[ file Kyūsu ],
(好都合な呪文〜10話+11話)
◆◆◆10_魔法使いの都合 前編
【…魔法神ガイストgeist魂、精霊、“髪を”切り落とす事。それ即ち、“神を”切り落とす事。[バーム魔法国国定教科書「魔力授与」より]】
カミールがシュロスから婚約解消されたことを聞いたクルス。丁度、魔法国に滞在していた彼にその理由を問い詰めようと会いに行くが、そこにはカミールも居合わせていた。カミールが足を滑らせ転びそうになり、とっさに受け止めたシュロス。その時、2人はうっかりキスをしてしまう。(…実はシルエットでそう見えただけで、実際は頬に口をかすめただけだったのだが…)その現場を目撃してしまったクルスはショックを受ける。
“僕があの2人の間柄を遮って邪魔していたのか…”
2人の事を誤解してしまうのだった…◆一方その頃、リンデとキーファが共同で仕事をする研究室での事…。突然、宝石箱の鍵が壊れ、蓋が弾けてしまう現象が起きる。2人がかりで飛び出した「お化け」を何とか封じようとするが、彼らでさえ手に負えないほど強力だったため取り逃がしてしまう。この時、唯一お化けの魔力に触れたキーファは、その時ある事実に気が付く。あのお化けが本当は誰から発生したものだったのか悟る。
“すぐにカミール姫とシュロス王子の擁護を!それから至急、クルス王子を探さなくては…”
…壊れた宝石箱から出てきたお化け。それは以前、カミールが泣く泣くシュロスとの縁談を受け入れ、クルスと会うことが出来なくなる事の恋しさから発生したものと思われていた。しかしあのお化けの真の発生者は…
*
バーム城内の回廊を一人で歩いているクルス。
“ああ…参ったな。あの2人が両思いだったなんて…全く気付かなかったな…”
…と、突然大型の鳥がクルス目がけて襲いかかって来る。それは宝石箱から飛び出したお化けだった。
“お前…!あの時、僕が封じたはずだ。どうして宝石箱の外に!?”
“…私をお忘れですか、御主人様?”
“生憎、お化けに知り合いはいないが…!”
素手では太刀打ち出来ないと判断し、杖のある部屋まで駆け出すクルス。容赦なく追い駆けて来る大鳥はクルスに囁(ささや)いて来る……
“私は貴方の心の底の声…貴方が彼女を思う度に押し殺して来た本心…貴方は彼女を守る度に何時も、より強い魔法、より強い魔法を繰り出す…しかし貴方はその度にいつもこう思った筈です…
(……彼女はいつになったら見てくれるのだろうか…魔法ではなく、僕のことを…)
お化けの言葉に耳を傾けてしまいクルスは足を止めてしまう。
“あぁ…こんなお化けに諭されるなんて…僕も堕(お)ちたものだな…カミールの婚約発表の日、確かに僕はお前を封印してみせた。けれど封印出来て当然なんだ。皆は僕が優れた魔法使いだからと言ってたけどそれは違う…あぁ、そうだよ。貴様は僕の本心だ……そしてカミールとシュロスに対する僕自身の「嫉妬」だ…!僕が何とかしなければ…また、あの2人を苦しめることになる…僕がお化けを受け入れなければ……”
お化けに吸い寄せられる様に近付き、触れてしまうのだった…
*
一方、バーム城内にあるホールのひとつに集まるリンデたち。キーファが言うには、あのお化けの発生者はクルスであると明かす。そして魔法使いは「人間関係に干渉してはならない掟(魔法使いは人を善い方向(良縁)へ導く者…09話)」がある故に、クルスがシュロスに「婚約提案」は出来ても、魔法使いであるクルスから「婚約破棄」をお願いする事は出来ないと言う。(カミールがシュロスとの縁談をもし受け入れた場合、2人の間を邪魔する事になってしまうため)◆キーファはリンデがカミール姫の傍に居ながらも、その掟を疎かにしたのでは…?だからクルス王子を追い詰めてしまった、と問い詰めるがカミールはそれを制する。
