△ 月夜とダイヤモンド〜re:make

△Adult※大人向け。




◆◆◆
湯船と三日月

※未発表
{◎…久しぶりに、外サイトの非公開ページを見ていたら、見つけました。このおまけは当初「旅行初日」という設定でした…しかしそうなると、ダリアの能力の辻褄《つじつま》が合わなくなったり、本編を△大人向けにしないといけない手間も発生して、面倒くさいと思い、ボツにしたようです…タグに「夫婦」「新婚旅行」が付いてるのは今思うと、この部分の名残りかな…と思われます。

※本編と関連は、ちっともないです。急須(作者)自身、すっかり忘れてたくらいなので読まなくても本編は、ちっとも困らないです。人生に暇なときにどうぞ…☆}



◆◆◆1章-03-2-湯船と三日月

…夕食後、ギャラリー夫妻と別れてクレセントたちはマンションに帰宅した。

入浴を済ませ居間でくつろいでると、クレセントは言った。
「ちょっとダリア、モデルになってよ」
「良いわよ。どんなポーズにする?」
ソファに寝そべってくつろいでいて、とお願いした。するとダリアは帽子を持ってきて自分に添えた。
「この帽子も描き加えてね」
「小道具は、なくてもいいけど」
「だって気に入ってるの。旅行の記念でしょ」

旅行の準備で町に行った時、通りの洋服店を通り過ぎた時、ダリアは珍しく「あの帽子ステキね…」と呟《つぶや》いた。クレセントも、そのやたら柔らかい素材の鍔《つば》の広い帽子がダリアにとても似合うと感じ、ぜひ買ってあげたいと思った。

(…そして、ショーウィンドウのガラス越しに帽子を身に着けたダリアを想像した。彼女をモデルに絵を描きたいと思った。ただ…クレセントが想像していたダリアは、腰の大切な部分だけを帽子で隠した、一糸まとわぬ姿だったが…)

旅費の他にも、必要な経費はプラチナは負担してくれると言ってくれたが、あの帽子だけは、クレセントは自分で買おうと思った。なのでこっそり自分の商売道具でもある新品の画材を売って、あの帽子を買った。プレゼントした時のダリアの喜びようと言ったら…☆それはクレセントが結婚後に見た、トップクラスのダリアの笑顔だった。クレセントは、ちょっとは見栄を張って良かったと思った。

スケッチを終えたが、着色しないクレセントを見てダリアは声をかけた。
「あら…この前買った、新品の携帯画材セットは?」
「あー、あれは…その…家に置いてきたんだ」クレセントはとっさに嘘をついた。

「そうなの。珍しいわね、あなたが画材を忘れるなんて。でも、まだ当分イルミネ市に滞在するし、画材がないと困るんじゃないの…?そうだわ。明日、観光に行った際にプラチナに頼んで購入してもらいましょ。あなたの絵画の経費なら彼も協力してくれるわよ」

「いや、いいんだ…!」そんな事をしたら帽子はプラチナが購入したみたいになってしまう…クレセントは、なんだかそれは嫌だった。

「プラチナは、あなたのパトロンよ。遠慮する事ないのに。彼はいつもあなたを高く評価してるのよ。この前だって町で会った時に“クレセントが気兼ねなく制作に取り組める事が何よりの資産だから。もし仕事で困ったり、遠慮しているようだったら、いつでも自分を頼るように”って言ってくれたし」

「…会ったんだ…プラチナと2人で…それ、いつの話…?」

クレセントが急にヤキモチを向けてきたのでダリアは慌てて言った。
「やだ!変な風に考えないでよ。偶然ちょっと会っただけよ。同じ小さな町に住んでいるんだもの、会う時もあるでしょ。彼は市庁舎勤めで、公共施設に立ち寄る事もあるし。会ったのは、あなたが午後の授業が休みだった日かしら…私も忘れてたわ」

そうは言ってもクレセントは、ちょっとガッカリしてしまった。結局、自分はパトロンであるプラチナの管理の元にいるのだ…プラチナはダリアの元婚約者だ。なんだか気おくれしてしまう…でも理由は、それだけではない…たぶん夕食の時の会話のせいだろう…。

