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(好都合な呪文〜12話(最終回)
◆◆◆
(……本当は二人の事を許せないし、認めたくないし、協力なんか、したくもない…!なぜってそんな事、決まってるじゃんか…僕だって本当は…カミールのことが好きなんだから…!!)
*
……クルスは夢を見ていた…それは、過去のある出来事の記憶だった…自分が城を留守にしている間、カミール姫が「口紅のお化け」に取り憑(つ)かれてしまったあの時の記憶…◆…お化けを封じ込めると、クルスは床に倒れてるカミールに駆け寄った。指を鳴らすと一瞬でドレス姿になるカミール。
“大丈夫か…!?”声をかけるが起きない。
(眠ってるだけか…)安心する。カミールを抱え上げて寝台に運ぶ。ふと、唇を見るといいかげんに塗り付けられた口紅が目に止まった。きっと、あのお化けの仕業だろう。ハンカチでそっと拭き取る…それでもまだ起きないカミール。クルスは少し笑った…。
◆……今、思い出してみても…自分は、あの時、何であんな真似をしてしまったのか、よく分からなかった。以前、カミールとシュロスが婚約を交わしたり、ゴタゴタがあったものの、それでも何だか良い雰囲気で、2人の事を羨ましく感じたせいかもしれない、その事で、自分が取り残された様に感じたせいかもしれない…それか、「口紅のお化け」と対峙して、あのお化けに、何か呪いでもかけられたのかもしれない…。
“カミール、起きろよ…”
それでも相変わらず、すやすやと眠り続けている…楽しい夢でも見てるのか、微かに微笑んで…
“こんな時に……ずるいよな…でもこれから一生、カミールとシュロス、2人の事を応援するし、協力すると、約束するから、だから、一度だけでいいから、赦して欲しい…カミール…ごめん…”
そう呟くと、クルスは、カミールにそっと口付けしたのだった……
*
……カミールが気が付いて起きると、部屋には朝日が差し込んでいた。ガイストは消えていなくなっていた。傍らに倒れたクルスは、元の姿に戻っていた。
“良かった…魔法が効いたんだ…!”
彼を寝台に運びたかったが、そんな力があるはずもなく、クルスには頭に被っていた白い布をかけてあげた。カミールは軽くなってしまった肩越しに少し溜息を付いた。
“大丈夫、髪はまた伸びるもん…”
けれど、クルスはこの髪を見てどう思うだろうか…?自分のせいであんなに長かった髪を失ったのを見たら、引かれてしまうかもしれない…。いやそもそも、クルスが自分の事を覚えているかどうかも怪しかった。ガイストが、カミールの髪を使って与えた魔力はクルスを人間に戻すまでは、どうやら、まかなえた様だが、記憶まで戻ったかは自信がなかった。もし覚えてなかったら、また出会うところから、関係をやり直さなくてはならない。けれど自分の自慢だった長い髪はもう無い…魔法も一生分の魔力を使い果たしてしまったため、二度と使えない…カミールは急に自分に自信が無くなってしまった。もしかしたら、自分は大変な代償を払ったのかもしれない。もうクルスとは、恋をすることすら出来ないのだろうか…?
“クルス、私の事、覚えてる…?”
声をかけてみるが、彼は相変わらず、すやすや眠っていた。優しい穏やかな顔で…。そんなクルスを見たのは初めてだった。ふと、カミールはクルスをひざに抱きかかえた。それは、魔法とは程遠いものであることは、カミールも分かっていた。しかも…相手が眠って、無防備な時に…。けれど、それでも、カミールは祈った。
“どうかお願いです。クルスが私のことを覚えててくれます様に…”
そう呟くとカミールは、そっとクルスの頬にキスした……
“いけない…リンデたちに知らせなきゃ!”