“リンデを責めないで、今まで私がハッキリ言わなかったせいだから”
カミールはシュロスとの婚約破棄をしたし、後はカミール自身が自分の本当の気持ちを伝えればそれで何もかも上手く行く…はずだった…。
城内を皆で手分けして探す事になった。カミールはその途中ちびクルと合流し、クルスの魔力が発生している場所が判るので案内をしてもらう。城内を歩きながら、ちびクルはバーム国の歴史を話し出す。
【…その昔、まだこの地を人間ではなく、“魔法神ガイスト”が治めていた時代。ガイストは1羽の大きな鳥の姿をしていて、その翼の大きさは土地を一瞬で移動できる大きさで、自然をも操るので人間からおそれ敬われていたそうだ。ある時は彼は一人の美しい人間の娘に恋をしてしまいました。彼女は人間が暮らす領域の長の娘でガイストは人間に変身して彼女と楽しく過ごしました。やがて離れがたくなり、結婚を申し込むと、長から課題を出されます。その課題を乗り越えますが長は認めてはくれません。何故ならガイストの正体を鳥の化け物である事を知っていたからです。課題を乗り越えた際、力を殆ど使い切ってしまい、疲れたガイストはある丘の上で休息しました。このまま自分は消滅してしまうと思った時、全身を真っ白いドレスを着たあの娘がその丘にやって来ました。彼女は人間の領域で暮らす事をやめてガイストのそばで暮らすことを選んだのです。僅かでしたが二人はその丘で仲良く暮らしました。しかしガイストは遂に力尽きて消えてしまいます。娘は泣く泣く丘を降りて人間の領域に戻りました。…その後、彼女は1人の子供を産みました。姿は普通の人間なのにあの鳥の化物の子だと皆で亡き者にしようとします…しかしその赤ん坊は不思議な力があり、どうしても人間はかないませんでした。娘の愛情で立派に成長したその子はやがて長の領域だけでなくその周囲の地域を治める者になりました。これがクルス王子の先祖の話で今、城があるこの丘こそガイストと娘が暮らした丘だそうだ…。そして…今でもガイストの魂は、この土地のあちこちに彷徨っていて、人間が魔法を失敗すると現れるのがこのガイストの魂だと言う】
“ねぇ、ちびクルは宝石箱に入っても消えないし、平気よね、それはどうして…?”
その時だった。ある寝室から何だか異様な気配を感じたカミールとちびクル。ドアは半開きで奥のテラスへの窓が微かに開いてるらしくカーテンが、はためいている。そのシルエットからカミールはクルスだと察する。
“今度こそちゃんと伝えるんだ…伝えなきゃ…あのねクルス…!”
“姫ちゃま!近づいちゃ、だめでち!!”
ちびクルに引き留められ部屋の真ん中で立ち止まるカミール。その姿はクルスではなく背中から大きな一組の翼が生えた「1羽の鳥男」でこちらを睨みつけている。それは間違いなくクルスに違いなかった。何故なら彼と同じ空色のフロックコートを着ているのだから。ただ1つ身体が鳥の姿である事以外は…。
◆◆◆11_魔法使いの都合 後編
カミールは一歩近付きながら話しかける。
“ど、どうしたの…クルス…その姿…な、何か新しい魔法なの…?”
しかし鳥男はキエエエ!と甲高い鳴き声をあげるとカミールに襲いかかる!丁度そこへリンデ、キーファ、シュロスが駆け付ける。シュロスはピストルで鳥男をしのぐとカミールの腕を掴み部屋の入り口へ駆け出す!リンデとキーファは魔法を繰り出して鳥男に攻撃を与える!
“やめてーっっ!!クルスを傷つけないでえぇ!!”
泣きながら叫ぶカミール。しかしカミールの心配をよそに鳥男はそんな事は物ともしない。翼の風圧をかけられた2人は吹き飛ばされてしまう!
