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ある王国の記










喉の異物感を思い切り吐き出したら血液が流れ出た。殴られ歯が頬を抉った時に出血したものが逆流してきたらしい。
「おい、なんだその顔は」
「……」
「喋れねーってな、便利なんだか不便なんだか……今度あんなことしたら道に放るぞ」
そんなこと、とは先程幼い少年が売られた際そこの衛兵が無抵抗をいいことに手を挙げたのが腹に据えかねて倍返しにしたことだ。何が悪い。馬車の壁を殴りたい衝動に駆られたが、前で蹲っている同じ歳の頃の少年少女や幼い子供達を見てやめた。そんなふうにしたとて俺だけでなく他の者にも怯えさせるだけだ。諦めたように頭を後ろの壁についた直後、すぐ左の扉が開かれた。そこにもたれ掛かっていたので危うく転げ落ちそうになるのを持ちこたえ顔を上げる。
すると、数時間前の休憩時間に鞭と拳で散々自分をいたぶっていた男がこちらを睨んで言った。
「お前の売られ先だ。来い」
いつか呼ばれるとは思っていたが、まさか一番乗りだなんて。一体どんなところなのかと沈鬱に浸った脳が勝手に推測を始める。やはり労働系だろうか。背はそこまでだが身体だけは少し大きめでそういうものにはうってつけだろうし、そこがいちばん有力だな、と思っていたら地面に足を着いた瞬間に思い切り頬を殴られ埃臭い地面に倒れ込んだ。咳き込む前に肩を踏まれ、それにうるさいと叫ばれると今度は腹に枯葉の張り付いた靴がめり込み息が詰まった上土埃が目に入り涙が滲んできた。後ろ手に縛られた手をきつく握る。悔しい、こんなはずじゃない。俺は、昔は家族と一緒に行商を営んでいっていたはずなのに、突然他国軍が俺たちの町に攻め入っていて服を一針縫う間もなく捕らえられバラバラに売られていった。さっきの傷口から赤がまた溢れる。抵抗する気もなくてされるがままになっていた。
「その足を退けろ」
その声が聞こえた時、場の空気が一瞬凍った。反射的に足を退けたらしい男の血の気も若干引いているように見える。立てる?と聞かれているのが自分だと差し出された手に気づいて恐る恐る掴んだその手は暖かく、その先に見た顔も柔和で久しぶりの安堵を覚えたが、
「ケイイチロウ様なりません!!その者の卑しさはご存知のはずでしょう!?」
奴隷商の声に驚いて勝手に身体が強ばり、手を離そうと後ずさると逆に引き寄せられた。驚いて彼の顔を見上げると長い前髪に隠れてその目は見えないが、その先の奴隷商の男は震えていたようだ。
「……そのような物言いをケイイチロウ様は好まれません。金はここに。折檻されたくなくば今すぐここを去れ」
彼の部下だろう衛兵が冷たく言い放つと男は転がるようにその場を逃げ出た。
「大丈夫?」
俯いたまま頷く。
「喋れないのか?」
また頷いた。顔を見せてと言われ、おずおずと顔を上げるとそれを見た誰かがうわっと声を上げる。でも正直それは当然のことだと思って受け入れた。だって、俺を醜いと思うのは当然だ。でも目の前の男はちょっと目を見開いただけで怖がる素振りを見せないまま俺の口元に触れた。
「……酷いな、せっかく可愛い顔なのに。少しでも治してあげなきゃ」
びっくりした。
だってこの口は半分は開いているがもう半分は開けないようにしっかり縫われているホラーのような見た目で、半分空いているとはいえ声帯は切られているからもう声も出せないから、そんなふうに言われるなんて思わなかった。
「俺は君を見込んで、仕えて欲しいお人がいるんだ」
そのまま腕を引かれ湯浴みをさせられ適当に服を見繕われて着ると王子の部屋に案内された通されたのはとびきり豪奢な一室。流石王位継承権第一位。隅々にまで渡る装飾は今まで仕えてきた主の中で一番だった。
