-短編-未完成作品
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ホットワインが差し出されたのは、夜を随分回ってからだった。
「今日は冷えるぜ?」
何故か今日は特に眠れなくて、ぼんやりと屋根の端で座って過ごしていた。
月が少し遠いけれど低い所からじっと月を見上げていた所だ。
受け取る時に小さく見えたカップも、手にしてみると思ったよりも大きくて重く感じた。
「月もこうやって見ると、綺麗なもんだな」
月明りはあまり好きではなかった。
相手に動きが見えてしまうからだ。
思い出さない事はない、戦果に明け暮れた過去の日々の中でも、幸せの瞬間はあった。
妻と、最愛の娘との生活は何にも代えがたい時間だった。
望んで生まれた訳でもないのに獣人の遺伝子を持って生まれた試験管ベビーである自分。
普通の人間としての幸せを手にした筈なのに、その遺伝子に恐怖し、レオンと、その遺伝子を受け継いだ娘の殺害を企てた。
望んで生まれた訳でもないのに、この不運をどれだけ呪った事か。
娘を護る為に全てを棄てたレオンに慈悲もない裁きが下ったものの、カテリーナに生命を紡がれて。
獣人の遺伝子に全てを奪われ、その遺伝子に命を救われる事になるなんて。
しかし最愛の娘の生命が少しでも長く生きる事ができるならば、自分の事などどうでもいい。
その一念だけに引かれて生きていたのに、一体どこで寄り道をしてしまったのだろう。
受け取ったカップを小さな手に持っている神父へ、いつの間にか視線を送っていた事に気が付いた。
月を見ていた筈なのに。
月の光を受ける横顔が美しい。
いつの間にか愛しくて仕方ない相手になってしまって。
『別荘』から出ると、短い時間でも目の前の幼い神父と過ごせるこの時間が楽しくて。
心無い人間に無理矢理秘密を暴かれない事を、一心に願っている。
少しずつでも、教えてやらなければならない。
「なあ[#da=1#]――」
意を決して声を掛けると、こちらへ向いた神父と目が合う。
ふわりと風が靡いた。
風に乗って香る、女性の香り。
普段は前髪で器用に隠しているその赫い瞳が、風で揺れて垣間見える。
月明りに照らされた黒に近い髪が輝く。
無意識に手を伸ばした事に気が付いたのは、小さな左手がレオンの手を止めたからだ。
表情がとても、不安気に見えて。
すぐに瞳を逸らしてしまったが、少年の手はまだレオンの手の動きを遮っている。
「っと、悪い」
謝罪を口にしながら、その手を下げずにいるレオン。
触れられた指先の感触が柔らかく、少しひんやりとした指先に腹の奥で何かが蠢いて――
左右へ軽く頭を振って一度瞳を強く閉じた。
ゆっくりと金色の瞳を開くと、月の光を受けたホットワインがカップの中で大きく揺れている。
傾いたカップを膝が何とか受け止めた様で、中身はこぼれてなかった様だ。
「ちょっと、勉強するか」
レオンの声に呼応して下を向いた顔が上を向くと、柔らかな表情が少年へと向いている。
少し困った様な、何となく頼りない顔をしているが、あまり見せた事が無い様なその表情に身体がレオンの方へと自然に向いて。
「[#da=1#]、…あのな」
どう説明してやったら、いいのか。
レオンにとって、こんな話をする日が来るだなんて思いもよらなかっただろう。
愛娘でさえまだそんな話は縁が無い、と思いたい。
「女っていうのは案外無防備でな、」
意識をしながらゆっくりと手を下ろしていくと、その動きに従って[#da=1#]の小さな手も下へと降りていく。
渡したカップをレオンの手が再度持ち上げて、屋根の端の平らになっている部分へと置いた。
ちゃんと、教えてやらないといけないと思っていた。
俺だって、いつまで平静でいられるか分からねえからな。
「男っていうのは、女が無防備な瞬間を見逃さねえ。絶対だ」
言葉は優しかったが、その表情は真剣だ。
覗き込むようにして見詰めるその瞳がとても好きだった。
器用に隠した前髪が風で揺れると、大きな瞳がこちらを覗き込んでいる。
しかしこうやってじっと瞳を合わせるだけでも『勘違い』を起こしてしまう馬鹿な男は少なからずいる。
「身体を伸ばす時、瞳を伏せた時、肩が上がる瞬間、髪を掻き上げた時、衣服の隙間から素肌が見えた瞬間――」
下心を持って女を視る男は多い。
「どんな瞬間も、見られていると思って注意深くいないと、瞬きをしているその一瞬で男は獣に変わる」
外見は子供の様な少女――
いや、男性として生活している[#da=1#]にとって一見関係無い様に見える話ではあろう。
いつかこの話をしなければならないと妙な使命感を持って、タイミングを見計らって来た。
気を付けて生活を送っている様子だが、女性である部分が垣間見えると気になって。
親の様な心情ではない。
一人の女性を見る様な瞳で見ている事に、自分自身が気が付いているのだろうか。
あまり見た事のない表情を向けるレオンの瞳を覗き込む。
妙に真剣みを帯びた瞳に、何故か目が離せなくなってしまう。
首を僅かに傾げる少女の瞳が風で髪をふわりと持ち上げると、赫の美しい瞳が覗いている。
「少しだけ、…いいか」
レオンの掌が肩を寄せると、少年の身体は途端に硬くなる。
恐いと、身体がそう物語っている。
ゆっくりと小さな身体を抱き寄せると、[#da=1#]の身体が僅かに震えた。
「いいか?女の心は薄いガラスなんだ」
いつか。
心無い誰かに押し倒されない事を、願っている。
「んぅ…っ」
抱きしめられ重なったその身体にレオンの声が、ゆっくりと響いてくる。
「お前がいつか、護るべき大切な存在が出来た時――」
無理矢理誰かに心を暴かれる事が無い事を、一心に願っている。
「無理矢理に、女を抱くのだけは絶対に避けなきゃならねえ」
興奮材料の一つでしかない[#da=1#]の甘い香り。
理性を保つ事に難儀する。
長く抱きしめていると、もう止まる事が出来ないだろう。
意識をする程に、レオンは危機感が拭えない。
ゆっくりとその腕に抱いていた少年を開放する。
不安そうに見上げた[#da=1#]を見下ろしながら、指の腹で頬を優しく撫でた。
「覚えておけよ?」
普段と、少し違う。
少年が不安そうに、レオンの金色の瞳を覗き込んでくる。
小さな手が、レオンの衣服の端を僅かに握っていた。
「折角のワインが冷めちまったな、…ほら、いくぞ?」
結局ホットワインはすっかり冷めてしまった。
けれど何故か。
!読んだよ!
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ううーん、
これは修正作業の時に
本編のどこかに移動しそう…
まあ未定です
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