“リンデ俺たちだけで結界張るぞ、応援は待てない!”
“ええ、わかってる!”
2人がかりでどうにか結界を張ったが、中の鳥男は奇声を発しながら結界を破ろうと暴れ回る…クルスのすっかり変わり果てた姿に呆然とするカミール…
(…何がいけなかったのだろう?…どこで間違えたのだろう?…クルスはいつも言っていた…“魔法には危険な側面がある”…と。そして、遂に彼はその犠牲になってしまった……)
“リンデ…どうしよ…クルスが…壊れちゃったよ…!”
*
今、クルスのこの呪いを解けるとしたら彼の父親である国王だろう。しかし通達を送ってこの城に戻って来るのを待っていたのでは間に合わない。怪我を治す時と同じで、かけられた呪いは一刻も早く魔法をかけて解かなければならない。時間が経ち過ぎると魔法が効かなくなって、元の姿に戻れなくなる。誰もが最悪の事態を頭に過ぎった…。その時だった。ちびクルが話しかける。
“1つだけ方法があるでち…けどその方法はもう一生、2度と魔法が使えなくなる方法でちが…”
“本当!?教えてちびクル、どうすればクルスは元に戻るの?!”
“それは…”と言うとちびクルは眩しく光り出し、気付くと、かなり背丈がある…(今いる5人の中でキーファが最も背が高いが彼より高い)ひとりの男性が姿を現す。髪は黒く色黒で上品な顔立ち…雰囲気はどことなくクルスと似てる…。
“改めましてカミール姫、私の名前は「ガイスト」…魔法の守護神。今まで貴女の魔法にムラがあったり、失敗ばかりだったのは私の影響だったんですよ。あなたの側にいる事で私は少しずつ貴女から魔力をもらって、それを自分の中に集めていたのです。貴女は自然国出身で人一倍魔力をお持ちでしたから、貴女に依存しようと決めたんです。まあ、理由はそれだけじゃ無いんですが…魔力の消耗を抑えるためずっと、マシュマロ姿に化けていました…☆”
リンデたちも初めて見る姿に、あぜんとしてた…だって今まで魔法神の想像画というのは鳥の姿として描かれていて、その教科書を見て学んできたのと言うのに。こんなステキな王子様姿だなんて…天は二物以上の物を与えてて……反則だろう!!…いや、「神様」だから何でもありなのかもしれない。
“そうだったの…それでどうすればクルスを元に戻せるの!?”
カミールだけは全く動じてない。
“私が力を与えますから、貴女が魔法をかけてクルス王子の呪いを解いて下さい。ただし、人間としての一生分の魔力を使います。2度と魔法は使えなくなりますよ?それでも構いませんか?”
“やります。それでクルスが元に戻るなら!”
他に方法もないので皆も賛成した。危険なので夜明けまでリンデたちは他の部屋で待ってもらう事にした。部屋を出る際シュロスが話しかける。
“カミール、こんな事になってしまって本当にすまなかった。どんなに頼まれても、クルスからお願いされた、この婚約は断るべきだったんだ。「魔法使いの掟」の事もキーファから聞かされて僕は前から知ってたよ。でも1つだけでいいからクルスよりも優れている所が欲しかった。あいつはいつも僕を褒めてくれて、羨ましがっていたけど、僕の方がずっとクルスを羨ましく思ってたんだよ。だからカミール、君の事だけは振り向かせて見せたかったんだ。でも絶対にそんな事にはならなかったよ。君は何時だってクルスの事しか見てなかったから…”
“シュロス…ありがとう…でも…ごめんなさい…私はクルスが好きなの…”
彼は頷(うなず)くと部屋を静かに出て行った…。
*
「さて…ではカミール姫、貴女に魔力を授与しますが、ただと言うわけにはいきません、それなりの代価を払って頂く事になります」
「でも私…何も持ってませんが…?」
(歌うように陽気に)「何もしなくて良いんですよ~♪カミール姫、貴女が私の伴侶になってくれさえすれば…☆さっき理由は他にもあると言いましたが、実は貴女…昔の私の恋人に、そっくりなんですよ〜♡初めて見たときから、えぇ、もう一目惚れで!」
