(phychologic reasoning)[1,]

※元ネタは…ヴァン・ダイン著「甲虫~」「ガーデン~」からの2次創作。(小説あらすじは『エブ○スタ』にて。良ければあっちらを先に読んで見てください…被害者が生きてたり、人間関係も改変しております。傷害事件ですが死人は出ません。
※ア◯ファポ○ス再掲…2次創作が禁止なのと、ジャンルをエッセイに変更されたので、お引越し…。



■■■Philogic Reasoning~博学探偵ヴァンス~

{◎ヴァン・ダイン氏の小説を個人的な妄想でアレンジした作品です※原作イメージ破壊てます…}

○ジャンル…ぷちミステリー(大したオチはないです…死人も出ません。読み返したら可笑し過ぎて大笑いしました!自分はミステリー不向きだ。ギャグの間違いでは…)
○所要時間…40min(時間泥棒…人生に暇な時に読んで下さい)


★N市立博物館のバイト職員ファイロ・ヴァンスは、隣接する美術館で行われるガーデン家のパーティで作品解説を担当する事になる。ところがパーティーで傷害事件が発生。被害者は、ガーデン家の次男スイフト。以前彼と交際していた学芸員のザリア・グレム嬢が疑われる。ヴァンスはパーティに来賓(らいひん)として招かれたマーカム検事と共に真相解明をする事になり…。


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~登場人物~
ファイロ・ヴァンス(ブルー)…N市立博物館のバイト職員。セザンヌの水彩画が好き。彼の正体は数々の難事件を解決している人気イラストレーター「アズール・ブルー」

マーカム検事…ガーデン家主催の美術館パーティーの来賓でヴァンスの親友。いくつも事件を解決したヴァンスの推理力を評価していて彼と共に事件を捜査。ヴァンスの正体がアズール・ブルーであると知る数少ない人物のひとり。

ザリア・グレム…美術館長の娘で学芸員。ヴァンスの大学からの友人。同い年だが仕事では先輩。フロイトに好意を寄せてる。イラストレーターのアズール・ブルーの大ファンだがその正体がヴァンスである事を知らない…。



(ガーデン家の人々)
フロイト…ガーデン家の長男。ヴァンスの大学時代の友人。世間からは評価が高く将来を有望されてるが、家庭ではスイフトがひいきされ、不満がある…。

スイフト…ガーデン家の次男。家が裕福で跡取り問題とも縁が無い為に道楽者。以前、ザリアと交際してたが別れる。額を殴られ、石棺に閉じ込められる被害者。

ガーデン教授…市立美術館の文化財調査において、非破壊検査装置の責任者。ザリアの父の美術館長の友人。妻とは1年前に死別で現在独身。

バーニス・ビートン…ガーデン教授の秘書。有能な女性科学者でその才能ゆえ周囲からの嫉妬も強く、教授の愛人とも噂されて…。


ヒース警部…N市警察署の捜査一課の刑事。ヴァンスが「アズール・ブルー」であることを知る。



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~contents~
01-プロローグ~博物館のバイト職員
02-貸し切りパーティー
03-事故
04-容疑者は、ザリア!? [平面図01]
05-眼鏡の破片
06-香水とハンカチ
07-家庭内秘話
08-石棺のフタ
09-真相の音声ガイド
10-お互い様の秘密
11,-エピローグ~セザンヌの絵画展
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01-プロローグ~博物館のバイト職員
N市には、市街の中心部に芸術施設が併設している。市立公園の敷地内に建設された建物は、美術館と、その隣には博物館がある。現在エジプト遺跡に関する企画展が開かれていた。

さて、この博物館にはバイト職員がいた。彼の名前は「ファイロ・ヴァンス」
当初、求人広告で見かけた美術館員を希望した彼だったが、面接当日「ある緊急の用事の為に」面接に行く事が出来なかった。

ヴァンスの代わりに彼の希望した美術館員に就いたのは、偶然にもヴァンスの大学時代の友人「ザリア・グレム」だった。ヴァンスが彼女に頼み、追加で面接を受けるが、あいにく美術館員は間に合っていた。
しかし、ヴァンスのその類まれな、絵画解説の腕に関心した美術館長(ザリアの父)は、このまま不採用は勿体無いと感じ、同じN市が運営している、隣の博物館員としての職をヴァンスに与えたのだった。何か特別な催しの時には、彼に作品解説をお願いする事にしたのだった。

館長のグレム氏は当初、ヴァンスに正社員としての職を与えようとしたが、ヴァンスは丁重にお断りした。理由は自宅で家業があるから、と彼は言ったがそれは真実ではなかった…。
実は、ヴァンスにはもう1つの顔があった。それは著名なイラストレーター「アズール・ブルー」としての顔だった。若くして駆け出しのイラストレーターの彼が有名になったのは、彼がN市の「ある有名な殺人事件」を解決したからだった。
ヴァンスは、地方検事局に勤務するマーカムと言う友人がいた。ある時、偶然殺人事件に居合わせたヴァンスは、警察を悩ませ、迷宮入りしかけていたこの事件の真相を見事に見抜いて、事件を解決に導いた。事件関係者だった為、事件を担当したヒース刑事は、その時にヴァンスの正体がアズール・ブルーである事を知ったのだった。ヴァンスは事件の真相を教える代わりに、ヴァンス自身がブルーである事を、決して世間とマスコミに公表しない事を厳しく約束させたのだった。

それから度々、ヴァンスことブルーは、警察に協力し、難事件を解決した。図鑑や百科事典のイラストも手掛けていた事から、いつしかブルーは「博学探偵」と噂されるようにもなっていった…。ヴァンスが美術館の面接があった当日も、朝早くからマーカムに呼び止められ、困る友人を放っておけず、事件現場に向かった為だった。

