-短編-未完成作品
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「いやいや俺が女装は流石に気持ち悪いだろ!」
「肯定。骨格的に卿では不審者か異常者だ」
「おい聴こえてるぞ拳銃屋」
すかさず突っ込むと、レオンはため息をついてソファに身体を預けた。
「私が女装したら身長的にそれは大女ですし…それにヒールなんかで歩いたら私絶対骨折しちゃいます…っ!」
「いいから、早く決め給え…」
「体形体格身長的に[#da=1#]・[#da=2#]神父が適任だ。可及的速やかに退院の手続きを取る事を推奨する」
「あ、そうですね![#da=1#]さんがいるじゃないですか!」
「成程な…標的も若い相手が好きみたいだからな、スムーズに滑り込めそうだ」
「[#da=1#]君か…しかし本人が何て言うかね」
「時間が無い。俺は直ぐに研究施設に向かう」
トレスは素早く扉へと向かった。
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扉に付いたベルが高い音を立てて鳴った。
小柄な神父が大漢に引かれる様にして入ってくる。
「よう、居るか?」
少し大きめの声で呼びかけると、中から一人の…男性?
いや、綺麗にめかし込んだ店員が「いらっしゃい」と言いながら姿を現した。
顔を見るなり「あら」と、声を上げる。
どうやらレオンとその店員は見知った顔の様だ。
「随分とご無沙汰だったじゃない?」
ああ、とレオンが笑う。
「すまねえな、忙しくて」
「デキる男はつらいぜ」と口の端を吊り上げる。
「こいつに一式頼むわ。上から下まで、な」
レオンの僧衣の端を持ったまま、生地が並んだ棚や飾られている衣類を見上げながら不安そうにその身を寄せていた[#da=1#]の身体を店員へぐっと寄せる。
身体が重く感じるのは、恐怖からか不安からか、やや抵抗の色が浮かんでいるからだろう。
足で踏ん張る様に前に出るのを拒んでいた様子だったがレオンにとって、こんなもの何という事は無い。
しかし気持ちは分かる。
不安である事が窺えた。
「この子に一式?ははーん、惚れちゃったのね?」
揶揄う様な表情でレオンを覗き込む店員に「バカ、仕事だ仕事!」と返す。
「『女』に見える様に仕立ててやってくれ。男の目に留まる位のな」
「この子を『女』に仕立てるの?」
ツカツカと寄ってきて「まあ素材としては綺麗だけど…」と[#da=1#]の顔を覗き込む様にする。
顔を近付けて、店員はやや違和感のある顔つきになった。
肩を上げる様にしてレオンの方に後退った。
背中にレオンの身体が当たっても、助けを求める様にその身はくっついてくる。
恐怖の度合いが違うのだろうか。
それとも、訓練の成果なのだろうか。
僅かに身体が震えているが。
「俺の隣を歩かせるんだ。『綺麗に』仕上げてくれよな?」
声を掛けられた店員はレオンの方へと顔を上げる。
「それと…余計な詮索はするなよ?」
「余計な詮索?」
店員が眉を顰める。
それ以上は言わなかった。
「仕事の話はできねえからな」とぼかしつつ笑うレオンに「まあそうでしょうけど?」と、店員もつられて口元で笑った。
「じゃ、頼んだぜ?俺は飯でも食ってくるわ」
くるりと身体を反転させて扉に向かうレオンに「ガルシア神父…っ」と、不安な様子で声を上げる。
身体を落とし、視線を合わせると言い聞かせる様に「大丈夫だって、…こいつは信用できる」と笑い掛けた。
「こいつの、カロエラの仕事は完璧だからな」
不安が隠しきれない様子で下を向いた[#da=1#]の髪に手をやる。
ぴくりと小さく肩が跳ね、レオンの方を向く。
カロエラと呼ばれた店員は、準備に取り掛かりながら、そのやり取りに気付かない振りをしていた。
メジャーやペンなどを一式を手に、こちらへと向かってくる。
「一時間位で戻るからな」
つまり、そういう事だ。
カロエラにそういうと「随分急ぎなのね」と、ため息。
出て行ったレオンを見送ってから[#da=1#]へと向き直る。
「いつもこうなんだから。さ、時間が無い様だからすぐ始めるわよ」
背中を押す様にして奥へ引き入れる。
カーテンを引いて「さ、どんどん脱いで頂戴」と無駄な動き無く上着を取った。
しなやかな指使いだが、この手は男性の手だ。
僅かに躊躇うと、店員は笑った。
「いい?採寸をするのに数々の裸を見てきたわ。人間なんて、服の為の素材なのよ?貴方だって素材」
一息にそう言い切ってから「さ、脱いで」と促さる。
一呼吸置いて、覚悟を決めた様に[#da=1#]は僧衣を脱いだ。
薄い生地が胸の部分を隠している。
肌に合わせた色で、じっくり見ないと分からないが、胸の膨らみが幼いながら伸縮しない布で隠されている。
という事は、やはりさっき感じた違和感はこれだ。
つまり、そう。
目の前のこの幼い顔立ちの神父、[#da=1#]は女性である。
――ああ…『余計な詮索』って、これの事…
レオンは知った上で、彼を『男性』として接している様だった。
店員は手際よく採寸をしながら「優しいじゃないの、レオン?」と心の中で笑った。