「えぇ〜!?そんな!困りますぅ!!」焦るカミール
「ハハハ冗談ですよ、きっとそう言うと思いました。でも“ただ”では無理なのは本当です。貴女にはそう…その綺麗な髪を私に食べさせてくれますか?」
「髪をですか?!」
「はい。昔も、私が魔力を著しく消耗した際、恋人の彼女が髪を食べさせてくれて一時ですが、しのぐことができました。貴女のその長さならば、かなりの魔力をまかなえますよ。」
「ならばどうぞ、お召し上がり下さい」
肩越しで…シャキシャキ…と音がした気がした。次の瞬間、肩越しは軽くなって長い髪はなくなってた。
「…それにしても…貴女はきっと彼女の子孫なのでしょうな~。ここは貴女の為に、もう人肌脱いで助けましょう。私は今まで集めた魔力もすべて貴女に差し上げましょう。まあその代わり…私はまた魂だけになってしまうので消えてしまいますが…」
「そんな、ちびクル!死んじゃうの!?」
「私は死んだりしませんよ。長い時間が経てばまた魔力も貯まって、もしかしたら貴女が、おばあさんになる頃、会えるでしょうね~た・ぶ・ん♪
それまでしばしのお別れ〜☆」
そう言うとガイストはカミールを抱き寄せてキスした!瞬きした一瞬のあっと言う間の出来事だった!
*
……何だか、体が軽くなった気分で内側から力が溢れ出て来る感じがした。
「これが“本当の”魔法の感覚なんだ…!」
今ならば空を自由に飛ぶ事も、海を凍らせる事も、恐いお化けを封じ込める事も、何でもできそうな感じがした…!
でもカミールの唱えたい魔法はたった一つだけだった。彼女は人生で最初で最後の魔法をかけた…!
“クルス王子を元の姿に戻して……!!”
***
◆◆◆10_魔法使いの都合 前編
【…魔法神ガイストgeist魂、精霊、“髪を”切り落とす事。それ即ち、“神を”切り落とす事。[バーム魔法国国定教科書「魔力授与」より]】
カミールがシュロスから婚約解消されたことを聞いたクルス。丁度、魔法国に滞在していた彼にその理由を問い詰めようと会いに行くが、そこにはカミールも居合わせていた。カミールが足を滑らせ転びそうになり、とっさに受け止めたシュロス。その時、2人はうっかりキスをしてしまう。(…実はシルエットでそう見えただけで、実際は頬に口をかすめただけだったのだが…)その現場を目撃してしまったクルスはショックを受ける。
“僕があの2人の間柄を遮って邪魔していたのか…”
2人の事を誤解してしまうのだった…◆一方その頃、リンデとキーファが共同で仕事をする研究室での事…。突然、宝石箱の鍵が壊れ、蓋が弾けてしまう現象が起きる。2人がかりで飛び出した「お化け」を何とか封じようとするが、彼らでさえ手に負えないほど強力だったため取り逃がしてしまう。この時、唯一お化けの魔力に触れたキーファは、その時ある事実に気が付く。あのお化けが本当は誰から発生したものだったのか悟る。
“すぐにカミール姫とシュロス王子の擁護を!それから至急、クルス王子を探さなくては…”
…壊れた宝石箱から出てきたお化け。それは以前、カミールが泣く泣くシュロスとの縁談を受け入れ、クルスと会うことが出来なくなる事の恋しさから発生したものと思われていた。しかしあのお化けの真の発生者は…
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バーム城内の回廊を一人で歩いているクルス。
“ああ…参ったな。あの2人が両思いだったなんて…全く気付かなかったな…”
…と、突然大型の鳥がクルス目がけて襲いかかって来る。それは宝石箱から飛び出したお化けだった。
“お前…!あの時、僕が封じたはずだ。どうして宝石箱の外に!?”
