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サンタは遅れてやってくる

買っていたクリスマスワインを二人で飲んで軽く酔いがまわったところで自然な流れでキスをした。酔ってるけどいいのと聞かれたのに首を振り、シャワーを浴びると二人でベッドに滑り込んだ。
「久しぶりだからゆっくりね」
そう言われ始まった前戯はもうあんまりにもねちっこくて、挿れられてもいないのに欲を吐き出してしまう。全身にくまなくキスを落とされて乳首に歯を立てられた時、一瞬思考が飛んだ。

『手越……!』
俺を知らないはずの彼の腕が自分の体に巻きついて、厚い胸板に背がくっついた時、彼の体温が冷えたからだに伝わった。大好きな匂いが香って、恋人が戻ってきたと錯覚しそうになった。離してと言っても聞いてくれなくて、本当に泣きそうになりながらその腕を振りほどいて家を走り出た。
仕事をこなしていた時は、忘れられた。でもホテルで一人きりになるとどうしても落ち着かなくて眠れなかった。大好きだよ。ずっと一緒。そう言ってくれたあの人を誰がどこに連れていったの?俺があんなこと言ったから、あの人はいなくなってしまったのかな。泣いてはダメだ。ただでさえ飛行機で顔が浮腫んでしまっているのに目まで腫れたら笑えないのに。
忘れられたことを知った時よりも仕事を終えて飛行機に乗ってからの数時間が一番辛かったかもしれない。

「祐也ー、おい、平気?」
「ん……あ、れ?」
「飛んでた。大丈夫か?ちょっと休憩する?」
頬を叩いて、意識が戻った自分を心配げに見下ろす深い瞳は優しい。へーき、と答えて太い首に手を回し口付ける。大きな手が後頭部を支えてさらに深く、深く舌を入れて唾液を奪い合う。俺が負けることは重々承知だが、受け入れてくれることが嬉しい。
「ん、たか……」
ちゅっと音を立てて離された唇を動かして名を呼び、繋がれた手を掴み腰に誘導する。
「いれて」
「えー……もうちょっと」
「ダメ。今がいい」
もっといじめたい。そんな顔をしたような気がしたが、多分違う。彼はただ俺に優しくしたいだけだ。でも、こちとらあの喧嘩をしてからでっかいトラブルに遭遇してしばらくお預けだったのだ。念押しするように言葉を重ねれば彼は観念して俺の腰を掴んだ。ずっといじられて快感を引き出され続けていたそこは、ローションのせいで柔らかく濡れて熱を持っている。優しく縁をなぞられるだけで体が震え、その勢いで手を大きく振って毛布に叩きつけた。
「……っあぁ!」
宥めるように腹を撫でられただけで酷く感じる。体に負担がかからないようにと腰の下にクッションを挟まれるのにくびれたところに手を回されるのにも恥ずかしい声が漏れて堪らなくなる。
「ひゃっ…あ、」
「かわいい」
閉じていた目を開き見上げると、溶けるような眼をした恋人がいて、途端に恥ずかしさが増した。ゴム越しに固くなったそれがぴたりとひくつくそこに宛てがわれ、「いくよ」の声を皮切りにゆっくりと挿入されていく。一度引かれたかと思うとまた侵入してきて、奥の方まで貫く。でもこれで全部じゃないことは知ってる。それなのに彼は俺を抱きしめてこちらの顔を覗き見た。
「平気?」
「へーき、だから、ッ…続き」
「うん」
「ひゃっ……」
暖かい吐息に対して耳はやめてよと言う前に律動が開始されて抑えられぬ喘ぎが漏れ始める。いつもは枕や周りに置いてあるタオルを掴むことが多いが今は目の前の恋人の体にめいっぱい腕を伸ばした。広い背にしがみつきながら筋肉の隆起を辿り、息が出来なくなるほどの快感に耐え切れず爪を立てると、何故か彼が笑っているのが見えた。
「いいよ。もっとしがみついて」
「へ、何……ッああ!…はあ、んっ…ひ、」
大きく腰をグラインドさせて奥を突きあげられ引き抜かれ……激しいピストンに息も出来なくなってあられもない声を発するばかり。かと思えば入口を傘の張ったところで散々責められ、弱くもきつい刺激に頭がグラグラ揺れて子供みたいにしゃくり上げるしかない。だめ、もう、むり、はやくイってよ……頭を打っても恋人のしつこさは変わらず、こっちの記憶が吹っ飛びそうになるほど責め立てられた。そしてついに限界が近づいた彼は俺の体制を横向きにし、片足だけ担ぎ上げて奥を抉るように突き上げる。
「やん、あ、らめ、むり……イってるッ…からぁ…っあああ!!」
「ごめ、もうちょっと」
「ああっ、ん、んぁ、……」
ゴム越しに熱いものが注がれていくのを感じ、そこでまた泣いた。タカは流れた涙を何度かに分けて吸い取った。
息が整うと二人で風呂に向かった。体を洗って湯船に浸かると、自分がクリスマス用に準備していて使うのを見送ろうとしていたブレゼントボックス型のバスボムをいれて、シャンパンのようにキラキラする湯船を楽しんだ後は、整え直されたベッドに寝転がる。酷使され、疲れ切った自分の身体は簡単に睡魔に飲み込まれてしまった。恋人の角の取れた丸い声と暖かい腕には敵うはずもなかったことは知っていたけれど、最近の寝不足はどこに行ったことやら。