カミールは急いで部屋を後にした。
…朝日が部屋に差し込んで、更に明るくなった…床で倒れていたクルスの表情は穏やかに微笑んで、頬には涙が伝っていた……
*
◆クルス王子が元に戻ってから半年後…。カミールはバーム国との共有領地の森にいた。そこへ現れたクルス。クーヘン国王(カミール父)から魔法謹慎を言い渡されたカミールだったが、森で待ち合わせたクルスと、こっそり会っていた。
“あーもし君のお父様に見つかったら僕は大目玉を食らうよ!”
“大丈夫よ、めったに森には来ないもの☆”
森の中を散歩してると開けた場所に出る。まだ2人が来たことがない場所だった。遥か遠くまで見渡せる景色の良い小高い丘の上。地平線の彼方に技術国のビル群の輝きが瞬いてる。
“シュロス…今頃、異国の地で頑張ってるのかな…”
◆彼はあの後、自身の研究が認められて、遠い「ある国」の博士として招請され、旅立って行った。その国では原因不明の病が流行っており、彼の研究が解決の糸口つながるとして注目されているという。
◆クルスはふと、カミールの肩越しを見た。自然国の住人は髪が伸びるのがとても遅い。半年前、彼女がクルス自身の呪いを解くため髪を「魔法神ガイスト(ちびクル)」に捧げてしまったため、ベリーショートヘアーになった。頭には魔法練習していた時の布を巻いてて、カミールは気にする素振りも全く無いのだが…クルスは彼女の髪を見る度、胸が痛んだ…◆一度試しに、こっそりと「髪が伸びる魔法」をかけたことがある。しかしさすが魔法の神様の100年の魔法…1ミリも伸びることは無かったが…。
◆カミールには、もう魔法は使えないため会う口実もなくなり、“やめろ”とも言えなくなってしまった。カミールとはこれきりか、と思った。きっとシュロスと結婚して、一緒に例の「遠い国」に行ってしまうのだろう…そしてクルスが協力しなくても、2人で力を合わせて幸せに暮らしていくのだろう…そう思っていたが、シュロスの事はあっさり見送ってしまい、その後、彼女から意外にも「魔法は使えないが会って欲しい」とお願いされて今日に至る。もっともクーヘン国王には、お忍びでだ。しかし最近、カミールの父から謹慎はそろそろ解除、との知らせが来た。さすが親心。どうやら、彼女の行動には気づいてたようだ…。◆この半年、これから彼女とはどう折り合いを付けようかクルスは考えてた。あの鳥のお化けに取り憑かれた時、クルスは夢を見た。カミールが自分を好きだと言ってくれる夢。ひょっとしたら…淡い期待もあるが、所せんは夢。自分の妄想かもしれないし…などと考えてると…
“クルスはここから飛んで帰れるわね、じゃあまたね。今日はありがとう”
カミールは帰ろうとする。
(こんなやり取りが…このままずっと続くのだろうか?もしかしたら、明日…他国の王子との縁談が、あっと言う間にまとまってしまって、カミールが何処か遠くに行ってしまうのでは…?)
“待ってくれ、カミール。お願いがあるんだよ。魔法は便利だけど過信するものじゃない。だから僕がまた魔法を失敗しそうになった時…その時は、僕を助けてくれないか…?”
“魔法は使えないけど私で良ければ喜んで…☆”
“でも何時そうなるか、分からないから「都合よく」いつも側にいて欲しいんだけど……これから一緒に、君のご両親のところへお願いに行ってもいいかい?”
表現が直球過ぎただろうか。カミールは驚いている。そして…
“まあ大変、これからお父様とお母様を説得しなくっちゃ…!だって私たちは、魔法のせいでお互い好きになったんじゃないのよって、ちゃんと説明しないとね…!”
“もし納得してもらえなかったらどうする?”
クルスはカミールの手を取り、軽くキスした。
“その時は私がクルスにこう言えばいいのよ
「クルス王子、私の事を好きになぁれ♡」って!
ねえクルス、これって本当に「好都合な呪文」だと思わない?”