今ではアズール・ブルーは、探偵としても著名になった。しかし、ヴァンスはいわゆる「芸術家タイプ」だった。自分がイラストレーターとしてではなく、事件を解決したからと言う理由で有名になる事を、至極毛嫌いしていた。その為、彼は一部の真実を知る者以外に、決して自分の正体を明かそうとしなかった。
それは恐らく、彼がイラストレーターとして絵を描く中で、散々彼の分身である作品たちが、権力や金銭によって、平気で売り飛ばされてきた現実に、彼自身いい加減、嫌気が差していたせいだろうと思われるのだった…。



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02-貸し切りパーティー
ある日、博物館で遺跡の整理をしていたヴァンスの元に、隣接する美術館の学芸員ザリアがやって来た。

「実は貴方に相談があって。今度の火曜日に、美術館で貸し切りパーティーをする事になったの。その際に作品解説役を、貴方にお願い出来ないかと思って」
「今時、美術館を貸し切りだなんて珍しいね。一体どこの貴族だい?」土器の破片を眺めながらヴァンスは聞いた。
「ガーデン教授を知ってる?絵画に詳しいヴァンスなら、1度は聞いたことあるでしょ。あの教授と私の父が友人で、この会は教授の奥様の1周忌で内々で集まるそうよ。ガーデン夫人も美術品検査で、教授と共にとても貢献された方だから、父が2つ返事で引き受けたのよ」

ガーデン氏は、文化財の非破壊検査装置で著名な大学教授だ。特にX線による、文化財を一切傷つけずに貴重な遺跡や絵画等の検査に一躍買った人物でヴァンスも聞いた事があった。

「あ…でも解説なら君の方がほら、先輩だし…」
ヴァンスは乗り気がしなかった。バイトのヴァンスは基本、定休の月曜と翌日火曜が休みなのだ。折角この前、国立美術館のチケットの予約が取れて行こうと思ってたのだが…。
「何言ってるの、チャンスじゃない。ここで館長に一目置いてもらえば美術館デビューも夢じゃないわ!」
「そんな事言って。ガイド役を僕に任せておいて、君の本当の狙いはフロイトだろ?」
ヴァンスに指摘され、見る見る顔が赤くなるザリア。
「あ、あなたね…!いくら心理学部出身だからって人の心をいちいち読まないで頂戴!!」
「別に心理学を持ち出さなくったって、顔に描いてあるよ。それに大学時代からの“健気な片思い”だもんね」
「とにかくっ、お願いしたからね!!」
そう言うと、ヴァンスの返事も聞かないままザリアは部屋を出て行ってしまったのだった。ヴァンスが皮肉を言うのは、OKの返事だと言うことも、ザリアは大学からの付き合いで知っていたのだった。



さて、パーティー当日…美術館は昨日の月曜と今日の火曜は休館になっていた。運営の都合上、美術館が休館の時は、博物館も一緒に休館となるのだ。
(※補足…建物の地下1階の部分が、美術館と博物館がつながっており、出入口が美術館の方にしか無い為)

ヴァンスが美術館ホールに着くと、会場には、ケータリング・ビュッフェが用意され、ガーデン家の面々も集まっていた。

ザリアの父こと美術館長グレム氏と会話してるのはガーデン教授、その少し離れたところでは、フロイトとスラリとした見知らぬ美しい女性が、楽しそうに話をしてる。ヴァンスは、ザリアが見たら嫉妬しそうだなと思い、周りを見たがザリアは、まだ来てなかった。

その時、ヴァンスは名前を呼ばれ、その呼び名でギクリとした!
「おーい、“ブルー”。君も招待されてたのか?」

ヴァンスは、素早く身をひるがえし、声の主をホールの端まで凄まじい力で引っ張った。会場の片隅でヴァンスは声を潜めて叱った。
「マーカム君、僕に話しかける時は、その呼び名は使わないでくれって、いつも言ってるだろう。それともわざと意地悪でそう言って、僕の気を惹こうとしてるのかい?」
「あー、すまない。でもブルーの方が呼びやす…」
「ほらっまた…!」
丁度、そこへタイミング悪く(?)ホールの入り口にザリアが通りかかった。
「あら、マーカム検事。本日はご来館ありがとうございます。…ところで今、“ブルーがなんとか”って聞こえたんですけど、もしかして「彼が」今日ここにお忍びで来てるのですか…!?」
「いえいえ、グレムのお嬢さん、彼は今日ここへは来ておりませんよ。ここ最近はN市も平和ですし、彼も本業がありますからね」
マーカムは、チラッとヴァンスを見たが、彼はフロイトと例の美女の方を、眺めていた。
「もし、ブルーさんがいらっしゃいましたら、是非紹介して下さいね。彼とお知り合いだなんて、マーカム検事が羨ましいですわ。私、本当にもう彼の大ファンで…」
その時、ヴァンスはふと、つまらなそうに言った。
「ご覧、ザリア。君の愛しい思い人が、謎の美女と楽しそうにしてるよ」
そちらに振り向き、2人を見るとザリアは急にふくれっ面になり、ツカツカ彼らの方に歩いて行ってしまった。フロイトは、2人の女性の間に挟まれ、それぞれに弁明をしているようだ…。
「あぁ、気の毒なフロイト。三角関係の板挟みだね…」
「ヴァンス、君って奴は…」呆れるマーカム。
「ちなみに、ザリアには気の毒だけど、彼女がブルーとお近づきになることは永久にないよ。なんたってブルーは、決して自分の正体を明かしたりはしないんだから」
「彼女は良い子じゃないか。それに君の友人だろ?秘密をバラすような娘には見えないが」
「ザリアは八方美人だ。残念だけど、ああいう性格の女性は、こっちがそれ以上の秘密を握らない限りは、他人の秘密をうっかり話してしまうものなのさ」
皮肉っぽく言うと、解説準備の為、ヴァンスは裏方へ行ってしまったのだった。



