- Trinity Blood -5章
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駄目だ。
止まらない。
止まりそうにない。
もう、止めないと。
理性が――
ただ媚薬の様な香りに中てられた獣は、すっかり本能を刺激されてしまってもう止まりそうにない。
止まらないと。
順番に教えてやらないと。
これ以上怖い思いをさせたらいけないのに。
止まれ、
止まれっ
「ね、レオ…あ、の…」
声に導かれる様にして、引き留まる。
ゆっくりと顔を上げるとあまり健康的でない少女の頬が紅潮しているのが分かる。
潤んだ瞳と目が合ってしまった途端。
ああ――だめだっ
思っているよりも早く、身体が動く。
耳朶に甘噛みすると、高い悲鳴が上がる。
「だめだ…っ」
「きゃっ」
悲鳴を上げた[#da=3#]を抱き上げると、そのまま抱き締める。
「悪い、怖がらせるつもりは…」
頭からすっぽり包む様に抱き締めてからゆっくりと身体を離す。
命を繋ぐために成長を止めたのか、それとも事件の有ったあの時から成長が止まったのか、どちらも要因であったのかは分からない。
少女の様な外見とは裏腹に、中身は立派な成人女性である。
震える身体を抱えるとその肩は少し震えていて、理性が崩壊する直前に思い留まった自分を盛大に褒めてやりたいところだ。
けれど怖い思いをさせてしまったのは事実。
結婚を申し込んだ事も了解を得ている事も勿論周知の事実ではあるが、過去[#da=3#]には、いや、同僚であった[#da=1#]に強姦と言われても仕方のない程の心無い性暴力を振ってしまった。
深く、心に傷を負ってしまった彼女はレオンの目の前から姿を消してしまって。
あの時謝罪した言葉は勿論本心だったし初めてと言っていい程に深く後悔した。
覚えてしまった快楽から逃れる事が出来なくなって、それ以降どんな女性を抱いても、行為を重ねても掻き消える事が無かった。
心が満たされない日々が続いていたレオンの目の前に現れたのは、記憶を失い、視力を失った、愛しい相棒だった。
心を深く傷付けてしまった過去は、失った記憶と共に掻き消えた様だったが、同時に視力を失った事を逆手に取られた女性は男に性的暴行を受ける事になってしまう。
あの時の自分が、理性を吹き飛ばしさえしなければ。
本能的にどうしても抱きたいと思ってしまわなければ。
彼は今でも相棒だったかも知れないし、同僚として、行動を共にしていたかも知れないのに。
視力を失った事は、記憶を失くした事は、もしかしたらあのままでも自然に起きた事案なのかもしれないが少なくとも見知らぬ漢から性的暴力を受ける事は無かったかも知れないのに。
最愛の娘の為だけに生きる事を選んだ筈のレオンは、後悔をせずに生きていく事を選んでいた筈だった。
それなのに。
隣にいて欲しいと思ってしまって。
共に歩んで欲しいと願ってしまって。
全てを、誰にも取られたくないと、思ってしまって。
歯車が完全に狂ってしまったのだ。
抱き締める手に力が籠ってしまう。
「…あ、のっ」
苦しそうにしながら「ごめんなさい」と消えそうな声でそう言った。
「何でお前が謝るんだよ…俺は――」
後悔という言葉がまたしても脳裏を過って。
言い訳もしない、逃げない。
そう決めたし、そう決めている。
「怖い、…どうして…わたし…っ」
言葉を紡ごうと必死の少女を抱き締める腕に力がこもる。
ちゃんと怖いと言って欲しい。
聞かせて欲しいと思っている。
歯止めの利かない自分を止めて欲しい。
無理矢理抱いた過去に囚われていないといえば、もう嘘にしかならないが、拭えない過去を反省しても今この瞬間は変わらないのだという事実はよく分かっている。
例え彼女が記憶を失くしているとしても、恐怖したあの夜は、心の奥深くでは覚えているだろう。
無かった事にはしないし、そうはいかない。
恐怖に思っている事実に申し訳なさや後ろめたさを感じているという事なんだろうが、正直に言ってくれる方がとても嬉しい。
腕から解放してやると、少女はゆっくりと身体を起こした。
「怖がる自分を責めなくていい…怖いってちゃんと言ってくれ」
「でも、…っ」
時々止まらない自分が恥ずかしい。
ただ、間違えたくない。
暗闇の中を歩く少女にとって、この世界は少し障害物が多い。
