預けられた子猫
鳥のさえずりも聞こえない程の高層階。
昨日雨が降ったからか朝の空気は澄みきっておりベランダに出ると心地の良い爽快感が体を包む。
そんな環境の中、マグに入った糖分少なめのコーヒーを啜っても俺はなかなか落ち着くことが出来なかった。原因はその雨の降っていた昨日の呼び出しが原因だ。
『山口カズヤ、峰子様がお前の訪問を命じられた』
は?と言い返す間もなく拉致紛いの強引さで黒塗りのリムジンに押し込まれそのまま豪華なオフィスの一室に放り込まれる。間もなく峰子は現れ、俺にこう提案してきた。
『あなたの経歴を調べてみて、なかなか悪くないことに今更気づいてね。ここで提案。うちのある部署のリーダーが急に辞めてしまったの。……だから、どう?』
うちで働いてみない?
急な虫の良すぎる誘い。警戒しないはずもなく不信感丸出しで質問を重ねたが彼女はそれを当然と受け入れ簡潔にまとめて逐一答えてくる。意外と誠実なその対応に驚き何故そんなことをと聞くも左右対称に微笑まれ、あなたに興味を持ったから、と釈然としない不思議な回答を返されるだけだった。
結局、俺はそれを受け入れ在全の元で働き始めてから半年ほど経っていた。労働条件は申し分無し。収入も十分すぎる程で指定された住まいはセキュリティ、耐震など設備が充実した高層ビル。加えてまさかの最高階で。こんな好待遇に不気味だと思いつつもとにかく仕事をきちんとこなしていれば己の身は安全だろうとここまで過ごしてきた。
そして、昨日。
またも峰子に呼び出された。何かと思えばある子猫を預かって欲しいとのことで。その"子猫"が本当に猫でないというのはなんとなく察せられ、何者なんだと聞けば「怖がりな私の可愛い子猫よ」というようなふざけた回答しか得られず眉間のシワが深くなる。他人を懐に入れるのが苦手な俺にとっては受け入れずらい話だった、のだが。その願いを聞き入れれば俺のこの会社での立場を安定したものに、要すると、今までツテだけで働いていたのを正式な社員として受け入れ生涯保証するといったもので。今までいつ切り捨てられてもおかしくないと思いながらやっていたのでそれはだいぶ大きな安心材料となることは確実だった。
『じゃあ決まりね。細かいことは明日説明するわ』
そして今日、彼女はその子猫とやらを連れてきてくるらしい。コーヒーを飲みきりシンクにマグを置いたところでチャイムが鳴った。
黒服を傍につかせた彼女を居間に通し適当な茶請けを持ってこようとするとそこまで長居はしないからと引き留められた。
「黒川、あの子猫を連れてきて」
その命令に従い連れてこられたのは病的に細い男だった。一瞬少女かと思うほど儚い雰囲気を持った彼は黒服に両肩を掴まれていないと立てぬほどに衰弱しているようで、説明を求めるように峰子を見つめるものの彼女はその視線には答えないままに言い放った。
「私からのミッションはこれよ。彼に生きる意志を与えること。まあ可愛がってくれればいいわ」
「……は?」
すぐには理解が追いつかない。そんなことが?と思いもう一度彼の方に意識を向けた。ふわふわな金の頭髪を持っていてその顔には目隠しと猿ぐつわ。生地の良い(おそらくシルクだろう)丈が長めで胸元にリボンがあしらわれた純白の長袖の丈の長いブラウスに黒地のこれまた仕立てのいいスラックス。そんな高級品を着こなせてはいるのだが、何せ服の上からもわかる程の酷いやつれように言葉も無かった。
「ミッションは案外難しいわよ。援助としてまずここから二週間は有給、そしてそこからしばらくは早めの帰宅を許可するわ」
「はぁ?二週間?……有給とか言ったか今」
「ええ、言ったわ。まあ取り敢えず彼のことを受け取ってちょうだい。もうそろそろ立つのも限界よ」
