- Trinity Blood -5章
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執務室をあとにしてからすぐ。
廊下を渡って、階段を登って、下って、渡り廊下を真っ直ぐ進む。
階段を登ってから、廊下を少し進むと滞在している部屋の扉をノックしたが、誰も居ない。
どうやら滞在先の同室の相手は今、居ないらしい。
部屋の奥で着替えをしてから戻ってくると、いつの間にかレオンが戻っていて、声を掛けてくれた。
「お疲れさん」
「お帰りなさい」
ほぼ、同時。
傍へ寄ると、レオンが「ちょっと座ってくれ」と椅子に座る様に促してきた。
何かしただろうかと思いながらも、腕輪の十字架を一度鳴らして椅子の位置を確認し、言われた通りに椅子に座る。
「これから大切な話をするから、ちょっと聞いてくれ」
改まって言うから、緊張して姿勢がピンとのびた。
大漢は隣へ椅子を持って行き、並んで腰を下ろす。
その先を見る様にして瞳が追い掛け、やがて金色の瞳をはっきりと見詰める。
この硝子の様に透き通った、しかしよく見るとオーロラを切り取った様な瞳は既に視力を失っている[#da=3#]は、じっとレオンを見て言葉の続きを待っている。
「俺が、キスしてもいいか聞いた時――嫌なら断ってくれ」
突然、何を。
言葉の真意が掴めず、ただ、返事をしても良いのか質問をして良いのか迷ってしまい、言葉は出てこない。
不安になってしまった心に、落ち着いて、と言い聞かせる様に胸に手を当てて大きく息を吸った。
「良いと思ったら、目を閉じて?」
胸に置いた方とは反対の手を取って、レオンの方へとゆっくり引き寄せられていく。
一瞬本当に自分の手か疑ってしまう程にあまりに自然に手を引かれて戸惑ってしまったが、ただ、掛けられた言葉の方が気になってしまって。
「あの、私に決定権があるなんて…」
「良いか?愛っていうのは、受け取る側に決定権がある」
声が近付いてくる。
引き寄せられた分声が近い。
聴こえやすいトーンになったと言うべきなのだろうか。
表現方法が難しいと思いながらも、ただ、言葉の続きが気になってしまって。
「俺の一方的な感情でお前を苦しめたくねぇ…受け取るお前にも、俺の愛情を受け取る準備をする必要があるからな」
ゆっくり、声を掛けてくるレオン。
心地が良い瞬間もあれば、戸惑う感覚もあって、ただどういう訳か彼の事が嫌いになれない。
「愛情を受け取る、準備…」
「そうだ」
記憶を失くす前の自分は、レオンの事をどう思っていたのだろう。
今この瞬間は手を取られたり、腰に腕を回す事はない。
「だからお前が今キスをされてもいいと、思わないなら断ってくれ」
ただどういう訳か、もう心がすっかり囚われてしまったかの様な気分だ。
「お前の心の準備が整ったら――目を閉じてくれたらいい」
嫌だと思ったら、本当に断ってしまっても良いの?