「ここに居るのはユウヤ様。説明はさっき言った通りだよ。今日は体調が悪いはずだから休めって言ったのに聞かないんだから……でね、あんまりにも畏まった挨拶は嫌うから普通で大丈夫だよ~」
いや普通ってなんだよ。
「まっすーの声、早く聞いてみたいな」
そんなこと起こるはずないだろ。口ぬわれてるだけならまだしも、声帯を切られているんだ。もう、あの頃みたいに歌ったりも喋ったりも、鼻歌でさえ出来ない。少し俯いたら肩を叩かれた。顔を上げると、ピンクの宝石が嵌ったドアの奥から金色の髪をした男が現れる。

小柄で細身。シャンデリアの光をひとつ残らず反射するかと思われるほど大きな瞳が印象的だった。赤を基調とする煌びやかな服や繊細な細工がされたピアスなどのアクセサリーに見劣りすることなく、むしろ追い越すぐらいのオーラが王子にはあった。『クラシックローズの化身』と詠われただけの美しさはあると思った。勝気で虹彩の薄い瞳が俺を捉えると自然に背筋が伸びる。凛とした雰囲気を崩さぬまま俺が跪く階段下まで降りてきた。
「この人は……ああ、さっき言ってた……」
「そ!テゴちゃんの付き人兼ボディーガードになってもらおうと思って」
「……!?」
は?聞いてないぞ。
初耳事項に驚き後ろの長身をバッと音が出るほどの勢いで振り返る。だって俺は雑用係のはずだ。自分が今までしてきた仕事は畑仕事やら荷物持ちやら庭関係ばかりで、たまに用心棒みたいなこともしていたが上級の家になればなるほど俺のランクは下がっていくのが常だった。それはそうだろう。行商を家業にしていた家の子が奴隷として売られてからのコースは大体決められているものだ。なのにこの国の若き策士は何を言う、俺が、未来の王の付き人だって!?
冗談じゃない!!無理だろ!
そう言いたくても喉から掠れる呼吸音が漏れるだけ。口も開けず声も出せない俺は唸り声だって出すことは出来ない。
「大丈夫!マナーとかは徹底的に教えるからね。じゃあ、しばらく二人で話してて!」
いや丸投げ!?ヒラヒラと手を振って重い扉を抜ける背中が恨めしい。どうしてものかと前を向くと、王子が話しかけてきた。
「アンタがマスダか。一人であそこの商人の護衛を破ったって聞いて驚いたよ。あそこって結構強いんだけどね」
天井から糸でつっているような程にピンと伸びた背筋、堂々とした喋り方には派手な見た目とは裏腹に知性を感じる。権力者の息子は皆同じだと思っていたがそうでもなかったらしい。俺が以前に仕えた放蕩息子とはえらい違いだった。
おもむろに肩に手を置かれてビクッとしたが「めっちゃ体格いいな……羨ましい」と零しただけだった。暴れないでよ、と言われたと思うと後ろにまわられて錠を外さえ、紙と羽根ペンを渡される。
「喋れないんだろ?それに書いて答えてよ。読み書きは出来るって聞いたからさ」
そこからは面接かのように色んなことを質問された。年はいくつか、生まれはどこか、誰に剣を教わったのか、いつから声が出せないのかなど次々に質問が寄越されていい加減に手が疲れ始また時、王子はニコリと笑って言った。
「いいね、あんた。気に入った。明日から俺に付いてもらうよ」
俺はそれを聞いて皮のソファから降りて片膝を付き頭を垂れる。貴方に隷属するという意思を表すための行為なのだが、それを見た彼は慌てて俺を引き立てた。
「そんなことしなくたっていいよ!この国に奴隷なんてふうに扱われる者はいないから。じゃあその印に……」
二回手を叩き扉の方に声をかける。
「エマ、スカル、ここへ」
「はい。ユウヤ様」
彼の前に男女のサーヴァントが並び礼をする。二人とも十代前半ぐらいの年齢だろうか、どちらも可愛らしい顔立ちで王子に見劣りすることもないが目立つこともない。
「彼のサイズを測ってくれ。終わったら声をかけて」
