-短編-未完成作品
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ベッドには丸く小さくなった黒い影。
大型犬の様な丸い塊の傍らに、置物の様に立ったまま待機している、小柄な男性。
僧衣に身を包んだ、隙無く刈り込んだ短髪の神父――トレス・イクス神父は、僅かな機械音と共にベッドの方へと目を向ける。
大型犬の様な丸い塊から呻き声に近い声が聞こえてきた。
仔犬の様な鳴き声を発する大型犬の様な塊。
その内塊から細く小さなものが生まれ出る。
その白く細いものが指先である事はすぐに確認できた。
左手が何かを求めて小さく動く。
「ん…っ」
瞳を器用に隠していた髪がさらりと落ちて白い頬が見える。
うっすらと瞳を開けると、赫く血の様な瞳が覗く。
ただあまり意識も無く朦朧とした表情の子供は、そのまま再度瞼を閉じてしまい、瞳はもう開かない。
僅かに時間を空けて、浅い呼吸が聞こえてくると「意識消失を確認、」と短く発言する。
目の前で眠っている幼い子供は、23分と38秒前、確かに銃を向けた。
繁華街へ出て訓練と称し人の多い所へ出た。
徐々に呼吸が短くなっていき上昇していく体温にパニック状態になった為小道に入り猟犬は躊躇いなく発砲を行ったのだ。
小さく幼い子供は、神父として歩み始めてまだ半年。
一度短く刈った髪も少しずつ伸びており、その髪は順調に伸びている。
幼い子供を抱えてすぐに滞在先へ戻ったがその間意識は飛んだままで抵抗も無い。
力なくぐったりとしてトレスに荷物の様に抱えられていた少年は負傷した部分が薄く光を帯びていたが、トレスが僧衣を深く掛けてその部分を隠す様にして運んだ事もあり、周囲からの不審な目は回避する事ができていたと推測される。
喉奥で何かを言いながら、左手が何かを求めて動いている。
機械音が微かに聞こえる。
トレスは何を思ったのかベッドの傍へ寄って際で立つと「問題ない、俺はここで待機している」と短く告げる。
それは周囲から聞けば実に抑揚の無い発言ではあったが、その言葉が合図になったかの様にゆっくりと小さな手がトレスに向かって伸びてきた。
意識があるか曖昧ではあるが、やがて幼い子供の手がトレスの僧衣へと辿り着く。
しかし意識がある様子はない。
まるで仔犬が泣いているかの様にか細い声で何かを言っているが、トレスはそれ以降何も発言せずまるで置物の様にぴたりと動かなくなった。
トレスの僧衣の橋を握った小さな手の主はいつの間にか呼吸が少しずつ落ち着いていく。
いつの間にか始まった行為だが、トレスはカテリーナの命により[#da=1#]とは日頃よく行動を共にしているのでこうしてやる事が一番安眠に繋がる事もよく認識していた。
静かになった空間で浅く呼吸が聞こえている。
幼いその手を握る事はない。
ただ、この小さな手がトレスの僧衣の端を握っていても振り払う事はしない。
この行動を気にするのはアベルだけだ。
「ずるいですよ、トレス君!」
つい38日と15時間28分前の事だった。
「あーあ…羨ましいな」
アベルの声は腹筋から出ていないと推測されるほどに小さな声だった。
どうして自分には、こうやって心を許してくれないのだろうかと悲し気に呟いている。
「私にもそんな風に接してくれたら、嬉しいんですけれど…」
何故か[#da=1#]はアベルとの距離に悩んでいる。
警戒している意味はあまり分からない。
背の高さなどではないし、瞳の色でもなさそうだ。
ただアベルには一つだけ思い至っている部分はある様だったが、そこに気が付かない振りをずっとしている。
子供は平静を装いつつも、どことなく気が付いている様子だった。
「卿は神父[#da=1#]に警戒されている。半径50cm以内に近付かない事を強く推奨する」
「ええ、そんな!私だってちょっと位――」
「否定。現在の信頼関係を分析すると、レオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父よりも低いと算出されている。精神が不安定になる為近付くな」
「え、私レオンさんより低いんですか?!本当ですか?!」
「それ以上近付くな」
「ひいっ!半径50cm以上離れてるのに酷いですよおお」
本人抜きで進んでいく口論の中心に居る事は分かっている様だったが、少年はすっかり出窓の壁に背を預け切って、どこを見る訳でもなく空を眺めていた。
空を横切るように真っ直ぐ鳥が飛んでいく。
左から、右に流れていくのをぼんやりと眺めている。
「[#da=1#]・[#da=2#]神父」
突然。
呼ばれて飛び上がりそうだった。
だが、いちいち驚くな、目立った反応をするなと何度も注意を受けていたこともあり、心の中で飛び上がっていても努めて反応しない様に訓練を受けている最中だった為、特に注意して過ごしてはいた。
ゆっくりと視線を向けると、小さな機械音と共にトレスから「あと39.81秒で移動だ。速やかに準備を」
言われてゆっくり立ち上がった少年はトレスの方へと足早に進んでいく。
途中アベルの方へ向くと「あの、また…」と軽く会釈をして、再度トレスの傍へ急ぐ。
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