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03-事故
N市立美術館には、様々な音声ガイドサービスが揃っている。
まず、通常の録音されたガイドを貸出の機器でチャンネルを合わせて聴く方法。
もう1つは、館内の放送室からガイド機器へ、無線と同じように音声を飛ばす方法。今日は人数も少ないので、客人全員にガイド機器を渡し、ヴァンスが放送で案内を務める形になった。

ヴァンスが放送室に籠もる前に、フロイトが話しかけて来た。
「今日は君が音声ガイドなんだね、楽しみだよ。ところで俺の弟を見かけなかったかい?」
ヴァンスはフロイトの自宅に何回か行っていたので、弟の顔は知っていた。そういえば今日はまだ見かけていない。
「スイフトだろ。僕は見かけてないよ」
「じゃあ、ザリアのところか…」
初めて聞く話にヴァンスは興味を持った。
「ザリアとスイフトは、知り合いなのかい?」
「あ…この事は、聞かなかった事に…って言いたいけど、君は隠すと逆に好奇心を起こして、色々聞いてくるから話すけどさ。実は…」

大学時代、ザリアとスイフトは、一時期交際していた時期があったらしい。しかしスイフトは道楽者でギャンブル好き、おまけにしょっちゅう浮気が絶えなかったらしい。
「弟と、その彼女だから、兄の俺が口出すのも変だけど、ザリアの事は俺も大学の知り合いだったし、彼女の相談を受けた事も度々あってさ、ザリアは別れたいって言ってたけど、スイフトはあの通り自信家だから、納得しなくて…俺が間に入って仲裁したんだよ」

(なるほど。それでその時にザリアはフロイトに惚れちゃったってわけだね…)口には出さなかったが、ヴァンスは察した。

「ザリアは今日は何をしてるんだい?」とフロイトが尋ねてきたのでスタッフ通路の奥を指して、事務室にいるよ、とヴァンスは言った。フロイトはお礼を言うと隣の部屋へ向かった。
(…君と美術鑑賞出来るのを楽しみにしてたのに、美人さんを連れてるから、すねてるよ…)とは言わないヴァンスなのだった。



さて、時間なので、ヴァンスは放送室のドアに鍵をかけてガイドを始めようとした時だった。誰が勢いよくドアを叩いた。開けるとマーカムで、彼は血相を変えて騒いだ。
「大変だ、ヴァンス。スイフトが地下の博物館で倒れてる!」
ガイドの仕事は放り出し、2人は地下の博物館へ向かった……



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04-容疑者は、ザリア?
N市立美術館は何回か改装を経て、現在の姿になったが、特に改築工事で変わったのは建物内部だった。

design

放送室の位置は、丁度スタッフ通路の真ん中辺りだったが、美術館側を通ると、他の来客者の目もあるため、ヴァンスたちは事務室の階段から地下へ行った。天井は高く、現在はエジプトに関する展示がされていた。装飾品のガラス展示、パネル展示、様々な遺跡からの出土品、そして事務室の階段から1番離れた、大型の石棺等を展示している、第1展示室にガーデン家の人々が集まっていた。ガーデン教授、例の美人秘書、フロイト、そしてザリアもいた。

スイフトもいた。しかし彼は床に仰向けに寝かせられていた。頭には、誰かの女性物のハンカチがあてられて、微かに香水がかおった。それは血で染まっていた。どうやら額を怪我してるらしかった。しかしスイフトは意識がはっきりしてないようだ。
フロイトはヴァンスとマーカムの方へ駆け寄って声を潜めて、成り行きを説明した。
「あれから事務室に行ったら、ザリアもスイフトを探しててさ、ガイド機器を渡したいけど、まだ来てないって言うから、2人で美術館の方に向かったんだ。今日は博物館は休みだから、こっちを通って…。そしたら石棺の中に、スイフトが倒れてたんだよ…」
間もなく救急車が来て、スイフトは、運ばれていった。彼は意識がもうろうとしていた為に、結局彼から話を聞けなかった。
救急車が来た事で、美術館の他のお客さん達も心配をし始めた。主催側のガーデン教授の身内に事故が起きたので、この日の集会はこれでお開きになり、他の来客は帰って行ったのだった。

それからしばらくして、ヒース刑事がやって来た。今日は非番だが、マーカムが電話口で相談したら、事件性も感じられた為、様子を見に来てくれたのだった。
「おやっ部長さん、せっかくお休みなのに来てくれてありがとう。でも事件性は無いみたいだよ…」
「そんな事言って、ヴァンス。君はさっきから現場を丹念に調べてるじゃないか」マーカムは言った。

ヴァンスは石棺の展示に付属されてた、ずれたフタを直し、中を覗き込んだ。ヴァンスが軽々と石棺のフタを持ち上げて見せたので、マーカムは最初、ぎょっとしたがよく見るとそれは石目柄がプリントコーティングされた木製の厚い板なのだった。
「あぁ、ネタバレだね…会期中はくれぐれも秘密厳守で頼むよ。本物のフタは非公開なんだ。壊れやすいし、うっかり人間が下敷きになったら大変だからね。誰も触れることがないから、模造品を展示してるんだよ」

「ヴァンスさん、何か気になるなら私の権限で、彼らから話を聞き出すことも出来ますが」ヒース部長は、ガーデン家の人々をチラッと見た。
「そうだね。そうしてもらえると事故だって事を、よりはっきりと証明できるかも」
ヴァンスたちは、ガーデン家の面々から、スイフトが見つかるまでの行動を尋ねることにした。



ガーデン教授と美人秘書(名はバーニス嬢。教授の研究室の優秀な助手)は、ホールにずっといて、今日は閉まってるはずの博物館から昇ってきたフロイトから、事情を聞いて、地下に来たと言う。フロイトとザリアは、事務室の方の階段から降りて来た時、血を流して倒れたスイフトを見つけた。
「なるほど、事故のようですな。今日は博物館は閉館で照明も暗いですし、スイフトは慣れない展示室でつまづいて、石棺に頭から飛び込んでしまったようですな」ヒース部長も納得した。