「承知致しました」
「……、…??」
首を傾げて必死の質問。王子は察しが早くすぐに答えてくれた。
「これから着てもらう服の採寸。あ、気に入らないところあったら着崩してもいいってことになってるから」
初めて感じるメジャーで体を測られる感触がこそばゆかったが、それからは大忙しだった。出来上がった服の着付けは両親に教わっていたからよかったが、テーブルマナーからこの国のしきたり、伝統を学び、最低限の知識を身に付ける……睡魔との戦いだった。教師役をしたのはユウヤ直属の医師であるシゲ。俺が船を漕ぎ始めると容赦なく扇子で頭をパァンと叩くし、たまに分厚い本の角をぶつけてくるのですぐに起こされたが。ついでに彼は休憩時間に今までこの城の中でユウヤの周りで起きたことを教えてくれた。
彼の母は正室ではなかったが、前王から深い寵愛を受けてユウヤを産んだ。また正室との間にももちろん息子が居り、ユウヤも彼にとても懐いていた。だがある日突然母親が亡くなった。病はなかったはずなのに。明らかに正室の差し金であったことは間違いないのだが証拠は全て握りつぶされたらしい。それからその女の元で育てられたユウヤはことある事に、ほんの小さなことで叱られ折檻を受けるようになり、それにコヤマとシゲが気付いたのは腹に受けた傷が原因で高熱を出したときで。それを前王に報告すると正室の女は罰せられたが、その直後に前王は余りの激怒の末持病により急死、そして罰っされるように王位継承権第一位だったユウヤの兄が猟の最中に落馬し打ち所が悪く亡くなってしまった。それにショックを受けた正室はあらゆる手を使ってユウヤ及び側仕えをしていたスカル、エマにまで危害を加えようとしたため、コヤマ達は何とか彼らを守り抜こうと努力してきた。そんな中、城の護衛を軽く倒した俺を見込んでユウヤにつかせたらしい。
王子なんて知識と文化を嗜む優雅な暮らしをするばかりかと思っていたが、女達の争いに巻き込まれる運命を背負って生まれてくるなんて。
そして目の前を歩く彼がその渦中にいたなど思いもできなかった。
「やっぱり、声が出ないと不便だな」
王子はいつも唐突だ。でもこのつぶやきにはヒヤッとする。これは他の主人達からは便利と言われ続けてきたが、やはりこの美しい男からは醜く見えただろうか。
「歌、上手かったんだろ?」
自画自賛するのもアレなので軽く首を傾げるだけに留めておく。
「もう……謙遜しなくたっていいのに」
とまあこんな感じで和やかに会話(?)をかわしていると、曲がり角の奥から声が聞こえてきた。宰相のひとりだろうか。
「王子の側近の男、いつも布を顔に巻いて……一体どこの出なんだ。腕が立つのは信頼できるが、あの様相はどうしたって気になる」
なんだ、俺のことか。そりゃあどうしたって話題に上がるだろうなと思いながらユウヤの顔を伺おうとすると「部屋に戻ろう」とそそくさ前に行ってしまって慌てて追いかけ部屋に入る。
「動かないで」
初めて彼に命令するような口調でそう言われた。
俺はいくら格があがったとはいえ奴隷の出で主人の命は絶対だという教えが体に染み付きそう言われると上手く動けなくなる。口を覆い隠す布にそっと手がかけられ結び目を解かれると酷い縫い目が現れ、ユウヤが目を見開いたのを見て顔を下に向けその場にかしずいた。彼にまで化け物扱いされるのを恐ろしく思ったから。
「タカ、来て」
手招きされるままにソファに座る彼の足元に跪いた。
「わざわざそこに座らなくても……まあいいか、今は」
顎に手がかけられてクイと上を向かせられる。指で口元を撫でられたと思ったら、躊躇いなく薄い唇が醜い縫い目に触れた。慌てて離れようとしたら手を軽い力で捕まれ何故か抵抗する気が失せてしまう。
「動かないでって言ったでしょ」