半年程の訓練で、今は白杖も持たずに日常を過ごしている[#da=3#]は、今や目が見えていない事に気が付いていない者も多い。
色素の薄い硝子玉の様な瞳は、よく見るとうっすらとオーロラを切り取った様に美しい。
一寸も違わずにこちらを見る瞳に、目が見えていないなんて嘘なのではなかと思ってしまう程だ。
残念なのはその瞳を垣間見る機会は少ないという所ただ一点なのだが、それでも時折見える瞳の美しさは息を呑む程だ。
誰も見えない暗闇の中で生きる少女が、見えない中で得体の知れない相手に抱かれる事実が怖くない訳が無いのだ。
瞳は世界を映しても、無理矢理に自由を奪ってしまった、本能に従ってしまった自分が言う権利など無いのだろうが。
大きな腕に収められたままの少女にとって、この腕の拘束から抜け出すのは容易くは無い。
見上げた先に居るレオンは、その姿を瞳に映していたとしても、視界の片隅にも目の前の男性を見る事などは叶わない。
ただ、とても不安そうな表情でこちらを見ている――様な。
「…レオン」
伸ばした先で指先が髪に触れる。
僅かに震える指先に、気が付かない訳が無い。
柔らかくて、指通りの悪そうな髪は、見た目に反してとても心地いい感触らしく――ただ、少女にとってその髪でさえ、見た目など全く分からないのだが――指先で髪を撫でられている当のレオンは、じっと、身体を動かさないままである。
「お前がそうやって触ると、めちゃくちゃ気持ちいい」
レオンの口調は柔らかくて、不安な表情で見ているだなんて、まるで思い違いをしている様な不思議な感覚。
でも間違いなく今。
目の前で、不安な表情でいた筈なのに。
「あー、出掛けるの嫌になっちまいそうだ」
「きゃ、…あ、あっ」
前触れもなく抱きかかえられた小さな身体は、困惑した様子でしがみついた。
「おーい、それじゃ、前が見えねえぞ?」
しがみついた先が、レオンの頭部だった事は理解できた。
「あ、私――」
けれど立ち上がったらしい動きがあり、高さもグンと変わった事に気が付いた事で、反射的に抱き着いてしまったその手を離す事はできないままである。
「大した用事じゃねえし、サクッと行って、戻って来ようぜ」
腕を取って手首にキスを一つ落とすと、少し上、頭上で悲鳴が上がった。
口元が少し、上がってしまったかも知れない。
いや、多分すっかり口端は上がっているだろう。
少女が視界を遮る頭部を抱えた腕も全く問題としない様子のレオンは、腕で抱えたままで立ち上がる。
「まって、だめ…っ」
少し高い所で「怖い」と小さな悲鳴が上がると同時に、頭部を抱える腕の力が強くなった。
肩まで上がった所だと視界はすっかり2mを超えている。
世界が見えていないとはいえ、地面に足が付いていないところから考えると怖いのだろうか。
いや、出窓やバルコニーの手すり部分に上がって風を受けている事も多い筈だからそんな訳は無いだろう。
ではどうして。
「動かないで…っ」
そうか。
土台が動かないから、高い所でも怖くは無かったのだ。
力一杯しがみついている[#da=3#]の細く頼りない腕が、僅かに震えて。
恐怖は何処に転がっているのか分かったものではない。
「ごめんな、」
言葉と同時に、一度抱き締めて、ゆっくり降ろしてやる。
地面に足が付くまで腕の力は弱まらなかったが、身体が近い分、欲の部分が刺激されてしまう。
「出掛ける前に一回キスしていい?」
「え?あ、あの――」
いたずらっ子の様な笑顔が脳裏で再生される。
「あの、…一回だけ?」
本当に?
一回じゃすまない事が何度かあったので、つい問い掛けてしまった。
ただ、問い掛けた相手が嬉しそうな声で「何回か、してもいい?」と問い掛けた時。
「違うの、あ…っ」
引き寄せられた小さな女性の背には後悔の文字が浮かんでいる事に気付いたレオンの顔は――
「ああ、じゃあ…一回だけ、な?」
多分その表情は。
「あ、レオ、んっ」
知っている、気がして。
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何だか可愛いぞ…
大丈夫かこの話…(管理人がな)
誰だよこんな話書いて…(自分だわ)
ねえ純愛過ぎない…?
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