とん、と背を押されたその子猫は衝撃で二、三歩進んだものの直ぐに崩れ落ちそうになり慌てて抱き留めればリアルな骨の感触が伝わりゾッとした。咄嗟に縛られた両手で俺の胸元を掴んだ指も少し力を入れたらすぐに折れそうなほど細く力も入っていない。
「おい、こいつ……」
「名前は城山小太郎、25歳。ああ、来月の七日に26になるわね。持病は特にないけれど心因性の過呼吸・嘔吐が起こりやすいわ。しかもそれを他人に気遣われることを激しく嫌うから尚更扱いは大変よ」
「心因性って、」
「その辺は本人から聞き出して頂戴。それじゃあまずは二週間、かんばりなさい」
「は、……」
呆気にとられたまま峰子一行が部屋を出ていく。一室には俺と城山小太郎二人だけとなった。取り敢えず耳栓を外してやるとふるりと身体を震わせソファに逃げるように身体を埋める。
「逃げなくていい、何もしねぇから」
続いて目隠しをそっと解くと見えた大きく透き通った瞳に目を奪われた。日本人にしては薄い色の瞳が瞬き忙しなくあたりを見渡す。
「口、外すよ」
「……ッ、は」
紐のせいで癖づいた髪を解してからその顔を見、その美しさに息を呑んだ。長い睫毛が影を落とす頬は白く滑らかで鼻筋も通っており、露わになった唇は控えめで。
「城山小太郎、か?」
「……あんたは?」
答えないのは肯定ととっていいだろう。素直に彼の問いに答える。
「山口カズヤだ。あのババ……後藤峰子にお前を任された」
「ふーん、」
興味のなさそうな返事だことで。まあ暇な日はあと2週間ある。そう思って俺はこれからの日々を過ごす覚悟を決めた。彼女からのメールの文面。
――『彼に生きる意志を与えること。幸せを感じられるようにしてあげること』
前者はまだしも、後者は俺にもできていないと思うのだが、任せられたからにはやるしかない。
だがそんなに上手くいくはずもなく――
まずは食事。この男、ほとんど口にものを入れようとしない。吐いてしまうのが嫌なのかもしれないがこのままでは本当に餓死するぞと思い毎食格闘だ。
「おい、食えって」
「嫌」
「せめて二品くらいは食べねえとやめねえからな」
「嫌と言ったら嫌だって言ってるだろ!食べたくない!」
「それでお前が餓死したら俺の責任だ」
「知るかそんなこと」
ふいと向こうを向いて拒絶のポーズを取る小太郎。俺はいくつかをスプーンにとり小さな口の前に近付ける。
「また吐きそうになったら付き合ってやるから、な?」
そう言いつつまだ薄い肩を摩っていると観念したのかやっと口を開き少しずつ少しずつ食べ始めた。始めた頃はテーブルを荒らすこともしばしばだった。
そして目を離せないこと。
時折どこに行ったかと室内を探すと不自然なまでに凪いだ表情でベランダに佇み地上を見下げていたり、りんごを切った果物ナイフや風呂場に置いてあったカミソリを手にぼうっとしていたり。俺はその度にそっと部屋に引き戻したりその小さな手から物騒なものを抜き取ったりしていた。そういうものを彼が手に取る範囲にそういったものを置かないようにもなった。
そして毎晩悪夢なのか尋常じゃない程うなされること。
峰子は何故か新しくベッドや布団を購入することを禁止してきた。なので謎に毎晩男二人で寝ているのだがその苦しみようは比喩なく死にそうで。見かねて起こし現実に引き戻しても力尽き意識を失うこともよくあった。
なかなか心を開いてくれぬことはまだいいけれどその事で毎度毎度汗だくになり悶え苦しむのは他人に同情しない俺のような人間でも心配でならなかった。
守らなくては、なんて。自分の中でそんな風に思うようになった。悪夢から起こすたび錯乱し俺から離れようともがいて、でもその抵抗はほとんど痛みを伴わぬ程でなんだか切なくなって。
そんな毎日の中、少しでも流れを変えようと俺は彼を街中に連れ出すことに決めた。