“…私をお忘れですか、御主人様?”
“生憎、お化けに知り合いはいないが…!”
素手では太刀打ち出来ないと判断し、杖のある部屋まで駆け出すクルス。容赦なく追い駆けて来る大鳥はクルスに囁(ささや)いて来る……
“私は貴方の心の底の声…貴方が彼女を思う度に押し殺して来た本心…貴方は彼女を守る度に何時も、より強い魔法、より強い魔法を繰り出す…しかし貴方はその度にいつもこう思った筈です…
(……彼女はいつになったら見てくれるのだろうか…魔法ではなく、僕のことを…)
お化けの言葉に耳を傾けてしまいクルスは足を止めてしまう。
“あぁ…こんなお化けに諭されるなんて…僕も堕(お)ちたものだな…カミールの婚約発表の日、確かに僕はお前を封印してみせた。けれど封印出来て当然なんだ。皆は僕が優れた魔法使いだからと言ってたけどそれは違う…あぁ、そうだよ。貴様は僕の本心だ……そしてカミールとシュロスに対する僕自身の「嫉妬」だ…!僕が何とかしなければ…また、あの2人を苦しめることになる…僕がお化けを受け入れなければ……”
お化けに吸い寄せられる様に近付き、触れてしまうのだった…
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一方、バーム城内にあるホールのひとつに集まるリンデたち。キーファが言うには、あのお化けの発生者はクルスであると明かす。そして魔法使いは「人間関係に干渉してはならない掟(魔法使いは人を善い方向(良縁)へ導く者…09話)」がある故に、クルスがシュロスに「婚約提案」は出来ても、魔法使いであるクルスから「婚約破棄」をお願いする事は出来ないと言う。(カミールがシュロスとの縁談をもし受け入れた場合、2人の間を邪魔する事になってしまうため)◆キーファはリンデがカミール姫の傍に居ながらも、その掟を疎かにしたのでは…?だからクルス王子を追い詰めてしまった、と問い詰めるがカミールはそれを制する。
“リンデを責めないで、今まで私がハッキリ言わなかったせいだから”
カミールはシュロスとの婚約破棄をしたし、後はカミール自身が自分の本当の気持ちを伝えればそれで何もかも上手く行く…はずだった…。
城内を皆で手分けして探す事になった。カミールはその途中ちびクルと合流し、クルスの魔力が発生している場所が判るので案内をしてもらう。城内を歩きながら、ちびクルはバーム国の歴史を話し出す。
【…その昔、まだこの地を人間ではなく、“魔法神ガイスト”が治めていた時代。ガイストは1羽の大きな鳥の姿をしていて、その翼の大きさは土地を一瞬で移動できる大きさで、自然をも操るので人間からおそれ敬われていたそうだ。ある時は彼は一人の美しい人間の娘に恋をしてしまいました。彼女は人間が暮らす領域の長の娘でガイストは人間に変身して彼女と楽しく過ごしました。やがて離れがたくなり、結婚を申し込むと、長から課題を出されます。その課題を乗り越えますが長は認めてはくれません。何故ならガイストの正体を鳥の化け物である事を知っていたからです。課題を乗り越えた際、力を殆ど使い切ってしまい、疲れたガイストはある丘の上で休息しました。このまま自分は消滅してしまうと思った時、全身を真っ白いドレスを着たあの娘がその丘にやって来ました。彼女は人間の領域で暮らす事をやめてガイストのそばで暮らすことを選んだのです。僅かでしたが二人はその丘で仲良く暮らしました。しかしガイストは遂に力尽きて消えてしまいます。娘は泣く泣く丘を降りて人間の領域に戻りました。…その後、彼女は1人の子供を産みました。姿は普通の人間なのにあの鳥の化物の子だと皆で亡き者にしようとします…しかしその赤ん坊は不思議な力があり、どうしても人間はかないませんでした。娘の愛情で立派に成長したその子はやがて長の領域だけでなくその周囲の地域を治める者になりました。これがクルス王子の先祖の話で今、城があるこの丘こそガイストと娘が暮らした丘だそうだ…。そして…今でもガイストの魂は、この土地のあちこちに彷徨っていて、人間が魔法を失敗すると現れるのがこのガイストの魂だと言う】
“ねぇ、ちびクルは宝石箱に入っても消えないし、平気よね、それはどうして…?”
