Baby Please Don't Cry
漏れる光を辿っていくと、探していた彼が顔を真っ青にして倒れているところだった。
「おい、……おいしっかりしろって、手越、手越!?」
床に座り込んで、壁に力無くもたれ掛かる肩は薄い。その身体を引き寄せる。
吐いた後に発作が起きたようだ。短い呼吸を速いテンポで激しく繰り返し、その状態が長く続いたせいで手先は震えている。備付きの棚に入れていたスーパーで購入した消臭剤を見つけ、それを入れていたビニール袋に手を伸ばして、カラカラに乾いているであろう口にそれを宛てがい背に回した手で背を摩る。乱暴に開けた棚の扉の蝶番が片方イカれたことに気付かぬまま、ただ名前を呼んで呼吸が正常に戻るのを待つ事以外に出来ることは無かった。徐々に呼吸が戻ってきて、茶色い瞳が俺を捉えると小さく名を呼ばれる。
「ま、す……」
「もう苦しくないか?目眩とか寒気とかある?」
「無いよ。それより増田さん、何であなた…泣いてるの」
袋を離した手で自分の頬を辿れば確かに濡れている。無意識に止めていた息を吐きながら、両のかいなで尚更痩せた身体を抱き締めた。肩の窪みと鎖骨の流れに頬を添わせると丁度つがいの刻印が見える。数年前、どういう雰囲気で番を結んだのか。手越の芳香で滲んだ頭ではよく思い出せない。
「……もう匂う?」
「何が」
「俺のオメガの香り」
肩から顔を離し、額をくっつけてオレンジ色の照明が映る瞳を覗き込む。レモンティーのペットボトルを光に透かした煌めきに似ていた。
「どうしてそんなこと聞くの」
「だって……ずっとそこ嗅いでるから」
その瞳が伏せられる。
「昔ね、香水をプレゼントされたんだ。”君が今日も使ってるのこれだったろう?”ってさ。でもね、その日、俺なんも匂いつけてなくってさ。勧められた店に行って嗅いでみたその香水は馬鹿みたいに甘ったるくて吐き気がした。キャッチコピーは”妖艶”だとかそんなんでさ。ローズを主に使ってた。でも上品でもなんでもなくて、安い柔軟剤を何種類も混ぜて腐らせた様な香りだった。その後に女の子がそれを取って嗅いでたらその子の彼氏が”オメガの娼婦みたいな香りだから似合わないよ”って、言ってた」
俺が嗅いでいたのとは反対の肩に自分で触れる。力が込められていくそこはただでさえ白いのにもっと色を失っていって、短い爪が薄い皮膚を抉って赤が滲み出すのを見、手を取ってそこから引き剥がした。
「ダメだ」
その手を振り払われる。
「ねえまっすー、俺、そんな匂いなの?自分じゃ分かんない」
正直言って確かに彼のフェロモンは甘い。ベータさえ引きつける、極上の香りだ。でも違う、手越の本来持つ香りはもっと爽やかでほのかな甘みがちょうど良い菓子みたいな香りだ。
「手越、小山がいつもお前に何の香りかって言ってんじゃん。覚えてない?」
「……バニラ?」
「うん。お菓子みたいないい香り」
「絶対、そんなわけない。俺はフェロモンの話をしてんの」
肩を軽く押し返され、二人の体が離れる。
「自分の匂いが嫌い」
俯いた顔を両手で覆い震える声が絞り出される。
「オメガっていう副性が嫌い。……自分のことは嫌いじゃないのにその事を思い出す度に吐き気がする。なんでおれ、こんなふうなんだろう」
ひぐ、と喉が鳴って、指の間から水滴が滴り落ちる。夢の中の彼と重なった。いつも以上に頭が動かなくなってその姿をただ見つめる。
「俺が、……俺が、アルファかベータだったらよかったのに」
刹那、心臓がどくりと跳ねた。彼は最後に付け足した。
「そしたら、あんたのこと、中途半端に縛り付けること無かったのに。こんなめんどくさい俺のことに巻きこまなくたって済んだのに」