あの女が小太郎に用意していた服はほとんどが高級生地の部屋着だったのでなんとなくサイズを見繕い、ジーンズとなんとなく似合いそうだとおもった薄ピンクのフーディーに、着られずクローゼットの中に入っていた黒のシックなロングコートを合わせ着させた。初見、本人は女物っぽい色のトップスはお気に召さないようだったが着たところ案外気に入ってくれたようで。
「センス悪くないんだな、カズヤって」
「……そうか?」
「うん」
鏡に向かって前髪をちょいと弄っている姿に漠然と可愛いななんて思っている自分がいた。
車で少し都会を抜けたあと、街に出て下車し、しばらく洒落た郊外の大通りを連れ立って歩く。クラシックで雰囲気のいい喫茶店や雑貨屋の並ぶところで昔から気に入っていたところだった。興味津々にその看板だったりを見回す彼。あるレコードの響く喫茶で立ち止まった。だが足を踏み入れる勇気がないらしかったので俺はその薄い背を押して金の装飾の入った戸を開け店に入れば軽やかにドアベルが鳴った。
「レコード好きなのか?」
「祖父が好きだったんだ。レットイットビーをいつも口ずさんでた」
「レットイットビーか。俺も好き、それ」
「……もしかして、ビートルズ詳しいのか?」
「好きな奴がいてな、それでよく聞かされてるうちによく曲聞くようになって」
「…そう、か……」
何故か少し俯く小太郎。せっかく合わせられていた目が逸らされたのが少し残念に思い整った顔を覗き込む。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
でもその表情は寂しそうで。
近くの棚にあった一枚のレコードを手に取った。
「……これ、家帰ったら聞こうぜ。蓄音機あるんだよ一応」
驚いたようにこちらを見上げる。
「え、それって」
「さっき話してたヤツ」
手にあるレコードを見せた。四人の見るからに個性的な男達が活力溢れながら歌っているジャケット。
「ビートルズはいっつもmp3で聞いてたからこれでは持ってなかったんだ。丁度いい」
スタッフに手を振りそれを購入した。気のいいオーナーが買ったものを流してくれると言うのでそれに甘えることにする。その間ずっと小太郎は居づらそうにソワソワとしていた。
「こんな店知ってるんだな」
頼んだクリームソーダのソフトクリームを崩しながら彼が言う。
「……ああ、学生の時とかここでバイトさせてもらってたりしてたんだ。勉強しに来るだけの時も割引してくれたりしてサービスいいし」
「そうなのか」
「一人になりたい時とかも、ここに来るとリラックス出来て」
コーヒーも美味いし、と続けたら控えめにクスリと笑った。初めて見る表情を意外に思う。笑ったら可愛いんじゃねえか。それをもっと見たくなってきた。
「なあ小太郎」
こちらに目を向けこてんと小首を傾げる。
「クリームソーダ頼むってことはお前甘いもの好きだったりするか?」
「うんっ!好き…苦いの苦手で」
「ここの少し先に美味いジェラートの店があるんだ。どうだ、行ってみねえか?」
ぱちっとまつ毛を瞬かせたあと、少し食い気味に頷いた。
「行く!」
「よし!」
カウンターの方からオーナーが子供のような俺たちのやり取りに笑った気配がした。
「ん、これ美味しい!」
「だろ?」
ここでは種類が豊富でシンプルなものからちゃらついたフレーバーまで様々だ。俺はバナナストロベリーとカフェオレ。小太郎はミックスベリーと……名前は忘れたがカラフルでパチパチ弾けるのが入ってるやつをベンチに並んで座って食べている。
「……凄いな、あんた」
突然褒められ一瞬俺のことだとわからなかった。
「なんのことだよ」
「いくら頼まれたとはいえこんな厄介者貰い受けてさ、放っといてもいいのに」
「…そんなこと、」
「洋服のセンスもいいしさ、こういうオシャレなとこもよく知ってるし、優しいだろ」
「言われたことねえよ」
彼はふっと笑って手元に視線を落とした。
「……いや、友達とか多かったんだろうなってさ」