その時だった。ある寝室から何だか異様な気配を感じたカミールとちびクル。ドアは半開きで奥のテラスへの窓が微かに開いてるらしくカーテンが、はためいている。そのシルエットからカミールはクルスだと察する。
“今度こそちゃんと伝えるんだ…伝えなきゃ…あのねクルス…!”
“姫ちゃま!近づいちゃ、だめでち!!”
ちびクルに引き留められ部屋の真ん中で立ち止まるカミール。その姿はクルスではなく背中から大きな一組の翼が生えた「1羽の鳥男」でこちらを睨みつけている。それは間違いなくクルスに違いなかった。何故なら彼と同じ空色のフロックコートを着ているのだから。ただ1つ身体が鳥の姿である事以外は…。
◆◆◆11_魔法使いの都合 後編
カミールは一歩近付きながら話しかける。
“ど、どうしたの…クルス…その姿…な、何か新しい魔法なの…?”
しかし鳥男はキエエエ!と甲高い鳴き声をあげるとカミールに襲いかかる!丁度そこへリンデ、キーファ、シュロスが駆け付ける。シュロスはピストルで鳥男をしのぐとカミールの腕を掴み部屋の入り口へ駆け出す!リンデとキーファは魔法を繰り出して鳥男に攻撃を与える!
“やめてーっっ!!クルスを傷つけないでえぇ!!”
泣きながら叫ぶカミール。しかしカミールの心配をよそに鳥男はそんな事は物ともしない。翼の風圧をかけられた2人は吹き飛ばされてしまう!
“リンデ俺たちだけで結界張るぞ、応援は待てない!”
“ええ、わかってる!”
2人がかりでどうにか結界を張ったが、中の鳥男は奇声を発しながら結界を破ろうと暴れ回る…クルスのすっかり変わり果てた姿に呆然とするカミール…
(…何がいけなかったのだろう?…どこで間違えたのだろう?…クルスはいつも言っていた…“魔法には危険な側面がある”…と。そして、遂に彼はその犠牲になってしまった……)
“リンデ…どうしよ…クルスが…壊れちゃったよ…!”
*
今、クルスのこの呪いを解けるとしたら彼の父親である国王だろう。しかし通達を送ってこの城に戻って来るのを待っていたのでは間に合わない。怪我を治す時と同じで、かけられた呪いは一刻も早く魔法をかけて解かなければならない。時間が経ち過ぎると魔法が効かなくなって、元の姿に戻れなくなる。誰もが最悪の事態を頭に過ぎった…。その時だった。ちびクルが話しかける。
“1つだけ方法があるでち…けどその方法はもう一生、2度と魔法が使えなくなる方法でちが…”
“本当!?教えてちびクル、どうすればクルスは元に戻るの?!”
“それは…”と言うとちびクルは眩しく光り出し、気付くと、かなり背丈がある…(今いる5人の中でキーファが最も背が高いが彼より高い)ひとりの男性が姿を現す。髪は黒く色黒で上品な顔立ち…雰囲気はどことなくクルスと似てる…。
“改めましてカミール姫、私の名前は「ガイスト」…魔法の守護神。今まで貴女の魔法にムラがあったり、失敗ばかりだったのは私の影響だったんですよ。あなたの側にいる事で私は少しずつ貴女から魔力をもらって、それを自分の中に集めていたのです。貴女は自然国出身で人一倍魔力をお持ちでしたから、貴女に依存しようと決めたんです。まあ、理由はそれだけじゃ無いんですが…魔力の消耗を抑えるためずっと、マシュマロ姿に化けていました…☆”
リンデたちも初めて見る姿に、あぜんとしてた…だって今まで魔法神の想像画というのは鳥の姿として描かれていて、その教科書を見て学んできたのと言うのに。こんなステキな王子様姿だなんて…天は二物以上の物を与えてて……反則だろう!!…いや、「神様」だから何でもありなのかもしれない。
“そうだったの…それでどうすればクルスを元に戻せるの!?”
