-短編-未完成作品
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怒っている。
浅黒い肌を持った、およそ神父とは言えない大漢は黒く渦巻く感情を腹の底に据えながらイライラとしてずんずんと足を進めていた。
このまま彼と合流してしまっても良いものだろうか。
足は進む、心は苛立っている。
大人ではあるが、子供ではない。
小柄で一見少年の様な同僚に、逢いたいけれど会いたくない。
先日少年が任務で大怪我をしたと聞いたからだ。
ただ彼は怪我をしてもあまり心配される事が無い。
何故なら。
「[#da=1#]!」
扉を開けると同時に、少年がいると思ったが――
「…いい加減にしろよ、」
何かを察するのか、それともクセなのか。
居ない。
どこに隠れたのか、少年は見渡した限り居ない。
バルコニーの角、手すりの上、屋根の向こう、ソファ、浴室、トイレ、クローゼットの中、ベッドの中も。
どこにも居ない。
「ったく――」
ただそうなると怒りの感情よりも、気になってしまって。
再度ぐるりと見渡す。
「俺とやろうってかぁ?」
ニヤリと口の端が上げ、途端息を深く吐き出した。
シンと静まり返った世界の中で、じっと立ち、気配を探る。
勿論隠れようと思って隠れているならば気配の無い可能性はあるが、今きっと少年はそんなつもりもないだろう。
恐らくどこかで、眠っている筈だ。
その時。
外が何となく騒がしい事に気付いた。
「――待てよ?」
そういえば一箇所だけ忘れていた。
バルコニーの扉を張り倒さん勢いで飛び出すと、風の様な速さで広いスペースに躍り出る。
素早い動作で手すりの部分に左の掌をついて身を乗り出す。
手すりを越えた先に黒い、大型犬の様に丸まったまま眠る子供がその身を横たえていた。
風に揺れる僧衣が見上げた先で揺れているのだろう、恐らく下での騒ぎの原因はこれだろう。
「お前なー…」
身を乗り出して呼び掛けると少年はどこか穏やかな表情のまま瞳を閉じている。
普段は前髪で器用に隠れてしまって表情の見えない顔は風が髪を揺らしてその素肌を晒した、やや不健康そうな肌の子供。
この横顔だけは、ずっと見ていられる。
ただ下が妙に騒がしい理由はまさに彼がこんな所で眠っている事が原因だ。
「危ない!」「辞めなさい!」など口々に声が飛んできている。
そんな事を気にも留めずに浅い呼吸で眠っている少年。
ただ飛んでくる声に突かれる様に、目を覚ましてしまった。
「…なに?」
腹筋を使わない様な力の入らない声が耳に届くと同時に赫い瞳がゆっくりと開く。
ただ声には目もくれず何やら周囲を見渡して――向いた先は時計塔のある方角だったが、見渡していたと思ったら前触れもなく突然身体を起こす。
片足が絶壁からぶら下がる。
同時に「きゃああっ」「落ちる!」「いやああっ」という叫び声が飛び上がってきて、[#da=1#]はその時下からの声が自分に対して向けられた声だった事にやっと気が付いたらしく、下へと目をやる。
ぼんやり寝ぼけた様子ではあったが、見下ろした先には10人ほどの人だかりがこちらを見上げていた。
何で悲鳴が自分に向けられているのか理解できない様子の子供は、感情を持たぬ表情でじっと下を見ている。
喉奥で笑いをこらえつつ――ただ、[#da=1#]が落ちない様に慎重に「よう、眠り姫」と声を掛けた。
すっかり聞き慣れつつある声が降ってきて、引き寄せられる様に瞳を向けた幼い顔立ちの神父。
「お前が落ちそうだって言ってるんだよ」
赫い瞳はレオンを映し出す。
覗き込んだ瞳は何かを言いたそうに。
いや、もう何か語り掛けているかの様である。
レオンは本当はこの赫い綺麗な瞳が好きだが、[#da=1#]本人が瞳を見られる事を極力避けている様で、あまり大っぴらに「その瞳が好きだ」と声を掛ける事はない。
「俺と会えるのが待ち遠しかったんだろ?」
[#da=1#]はそう、見晴らしの良い高台や景色の良い場所で合流する相手を待っている事が多い。
初めて会った時こそ室内ではあったが、何故かこうやって広い所で待っている事が有る。
「正直に言えよ」
そんな事言われたって…――
どう答えていいか分からないまま[#da=1#]は視線を落としてしまう。
遥か階下に見える点々と見える人の影が、こちらをハラハラした様子で見上げている。
そんな様子を、まるで他人事の様に見下ろしてからすっかり視線は逸れてしまう。
「そろそろこっちに来いよ?」
どうして。
とても優しい瞳がこちらを向いている。
声か瞳か、導かれる様に立ち上がった少年はゆっくりと柵へ寄った。
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過去は未来、未来は過去。
めちゃくちゃ展開的には好きなんだけど、物語になるかは分からないからそのままあたためておこうと思います…☆