そう思っただけ。並びの良い歯が少しふやけたコーンを小さくかじった。レコード喫茶で見たあの寂しそうな表情に戻ってしまっていて、なんて言葉をかけようか迷っていると後ろから声をかけられる。ジェラート店のスタッフだった。
「あなたと一緒にいた子についてさっき聞かれたのよ、何かガラの悪い男達に」
彼女に連れられて店頭に戻ると女店主が怪訝な顔をしてそう言った。呼んだのは店に落としたらしい小太郎に持たせていたハンカチを届けるついでにそのことを伝えるためだったたしい。
礼を言って戻ろうとした時、件の男達が小太郎を囲んでいるのが見えた。すぐ近寄ろうとしたのだが、つい足を止めてしまったのはその会話の内容を聞いてしまったからだった。
「コタロー最近見ないと思ったら。なに?もうウリ辞めたの?」
「ていうかあの噂嘘だったのか…どっかの富豪に買われてクスリ飲まされてラブドールにされてるって聞いてたけど」
「……へぇ、そうなんだ」
彼がどんな顔をしてそう返すのかはこちらからはわからない。
「まあそうなってるコタローも抱いてみたいけどな」
男の指が彼の輪郭をなぞる。見ているだけで不快になり割って入ろうとした時、また後ろから呼び止められる。
「何です?」
少しイラついていて不機嫌な声が出てしまう。彼女はそれを仕方ないと受け止めたのかそこには触れずに耳元で続けた。あの男達はここから四ブロックくらい先のところをシマにしてる奴らでこの辺りの住人ははあまり関わらないようにはしていると。割ってはいるのには気をつけてと忠告まで受けた。
なんでそんな者達と関わっているんだ。見る限り顔見知りのようだし話すのを嫌がっている風でもない……が、どこか芝居がかって見えるのは気の所為だろうか。
それに何故か右の下腹部を執拗に握っていた。
ふいに男が細い肩を撫でる。すれば不自然な程に身体が跳ねた。
「……なあ、さっきの注射って、」
「せっかくだし、気持ちよくなった方がいいだろ」
荒い呼吸がこちらまで聞こえた。
「僕辞めたって言っただろ?もう君らのことも相手する気は……ッ」
へらりと笑ったようだが二人の男の気配が一気に殺気立った。
「一丁前に客選んでんじゃねぇよ。この男娼が」
前髪を掴み上げられ乱雑に突き飛ばされる細く軽い身体。反射的に駆け寄り電柱や地面に身体を強かに打つ前になんとか受け止める。腕を回した彼の体はコート越しからでも熱く見上げた大きな瞳も潤んでいた。
「なんだお前」
「かず、や……?」
「そいつのことは今夜俺達が買う。早くこっちに渡せ」
傍らから聞こえてくる荒い呼吸音。力などほとんど入らぬだろうに、さっき買ったレコードの袋を震える指先で必死に掴んでいた。
「――悪いが、俺が先約だ」
男達が顔を顰める。
「は、何言って……」
「今日一日付き合う予定でな、余計な手を出すんじゃねえよ」
白い手に指を絡めレコードを受け取ると小太郎を抱き上げた。小さく掠れた声を上げて驚く彼に捕まってろと耳打ち、誰かが呼んでくれたであろう巡査に声を上げると彼らは慌て始めその間に俺は来た道をもどって行った。
「カズヤ、おろして…いいから」
「下ろしたらお前歩けねえだろ。いいから車まで我慢しててくれ」
「重いだろ」
「いんや?むしろ軽すぎて心配になるわ。もしそう思うんだったら首に手ぇ回せ」
そういえば控えめに細い腕が廻され、必然的に彼の熱っぽい吐息が首にかかる形となる。歩く振動も刺激となるのかその度に甘い吐息が耳に入ってきてしまい俺も変な気を起こさないよう必死になってきた。
リクライニングさせた助手席に横たえシートベルトと毛布をかける。ふわふわの前髪はしっとりと張り付いてしまっていた。
なんとか帰宅しすぐに寝室に入り彼を寝かせ、念の為持っていた飲料水をベッドサイドに置いた。着替えも置いておく。
「俺はリビングにいる。なんかあったら携帯置いとくから鳴らせよ」