カミールだけは全く動じてない。
“私が力を与えますから、貴女が魔法をかけてクルス王子の呪いを解いて下さい。ただし、人間としての一生分の魔力を使います。2度と魔法は使えなくなりますよ?それでも構いませんか?”
“やります。それでクルスが元に戻るなら!”
他に方法もないので皆も賛成した。危険なので夜明けまでリンデたちは他の部屋で待ってもらう事にした。部屋を出る際シュロスが話しかける。
“カミール、こんな事になってしまって本当にすまなかった。どんなに頼まれても、クルスからお願いされた、この婚約は断るべきだったんだ。「魔法使いの掟」の事もキーファから聞かされて僕は前から知ってたよ。でも1つだけでいいからクルスよりも優れている所が欲しかった。あいつはいつも僕を褒めてくれて、羨ましがっていたけど、僕の方がずっとクルスを羨ましく思ってたんだよ。だからカミール、君の事だけは振り向かせて見せたかったんだ。でも絶対にそんな事にはならなかったよ。君は何時だってクルスの事しか見てなかったから…”
“シュロス…ありがとう…でも…ごめんなさい…私はクルスが好きなの…”
彼は頷(うなず)くと部屋を静かに出て行った…。
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「さて…ではカミール姫、貴女に魔力を授与しますが、ただと言うわけにはいきません、それなりの代価を払って頂く事になります」
「でも私…何も持ってませんが…?」
(歌うように陽気に)「何もしなくて良いんですよ~♪カミール姫、貴女が私の伴侶になってくれさえすれば…☆さっき理由は他にもあると言いましたが、実は貴女…昔の私の恋人に、そっくりなんですよ〜♡初めて見たときから、えぇ、もう一目惚れで!」
「えぇ〜!?そんな!困りますぅ!!」焦るカミール
「ハハハ冗談ですよ、きっとそう言うと思いました。でも“ただ”では無理なのは本当です。貴女にはそう…その綺麗な髪を私に食べさせてくれますか?」
「髪をですか?!」
「はい。昔も、私が魔力を著しく消耗した際、恋人の彼女が髪を食べさせてくれて一時ですが、しのぐことができました。貴女のその長さならば、かなりの魔力をまかなえますよ。」
「ならばどうぞ、お召し上がり下さい」
肩越しで…シャキシャキ…と音がした気がした。次の瞬間、肩越しは軽くなって長い髪はなくなってた。
「…それにしても…貴女はきっと彼女の子孫なのでしょうな~。ここは貴女の為に、もう人肌脱いで助けましょう。私は今まで集めた魔力もすべて貴女に差し上げましょう。まあその代わり…私はまた魂だけになってしまうので消えてしまいますが…」
「そんな、ちびクル!死んじゃうの!?」
「私は死んだりしませんよ。長い時間が経てばまた魔力も貯まって、もしかしたら貴女が、おばあさんになる頃、会えるでしょうね~た・ぶ・ん♪
それまでしばしのお別れ〜☆」
そう言うとガイストはカミールを抱き寄せてキスした!瞬きした一瞬のあっと言う間の出来事だった!
*
……何だか、体が軽くなった気分で内側から力が溢れ出て来る感じがした。
「これが“本当の”魔法の感覚なんだ…!」
今ならば空を自由に飛ぶ事も、海を凍らせる事も、恐いお化けを封じ込める事も、何でもできそうな感じがした…!
でもカミールの唱えたい魔法はたった一つだけだった。彼女は人生で最初で最後の魔法をかけた…!
“クルス王子を元の姿に戻して……!!”
***