ヒース部長が皆に話を聞いてる間、ヴァンスは、まだ石棺の周りを調べていた。石棺の脇には小さな箱のような物があり、スイフトがつまづいた際に、倒れたらしく、ヴァンスは元通りなおした。また、石棺の中から何かを見つけそれを拾うと、ハンカチに包んだ。
ヴァンスはフロイトに近づいて、話しかけた。
「スイフトは、いつもメガネをかけてるかい?」
「あぁ、外出の時はいつもかけてた…そういえば、あいつ、さっき眼鏡をかけてなかったよな…」

ヴァンスは先程、石棺の中から見つけた物をフロイトに見せた。それは眼鏡のレンズの欠片だった。
「これが石棺の中に落ちてたよフロイト…。眼鏡は無くなってるから、誰かが持ち去ったんだろう。ねぇフロイト、君はひょっとしてザリアがスイフトを殴った所を、偶然目撃したんじゃないのかい?」



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05-眼鏡の破片
フロイトは明らかに動揺した。
「何言ってるんだよ、ヴァンス…ザリアは俺と階段を降りて、スイフトがここに倒れてたのを一緒に見つけたんだ。スイフトは倒れた時に、怪我したんじゃないのか。どうしてザリアが殴ったなんて言うのさ…?」
フロイトは、展示室の隅のソファーで、座ってうつむいてるザリアをチラッと見た。
「スイフトの額の怪我は、転倒した時に出来たものではないよ。石棺の縁のどこにも血が付いてなかったし、仮に誰かから殴られた時の傷なら、前から殴られてるから、気をゆるしてる相手だって事だ。彼の額の、あの位置に怪我を追わせられるのは、この関係者の中では小柄なザリアしかいないんだよ」

フロイトは観念して話しだした。
「やっぱり君に隠し事出来ないな。そうだよ、スイフトの額の傷はザリアがうっかり殴ってしまったんだ。2人の間でどんなやり取りがあったかは、俺もよく分からない…あとでザリアから聞いてくれ。でもザリアはスイフトが意識がなくなる程、強く殴っちゃいない。俺が部屋に入った時、スイフトは「自分で」博物館の方へ降りていったんだぜ。その後、ザリアは怪我を負わせた事を気にして追いかけた。美術館への階段を上ろうとした時に、ザリアが石棺の異変に気づいたんだ。
「湿気が籠もるから開いていたはず」だとね。何とかこじ開けたら、中にスイフトがいたんだ。そういえば…スイフトが倒れていた石棺、俺たちが見つけた時にはフタが閉まっていたな。どうしてだろう…スイフトが自分で閉めたとも思えないし…」

そこまで言うと、フロイトはポケットから壊れた眼鏡を取り出した。
「隠して悪かった。でもあんな状況だったし、ザリアもわざとじゃないし、スイフトにも非があったんだ。疑われたら気の毒だと思って。俺もバーニスに、ザリアとの事を誤解されたくなかったし…」
ヴァンスは、眼鏡を調べながら尋ねた。
「バーニス嬢って、あそこにいるモデルさんみたいな女性のことかい?」
「あぁ、そうだよ。俺たち婚約してるんだ。今日はゴタゴタしてるから、また今度ヴァンスにもちゃんと紹介するよ」
照れくさそうに言うと、フロイトはバーニス嬢の元へ歩いて行った。そこへ、話をひと通り聞いたヒース部長とマーカムもやって来た。
「ヴァンスさんの言う通り、これは事件でも、何でもありませんな」
「そうだね。たったひとりの女性を除けばね。全く、今日はザリアは厄日なのかね……」
ヴァンスは、うつむいたザリアに気の毒そうに眼差しを向けて、つぶやいたのだった…。



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06-香水とハンカチ
ガーデン教授、フロイト、バーニス嬢の3人は、この後どうするか相談していた。ヴァンスはその話の中へ入り込んだ。
「すみません、帰る前にガーデン教授とバーニス嬢にも話を伺いたいのですが」
バーニス嬢は、チラッとガーデン教授の目を気にしたらしかったのでヴァンスは「すぐ済みますので、あちらへ来て頂けますか?」と教授とフロイトの間から連れ出した。

彼らから離れたバーニス嬢は、ようやく話出した。
「気遣って下さり、ありがとうございます。フロイトさんと私は今、デリケートな時期ですので…」
「フロイトからお2人が婚約してるとお伺いしてます」ヴァンスは穏やかに言った。
「はい…ところでスイフトさんの事ですが、先程刑事さんにも話しましたが、特に何もありませんが…」
「いえ僕がお伺いしたいのは、あなたとスイフトの事です。怪我をしていたスイフトにハンカチを渡したのはバーニスさん、あなたですよね?」
バーニス嬢は、ちょっと首をかしげた。
「いえ、私じゃありませんわ。ザリアさんではありませんか?」
するとヴァンスは諭すように穏やかに言った。
「あのハンカチには、微かに香水の香りがありました。ザリアは学芸員です。作品や展示品へ匂いが移ってしまうので、香水はご法度なんですよ。フロイトからスイフトが倒れてると聞かされる前に、1度スイフトと会ってますよね、その理由を聞かせて頂けますか?」
バーニス嬢は、残念そうにうつむいた。
「分かりました。教授とフロイトさんには、伏せておくという条件ならば…」

バーニス嬢はホールにいたが、化粧直しに1度席を外した。その際、地下から(しかも頭から血を流して!)階段を上ってくるスイフトが現れたので、驚いた彼女はとっさに彼と共に階段下へ降りたと言う。スイフトはバーニス嬢にも言い寄っており、今夜自分と食事に付き合え、断れば兄との結婚前に、ガーデン教授に自分との「有りもしない関係」を話すと言い、父は自分に甘いから嘘でも信じるだろうと、ともすれば脅迫めいた言い方をされ、怖くなったバーニス嬢は、その場から逃げ出したと言う。