「ん……くすぐった」
目を擦りながら顔を上げると、彼の首筋に潜り込んだ自分の耳元が黒い毛先に擽られている。起こしたかと思ったが「んー」と気の抜けた声が漏れただけでまだ眠っているようだ。
体を起こして、触り心地の良い頬をなぞる。
「寝顔は変わんないんだなぁ」
でも、ソファーの前の床にぶっ倒れてんの見た時は冗談抜きで心臓止まるかと思ったんだからな。
最近、髪色や髪型が変わったりしたりから若くなったーとか赤ちゃんみたいーとか言われるけどこの人の方がよっぽどあどけない顔してると思うんだけどな。ドラマの撮影時期より少しぷくついた頬を弄っていると、いつから気付いたのか、大きな手に髪を撫でられ零れた短い毛を耳に掛かられた。
「おはよう」
「おはよう、ゆうや。プレゼント気に入ってくれた?」
そのプレゼントは今、この寝室の本棚に置いてある少し大振りなもの。デジタル式のフォトフレームだ。自分が気に入った写真が自動的にスライドショーされる代物で、ちゃっかり隅に名前も印字されてあった。
「うん、そりゃあね。ていうかいつのまに買ったんだよ」
「一週間は前かな。買ったこと自体忘れかけてた」
ふらりと立ち上がると、彼はそれを手に戻ってベッド脇に腰掛ける。俺はその肩にもたれ掛かり、同じくそれに目を向けた。
電源を入れてすぐに写真のスライドショーが始まる。周りには絶対バレてはいけないから内容を携帯に入れておくこと自体が危険で、いつも撮ったら直ぐにSDカードに保存していた写真たち。それが軽やかに真新しい画面に映る。
「いいね、これ」
「いいでしょ」
見ていた薄型のそれが目線の延長線上のローテーブルに置かれる。彼の左手は俺の頬をなぞり、指がこの輪郭を確かめるように優しく当てられる。
「幸せ?」
短く濃い睫毛が飾る目元を緩ませて彼はそう問うた。長い前髪を、さっき彼がしたように耳にかけてやってから口を開く。
「怖いくらいにね」
そう言ったら、満足そうに上がった口角がぼやけるほど近付いて、穏やかなキスが交わされる。ふっくらしたそれが俺の薄いそれをむのに心臓が高鳴る。激しくもなんともないそれにずっと酔いしれていたいと思った。
まだ時間は早い。俺達の喧嘩もいちゃつきも惚気も全てあの魔法のフォトフレームと二人の中に閉まいこもう。もう二度と、こぼれ落ちたりなんかしないように───
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