- Trinity Blood -5章
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抱き締めて、
ストレートに抱いてもいいか、とはなかなか言えない。
いや、言ってしまっても良いかも知れないが、ただ色々すっ飛ばして怖い思いをさせてしまうのは一番駄目だ。
どう接したらいいか分からない瞬間がある。
言葉で説明する事がこんなに難しく感じるなんて。
普段どれだけ流暢な言葉で女性を口説いても、光を閉ざしてしまった[#da=3#]に思いを伝える事が、これほど難しい事だとは思っていなかった。
愛を囁く事がこれほどまでに、難しいなんて。
妻に愛を囁いたあの時、こんなに難しいと思わなかった様な。
彼女を前にして、これ程までに自分を保てない事に気が付いてしまった。
どうやって、彼女に思いを伝えたらいいのだろうか。
ただ、焦がれる程に愛した相手に思いは伝えなければ。
普段この時間ベッドに入る事はないが、[#da=3#]が眠ってからも暫く何となくベッドから離れられないまま過ごしていた。
大漢の大きな指へ小さな指を絡ませたまま眠っていた少女は昼間の外出から戻ってから間もなくソファで眠ってしまい、少し前にベッドに移動させたところだった。
理由はないが離れたくなかったが為に、つい同じベッドで過ごしていたが気が付いた時には暫く眠っていた様だった。
窓から差し込んだ影が随分長く伸びているのがいい証拠だ。
ぼんやり天井を見ていたが、隣で眠っていた少女が喉奥で何かを言っている。
ベッド上で右手を伸ばして身体を反らせていく。
腰が徐々に上がっていき、やがてゆっくりと位置を戻していく。
息を細長く吐いて目をこすると、左右を確認する。
いつもと同じ。
ただ左指が何かを――どうやらそれがレオンの指だと気付く迄にあまり時間は掛からなかった様だが――握っている事に気付いた様で、身体を起こした。
身体の向きを変えてレオンの方へと向いた。
「…レオン?」
いきなり声を掛けては驚かせる事になるので少し間を空けてから返事してやらなければ。
「寝てるの?」と、声を掛けて来た。
タイミングを見計らっていたがどうやら、タイミングは逃してしまった。
このままだと、眠っているしかない。
うっすらと目は開けたが、開けるんじゃなかったと直ぐ後悔した。
近い。
彼女は自分が目を開けている事には気付いてないだろうが、レオンの顔を覗き込んでいる様だった。
もしかしたら眉は動いてしまったかも知れないが、ただ、彼女にはそれが見えていない。
見えていないのにまるで見えている様なこの行動は、反則じゃないか?
覗き込まれる事など殆どないレオンにとって、これはもう反則だろう。
だって今こうやって、確かに目が合っているんだ。
瞳を覗き込んでいる様にしか見えない。
抱きしめてしまいたい。
衝動に駆られつつ、落ち着かないとと思いつつ。
呼吸のタイミングは変え無い様にして慎重にやり過ごそうとしていたが、このままでは難しそうだ。
返事が出来ないままでいると、額に少しひんやりとした何かが当たる。
「…風邪ひいて、うあっ」
引き寄せられた少女は声を上げる。
しまった。
抱き締めてしまった。
ああ。
何と愛しい事だ。
このまま抱きしめていたい。
「すまん…大丈夫か?」
頼りなく細い腰元を、大きく太い腕で抱いたまま[#da=3#]に声を掛ける。
その手はまだ離したくなくて、解けないでいる。
一方で抱き寄せられた少女はまだ、広い胸の上で抵抗を試みている。
あまり強く抱きしめたつもりはないのだけれど、ただ少女の力ではレオンの力には及ばない。
「あの、あ…ごめんなさい」
腕の拘束で捕らえられたまま、消えそうな声で言う少女に思わず「何でお前が謝るんだよ…」と返してしまう。
「その…異性の身体に触れない様に、て…っ」
腰元から側面を通り徐々に柔らかい太腿へ降りていく大きな指先に反応した身体が、ピクリと跳ねる。
口端が上がってしまった事に気が付いただろうか。
腕の中の少女は――とはいえ彼女は成長を手放しただけで中身は立派な女性であるが――抵抗を試みていた手は動きを止めてしまって。
レオンの胸の上で、未発達とは言え異性の胸がピタリと密着し、部分から鼓動が早くなっているのが伝わってくる。
太腿から臀部を抱え上げる様にして身体を支えると「あっ…あの、」と言い難そうにしているのを見ると、もう口元がすっかり笑ってしまっている。
笑ってしまっているの、まさか気付かれていないだろうか。
腕の拘束をゆっくり解いてやると、小さな手がレオンの胸に掌を置く様にして、慌てた様子で上体を起こす。
「どうした?」
素知らぬ風に問い掛けてみると、レオンの胸の上では困った様な表情でこちらを向いている白髪の女性。
