-短編-未完成作品
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月が雲の中に隠れようとしている。
月が隠れるのと同時にゆっくりと瞳を瞼で覆っていく。
見上げたまま瞳を閉じると、風をよく感じる。
意識が月へ引っ張られる様に、ぼんやりとして。
このまま夜空へ溶けて消えてしまえたらどれだけ楽だろうかとさえ思ってしまう。
石造りの柵に登って膝を寄せる。
だが何故か、そんなに簡単に命は終わらない。
子供らしさなどすっかりどこかに置いて来た様な、外見こそ8歳から10歳程の少年の様だが実際の年齢は14歳。
前髪で器用に瞳を隠し、普段あまり表情が読み取れないが、風を受けた髪は赫い瞳を月に晒している。
このまま強い風が吹いて、地面に落としてくれないだろうかと考えてため息をついたその時。
「危ない、」と後ろから声が飛んできた。
驚いて振り返ると、緩いウェーブの掛かった美しい金髪を称えた――
長大な鉄棒を携えた、翠瞳をその両目に宿す美しい青年がバルコニーを潜って少年の傍へと寄ってくる。
普段この長髪美麗な男性とは会う事があまりない。
「貴方はいつ見ても危なっかしい」
僧衣を纏っていない青年は何故か僅かに困った様な表情を浮かべている。
月明りを浴びた美しい金髪は、その光を受けて美しく輝いていた。
「師匠は好きにさせてやれと仰るが――」
柵の傍へ立ったところで足を止めた青年は、一つため息をついた。
そのため息でさえ美しいと表現される事もある、美麗を絵に描いた男性。
一緒に歩くと囁きが聞こえてくる事がある。
風を受けて靡く髪は、月の光を受ける度にきらきらと輝いて。
確かにとても美しい。
眩しく感じて、目の前の青年から視線を逸らしてしまう。
「――ヴァトー神父」
ワーズワースを師と仰ぐ、今しがたヴァトー神父と呼ばれた長身の青年はユーグ・ド・ヴァトー。
少年と同じく、カテリーナスフォルツァ枢機卿が発足させた教皇庁国務聖省特務分室の巡回神父である。
僧衣を纏っていないという事は私用の訪問だろうか。
巡らせる思考に集中しているのか、言葉を紡がない。
一方で、名を呼んで以降押し黙ったままの少年から静かに瞳を逸らした。
翠瞳を伏せた金髪の青年はこの沈黙でさえ楽しいという、師であるワーズワースの言葉を思い出している。
この沈黙でさえ、楽しい…か――
瞳を逸らした横顔を追い掛けたユーグの瞳は、前髪で隠してしまった瞳を確かに追い掛けていた。
時折見る、前髪で器用に隠した赫い瞳を思いを馳せながら。
少年の持つ赫い瞳は美しい。
しかし少年は美しく血の様な赫い瞳があまり好きではない様だった。
周囲から奇異の目で、恐怖の目で見られるからだと掠れた声で、しかしはっきりと。
そういえば幼い[#da=1#]が…いや、少女が保護された頃に、じっとこちらを見る行為があった。
視力が悪い訳ではない様だった。
それを呪われると研究員が騒ぎ立てたと聞いた。
悲鳴を上げる者もいたし、研究対象だと言ってえぐろうとした者も居たらしい。
能力が――自己回復能力が発動している時、瞳が光っていた主張する証言もあったらしい。
奇異の瞳で見られ、恐怖の眼差しを向けられる。
心が潰される様な行為を受けるこれ程幼い子供の心理など、冷たい瞳を持つ研究員達に分かる筈も無く。
突き詰めたワーズワースがピントを合わす部分に欠如があったと結論付けたのはそれから暫くしての事だった。
現在はそういった事は無い様だが、能力を手にした副作用か、一時期瞳が空間を把握する事に時間が掛かっている様だったというのだ。
じっと瞳を合わせ小首を傾げるその様子を『仔犬の様で実に愛らしい』と笑っていたワーズワースを思い出す。
「貴方の瞳は美しい」
言われて下を向いていた少年がこちらを向く。
風に流されて髪がさらりと揺れた髪が、赫い瞳を覗かせている。
不健康そうな肌が晒され『美しい』と言われた瞳と視線が交わった。
月明りに照らされてその瞳が僅か、金色を含んでいる。
「あまり変な意味で捉えないでくれ…以前も言ったが、貴方の瞳は美しい」
自分はそう思っている、と。
ユーグは会うと必ず血の様な赫い瞳を「美しい」という。
周囲が恐怖する瞳が、美しいというのは何故なのだろうか。
謎が解けない。
ユーグが「その瞳は美しい」という、真意が分からなかった。
[#da=1#]は気まずそうにその瞳を逸らしてしまう。
ユーグにとってその瞳はとても美しかった。
どうかその瞳を嫌いにならないで欲しいと、一心に願っていた。
師であるワーズワースもきっとこの瞳を奇異の目で見る事も無いだろう。
もしかしたら何か好奇心の様な――
いや、この幼い神父にそんな風な目を向けるものだろうか。
思考する時はワーズワースならばどうなのかと、ところどころあの『紳士』という名のスーツに身を包む男性の思考を読もうとするがそれはそう簡単な事ではないのだ。
ユーグと同じく、少年にはその赫い瞳を嫌いにならないで欲しいと、願っているのだろうか。
一方、美しいと言われて戸惑う少年は石柵に上がったまま両膝を強く抱えている。
何故ユーグはそんな事を言うのだろうか。
解決できぬ疑問を月夜の暗闇にそっとこぼした。
・
20220523
ずっと知っていたのに、
何となく口調とか雰囲気とか振る舞いを
難しいのでずっと作っていなかった
ユーグさんとのページ…
うーん…
どうなのこれ…
勉強し直そうかな。