「…画材は、なくていいんだ。それより僕がこの旅行で望んでいるのは……」
「え、なあに…?」
「……」

それを聞いたダリアは驚《おどろ》いて、しばらく動けかなかった。クレセントに呼びかけられても、返事ができなかった。ダリアが座ってるソファにクレセントも隣に座る。ゆっくりと抱きしめてきて…帽子が、枯れ葉のようにひらりと落ちた…ネグリジェの裾から滑り込んだ手が、太い水晶柱の間を探る…ダリアは我に返った。

「…ダメ!」
今度は、クレセントが驚いて動けなかった。
こんなに、強く拒絶されると思わなかった。

「…ご、ごめんなさい…今は…!仕事とか、将来についても考えなきゃ…だから…ごめんなさい…!」ダリアはそう言うと、帽子を拾って寝室へ逃げてしまった…



しばらくしてクレセントが寝室に行くと、奥のベッドの端で、壁を向いてダリアは寝ていた。

(昼間…部屋に入った時、2台のシングルベッドが、わざわざ隣同士くっつけられてた状態を見た時、ホテル側のお節介にクレセントとダリアは顔が赤くなった…素知らぬ顔でいたクレセントではあったが心の中ではガッツポーズをしていた。夜が待ち遠しかった分だけに、2人の距離《きょり》が切ない…)

クレセントは手前のベッドにそっと寝た。気配でダリアが寝入ってないのが伝わって来た。
「…ごめん…」
「…」
「…悪かった…」
「…」

寝ているだろうか…?ダリアは返事をしなかった。けれど寝息より微かに呼吸が早く、クレセントの言葉を聞いているようだった。
「…ごめんなさい…あなたの望み通りできなくて…」ダリアがぼそりと言ったのでクレセントは驚いて飛び起きた。
「ごめん、本当にすまなかった…!」

そう言った時、突然ダリアは起き上がると言った。
「私たち、もう別れましょ…!」
「ええ!?なんでそうなるのさ!」あまりの突飛な発言にクレセントの声は裏返った。

「だってこのままじゃ…私ばかりが望む人生を歩けても、あなたは自分が望む人生を歩けない気がするもの」
「僕は充分幸せだよ!特に君と一緒になってから怖いくらいで…」

「ほら、それが不自然なのよ。そもそも私たち最初から普通の恋愛じゃないもの。あなたは人生のこの先、何をするにも、まず私を優先させて、自分の希望は二の次になって行って…そんな事、繰り返してたら、将来あなたはきっと、きっと…!」
「…きっと何?」
「…たぶん、私を…嫌いになるわ…」見るとダリアは泣いていた。

「そんな…悲しい結果になるぐらいなら…今、別れちゃった方が…!」声は段々、嗚咽《おえつ》に変わった。
「なんで泣くのさ…大体、今までだって「別れる」なんて選択は、なかっただろ…僕が君を嫌いになるなんてこと無いよ!絶対に!」クレセントは思わず大きな声になる。

「そんなのわかんないでしょ!!」ダリアも声を張り上げる。
「ないってば、ないよ!!」クレセントも負けじと声を張り上げる。

突然、部屋の電話がなった!
2人は驚《おどろ》いた。今は夜中だ。モーニングコールではない。クレセントが出てみると…。

《真夜中に失礼して、大変申し訳ありません。お隣に宿泊されてるお客様より、ご連絡を頂きまして、あの…何かトラブルでしょうか…?お困りならすぐスタッフが駆けつけますので…》
「あ、いえ…こちらこそご迷惑おかけして申し訳ありませんでした…はい……」

静かに受話器を置くと、2人はそっとベッドに横になった。隣室の住人から“新婚夫婦が営みの真っ最中…”と、勘違いされたらしい…2人とも顔が真っ赤になった。

しばらくそれぞれ黙って横になっていた。ダリアは眠くなってきた。うつら、うつら、しかけた時、背中を向けていた隣のベッドの方で布擦れの音がして、クレセントがダリアに近づいて来た。そのまま、後ろからそっと抱き締められた…。

「もう寝ましょ…明日も色々見たい所があるの…」
「僕は寝られそうにないよ…」
「さっきは軽はずみな事を言って悪かったわ。ごめんなさい。ねぇお願い…寝かせて…」

「嫌だよ…!今夜ほど君の気持ちを確かめたくてたまらない夜はない…!今すぐにでも君を抱きたくてたまらない…!生まれたままの姿で君と繋《つな》がり合いたいし、愛し合いたい!今までずっと隠してたんだよ!僕の差し出す三日月を受け止めておくれよ…!」