すっかり大漢の身体に乗ってしまっている事など忘れてしまっているのだろう。
最も、本人はそれどころではないみたいだ。
愛しい拘束だが、あまりこの時間が長く続けば、下心が理性を砕く。
気を配りながら、それでもこの状況さえ楽しく思っていて。
「は、はなし、て?」
大きな掌が、暖かい体温が、太もも辺りに触れている。
「身体を支えてるだけだろ?」
指先がぴくりと動くと、身体の上の少女が喉奥で短く悲鳴を上げた。
仔犬の様な鳴き声は変わらない。
興奮を誘う。
我慢が出来そうになくてついいたずら心で動かしてしまった指先に、徐々に紅潮する頬を見上げると、なんとも言えない絶景だ。
反対の指先では髪を捉えゆっくりと撫でてやると、胸の上で少女の身体が跳ねるのがダイレクトに伝わる。
困った様な表情で、金色の瞳を見詰める瞳――ただその瞳は間違いなく光を失っている事から、レオンの瞳を映す事はできない。
美しい瞳は、一見すると硝子の様に透明なものだ。
だがその瞳はオーロラを切り取った様な色を薄っすらと浮かべている。
「第一、腕はもう離してるじゃねえか」
手を伸ばせば頬に触れる距離だが、そうすればもうきっと止まらないだろう。
「あの、そっちじゃなくて…」
太ももを支える大きな掌に遠慮がちに触れた指先は、この手を離して欲しいと言っている事はよく分かっている。ただその反応にいたずら心が芽生えて「言葉にしなきゃ分かんねえだろ?ん?」と問い掛ける。
「んぅっ」
太ももを撫でる指先に今度は声を抑える余裕が無かったのか、短いが高い悲鳴が上がった。
一度は離した細い腰へ腕を回して自分の方へと引き寄せ――上半身に乗せられていた身体は抵抗する間もなく、大きな胸板に辿り着いた。
小さな身体を抱えたまま上半身を起こすと、そのまま反転する。
背中の行きついた先がベッドである事に気が付いた[#da=3#]の表情は、見下ろした先で不安の色に変わっていくのが分かる。
頬を撫でる指に身体が跳ねると同時に、喉奥で悲鳴を上げる少女。
不意を突いたつもりだったが声を抑えられてしまったのは、正直言って残念だ。
「[#da=3#]?」
軽く耳朶を噛む。
喉奥で隠してしまう声が、聴きたい。
あわよくば脳を揺らす様な、声が。
喉の奥で蓋をしてしまって、声が届きにくい。
残念に思いながらも耳朶から離すと、小さな手が抗議の意を示す。
ただそんな事をされると逆にいたずら心に火を点けてしまう。
「レ、オ…あっ」
声を出すタイミングで首筋にかぶりついた。
か細く高い悲鳴が身体に響くと、全身に届く様にぴたりと身体をくっつける様にして抱き締める。
その間獣の口は細い首を捕らえて離さない。
成す術がない被食者はきゅんきゅんと声を上げるしかない。
腰元を離さない獣の腕にやっとたどり着くと、力の入らない手で抵抗をする。
ただ体重がのしかかっている身体には殆ど自由も無く可動域も制限され、首筋を捉えた獣にされるがままである。
「や、レオ、…ひぅっ」
ああ。
そう。
上擦った声で名前を呼ばれるだけで快感が刺激される。
自らの身体で抑え付けた小さな身体が腰を捩らせる度に興奮を誘って。
もっと、反応して。
もっと、声を聞かせて。
「ん、やあっ…だめぇ」
足りない。
声を聞きたい。
耳の裏をゆったりと舌の腹部分で撫でてから、穴の方へ舌先を差し入れていく。
「だめ、…んっ」
力が上手く入らないのか、抵抗を試みた手はすっかり行き場を失くし、ベッドと壁の様な大漢に挟まれた小さな身体は狭い所で仰け反って。
「[#da=3#]」
「ふあ、ああ…っ」
耳に流し込む様にその名を呼ぶと、力が上手く入らない様子の少女が声を上げる。
身体が密着している事で身動きが取れず、情けなく声を上げる事しか適わない状態である。
身体が跳ね上がると密着度は上がる。
下腹部に主張したものが当たるが、何が当たっているのかはまだ理解ができていない様だった。
それとも、気付ける余裕が無いのか。
身体を反らせる隙間も無い程ピタリと寄せてあるから、身を捩る隙も勿論無い。下で藻掻いて抵抗を試みる度に性欲は掻き立てられてしまう。
キスを落とすと近い位置で悲鳴が聞こえて。
もっと、聞きたい。
「い、や――いやっ」
悲鳴に引き戻されて身体を離すと、見下ろした先で少女が小さく蹲った。白髪の髪を揺らして肩を震わせている[#da=3#]を見て、本能に抗え無かった自分に人生で何度目かの後悔をした。
いや、恐らく後悔自体は人生の中で何度もある筈だが殊更彼女に関しては慎重に関係を築いていかないと、と何度も思っていた筈なのだが。
触れられない。
過去に犯した犯罪も、奪った命も、失った仲間も、信頼も、築いたどの難しい事案にも該当しない程に、[#da=3#]と築く関係には慎重に行う様に心掛けていて――ただ、時折歯止めが利かなくなる瞬間もある。