「それから少しして、フロイトさんが教授と私のところに来て、スイフトさんが地下の博物館で倒れてると知らせてくれました。教授はフロイトさんのお父様ですし、大学ではフロイトさんとの交際は公にしてないので…伝統的な古い考えをする方々の中には、私が教授の愛人ではないかと…ささやく人たちまでいるんです。こんな大事な時期にフロイトさんに、在らぬ誤解を招きたくなくて…フロイトさんも、あのハンカチが私の物だとは気づかなかったので黙っていました…すみませんでした」
ヴァンスが話してくれたお礼を言うと、バーニス嬢は、深々と頭を下げると、彼女は教授とフロイトの方へ歩いて行ったのだった。



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07-家庭内秘話
ヴァンスたちは、文化財の検査装置の件と言う名目でガーデン教授を、資料が多く保管されて、やや狭い事務室の応接コーナーに呼び寄せた。

ヴァンスは話を切り出した。
「すみません、本当は事故の件でお伺いしたくて。まだ来客の目もありますし、教授には世間体もおありでしょうから」
「いえいえ、今日はうちの倅(せがれ)が、ご迷惑をかけました、昔からそそっかしい所がありまして…ところで先程お話しした通り、私もホールにいたので特にお話する事はないのですが、お伺いしたい事とは?」

「フロイトがバーニス嬢と婚約されてると、彼から伺いました。教授の周りに、この結婚を面白くないと思う人はいませんでしたか…例えば、この結婚にスイフトは実は、反対だったのではありませんか?」
すると教授は、戸惑ったような顔をした。
「あの、その話は事故と関係あるのですか…?」
「はい、私どもが見たところ、スイフトは怪我ではなく、故意に誰かに殴られたようです…彼が石棺につまづいたのは偶然でしょう。意識がもうろうとしていて、照明も暗く、彼は石棺をソファーと間違えたのです。休もうと寄りかかったら展示品だった…大きさや高さがソファーと似てますから…」

ガーデン教授はソファーに深く座ると、ため息をついた。
「そうですか…スイフトが兄の結婚を反対した気持ちは、分かります。ご存知のようにザリア嬢は、館長のグレム氏の娘さんで…彼は私の友人でして。以前、彼女とフロイトの縁談もあったんですよ。ただその頃、ザリア嬢はスイフトと交際してましたし、おまけにフロイトの方は、私の研究室助手のビートン嬢との、結婚前提の交際を希望したので、結局ザリア嬢との婚約話は、なくなったのですが…スイフトはザリア嬢とは上手く行かなかったようです…スイフトは失恋から、兄の縁談が面白くなかったのでしょうな」教授は遠くを見つめるような目で続けた。
「スイフトの事は、私も甘やかして育てたと、自覚しております。妻はスイフトを産んでから体調を崩しやすくなりましてね…夫婦で行って来た研究もありましたが、結局スイフトが生まれた後は、妻は研究者としての道を諦めました。妻はその分フロイトに期待をかけ過ぎたのか厳しく育てたようです…私の方は、仕事ばかりで忙しく、ろくにあの兄弟を構ってやれませんでしたから…フロイトはその内、私に反発するようになりました。ザリア嬢の縁談を避けたのも、私への反抗心が底辺にあったのだと思います。彼女は、フロイトに好意があったようですが、結果的に気の毒な事をしてしまいましたな…」

ガーデン教授が事務室から退室して、話を聞いていたマーカムはヴァンスに尋ねた。
「誰かが殴った、だなんて…君はやはり、最初からザリア嬢を疑っていたのかい?」
「マーカム君、結論にはまだ早いよ。ガーデン教授は口に出して言わなかったけど、内心はザリアを疑ってるみたいだね。はっきりと言えないだろうな、友人の娘さんで元縁談相手だから…」
ヴァンスは苦笑しながら言った。



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08-石棺のフタ
ヴァンスはソファーで伸びをしてから言った。
「僕は、石棺のフタを誰が閉めたか気になってるんだよ。教授はビートン嬢と一緒に来たから、そんな暇はなかったし…後に残るのはグレム館長だ。彼に話を聞いてみよう。もっとも…聞き方によっては、僕は首が飛んじゃうかもね。なんたって僕を雇ってくれた上司だ」
とはいえ、ヴァンスは全く動じていなかった。例えこのバイトがクビになっても、彼の本業は別にあるのだ。彼は職を失って困る事は特段何もないのであるが。

まもなくグレム館長がやって来た。娘のザリアが落ち込んでいるので、様子を見てきたという。
ソファーに腰かけると、館長は事件の様子を尋ねた。
「ザリアは、どうやら自分が疑われてるのではと、心配してるようです。スイフト君とトラブルがあったのも、あの子だけですから…ところでお話とはなんですか?」
ヴァンスは励ますように言った。
「ザリア嬢に罪があるなんて誰も思っていませんよ。むしろ皆さん、かえってザリア嬢を擁護(ようご)するような話し方でした。彼女の普段の人徳ですね。ところでホールでガーデン教授と離れてから、館長はどうされていましたか?」