そう言うと、クレセントは横向きで寝ていたダリアの肩を優しく撫《な》でると仰向《あおむ》けにした…ネグリジェのスカートの裾をめくり上げ…ランジェリーを取り…クレセントもパジャマを脱ぎ捨てた…お互い何も身に着けてなかった…ダリアはクレセントを見つめたままだった…今度は拒否しなかった…今までで、最も尊く優しい眼差しだった…
「…ダリア、止めるなら今のうちだよ…今夜の僕は本気だよ…良いのかい…?」
「…愛してるわよ、クレセント…今までだって…これからだって…」

……優しくゆっくり覆《おお》い被《かぶ》さる…そのうち、三日月は水晶柱の間の黒いサファイアへ差し出され、忍び込んで来た…心地良くて温かい湯船に浸かったような感じだった…そして同時に…湧き上がる物を感じた…気のせいか…三日月が…いつも以上に火照《ほて》っているのを感じた…黒いサファイアから流れる、せせらぎは…せっかく差し出された三日月を外へ滑り流してしまう…せせらぎの上流を目指して…何度も差し出すのを繰り返す…微《かす》かな小刻みの振動《しんどう》は…揺籠《ゆりかご》のリズムのように伝わって来る…リズムは段々早くなる……
突然、ダリアは身体の奥に熱湯《ねっとう》を注がれるような恐怖を感じ、身をよじった!すかさずクレセントが抱き締める!
「…やっぱりダメ…はなして…!」
「…もう…戻れないんだよ………」
もがいて逃げようとするダリア。しかしクレセントに力づくで抑え込まれ、どうしようもない。ダリアは急に恐くなった。あんなに好きだったのに…!あんなに愛してたのに…!あんなに欲しがっていた三日月に急に嫌悪感を感じた。恐怖を紛《まぎ》らわそうと、ダリアは小鳥がさえずるように歌う…!クレセントのリズムは速いまま…速度を落とさず…急かすように…更に注《そそ》がれて…嵩《かさ》が増えて…!
不意にリズムが治まった…小さな湯船は満たされ、淵《ふち》から溢《あふ》れ出した…それを黒いサファイアに感じた時、ダリアは硝子《ガラス》にヒビが入ったように小さな悲鳴をあげた!
そして、涙が頬を伝った…
宝石の湯船が三日月で満たされたと悟った…
ダリアは力尽き…自分が嬉しいのか、悲しいのか、まったく分からなかった。今はただ、その分からない感情で胸がいっぱいになった。
それは待ち望んだものをようやく手に入れた喜びか…それとも完璧《かんぺき》を手に入れた後の虚《むな》しさか…分からなかった。
ただ、ただ、涙が溢れて止まらなかった…

覆いかぶさるクレセントを見上げると、泣いていた。今まで行き止まりだった道が、遂に開かれ、目的地に達することが出来た喜びで泣いていた。
「…ダリア、ありがとう、僕を受け入れてくれて…ありがとう…!」
クレセントは、ゆっくりと冷めた三日月を離した…
ダリアは手のひらで、クレセントの頬を優しく包むように撫《な》でて、涙をふいた。
「…やっと、あなたの三日月は私の元へ辿り着いたのね…」

そして、お互い優しく抱き締めあうと、そのまま2人は、眠りにおちていった……





次の日の朝。
クレセントとダリアは支度をして観光に出かけようと部屋から出た時だった。
丁度、隣の部屋の宿泊客も部屋から出て来たところだった。白いスーツで高価なUVサングラスをかけ、長い髪が背中に流れるスラリとしたキャリア風の品の良い女性だ。

「おはようございます。あっあの…!昨夜は大変失礼しました」クレセントは真っ赤な顔で謝った。
「すみませんでした!」ダリアも頬を染めて頭を下げた。

「いえ、気になさらないで。私も夜更しをしていましたから」優しく微笑み、軽く会釈すると綺麗《きれい》な歩き方でその女性は去った。
ふと、クレセントは思った。
(…あの歩き方と後ろ姿…昔、どこかで見たような…)
するとダリアに腕を引っ張っられて我に返る。

「ねぇ、今日はどこから観光する?今日は、うんと付き合って貰いますからね!」
「もちろんさ!どうぞ何なりとお申し付けを、お姫様…☆」

2人は楽しそうに賑《にぎ》わう街へと出かけて行った……。




湯船と三日月
《終》

{◎いつも読んでくださり
ありがとうございます}
m(_ _)m

***[2024年-加筆修正]
5/5ページ