-短編-未完成作品
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呼吸が妙に、不規則で。
いや、違う。
呼吸をしているという感じではなく。
呼吸が出来ないまま、段々と身体を丸めていっている。
小指を握るその手が震え、その手には徐々に力が入っていく。
「…っ」
喉元で何かを呻く様に、しかしその声は聞こえない。
苦しそうなその声に違和感を覚えて、思わずレオンは上半身を起こし隣で眠る幼い少年の方へ向いた。
「殺さない…っ、で……っ」
悲痛な声が、室内に小さく響いている。
「お願、い…」
うまく呼吸が出来ないまま。
「[#da=1#]…お願い…っ」
呼吸が段々と浅くなって。
身体が仰け反って、右手が胸の中心辺りを強く掴んだ。
それは心臓の位置に、ほど近い。
「おかあさ、ん…ころさ、な、いで…っ」
上手く息を吸込めない様子で。
左手は、レオンの小指を強く握って。
閉じた瞳から涙が溢れて。
「……[#da=1#]…っ」
絞り出す様な、消えそうな声が、その耳に届いた瞬間。
「[#da=3#]!」
覆い被さる様に身体に跨った大漢の左手が右肩を強く掴んだ。
「っう…!」
まるで電気が走り抜けた様に身体が大きく波打って、[#da=1#]は意識を取り戻して。
自分が何処にいるのか。
ここはどこなのか。
酸素を求めて大きく息を吸って。
呼吸が乱れて。
普段あまり感情を表に出さない幼い少年が、レオンの真下でぼろぼろと涙を流している。
あれが夢だったと気が付いた後でも、まだ[#da=1#]の呼吸は落ち着かない様子で。
「――[#da=1#]…」
目の前で涙を流す子供を抱き締めた。
軽い身体はベッドから少し浮き上がった。
そんな些細な事など、どうでもいい。
「大丈夫だ、」
レオンの声は悲痛さを帯びて。
「ゆっくり、息をしろ」と声を掛ける。
愛娘と重ねてしまったのだろうかと、ふと思う。
いや、そんな。
レオンにとって、大切なのは彼女だけ。
の、筈なのに。
涙を流す少年に心を震わせてしまう。
心が奪われてしまう。
体温を苦手とする小さなその生命を、この腕でゆっくり、そして力強く抱き上げた。
「ん、う…」
少年が小さく声を上げる。
同時に脱力していくのが分かって。
意識を手放した事がはっきり分かる。
体温が苦手な[#da=1#]は何故か、抱き締められて体温が全身に巡ると、その現実から逃れる様に意識を手放す。
最近何度か試しただけだが、体温が苦手な[#da=1#]にとって抱き締められるという行為は非常にハードルが高いものだ。
ただ抱き締めるだけでは、幼い少年はただただ恐怖で取り乱してしまうだけだ。
抱き締めるという行為は非常にハードルの高いものだ。
しかし万が一何かあった場合を考えて今後の為に『試験的に』という名目で何度か試しただけだったが、試している限り[#da=1#]が腕の中で意識を失う瞬間がある事に気が付いた。
腰元から背中へ沿う様に腕を添わせてゆっくりと抱える。
肘を身体に当ててから隙間の無い様に腕を這わせ、肩甲骨辺りを掌で支える様に抱き締めてやる。
と。
身体から力が抜ける様に脱力して意識が飛ぶ。
抱き締めたその小さな身体をゆっくりと離してやると、先程まで乱れていた呼吸も少し落ち着いていた。
抱える様にして抱いていた身体を腕から離してベッドへと降ろしてやる。
この間レオンの右手の小指はずっと[#da=1#]の小さな左手が握っていたが、脱力したその手はベッドへ寝かされた時に一度離れてしまった。
解放されたレオンの右手が[#da=1#]の髪をゆっくり撫でてると、髪はさらりと指から流れていった。
「…ここまで取り乱したのは、久し振りだな」
心深くに傷を負うのは目の前の少年だけではない。
同僚である彼らも。
すれ違うだけの人々も。
そして難病で愛娘はこれから先苦痛を伴う瞬間が必ずある。
ベッドサイドへ置いた煙草を手に取って、火を点けながら一日を振り返る。
これほど取り乱すきっかけになる事柄が、何かあったのだろうかと考える。
自分にとって大した問題ではないが、人にとってはとても大きな問題である事柄はある。
しかし日中共に行動していた[#da=1#]が大きく動揺した様子は無かったし、思い当たった瞬間も無い。
――…だとしたら夢かもな
まあ胸糞悪い夢を見る事は、レオンにもある。
深く吸い込んだ煙を、ゆっくり吐き出した。
「俺が手が届く範囲にいる間は、ちゃんと護ってやるから」
普段あまり『こちら側』に居られないレオンにとって、娘以外に心配事が増えてしまった。
護るものが、一つではなくなってしまった。
「――[#da=3#]」
静かに寝息を立てる少年が。
いや、神に性を偽る少女が。
これからも悪夢に魘される事実は避けられないだろう。
だが、こいつに手が届く間だけは。
護ってやれたらと窓の外の月を見た。
ああ。
主よ。
ロクでもねえ神様よ。
今だけは、お前に祈るぜ。
これからも娘を。
こいつを、相棒を――護ってやってくれ。
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