を持って、今は顔が真っ赤になっているんじゃないかと焦る。
「あのぅ……手越? お前マジでまっすーと……」
「……あっ」
小山と加藤は手越に確認しようとして、やめた。
手越は白い頬から鼻先までを湯気が出るんじゃないかってほどに真っ赤に染めあげて、消え入りそうな声で「ほんと、です……」と答えたものだから。それに対して熱を出したんじゃないかと静かに焦る増田を見てしまったから。

(……もう、俺マジでどうしちゃったんだよ)

ううぅと唸って赤ら顔を手で覆う手越を、二人は安心した柔らかな表情で、一人は愛おしそうに見つめていた。




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