-短編-未完成作品
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銃声が轟いて、ずしりと重くなったその足が膝をついた。
「発射」
声と共に銃声が鳴り響いた。
真後ろから、一定のリズムで足音が近付いてくる。
「イクス、神父…」
短髪の、整った顔の小柄な神父が後ろから声を掛けた。
「損害状況報告を」
「…左、大腿部…です――」
まだ戦場に出て浅い。
痛みが、普段よりも少し強い様な。
大腿部にぼんやりと光が宿り始めた。
気配がぐるりと取り囲む。
8、いや…10人か?
囲まれている。
「歩けるか」
差し伸べられた手に、[#da=1#]は手を出す事が出来なかった。
「難し、い…と」
絞り出す様に答えて。
足を抑えたまま頭だけを起こして。
「[#da=1#]・[#da=2#]神父」
突然。
「ひゃうっ」
悲鳴を上げてしまう。
片手で軽々しく持ち上げられた事に気が付いたのは突然世界が高くなったから。
痛みが襲ってくる。しかしその痛みだけに構っている余裕はない。
「俺から離れるな」
言葉と同時に。
機械音が聞こえて来た。
「常駐戦術思考を哨戒仕様から殲滅仕様に書換え――
戦闘開始」
機械音と同時に愛銃ジェリコM13’ディエス・イレ’が火を噴いた。
しがみつく場所など無い。
しがみつくといっても、目の前にトレスが居るだけ。
考える余裕も無く、足に力も入らない。
腕に力が入っているか、不安になる。
[#da=1#]を抱えたまま銃撃戦になっているので、障害になっていないか不安になる。
普段より僅かに動きがゆっくりとしている様に思うが。
そんな事を悠長に考えている場合ではない。
右足に痛みが走る。
身体に力が入らない。
兎に角振り落とされない様に。
[#da=1#]の腰元を支えるその端正な顔立ちの神父の左手の指に左指を掛ける。
襲い来る痛み。
トレスの右肩に右手を置いて。
周囲に集中する。
支障にならない様に。
視界の端で銃口が[#da=1#]へ向いたのを見た。
それには気が付いていたが、気には留めていなかった。
撃たれる事など、任務遂行の支障にならなければ何でもない。
こちらを向いた銃口が火を噴く直前。
トレスは持ち上げていた幼い顔立ちの神父を肩元から素早く引き下ろし、足が地面につく前に身体を腰元から抱え上げた。
「んぅ…っ」
「0.38秒遅い」
耳元で轟音が轟く。
「戦域確保」
静まり返った戦場に、トレスの機械音だけが聞こえた。
「危険だと判断した場合は俺に報告しろ、神父[#da=1#]」
抱え上げた腰を解放し足へ痛みが来ない様に地面にゆっくりを下ろす。
痛みに僅かに顔を歪めるが、トレスは幼い神父の身体を支えたまま時間を置いた。
重心を移動させて身体を立たせてから「歩けるか’リジェネーター’」と声を掛ける。
痛みはあと僅かだ。
「間もなく…です」
何とか、痛みを堪えたら歩けそうだというところだろうか。
「肯定。時間がない。直ちに移動を開始する」
言葉が終わると同時に。
突然身体の向きが変わる。
「きゃ…っ」
前で抱えられる形になり、支えを求めて首に手を回す。
「発言と言動には気を付けろ、[#da=1#]」
慌てて口を塞ぐ。
思わず漏れてしまった声に、赤面した。
首に巻き付く様に抱き付いてその表情を隠す。
「訓練を怠るな、卿は神父だ。[#da=1#]・[#da=2#]」
「…はい」
消える様にその声を上げる。
同時に体温が上がる。
自分の首を絞めている様だ。
呼吸が苦しい。
「体温の上昇を確認。感情操作をしろ」
「了解…しました…」
トレスの首元へ手を回したまま、しかしもうどうすればいいか分からない。
深呼吸を繰り返しながら。
しかし体温は何故か容赦なく上がっていく。
苦しい。
一定のリズムで歩くトレスの腕の中で、[#da=1#]は静かに意識を手放した。
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