そう言い残すとふつりと意識を手放し、俺にもたれかかりそのまま意識を失った。そこで自分達が狭い床に座り込んでいることを思い出した。以前よりも確実に痩せた身体は軽々と横抱きに出来る程。少し悩んで風呂に入れてやり、俺のスウェットを着させてベッドに寝かした。少し熱があって息苦しそうだ。スマホを開いてシゲとのチャットを開きメッセージを送ってみると深夜にも関わらずすぐに返信がきた。
『手越と一緒に寝るべきかな』
『出来るだけそうして。俺に聞かずともわかるだろ?』
シゲの正解。分かってはいる。
『俺なんかが手越の番で良かったのかな』
ポロッと本音を漏らしてしまう。
『全く同じようなセリフを手越からも言われた』
との返信。手越の隣に腰かけ、苦しげに歪んだ寝顔を覗き込んでキスをする。唇の内側の粘膜に舌を這わせてから離すと、目に見えて彼の息苦しさや熱が引いていった。今の彼には自分がどうしたって必要なんだな、と思いながら、彼の隣に潜り込み胸に抱き寄せる。
俺はね、お前が運命の番でよかったよ。定期的に一緒にいられる口実ができるからね。それに、今の手越を助けるのが自分だってことも他の奴がやるよりはずっといいって思う。でも、ここまで苦しめて追い込んでいるのは俺なんだろうな。もし、お前がアルファかベータだったら。そして俺がベータだったら、変に窮屈に互いを縛り付けあってお前を泣かせることもなかったのかな。もっと綺麗に純粋に想いを伝え合うことだってできたのかな。ごめんね、こんなに無責任なアルファで。いつの間にかお前のことを「好き」だなんて思い始めてしまったんだ。そしてそうじゃないふりをしてる。
そんな変なバランスを保っていながらも、手越の症状は俺無しでは悪くなっていく一方。お互いの家を違和感なく行き来するのが普通になっていく。俺の家に彼の、彼の家に自分の歯ブラシや櫛、部屋着などが増えていく。俺は正直、それが少し嬉しい。
「増田さん」
「ん、どうした?頭痛い?」
「くる、しい……」
胸を抑えてふらつきながら歩いてくる。抱き寄せて頭を撫でソファーに誘導すると、足りないと潤んだ瞳が訴える。後ろに倒れ込みそうになるのを支えながら口付けてから一旦離して呼吸を促すと、正常なリズムの呼吸音が聞こえた。
「息治ったな。頭は?」
顔色を確かめるようにぺたぺたと顔や肩を触って確かめる。
「もう、へいき」
「嘘つけ、眉間にシワよってる。もう少しくっついとこう」
こんなふうにして言えば、いつも眉尻を下げて彼は申し訳ないと言うように俯いて。
「……ありがとう」と毎度のこと礼を言ってきた。
そんなやり取りも普通になっていって。でも着実にその病気は悪化していった。ロケが丁度少ない時期だったのは幸いだったけれど、帰ってすぐに倒れ込むことなんてしょっちゅうだったから仕事に付き添うようになった時、発情期が始まった。タイミングがいいのか悪いのか。
珍しく調子が良さそうにしていたと思っていて、本人も機嫌がよかった。ただ、風呂からあがって寝室に入った時、噎せ返るような甘い香りに脳味噌がぐわんと揺れるような衝撃を受けた。抑制剤と俺という番を無くしてはここまでのものが周囲にばら撒かれるのかと思うともはや恐ろしい。
「ます、だ、さ……」
震えて泣き出しそうに弱りきり怯えた声が耳を掠める。
「俺の、リュックのポーチに、アフターピル、入ってるから、あと、で、」
「うん。分かった」
小山に言われて過剰に反応しないように俺は薬を飲んだのだが正解だった。番を結んだ二十歳を越えるか超えないかの歳よりもお互い成熟している。手越のフェロモンはより色濃く、それに誘発される自分の性欲も尚強くなっている。
何度か息を吐いて自分を落ち着かせてから部屋に踏み入りベッドに片膝をかけると、
「──待って!」
軋む音に恐怖を感じてこちらに向けられた拒絶の手を取り、甲にそっとキスを落とすと潤んだ目が揺らいだ。
「大丈夫。俺だよ。手越、分かる?」
「ま…だ、さ……」
「うん、そう。力抜いて。安心していいよ」
