モデルハウスのように美しくコーディネートされ整えられた部屋を駆け足で走り回る。
いつもはこんなはしゃいだ様子を見せない自分の今の様子を見たミルクは呆れたような表情でソファから高みの見物をしている。
インテリアとして壁に飾られたヨットの絵を裏返すと、次の暗号が記されている。ちょっと考えて、踵を返しキッチンの方へ向かう。
「待ってシゲ!ちょっと……早すぎるってぇ」
弱った顔で眉尻を下げるのはここの家主である恋人だ。この暗号を考えたのもそう。11月22日は世間ではいい夫婦の日、俺たちの間では付き合った記念日も兼ねているから何かしらあるかもとは思っていたが、小山さんはわざわざ仕掛けを作って待っていたらしい。
「簡単すぎ!これで6個目、あの戸棚だろ?で、えーっと……」
「ねぇ、みーちゃん、シゲ頭良すぎてやなんだけど…もう……暗号に2日かけて考えたんだよぉ?」
「俺の方が頭いいんじゃね?」
「ミィ〜」
「ほら、ミルクもそうだってさ」
「えぇ…みーちゃんは味方でしょ?」
「にゃう」
「違うってよ」
からかうように言えば「分かんないじゃん!」とムッと子供のように反応する。
愛猫は主人にふよふよと長い毛皮を撫でられてもされるがままになっている。俺が猫だったらあんなにしつこく構われたら嫌だな、と頭の片隅で思いながら、心当たりのある場所に向かっていく。自分のよりは少ないが、ずらりと本が並んだ本棚の前に立ち、１つ１つ背表紙をなぞってキーワードに合う本を探していく。山吹のものを抜き取り開くと、中にクッション材がはめ込まれている。正直驚いた。どこかのスパイ映画のようだ。濃緑のレザーネックレスを引っ張ると、キラリと光る石がついているのに気づく。水晶にも見えたが、故意に入れられたクラックから神秘的な虹色の光が滲んでいる。
「本っ当に、頭良いんだからな〜」
眉尻を下げた彼が俺の手元を見てそう言った。
「綺麗だな、これ。……あ、もしかして」
「うん。アイリスクォーツ。綺麗でしょ?」
手からそれを取られたと思うと、わざわざ首につけてくれる。そして満足そうにネックレスにそって俺の首筋をなぞった。
「アイリスって、俺だから?」
「ふふ、そうだね。アイリスと言えばあやめ、あやめと言えばシゲちゃん!それに、最強の石だしね」
「最強?」
俺の問いに切れ長の目をさらに柔らかく緩ませて、俺の髪を綺麗な手で梳きながら話す。
「クラックから虹色の光が見えるでしょ。色にもね、１つ１つ意味があるのよ。
赤は恋の好機をもたらす。ピンクは心に眠っていた情熱を目覚めさせる。黄色は希望を与える。緑は気持ちを穏やかにしてくれる。水色はトラブルを回避してくれる。紫は愛を深めてくれる。白……ああ、透明は、あらゆるものを浄化して、災いから守ってくれて。……ね?最強でしょ」
「ははっ、小山さん知識が女子かよ。…でもありがと。嬉しい」
「いえいえ。これからもよろしくね」
「こちらこそこちらこそ」
頬に押し付けられる軽いキス。じっと意味ありげに見つめれば、観念したらしくちゃんと口にキスしてくれた。腕を細めの首に回すと仕方ないなとでも言うように背を撫でられるのが落ち着いて、と言っっているようで、子供扱いされているようにも感じる。でも彼からなら別にいいかと思ってしまうのが不思議だ。「今日飯何食いたい?」と聞きつつ少し高い位置にある肩に顎を乗せると、ソファの上にテント座った美猫と目が合う。

やれやれ、お好きにやってくださいな。

美しい弧を描いて振られたクリーム色の尾とクールに逸らされた猫目にそう言われた。






いい夫婦の日(*˙˘˙)♡