それを、勿論彼女も理解している。
「っは、あ…っ」
乾いた咳を何度か繰り返し、小さく丸くなっていた身体はゆっくりと脱力していく。
呼吸は未だ、整っていない。
不用意に触れてはいけないと分かっているが、それでも触れたくて。
ベッドで呼吸を乱している女性の髪を指先で触れる。
「――んっ」
僅かに漏れた声に、喉を鳴らす。
我慢できない。
心が、感情が、漏れ出ていってしまいそうだ。
頬に触れた指先から逃れる様に顔を隠して、再び身体は丸くなってしまった。
「…[#da=3#]」
丸くなった少女を抱き締めようとして身を寄せると、近付いてきた腕を小さな手が阻む。
動きを止めた小さな手は決して強い力が籠っている訳ではないが、その手に従って、太く大きな腕は動きを止める。
見上げる様にして覗き込む硝子の様な透明な瞳から目が離せない。
これだけ間近にいても彼女の瞳が自分を映す事はないのが残念でならないが、原因の一端となっているのは残念ながらレオン自身である。
喉奥で何かを言っている様な、言葉を選んでいる様な口元。
やがて唇が動く――ただ声を発する迄に時間を要する事が多い[#da=3#]の、何か言わんとしているその口元に金色の瞳は注目していた。
自分の気持ちをどうやって伝えればいいか悩んでいるのだろう。
ずっと見て来たからよく分かっているこの癖も、瞳を合わせたまま過ごす時間もとても好きだ。
たとえ自分を映す事が無いとしても。
言葉を待つ。
やがて硝子の様な瞳は視線を落としてしまったが、再びこちらを向いた時、思わず息を呑んだ。
オーロラを切り取った様な瞳がレオンを見上げたから、だけではない。
「怖いのは、あの…いやなの」
掠れた声が耳に届いたから。
心臓が煩く鳴り出し、目眩がする。
「…そんな…口説き文句、あるか…?」
未だ震える指先を感じながら、見下ろすレオンの表情はガラリと変わる。
目の前の少女にはそれが見えてはいないだろう。
そんな言葉、もう抱いてもいいと言われている様なもので優しくするなら何をしてもいいと、赦されている様なものだ。
一方的な勘違いをして良い訳ではないし、彼女はそんなつもりで言った訳ではないだろう。
「なあ、[#da=3#]…」
柔らかく長い白髪を撫で、指先へ髪を絡めるとそのままキスを落とした。
引かれた髪の先を追う様にレオンの方を見る瞳。
その表情は困惑している様であったが、彼女の瞳は光を失っているが、ただその瞳は本当に瞳を失っているのかもう既に分からない程に正確にレオンを見詰めている。
不安そうな表情でさえ愛しくて。
「その言葉は――
抱いても良いって、言ってるようなもんだからな?」
肩を抱き寄せて細い腰に手を添えた。
腰が反っていき、身体が緊張していくのが伝わってくる。
「優しくしたら…抱いても良いの?」
見上げる少女の瞳を覗き込みながら問い掛けると、不安そうな顔が見詰め返していて。
言葉がどう続くのかが気になってしまい、[#da=3#]から目を離せなくなってしまう。
けれどその唇はそれ以上言葉を連ねる事ができないまま、喉の奥で言葉を選んでいる様子で言葉は続かない。
大きな掌が腰を撫でると身体は僅かに跳ねる。
勿論金色の瞳は、その反応を決して見逃す筈も無い。
「今…お前を抱いたら――神は、俺を赦すか?」
神など、いる訳がないのに。
自分でも分かっているのに。
少女の瞳は不安な色を浮かべていて、ただ、瞳を逸らす事が出来ない様子で金色の瞳を見詰めている。
「お前も、とんでもない奴に愛されちまったな?」
少々焦り過ぎたかも知れない。
喉奥で笑いながらもゆっくりとした動作で白髪を撫でると、僅かに肩が跳ねた。
瞳はレオンから逸れる事は無い。
ただ、何か喉奥で言いたそうな、ただ言葉にならない様子でこちらを見詰めるだけだ。
こちらが傷付かない様に言葉を探しているのだろうか。
それとも――
腕を回し、抱き寄せてから「抱き締めても、いい?」と声を掛け
ると胸に手を当てて、動きを止めようとしている様な動作ではないだろうか。
先程の様な拘束はせず、小さな手の動向を待っていると腕の中で「あの、レオン」と問い掛けてきた。
「ん?」
言葉は続く様子は無い。
腕も指先もピタリと動きを止めたまま、静かな時間を共に過ごして――
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平和なんだな…
2人の世界を垣間見ると、ちょっとそう思ってしまうけれど。
多分、そんな平和な世界は長くは続かない。
原作がそう言ってる(待てや)
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