言葉が浮かんでも、声が出ない。
不安で心が満たされていく。
「いい?」
身体の、胸の中心に在る筈なのに、妙に近い所で大きな音を立てる心臓に、とてつもなく不安に感じてしまう。
呼吸が――
苦しく感じる暇も無い。
意識の扉が音を立てて速いスピードでバタバタと閉じて行って――
「[#da=3#]」
引き寄せられた身体が、大きくて温かい何か包まれる。
全ての意識の扉が閉まる直前。
それが大きな掌が肩を抱いた事だと気付いたの時、意識の扉が再度、ゆっくりと開き始めて。
「お前は独りで暗い世界を歩いているが――俺にとってはお前が光だ」
降りかかる言葉が[#da=3#]の心に広がっていく。
温かく柔らかい。
けれど、同時に不安で心が崩れそうになってしまって。
「お前を失いたくない」
近くに居ると明確に分かるレオンとの身長差、体格差。
抱き上げられる身体は次第に持ち上がって行って、レオンの腕に収まっていく。
「二度と、お前を無理矢理奪いたくない」
言葉が出て来ない。
抱き締められた身体が密着し、レオンの胸に耳が当たる。
心臓の音が大きく近く、聴こえて来る。
瞳を閉じ――光をすっかり失っている[#da=3#]にとって、瞳を閉じても開けていても、何の意味も無いのだが――じっとその音に耳を傾けて。
レオンが何度か求めて来た、胸に耳を当てる様にして抱き締めるその感覚が今自分が受けているこの状態に近いのだろうと感じながら。
一定の間隔を保ちながら聴こえて来る心臓の音が妙に心地いい。
こうやって話をしてくれるレオン自身も不安なのでは無いだろうか。
耳を寄せると、身体は自然と近付いて。
耳によく響く心音が「心地が良い」と言っていたレオンの言葉が理解できる。
段々と心が落ち着いていくのを感じているが、ただどういう訳か、どういう理由か、体温を苦手に感じてしまっていて。
先日レオンから聞いた話を信じていない訳ではないが、真偽のほどは分からない。
思い出す事が出来ないままの自分に苛立ちさえ感じてしまって。
いや、正しくは記憶に鍵が掛かった様な、不思議な感覚で。
「…レオン、あの」
声を掛けたものの、何と続けていいか悩んでしまう。
この感覚が恐怖から心地の良いものと認識できるまでどれほどの時間を費やす事になるのだろうか。
ただ、未だ分からない。
鼓動が段々と早くなっていく。
心地いい感覚と、恐怖の心が、小さな身体の奥底で押し合って。
身体を通して聴こえて来る心臓の音は、心地よく感じている感覚は実感している。
言葉にし難い感覚に戸惑いながら、大漢の腕の中で心を乱している。
腕の中で震える女性の心が伝わってくる事で、レオンの心も、同じく深い所で震えていた。
「[#da=3#]」
腕の力を緩めたレオンの掌が小さな肩に置かれると、戸惑いながら顔を上げる。
頼りなく細い腰元に大きな指が辿り着いた途端、小さく声を漏らした[#da=3#]に息を呑んだ。
欲情してしまう。
「あ、あの…っ」
手が勝手に動いてしまって。
我慢ができない。
身体を引き寄せて首元にかぶりつく。
「え、あっ、待っ…」
必死に身体を押し退けようにも、体格差があり過ぎて小さな手では何の意味も成さない。
仰け反りかけた肩口を抑えてそのまま首元から、首筋を通って耳の付け根の柔らかい部分へ順にキス。
押し退けようとした左手を捉え、逃れる事を赦さない大漢の掌は僅かな力で難なく抵抗する手を抑え込んだ。
手首はか細く、力を込めてしまうと折れてしまいそうな程。
隙間無くキスを落としてくる獣に、喉奥で小さな悲鳴を上げるしかない[#da=3#]は仔犬の様にきゅんきゅんと声を上げるしか、成す術が無い。
喉元にキスを落とすと、声は一層に高く上がった。
声が耳に届く度に興奮を誘う。
「ああ…っ、や、あのっ」
自由にならない左手首を何とか引き抜こうとするが、この大漢には敵わないだろう。
何よりこの程度の力を制圧するのなんて、容易い。
中身が立派な成人とはいえ外見は成長を止めた子供のままである。
抵抗など何の障害にもならない。
抵抗が無駄だと悟った右手が声を抑えようと口を塞いでいるが、音を立ててキスを落としていくと、その度に小さな悲鳴が上がり声が漏れ聞こえてくる。
それがどれだけの興奮を誘うという事か、分かっていないのだろう。
声が漏れる度に、もっと聞きたくて。
次第に身体が汗ばんで、甘い香りが鼻に届く。
未発達の小さな胸が震えて揺れる。
腰が仰け反っていき、僅かにレオンの身体に触れた。
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