「他のお客様と挨拶程度ですが会話を。その後、事務室によってザリアと今日の予定を話して、また美術館の方へ…そうだ、スタッフ通路でスイフト君とすれ違いましたよ。まあ、彼の事はザリアから紹介されて知っていましたし、時々事務室のザリアに会いに来てたので、特に気にしませんでした。それから展示室にずっといましたが、ガイドをしてくれるはずのヴァンスさん、あなたが放送室にいなかったので、探していたら地下であの騒動が起きました」
ヴァンスはお詫びした。
「仕事を放棄して申し訳ありません。マーカム検事が事故を知らせたので、そちらへ行ってました。ところで館長…今、騒動と言いましたがスイフトが怪我をした事故以外に何かありました?」
館長は、はっとしたようだったがすぐに言い替えた。
「スイフト君が怪我をした事は、充分に騒動ではありませんか…?今日の集まりは、後日仕切り直さなくてはいけませんし…せっかく来て頂いたお客様も待たせてはいけないと、今日はお引取り頂きました…」
ヴァンスはその時、ふと尋ねた。
「もし、博物館で怪我人が出たとなれば、展示方法が問題になって、明日は開館どころではありませんからね…しかし館長、あの木製のフタが「人力で動かせる」と知ってるのは、館内の関係者だけですよ。石棺の中に倒れたスイフトをとっさにフタで隠したのは館長ですよね?」

グレム氏は、うつむいた。
「あぁ、やはりヴァンスさん、あなたは気づきましたか。スイフト君を廊下で見送った後に、事務室に忘れ物を取りに行ったんです。すると頭を怪我したスイフト君が出て来たので、驚きました。とっさにザリアが殴ってしまったんだと思いました。事務室にフロイト君がいたので、私はスイフト君の方を追いかけました。すると、美術館に上がる階段のところで、ガーデン教授の助手の女性と何か言い争っていて、彼女が去った後で、いきなりスイフト君は石棺に飛び込んだんです。気絶したのか動かなくなり、もし、ビートン嬢が他の誰かを連れて、再び降りてきたら騒ぎになると思い、慌てて目の前にあったフタで彼を隠しました。もっとも、石棺のフタが閉じてた異変に気づいたのはザリアでしたが…。ザリアは何か事情があって、スイフト君を殴ったのだと思います…私は娘の過ちを隠そうと、とっさにあんな真似をしてしまったのです。申し訳ありません…」



さて、全員から話を聞いたヴァンスは、この事故が大体判ったと言い、マーカムにある事をお願いする。
「皆に配った音声ガイドを回収するんだ。そしてマーカム君、君だけはこの機器を身に付けて。僕が放送室でサポートするから、皆に事件の解説をして欲しい。「アズール・ブルー」は正体を明かせないからね。マーカム君、今日は君にガイド役をお願いするよ」



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09-真相の音声ガイド
マーカムは、スイフト以外全員に手渡されてた音声ガイド機器を回収すると、自身はイヤホンをはめて、姿を隠して放送室から音声ガイドで話すヴァンス(ブルー)の説明を皆に話した。それはおおよそこんな内容…

【今回のスイフトが怪我をした事件で思わぬ偶然が重なり、ある特定の人に自然と疑いがかかってしまう結果になってしまいました。私はここでその方を無実だと証明する為、説明することにしました。疑われたのは、スイフトと以前交際のあったザリア嬢です。
そもそもなぜ彼女がスイフトを殴った…と言う発想が出てきたのでしょう。2人がケンカして関係が壊れかけていた点、スイフトの自信家な性格にあったようです。フロイトはザリア嬢が殴ってしまった、と言い切りました。でもフロイトは2人のやり取りを一切見てません。おそらく以前のザリア嬢とスイフトのケンカを仲裁をした時の思い込みで、ザリア嬢が殴ったと思い込んだのです。しかし思うに、あの額の傷はスイフト自身が自分で付けたか(ザリア嬢との別れ話に納得出来ず、自信家である彼はプライドが傷ついて、やけになったか…)あるいは事務室の中は資料が多くて狭いので、慣れない場所故何かに頭をぶつけたと思われます。
それから、スイフトが握っていたハンカチですがこのハンカチはザリア嬢の物ではありません。なぜならザリア嬢は学芸員であり、多くの展示品を扱う者は香水の使用を禁止されてるからです。スイフトは気の多い男性でした。おそらく親切な別の女性から借りた物でしょう(この辺りの説明はビートン嬢との約束を守る為に省略された…)
そして石棺のフタについてですがスイフトを探しに地下の博物館へ来たザリア嬢とフロイトが石棺の異変に気づきました。フタは石棺に添えられていただけだったので、何かがぶつかった弾みで閉じてしまったのでしょう(館長がフタを閉じた事は伏せられた…)ぶつかったのはスイフト自身で、彼は頭に衝撃を受けていたのに、階段を降りたり、照明が暗い中を歩き回ったせいで、意識がもうろうとし、ソファーと見間違えた石棺に寄りかかってしまった…と言うわけです。ところで石棺の側には湿度計が置いてあるのですが、スイフトが倒れた前後の時間は湿度が変化してました。スイフトが石棺の中に入った事で展示品が湿度を含んだのでしょう。石棺のフタは木製で乾燥した木材は湿気を含むと急に膨張します。フロイトもフタを開ける際にひと苦労してました。スイフトはフタが開かなくなり焦って中で暴れたのでしょう。中の酸素も薄れて彼は気絶してしまったのです……】



マーカムの説明(ブルーの話で)ヒース部長も、この件は事故とした。そしてガーデン家の人々も帰宅して行った。スイフトは脳の検査も異常なく、額の傷も浅かった為、入院せず帰宅した。ただマーカムはイマイチ納得していないようだった。
「事故ならば、別にブルーとして説明しなくてもヴァンス、君が解説しても良かったじゃないか…?」



閉館時間になり、館長は残った雑務があると言うのでヴァンスとザリアは先に帰る事になった。ヴァンスはザリアを家まで送ると言ったが、ザリアは最初断った。しかしヴァンスが「話したい事がある」と言うのでしばらく美術館がある公園の敷地を一緒に歩いた。

「今日は大変な1日だったね…ところでフロイトが以前、君とスイフトがケンカした時にスイフトを殴ったと言ったけど、あれは本当なのかい?」
「全くフロイトってば余計な事を…ええ、本当よ。だって、スイフトが分らず屋なんですもの」