いつもと自分の態度がまるで違うのを自覚しながらきゅっと閉じられた足からゆっくりハーフパンツを脱がせると、下着越しにも愛液が糸を引くのが見えた。顔の方を見れば両腕で表情を覆い隠している。微かな刺激でも快楽に変換されて不本意に漏れてしまう声と泣き声を必死に押し殺している。
「ふぇ、ひゃぁあ、やッ……」
「どうして泣くの?恐いか?」
「……気色悪いって、思わないのかよ」
どこがと聞いて手を外させる。弱った腕力のシールドはいとも簡単に外れてしまった。
「触られてもないのに、こんなぐっちゃぐちゃになって。怖いって思いながら善がり狂うとこなんて見られたくないに、決まってんじゃんか」
「手越、」
端に寄った身体を引き寄せ、ヘッドボードに背を預けさせる。すれば、バスタオルを腰の下に敷き自ら下着を脱ぎさってどこで用意したのかビニール袋に入れる。汚れたら嫌でしょ、と言って。
「ごめん、んな事はどうでもいいから……」
彼の手が股間に伸ばされるが、それをやんわりと止めてベルトを外した。
「ゆっくりするから、落ち着いてな。あと俺にそんな気を使わないで」
細い腰に腕を回して引き寄せそっとキスをして。まだ「好き」だとかそんな言葉なんて一つも交わしていないのに、まるで恋人同士のように彼と抱き合った。砂糖菓子を吐き出すほどに甘い夜。
「あ、ぃや、んぅッ…あぁあああ!!」
「ほら、手、首に回せよ」
「ふ、う……ぁっ」
「そーそー。上手上手。……はッ、こら指、噛むなよ」
油断したら指を噛んだりシーツをつかんで耐えようとするのを今の自分は酷く嫌っている。いつもは彼の意思だとしたいようにさせていたのに、それが酷く痛々しく見えたのだ。
「ぁあっ、だめ、ひぁあ、」
「……っふ、」
「んぅ、ま、すだ、さ」
「気持ちい?」
「ん、うん…あっ」
快楽に喘ぎながらも、頷いた時少し笑った。行為のさなかに笑った顔を見ることは初めてで、それがなぜか泣きそうなほどに嬉しくて。血など滲んでいない薄い唇に自分のを重ねた。
行為が終わった頃にはもう半日が過ぎようとしていて、太陽が遮光カーテンの隙間から存在を主張している。
「……タオルがいるな」
こびりついた欲を拭うためいくつかのホットタオルを用意しそれで彼の体をよく拭き着替えもさせておいた。そして軽めの食事を用意し寝室に戻ると、床にペタンと座り込む手越と目が合う。
「あ、いや……」
「……」
「腰が立たなくて…そんなニヤついて見ないでくれる?」
「ふふふ、ごめんごめん。食べれる?お粥なんだけど」
「あ、ありがと」
脇に腕を通してベッドの縁に座らせると、恥ずかしそうに目がそらされた。一緒に起きるのも朝ご飯を一緒に食べるのも初めて。今まで摂取し忘れていた栄養がじわじわと染み込んでいくように感じる。
思っていたよりも手越の発作は起こらず、ずっと安定している様子で安心した。ヒート休暇の後にシゲに聞いたら「接触する時間が増えたからじゃない?」と言われ、素直に頷く。発作を防ぐために休暇の後も半同棲のような生活をしていたし、どうしてもの時以外は出来るだけくっついているようにしていて離れることもあんまりなかったから。その代わり、手越の耳はずっと赤みを帯びていた気がする。
「……ふふ、」
ずっと、こうだったらいいのにな。彼もそう思ってくれていたら、もしかして、もしかするかも。
「何笑ってんのよ」
「んー?なんのこと」
「さっきからずっとニヤついてるよ」
俺の腿に頭を預ける彼が目を細める。そして、ふと思い出したようにスマホの画面を見せてきた。そこにはゴールドのネックレスとシルバーのリングが数種ずつ。
「これさ、俺がよく行ってるアクセサリーのお店のなんだけど、懇意にしてる人が貰える特典があるらしくて。なんか増田さんっぽいな〜って思ったんだけど……どう?」
「……いいね」
「お、気に入った?ネックレス一種とリング二種選べるって」