彼に打たれたのがどんな薬かを察せないほど鈍くはないが、ここでどうしてやった方がいいがかなんて俺には分かりようもない。だが腰を上げ立ち去ろうとすると高い声に呼び止められる。
「ねぇ」
振り返れば彼が唇を噛み締め肩で息をする彼がこちらを睨みつけるようにしてこちらを見ていた。居間の明かりを受けた大きな瞳が潤み光っていた。
「なぁあんた、経験…ある?」
「経験って、」
「男とヤったことあるかってこと」
「……あるわけねぇだろ」
すれば息を詰めて起き上がる。
「悪いんだけどさ、助けてくんない?この薬、マジで、ヤバイんだわ……」
「いや、どうやったらいいか分かんねえよ」
「触って…。それだけでも十分だ。力入んないから、自分から…出来ないんだよ」
その言葉は本当のようで上げられた上体がぐらついて傾く。支えるために肩を持つと「あっ」とあえかな声が漏れ、慌てた彼がぱっと口を塞いだ。
「……触るだけだからな」
「悪ぃ、あッ…ん」
念の為洗うのが難しいジーンズを脱がせる。それを放り顔を覗くと声を抑えようとして親指の付け根をきつく噛み締め過ぎて一筋の赤が流れてしまっていて。急いでその手を離させた。
「男の声なんて気色悪くて聞いてられないだろ?」
「…、今はそんなこと気にしないでいいから」
そう言って細いからだを抱え直した。
「あ、んぅッは…あ、」
胸にもたれさせ緩やかに刺激していく。右手はシーツを握りしめ、左手は何度も噛もうとするので俺に掴まれていた。頭を振って快感を少しでも逃がそうとして首を振るので毛先が当たってくすぐったい。
トップスを捲りあげると下腹部にガーゼが当てられていて思わず手を止めるが、小太郎はそんな俺の手をとり無視するように促した。
「もう、や……んあっう、あぁ……」
――随分と辛そうだな
二度精を吐き出しても収まらない。一体どんな薬だよと思った時、息も絶え絶えに彼が口を開いた。
「は、…ごめん、これ、ホントにッやばいやつ、だ」
「は?本当にって」
「……えっと、後ろをいじんないと…収まんないってこと」
付き合わせて悪かった、行っていい。小太郎はそう言った。だが、
「付き合ってやるって言ったら、どうする?」
何故か自然にその言葉が出ていた。デカい目がさらに大きく開かれる。
「……その気があるんなら、お願いするよ。安心してくれよ。――僕、結構評判よかったから」
怪しく微笑んだその顔はまるで別人のようで。震える手がそっと俺の髪を撫でた。
薬の影響か、その場所は通常よりも緩んでいて。彼はそのまま挿れてもいいと言ったが信用出来ないので念の為指で広げていき、十分に慣らしたあとで自分のモノをゆっくりと挿れていった。もちろんゴムをつけて。
「ああっ、んう…ふッ…ん」
「こら噛むなって」
また噛み付こうとした手を抑える。少し刺激したら魚のように跳ねる身体は直接見ると本当に折れるような細さで。
「動くぞ、」
「はっあん…ぅあ…ああぁ……」
「ッ痛いか?」
「へい、き……んぅ」
緩く突き上げながら浮いたあばらをなぞり、薄い腹を撫でていく。身体中が性感帯のようになっているせいで達さないまでも先走りがダラダラ漏れだしていた。
「ほら、イけ。大丈夫だから」
「ああっや、ん、あ…ぅああぁあ!!」
三度目のとき。元々体力が乏しい彼は媚薬の効力より前にそちらが切れたらしい。
骨の浮く細い手首がぱたりとシーツに落ちる。起こさぬように彼の体を清め、部屋着を着させて俺もその隣に潜り込んだ。
整った顔、伏せられた睫毛はへ烟るように長い。なんとなく隣の彼を引き寄せ腕の中に閉じ込めると不思議とおさまりが良くて。恐る恐る金糸に指を絡めたらそれは意外にも柔らかく、何故か表情も穏やかになった気がした。
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