いい年した男女が取っ組み合いまでして、まるで子供のケンカだな…ヴァンスは含み笑いを抑えつつ聞いていた。ザリアは続けた。
「マーカム検事が私を無実と証明してくれたのは、本当にありがたかったわ。だってあの事故は、少し見方を変えれば明らかに私がスイフトを意図的に殴ったように見えたもの……でもマーカム検事はイヤホンをはめていたわ。本当に真相を説明してくれたのは、実はブルーさんだったんでしょ?」
ヴァンスはちょっと考えて言った。
「マーカム君の手柄、と言いたいところだけど…そうだね、僕もブルーと一緒に放送室にいたから白状するけど、あの真相解説はブルーがしたことだ。ちなみにザリアがブルーの大ファンだって伝えておいたよ。全くブルーの奴も自分のファンには甘いんだから。ブルーのファンであるザリア嬢のピンチだって聞いて、真相のガイド役を引き受けてくれたよ」

ザリアは、ふと立ち止まってヴァンスを見つめた。
「ブルーさんは、本当に私が無実だったって信じていたの……?」
「うん、ブルーは君の無実を信じてた。少なくとも僕にはそう見えたよ…でもどうして?」

するとザリアは、クスッと笑うと言った。
「男の人って、本当に勝手よね…言葉では「君の為に」とか何とか言っておきながら、結局は自分の見栄の為なんだもの。本当勝手過ぎて、笑っちゃうわ。ねぇヴァンス、あなたもそう思わない?……いいえ、探偵のアズール・ブルーさん、と言った方が良いのかしら?」



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10-お互い様の秘密
正体がバレたのに、ヴァンスは大して驚きもせずザリアに尋ねた。
「いつから、僕の正体に気づいたんだい?」
「さあ、いつからかしら?ずっと前から…と言ったらあなたは驚くかしら?」
ヴァンスはゆっくり歩きながら、気軽な雑談をするように話した。
「いや、君が気づいたのは今日さ。正確に言えばスイフトが救急車で運ばれた後だろうね。音声ガイドの電波は救急車等の緊急の公共電波を優先して、妨害しないように設計されてるから。僕はマーカムに呼ばれて、イヤホンマイクを付けたまま地下の博物館へ行った。君はスイフトに怪我させた事を気にして、ずっと大人しくうつむいてたけど、実は僕やマーカムの会話を音声ガイド(スイフトに渡すつもりだった分)のイヤホンで聞いていたんだ。マーカムは時々、僕を「ブルー」と呼んでしまう癖があった。2人きりの時に、うっかりそう呼んだとしても不思議じゃない。まさか誰かが僕らの話を盗み聞きしてるなんて思わないだろうから」

ヴァンスが意外にも動じてないので、ザリアは少しムキになって言った。
「でも聡明なブルーさんならば、それも計算済みだったんでしょ。ガイド機器が1台なくなってる事は、ヴァンスが放送室に入る前に、既に気づいてたはずよ。なぜ私にわざと正体をバラすような真似をしたの?」

ヴァンスは諭すように穏やかに言った。
「それはね、ザリア。君がスイフトを意図的に殴ったからだよ。スイフトは君に殴られて怪我をしたのさ」



(……もうすぐガイドが始まる時間だった。ザリアは事務室にスイフトが来るのを待っていた。もうガイドが始まるのに、スイフトってば時間にルーズなんだから…ザリアは少し苛立った。そこへスイフトが来た。彼が裏方まで来れる権限があるのは、父の友人、ガーデン教授の息子だからであるが、既にスイフトが元彼であるザリアにとっては迷惑な行為だった。ガイド機器を渡したら、すぐ展示室に行くつもりだったザリアをスイフトは引き留めた。彼は相変わらず、君とやり直したい、君の為なら何でもすると、よりを戻したいと迫った。ザリアはうんざりし思わず、私が好きなのはフロイトであなたじゃない、あなたは私に好かれてると勝手に思い込んでるだけと言ってしまう。その言葉で逆上したスイフトは、突然ザリアを応接室の奥に引きずり込み、ソファーに押し倒した。嫌がるザリアをスイフトは力尽くでものにしようとした…以前も同じ被害にあいそうになったザリアは、隠し持っていた武器でスイフトを思い切り殴ったのだった……)



ヴァンスがひと通り説明するとザリアは反論した。
「でもそれなら、スイフトが後で私に殴られたと自分から言い出すはずだわ…」
「それはあり得ないよ。スイフトが自分からネタをばらしてしまえば、君を束縛するものがなくなってしまうからね。君に殴られた事を黙っていれば、後々この件で君とよりを戻すか、悪く言えば君を脅す事も出来るからさ」

すると、立ち止まってヴァンスはザリアを見つめた。
「それは当然、僕にも都合が良い話だ。ザリア、君に正体をバラすような真似をしたのは僕も君の秘密を握ってると教える為だよ。僕は君がスイフトを殴った武器が何であるかも判ってる。約束して欲しい、僕がアズール・ブルーだと言うことを決して誰にも明かさないでくれるかい?」

ザリアは、クスクス笑って答えた。
「バラしたりなんかしないわよ。少なくとも敬愛するブルーさんとお近づきになれたんだもの。でも、私がスイフトを殴った武器は、きっとあなたは見つけられないと思う。私が、絶対見つからないところに隠してしまうから……」

ヴァンスはイタズラっ子をなだめるように言った。
「……ところで話がちょっと戻るけど、君は先日、博物館の資料の一部を盗んでいっただろう?復元していた土器の破片が1ピースだけどうしても見つからないんだ。沢山有り過ぎて1ピース盗んだくらいじゃバレないと思ったんだろうけど、そんな事はない。それぞれのピースはあるべき場所に収まって完成するように出来ている。僕があの資料室で会った人物は、君しかいない、つまり君が持ち去ったんだ。破片を返してくれるかい…?」