「へー。それならこれと……」
彼の手ごとスマホを掴んで画面を覗き込む。一瞬彼の手がぴくりと反応したのにかわいいと思いながら商品コードを読み上げる。彼に視線を戻したら、俺を見ていたのを誤魔化すように目が逸らされる。
「じゃ、今度の仕事終わり持ってくるわ」
それは三日後。すぐ過ぎると思っていた短い期間の間に、俺達の関係が揺らぐような知らせが届いた。
『オメガの発情を完全に抑える治療法が発見されました。項の手術と一本の注射で、オメガはベータと全く同じように生活できるようになります。尚、最近起きていた発作が見られる症状はこの治療法の開発を進めていた最中に起きた事故によるものだそうです』
そのニュースを聞いたのは二人で仕事した直後だった。
「よかったじゃん。もうこれ以上、苦しまないで済むね」
「……こんなのできたんだ」
あくまで平静を装ってそれを祝った。心にもないくせに。俺は彼が明日自分の部屋にいてくれるか、それだけが気がかりで。二人の関係はどれほど変わるんだろうかと恐ろしく感じた。最後の仕事の小山とのラジオを収録したあと、その次の日のことで頭がいっぱいでしばらくその場を動けなかったことで小山に心配された。心象が大丈夫でないことは彼もニュースで知っているので「大丈夫?」とは聞いてこなかったが、楽屋で籠っている間にわざわざあったかいお茶とキットカット(『大丈夫!』とのメッセージ付き)が置いてあった。受験生じゃあるまいに。
俺達を繋いでいた強固な糸は技術によって簡単に断ち切られた。
でも俺は変わらず、彼を求めている。
でも彼はどうなんだろう。やっとオメガという鎖から解き放たれた蝶を引き止めることなんて、自分には出来ない。
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桃色の髪を持つ男が一人、真っ暗な部屋の中でぼうっとタブレットをいじっている。
電気をつけるのが嫌だった。
この部屋の全容が見えてしまうと二人で過ごしてきた自分達の幻影が見えてしまって、辛くて辛くて仕方なくなってしまうから。
早くここに来て、来ないで。気付いたら画面の上に水滴が落ちていて慌てて拭き取り操作を辞める。外で来ていた服で寝室に入るのを嫌がる人だから、置いていたスウェットと借りているTシャツを着てベッドにずっと座り込んで何時間経ったろう。そりゃ、そうだよな。だって俺を抱く意味なんてもう快楽意外にないだろうし。でもあの人が悪い。無駄な幻想を抱かせたあの人が。
数ヶ月前に抱かれた後に悪かったはずの体調が簡単に治ったのを感じてショックだった。聞くところによれば罹った病ははほぼ心因性と言ってもいいと言われていて、求めているアルファに抱かれれば治ると聞いていた。事実いとも簡単に治ってしまった。それが辛くて、悔しくて仕方なくて、隣で眠る番に気付かれぬよう息を押し殺して勝手に流れる涙を好きにさせていたのだ。そこを暖かい腕に抱きしめられ、本当に息が止まるかと思った。されるがままでいたら心も凪いできて彼がこの病気には必要だと思い知り、悪化したらどう言えばいいんだろうと考え始めた。「体調が悪いので抱き締めてください」なんて言えるわけない。だがそうして考え込んでいたことは杞憂に終わり、酷い立ちくらみがしたと思ったら派手に倒れてしまった。その結果色々とバレることになりシゲに増田さんの家に行けときっちり命令を受けても、どんなふうに振る舞えば?とかぐるぐる考えていたのに、あっさり受け入れられて拍子抜けした。その後焦りからか発作が起きたせいで暴走、混乱して迷惑かけたけれど気が付いたら腕の中で。目の前にある熱い胸板と背に回された腕にどれだけびっくりしたかあの人は気づいてすら居ないだろう。