「人間は服の為の素材」と言い切ったカロエラはサイズを測り切る。
「うちの針子達は皆優秀だからね、これを着て待ってて」
肌に当たる布の感触が心地よい。
するりと肩を流れていく布は、よく見るとシルクのガウンだった。
「そこで座って待っててね?」
傍のイスへ誘導すると、すぐにカロエラは奥の扉へと消えて行った。
『さあ、始めるわよ小鳥たち!』
声だけが聞こえる。
可愛らしい女性たちの声が6人ほど聞こえてきた。
生地を選ぶ声、裁断する音が聞こえると、程なくしてミシンの音が忙しく走り始める。
その音を扉のこちら側で聞きながら、窓の方へと目を向ける。
窓の傍まで棚が置かれ、出番を待つ布達が沢山整列していた。
窓の向こうでは人が流れて、風が吹いている様子。
楽しそうに子供たちが走っている。
椅子に座っているより、窓の方に寄りたい。
だが、こんな姿で窓辺に近付くのも気が引ける。
そのまま椅子で時間を過ごすしかないのだ。
耳を扉の向こうへと傾けながら、手触りの良い布を撫でる。
背もたれに身体を預けて、天井を見ると、気が付かなかったが装飾を施された小さな電球がぶら下がっていた。
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時間は1時間と30分程。
レオンは少しゆっくりと時間を潰して帰ってきた。
[#da=1#]はすっかり僧衣を着込んでいた。
「あら!残念だったわね、もう試着終わっちゃったわ」
「流石だな、カロエラ。恩に着るぜ」
「いい素材だと、気合の入り方も違うのよ」
「小鳥たちも頑張ってくれたしね」
途中出てきた可愛らしい6人とも挨拶が出来た。
「まあ、本番は俺とずっと一緒だからな」
「あら妬いちゃう」
「まあまあ」と笑いながら、レオンは「『若い燕』でも用意するから」と続ける。
「あらっ」
カロエラが大きなその瞳を更に大きくする。
突然[#da=1#]を、レオンの傍から引き離した。
「私、この子が気に入ったんだけど?」
しかしレオンはその手を振り払うと自分の方に引き戻す。
「残念だったな」と、自分の方へ引き寄せる。
バランスを崩すその身体を支えて、レオンは「こいつは俺のだからな」と言い切った。
「えー!何よ!こんな良い子をオアズケにするなんて!」
不満を訴えるカロエラの手がレオンの胸倉を掴んで怒鳴る。
「うるせー!俺の相棒に簡単に手ェ出そうとしてんじゃねえ!」
同じくカロエラの胸倉を掴んで、レオンも怒鳴る。
後ろの扉が開いて『小鳥たち』と呼ばれていた針子さん達の内の一人が、荷物を抱えて寄ってくる。
反対の手で後ろ手に受け取ったカロエラが胸元に押し付ける様にしてレオンにその綺麗にラッピングされた荷物を渡した。
「ふんっ!『若い燕』の件は、約束したわよ!」
「分かってるよ!ったく…おっと、じゃあ行くか」
後ろの時計を目にしたレオンは、列車の時間が迫っている事に気が付いた。
少し慌てた様子でその荷物を受け取って、レオンは[#da=1#]の僧衣の袖口を掴んで扉へと足を進めていく。
最初こそバランスを崩したものの、[#da=1#]はレオンに引かれる様に足を進め始める。
慌ててカロエラに向かって頭を下げると「じゃあね、[#da=1#]!いつでも来てよ!」と声が追い掛けて来る。
「馬鹿野郎!お前には『燕』連れて来るから!こいつは絶対一人じゃ来させないからな!」
「あんたに!言ってないわよ!!」
「うるせーぞ!またこいつ連れて来るからっ!」
「絶対よ!来てよ![#da=1#]連れて来てよ!」
言い合いをしながら扉をくぐり抜けて、レオンは急ぎ足で進む。
[#da=1#]の袖口は離さなかった。
「ガルシア神父、あの…荷物…」
持ちますと言っているのに、結局レオンは荷物を渡してくれなかった。
それどころか「早く駅に着かねえとまずいから、急げ!」と容赦なく手を引いてくる。
時間が迫っている事が窺えた。
日照時間が少し短くなったのかとぼんやり考えつつ、[#da=1#]は引かれるままに足を進めて行った。
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列車には間に合った。
しかし、疲れからかレオンは欠伸ばかりしている。
任務に支障があってはいけない。
少し眠るかと考えつつ。
[#da=1#]へと目をやった。
着いたら起こして貰えばいい。
「ん?」
思わず声が出る。
疲れたのは、[#da=1#]も同じだった様だ。
幼い顔立ちの神父は窓の方へ向いて、身体を壁に預け切って眠っていた。
よっぽど気疲れでもしたのか。
それともここまで急いで来たから疲れてしまったのか。
眠っている彼を無理矢理起こして聞く訳にもいかないので、レオンは幼い顔立ちの神父が抱えている荷物を慎重に抜いて手元で抱える。
[#da=1#]が抱えていた時は大きく見えたが、自分が抱えてしまえばさほどの大きさには見えない。
僅かに身じろぐその姿に魅入ってしまう。
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