「やっぱり、ブルーさんには敵わないわね……」
そう言うと、ザリアはポケットからハンカチの包みを取り出した。拡げると、そこには土器の破片があった。それは先日、ヴァンスが博物館の資料室で組み立てて復元していた土器で、破片は仕上げる為の最後の1ピースだった。破片には、乾いた血が付いていたのだった……。



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11,-エピローグ~セザンヌの絵画展
「お待たせー、ヴァンス」
「いいや、僕も今来たところだよ」

今日は、ヴァンスもザリアも休みだったので、2人で国立美術館に来ていた。ザリアは、ヴァンスがガイド役を引き受けてくれた事のお礼に(ガーデン家のパーティーは、後日改めて開催されて無事終わった)、ヴァンスが行き損ねた国立美術館のチケットをザリアはプレゼントしたのだった。なかなか予約が取れないので諦めていたヴァンスだったが、ザリアが館長の父親のコネで2人分のチケットを確保してくれたのだ。



さて…あれからどうなったかというと、フロイトとビートン嬢は父親であるガーデン教授を説得し、無事に結婚する事が出来たと言う。フロイトは長年の父へのわだかまりも溶け、両親が諦めてしまった研究をビートン嬢と共に継続すると父に約束した。ガーデン教授には願ってもない親孝行だった。

また、回復した後のスイフトは、少しの間ザリア嬢に未練があったようだが、ある時、競馬でスイフトご贔屓だったサラブレッド「イクミアティ」が1着大当たりを出したので、思わぬ財産を手にした彼は、もう自分に興味のないザリア嬢の失恋など、あっという間に忘れ、諸国放浪の旅に出て行ったのだった。彼は家族に時々、手紙を寄越しているが当面の間、N市には帰るつもりはないようだった…。




国立美術館の入り口で音声ガイドを借りたヴァンスとザリアだったが、例のセザンヌの水彩画の前では、ヴァンスは、ザリアからイヤホンを外させて、その作品の素晴らしさを語り出した。

すると、周りで鑑賞していた他の客たちまで、ヴァンスの話に耳を傾けて熱心に聞き入るので、遂には、まるでヴァンスが本当に、この国立美術館の作品解説者であるかのような状況になってしまったのだった。

夢中になってセザンヌの水彩画の魅力を、楽しそうに話してるヴァンスを、ザリアは微笑みながら見つめていたのだった……。




《終》





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~colophon~

{◎m(_ _)m読んで下さりありがとうございます。
ぇ……ここまで来たという事は読んで下さったんですか!?お疲れ様でごさいます!!


この話を最初に書こうと思ったのは、原作の『ガーデン』を読んだ際、ヴァンスが気の毒だなと感じて…「ヴァンス&ザリアっていいカップルになりそうなのに」と思ったからです☆原作のヴァンスは特定の職業に就いてません。趣味で翻訳や遺跡調査をしてる事から博物館員にしました。同僚として「紫館誘拐~」フレイムの事を出そうと思いましたが出番がなく、やめました…(ヴァンスの紹介した医者のおかげで治療が上手く行き、博物館で勤務している)


個人的に、実はヴァンスは本当は職業もあるし、独身(…という事になってるが)欧州の辺りに家族等もいたのでは…?しかし身分を明かせない立場なので、ダイン氏がヴァンスのプライベートな記述をわざと避けたのではないかなと…なのでこの話では、彼は別の顔を持っていて(△この話だけの設定です!!)正体は数々の難事件を解決してる大人気イラストレーターのアズール・ブルーという事にしました。原作には芸術鑑賞はしても彼が絵を描く…という描写はどこにもないです。


あと…ヴァンスが実は今までの事件関係者たちの秘密を握ってる…という設定は、賢いヴァンスが自身の秘密を守る為の切り札を用意していそうだと思ったので。今まで数々の事件を解決したヴァンスの事を、関係者たちは「本当に」秘密にしてくれたのかなぁと…ちょっと疑ってます。今の時代だったら何かしら情報が漏れそう…(ハリポタの原作者様だってペンネーム変えたのに、結局正体バレちゃったし!)新聞を騒がす程の大きな事件を扱った彼なのに、ただ口止めしたぐらいで関係者たちが皆、黙ってるばかりの良い人だけとは限らないだろう…と思って。蛇足的な設定です。


それとマーカムが正体を隠したヴァンスの音声ガイドによって事件を解明…この辺は正直、名○偵コナ○のパクリです……◆…余談ですがあのアニメは初期の方が個人的には好きです。年数を重ねたら(時代に沿った作り方なので仕方ないかもしれませんが)変な設定がどんどんが追加されて、あの姉妹の生い立ちを見たら可哀想で見てられなくなってしまいました…劇場版も初代「時計じかけ~」に勝る作品はないなぁと感じます。コナンこと新一が蘭を救出に向かう場面と、ラストで蘭が「あの色」を選ぶ理由がステキ(ネタバレなので色はヒミツ)


ラストでヴァンスがザリアのお誘いでセザンヌ絵画展へデートに行く…と言う筋書きは『ベンスン~』の冒頭でヴァンスが以前から欲しがっていたセザンヌの水彩画が事件現場に呼びつけられた為、手に入らなかった…と言うエピソードからです。事件を解決したのに、ご褒美なしなんて、かわいそうだなぁと思い。あと…ザリアとデートさせたかったんですぅ~
(人´∀`).☆.。.:*・゚(少女漫画風)


なお、原作ではヴァンス、マーカム、ヒース部長らの恋愛描写は一切ありません。なぜならご存じの通り、ダイン氏が恋愛要素を小説に持ち込まない事を自身の規則のひとつとしていたからです}



~Materials&References~
※省略「NOVELDAYS」のみ公開.

{◎読んでくださりありがとうございます}

(再掲)******
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