静かな部屋の中で、何度も繰り返される口付けに変な気分になりそうになる。俺よりも少し薄く小さな手は喉仏の辺りをずっと摩っていた。しばらくしてそれが離れたと思ったら俺の間抜けにぽかんとした顔をちょっと笑う。すると、彼が突然俺の方に覆い被さってきた。慌てて手を広げてそれを支えるとバランスを崩して思い切り尻を強かに打って。
「いってぇ‼」
思わず痛みに呻く。
「ユウヤ様、突然何……へ?」
数秒遅れて気づく。
声が、出た。口もいつの間にか全部開けている。
「やっぱり、見た目通りの優しい声だな」
見上げると優しく微笑む彼がいる。まだ使い慣れない声帯を恐る恐る震わせて声を出した。
「何、したんだ?さっき」
「おまじないみたいなもんよ、母にも同じような力があってそれを受け継いでんの。慶ちゃんにはあまり使わないように言われてるけど、今回ばっかりはいいはずだし」
「……悪い、理解が追いつかない」
驚きすぎて目眩までしてくる。
だって、しばらく声なんて出せていなかった。十一の時仕えた商人に口封じとして声の元を切られ半分口を縫われてから八年、喋ることだって歌うことだって出来なくなったのに。いつの間にか声変わりまでしたらしい喉から出る音に泣きそうになる。目眩のせいで傾いた体は、膝の上から退いて俺の横にまわった彼の腕に受け止められている。このまま泣いたりなんかしたら泣きっ面が丸見えだ。そう思って口を引き結んだら、いくつか指輪が嵌っている手に目元を覆われた。
「折角声が出るようになったんだ。久しぶりに泣いたっていいんじゃない?」
彼のもう片方の手が腹の辺りをとんとん、と叩いたら、眼窩の奥から急激に熱くなって、嗚咽も堪えきれないほど大きなものになっていった。

それから季節が二つほど変わった時、年に一度の武闘大会が開かれ、そこで事前に小山に散々ユウヤの付き人としての稽古をつけられていた俺はなんとうっかり決勝まで上り詰めた。そして多くの兵を率いる将軍とは互角で引き分け。いきなり出てきた若造がここまで勝ち上がり場内は騒然としていたが、城のバルコニーから覗く王子は期待通り、と言うように得意げに笑っていた。
そして、その将軍は大会の後俺にこう言った。「タカヒサ、ユウヤ様が即位した暁には我々の軍に入るがいい。そこで修行を積んで、未来の王を御守りしろ」、と。
王子を振り返れば、さっきと変わらぬ面持ちで俺を見つめていた。
『きたいしてる』
彼は俺に向けて口だけを動かしそう言って、ニカッと笑っていた。

















それから十年ほど経った。







宮殿の中で一番大きな寝殿をうろうろ忙しなく動き回るのは、もう大国の長としての風格がすっかり備わったユウヤだ。白と金とベージュをベースにし伝統の花紋様がそこかしこに金糸で刺繍された上等な衣をまとい、揺れるピアスや簪をしゃなりと揺らしながらずっと広い部屋を彷徨いている。とっくの二時間前に朝議は終わっているし、この国を支える商人の一人との会談も順調に進みいい具合にまとまったからその理由は職務ではない。
なら答えは一つだ。
突然足を止めたと思えば顔を扉に向け、そちらにゆっくり歩み寄るとそこが侍女の手で大きく開けられた。華やかな顔立ちがふわりと綻んでその男を迎える。
「暴れ熊さんのお帰りだな」
「他に言い方あるんじゃない?ユウヤ」
「もう常勝将軍って呼んでもいいぐらいですな」
「普通に呼べって」
クスリと笑い眦を下げた王が黒髪の男に歩み寄って厚手のマントとジャラジャラ音が鳴るほどたくさんの勲章が付けられた純白のジャケットを脱がせると、重みから解き放たれた陸軍少将はほうと息をついた。
「エマ、これを。あとワインとつまむものをお願い」
「承知致しました」
上着を受け取り背を向けようとした侍女を「あー、待ってエマ」、と黒髪が呼び止める。