2人は仲良く手を繋ぐとクーヘン国の方へ歩き出したのでした…☆
《おわり》
{◎読んでくださりありがとうございます}
.☆.。.:*・゚.☆.。.:*・゚
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(……本当は二人の事を許せないし、認めたくないし、協力なんか、したくもない…!なぜってそんな事、決まってるじゃんか…僕だって本当は…カミールのことが好きなんだから…!!)
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……クルスは夢を見ていた…それは、過去のある出来事の記憶だった…自分が城を留守にしている間、カミール姫が「口紅のお化け」に取り憑(つ)かれてしまったあの時の記憶…◆…お化けを封じ込めると、クルスは床に倒れてるカミールに駆け寄った。指を鳴らすと一瞬でドレス姿になるカミール。
“大丈夫か…!?”声をかけるが起きない。
(眠ってるだけか…)安心する。カミールを抱え上げて寝台に運ぶ。ふと、唇を見るといいかげんに塗り付けられた口紅が目に止まった。きっと、あのお化けの仕業だろう。ハンカチでそっと拭き取る…それでもまだ起きないカミール。クルスは少し笑った…。
◆……今、思い出してみても…自分は、あの時、何であんな真似をしてしまったのか、よく分からなかった。以前、カミールとシュロスが婚約を交わしたり、ゴタゴタがあったものの、それでも何だか良い雰囲気で、2人の事を羨ましく感じたせいかもしれない、その事で、自分が取り残された様に感じたせいかもしれない…それか、「口紅のお化け」と対峙して、あのお化けに、何か呪いでもかけられたのかもしれない…。
“カミール、起きろよ…”
それでも相変わらず、すやすやと眠り続けている…楽しい夢でも見てるのか、微かに微笑んで…
“こんな時に……ずるいよな…でもこれから一生、カミールとシュロス、2人の事を応援するし、協力すると、約束するから、だから、一度だけでいいから、赦して欲しい…カミール…ごめん…”
そう呟くと、クルスは、カミールにそっと口付けしたのだった……
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……カミールが気が付いて起きると、部屋には朝日が差し込んでいた。ガイストは消えていなくなっていた。傍らに倒れたクルスは、元の姿に戻っていた。
“良かった…魔法が効いたんだ…!”
彼を寝台に運びたかったが、そんな力があるはずもなく、クルスには頭に被っていた白い布をかけてあげた。カミールは軽くなってしまった肩越しに少し溜息を付いた。
“大丈夫、髪はまた伸びるもん…”
けれど、クルスはこの髪を見てどう思うだろうか…?自分のせいであんなに長かった髪を失ったのを見たら、引かれてしまうかもしれない…。いやそもそも、クルスが自分の事を覚えているかどうかも怪しかった。ガイストが、カミールの髪を使って与えた魔力はクルスを人間に戻すまでは、どうやら、まかなえた様だが、記憶まで戻ったかは自信がなかった。もし覚えてなかったら、また出会うところから、関係をやり直さなくてはならない。けれど自分の自慢だった長い髪はもう無い…魔法も一生分の魔力を使い果たしてしまったため、二度と使えない…カミールは急に自分に自信が無くなってしまった。もしかしたら、自分は大変な代償を払ったのかもしれない。もうクルスとは、恋をすることすら出来ないのだろうか…?
“クルス、私の事、覚えてる…?”
声をかけてみるが、彼は相変わらず、すやすや眠っていた。優しい穏やかな顔で…。そんなクルスを見たのは初めてだった。ふと、カミールはクルスをひざに抱きかかえた。それは、魔法とは程遠いものであることは、カミールも分かっていた。しかも…相手が眠って、無防備な時に…。けれど、それでも、カミールは祈った。
“どうかお願いです。クルスが私のことを覚えててくれます様に…”
そう呟くとカミールは、そっとクルスの頬にキスした……
“いけない…リンデたちに知らせなきゃ!”