目先のローテーブルには優しいパステルの箱。ギフト用に巻かれたリボンが空調で揺れている。あの台風の日を思い出した。症状のことを誰にも言えないまま気圧の急激な変化によって起こる酷い体調不良とそれに影響されて悪化する症状を体を丸めて耐えていた時ずっとあの人のことを考えていた。求めていた。スマホで何度か開いた連絡先を何度か押しかけ、電話をかけようとした瞬間もあったが向こうに繋がる前に通話を終了して、それを何度か繰り返していた。スマホには一秒にも満たない発信記録がいくつも残っているはずだ。端末を握りしめて涙を堪えるように上を向いて月を見上げる。抱きしめられた日と同じぐらい大きな月が部屋を照らしている。
すると、背後から風を感じた。
「……て、ごし?」
彼が扉を開けた時、通った風の音だ。窓が冷えたこの部屋より少し暖かい。
「いたら迷惑だったかな」
「そんなわけない。一体……いつから」
彼の声からは上手く感情が読めない。嫌がられているのかもよく分からない。でも俺、結構待ったんだよ。まだ日が傾くか否かの時間からずっと。
「増田さんのばか」
俯いたらボトムスの黒い布地に水滴がシミを作った。もう視界が歪んでいっている。
「遅いっつーの……ッ」
言葉の途中なのに、後ろからの衝撃で中途半端に口を噤む。
熱い腕が両肩にまわって骨が軋むほど抱きすくめられた。もう我慢できない、もう堪らない。身体を無理やり捩って、その広い背中に縋り付いた。
「……電気、ついてないからいないかと思った」
手術痕の残る項に口付けられる。
「来ないわけ、ない」
引き寄せて彼のあつい唇に自分のを押し付けると手が後頭部に回って深く交わり合う。いつもなら長いと抵抗するものだけれどそんなこと気にしてられずに頭がくらりとする程まで続けた。優しい手が涙でしどどに濡れた頬に滑らされる。それを掴んでさらにぎゅっと押し付けた。
「ありがとう……待っててくれて。情けない奴でごめんね」
首を振る俺に目を真っ赤にしながら奥二重の瞳を細めてふわりと笑うと、どちらともなく額をくっつけ合う。
「好きだよ」
「俺も、好きに決まってる」
「ずっと前から」
「俺の方が……ッ!」
いい募ろうとしたら、涙が溢れて止まらなくなった。揺らぐ視界には自分と同じように泣く番がいた。俺の、ただ一人の、運命の人は貴方だけだよ。
その夜、二人はようやく本当の意味で『番』になった。愛し合った。
正直に相手を求めて今までの分を全てつぎ込むように熱を分け合った。
「あっ、だめ、ますださ……ぁああッッ!!」
「『増田さん』じゃ、ないでしょ?」
「やぁ、あん、ぅぁ、か……タ、カぁ……!」
血管の浮き出た手が白い腰を掴み、小刻みに奥まで何度も何度も突くと相手には限界が近付き意味を成さない声を発する。合間合間に繰り返し番の名を呼び続けるばかり。それを覆いかぶさった方の男は愛おしげに眺めていた。
「祐也、」
「ぅんッ、あっ、な…に」
「やばい、超気持ちい。ゆうのナカ、熱くて柔らかくて、めっちゃ吸い付いてくる。きゅうきゅう締め付けてきてるよ」
「はん、やだ、いわないで……!」
「かわいいね」
小柄な男の首筋に顔が埋められその細い腰を強く引き寄せられた時、白い背が弓なりに反って無防備な喉が曝け出された。
「ぅあ゙、ああああぁあッ……」
「く、は…ゆう……」
「はぁ、は、ん、」
脱力した身体をそっと抱き上げ、
「……愛してる」
さすれば、相手の目尻がゆるりとゆるんだ。
「俺もだよ、タカ」
これからは項の噛み跡になんて意味は無くなってしまった。かと言って自分達はアイドルなわけだから、首筋に赤い歯形をつけることなんて出来やしない。
シルバーリングの下
ゆるりと長い袖に隠れた左の薬指の付け根
そこに残るキスマークが彼らが恋人である証になっている。
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