「はい、なんでしょう」
小さな顔の両脇に結い上げたアプリコットの髪を揺らして振り返る彼女は自分を呼び止めた軍人が何を言おうとしているか察しているように見える。
「あー、それ持ってきたらテーブルに置いてくれるだけでいいから。寝室にいたら構わないで」
「ちょ、タカ!」
「そうしますね。お二人共今日の予定はもう無いと聞いていますので、どうぞごゆっくり」
足早に彼女が部屋を出るとすぐにタカの手が細い腰にまわった。
「よく出来たメイドだな」
「そりゃあ、自慢の子だから」
「そうだな……。それは置いといてユウヤ様、今回の東方の領地拡大の任務の褒美についてまだ聞いていないのですが?」
「もちろん、あれだけの土地と民を手に入れたんだ。タカにもお前の部下たちにも土地や馬や、それぞれ……」
不意にその声が止まる。
真面目に詳細をつらつら述べようとした口を唇で塞がれたからだ。ほのかに頬を染めた彼のジャケットを脱がせると、胸のリボンスカーフをするりと解いて浮き出た鎖骨をなぞり、そのまま腕を伝って指輪の嵌った手を握るとそこに口付ける。
「鈍いなぁ。俺はまず、お前が欲しいんだけど」
「……ッ! もう、いつからそんなキザなセリフを言えるようになったんだか」
「ふふ、でも照れた方が負けだからな」
黒髪の彼は相手の身体を抱き込んで首筋に顔を埋める。
「送った香水、つけててくれたんだ」
「つけない手はなくない?」
「そうだな。つけてなかったらお仕置きしてたかも」
「お仕置きって、……んぅ、っふ……」
深く呼吸を奪われてふらついた体を軽く抱き上げた。寝室の扉を肩で押し開け一旦ベッドに座らせると、ユウヤはピアスなどの装飾品を一つ一つ外して宝石箱に戻していく。そしてタカが見つめる中、服も一枚ずつ留め具を外して脱いでいって、シャツ一枚になった所でタカにベッドの真ん中に引き寄せられ体が傾けられていく。枕に頭がつく少し前に節の目立つ指が簪を抜き取って、結い上げた薄桃の長い髪がパサりとシルクの寝具に流れ、それをひと房掬いあげて軽く口付けた。
「タカ、なんか今日ねちっこくない?」
「久しぶりに会ったんだもの、恋人の感触を思い出したいと思うのは当然だろ?」
「……ああ、そうですか」
「冷たいじゃん」
「は、ぅンッ!」
「でも、我が主君のご要望に答えられたのであれば本望ですよ、ユウヤ様」
「そういうの、いいから……ッ、あ、あん…」
ベッド脇に置いてある香油に手を伸ばしながら皮膚の薄い首筋に口を寄せる。若干浮いた背の下に手を差し入れれば、薄いがしっかりと筋肉がついたしなやかな隆起を感じる。
「ちょっと痩せたか?」
「んなことねーって。毎回同じこと聞いてるぞ」
「だってたまに心配になるし」
「ったくもう、心配性なんだから」
二人目を合わせ、クスリと笑いあってまた抱き合う。
久しぶりの逢瀬に心をときめかせた。
ユウヤの方からも相手のシャツを脱がせ、遠征で負った傷痕をなぞるとそっとそこに吸い付いた。
「無事でよかった。本当に……」
「うん、俺もまたユウヤとこうして会えて良かった」
こつんと二人の額が合わせられる。
「……好きだよ、タカ」
「俺も、お前が好きだよ。これからもずっと、俺が仕えていきたいと思うのはユウヤだけだ」
「嬉しいこと言うじゃん」
「正直でいいでしょ」
「ふふふ……」






それから約四十年間の間、命尽きるまで二人は仲睦まじく、国も安泰だったのだと。
























━━━━━━━━━━『桃華国伝』より引用




この書は、
桃華王国 王族専属医師、
Shigeaki Kato
によるものである。
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