カミールは急いで部屋を後にした。
…朝日が部屋に差し込んで、更に明るくなった…床で倒れていたクルスの表情は穏やかに微笑んで、頬には涙が伝っていた……
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◆クルス王子が元に戻ってから半年後…。カミールはバーム国との共有領地の森にいた。そこへ現れたクルス。クーヘン国王(カミール父)から魔法謹慎を言い渡されたカミールだったが、森で待ち合わせたクルスと、こっそり会っていた。
“あーもし君のお父様に見つかったら僕は大目玉を食らうよ!”
“大丈夫よ、めったに森には来ないもの☆”
森の中を散歩してると開けた場所に出る。まだ2人が来たことがない場所だった。遥か遠くまで見渡せる景色の良い小高い丘の上。地平線の彼方に技術国のビル群の輝きが瞬いてる。
“シュロス…今頃、異国の地で頑張ってるのかな…”
◆彼はあの後、自身の研究が認められて、遠い「ある国」の博士として招請され、旅立って行った。その国では原因不明の病が流行っており、彼の研究が解決の糸口つながるとして注目されているという。
◆クルスはふと、カミールの肩越しを見た。自然国の住人は髪が伸びるのがとても遅い。半年前、彼女がクルス自身の呪いを解くため髪を「魔法神ガイスト(ちびクル)」に捧げてしまったため、ベリーショートヘアーになった。頭には魔法練習していた時の布を巻いてて、カミールは気にする素振りも全く無いのだが…クルスは彼女の髪を見る度、胸が痛んだ…◆一度試しに、こっそりと「髪が伸びる魔法」をかけたことがある。しかしさすが魔法の神様の100年の魔法…1ミリも伸びることは無かったが…。
◆カミールには、もう魔法は使えないため会う口実もなくなり、“やめろ”とも言えなくなってしまった。カミールとはこれきりか、と思った。きっとシュロスと結婚して、一緒に例の「遠い国」に行ってしまうのだろう…そしてクルスが協力しなくても、2人で力を合わせて幸せに暮らしていくのだろう…そう思っていたが、シュロスの事はあっさり見送ってしまい、その後、彼女から意外にも「魔法は使えないが会って欲しい」とお願いされて今日に至る。もっともクーヘン国王には、お忍びでだ。しかし最近、カミールの父から謹慎はそろそろ解除、との知らせが来た。さすが親心。どうやら、彼女の行動には気づいてたようだ…。◆この半年、これから彼女とはどう折り合いを付けようかクルスは考えてた。あの鳥のお化けに取り憑かれた時、クルスは夢を見た。カミールが自分を好きだと言ってくれる夢。ひょっとしたら…淡い期待もあるが、所せんは夢。自分の妄想かもしれないし…などと考えてると…
“クルスはここから飛んで帰れるわね、じゃあまたね。今日はありがとう”
カミールは帰ろうとする。
(こんなやり取りが…このままずっと続くのだろうか?もしかしたら、明日…他国の王子との縁談が、あっと言う間にまとまってしまって、カミールが何処か遠くに行ってしまうのでは…?)
“待ってくれ、カミール。お願いがあるんだよ。魔法は便利だけど過信するものじゃない。だから僕がまた魔法を失敗しそうになった時…その時は、僕を助けてくれないか…?”
“魔法は使えないけど私で良ければ喜んで…☆”
“でも何時そうなるか、分からないから「都合よく」いつも側にいて欲しいんだけど……これから一緒に、君のご両親のところへお願いに行ってもいいかい?”
表現が直球過ぎただろうか。カミールは驚いている。そして…
“まあ大変、これからお父様とお母様を説得しなくっちゃ…!だって私たちは、魔法のせいでお互い好きになったんじゃないのよって、ちゃんと説明しないとね…!”
“もし納得してもらえなかったらどうする?”
クルスはカミールの手を取り、軽くキスした。
“その時は私がクルスにこう言えばいいのよ
「クルス王子、私の事を好きになぁれ♡」って!
ねえクルス、これって本当に「好都合な呪文」だと思わない?”
2人は仲良く手を繋ぐとクーヘン国の方へ歩き出したのでした…☆
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{◎読んでくださりありがとうございます}
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