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おかえり、透




『おかえり、透』

この声に安らぎを感じるようになったのはいつからだろう。
たまに会えなくなる時もあるけれど、帰れなくなる時は一週間職場に籠りきりになる自分とは違って彼は定期的にここに来てくれる。長い間会えなくてごめんね、と開けた玄関のドアの先にふわりと笑う恋人がいるっていうのは想像以上に幸福なことなのだと彼のおかげで知ることが出来た。俺は前までそういう人を作ってしまったら……ということを考えて色恋事はできるだけ断つようにしていたが彼に対してはその欲求を止めることが出来なくて、つい想いを伝えてしまった。非番だった日の午前、仕事に行く彼を送っていた時だった。
『好きです』
『……え?』
『透も、俺のこと好きでしょ。違う?』
いたずらっ子のような顔で、手越は問いかけてきた。間抜け面を晒す俺の不意をついてジャケットの襟元を掴んでキスをして。真っ赤になった俺の顔を見てまた彼は笑っていた。
『わかり易すぎ。上司さんが可愛がる理由もわかる気がするよ』
襟元から男にしては細い指を解いて、するりと腕を首に回す。
『どれだけ残業が長引いて家に帰って来れなくても、俺は待てるよ。……あの時、傷からどんどん血が出ていって、どんどん寒くなっていって、もうダメかもって思っててさ。でもね、助けてもらったからってことだけじゃなくて、偶然会った時も優しくしてくれたでしょ?なんか、どんどんあんたの事が頭から離れなくなっていったんだよ』
跳ねる胸の音が彼に伝わってバレてしまいそうで焦って、また心拍数が上がっていく。いくら俺でも女の子と遊んだことはあるし、童貞な訳でもないのに、密着した細身だがしっかりと筋肉がついた柔らかさなんてない身体にあらぬ感情を抱いていた自分を自覚させられた。いや、気づかないフリをしていただけかもしれないが。
『なあ、ダメ?』
『……だと思う?』
『ぶっちゃけ賭けだった』
『余裕そうに見えたけど』
『なら良かった!』
得意気などや顔にキスをした。刑事としては大分警戒心が薄いのかもしれないが、これが俺達のスタートだった。



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