- Trinity Blood -4章
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抱き締めて、
ベッドの端でサイドに背を預けたまま、髪を撫でている。
この髪はとても柔らかくて、触っていても心地がいい。
せがまれる様に、レオンの髪を撫でる事になって。
あまりない、貴重で穏やかな時間な様だが、何故そう思うのか分からないままでいる。
普段はお勤めに行ったり検査へ行ったり、訓練の為にあちこち歩いて回ってりして忙しくしていたからだろうか。
けれどそれだけでは、無い様な。
心地良さそうに寝息を立てる、大漢。
いつの間にか深く眠っているらしい。
髪を撫でる指の先が耳に当たってしまった。
「あ、ごめんなさい」
思わず声を上げてしまったが、それには応える様子は無く指が当ってしまった相手は眠り続けている様だ。
寝たフリをしている様子はない。
体重の掛かり方や、呼吸の深さで分かる。
ただ、何故そういう事を知っているのかは分からない。
言い表し難いものだがふわふわとして、とても気持ちが良い。
最初は戸惑ったものだが、触ると心地が良く、柔らかくてくすぐったいけれど、手を止めてしまうのは勿体無い気もしている。
レオンの呼吸に合わせて、髪を撫でて過ごしたまま、考えているより随分時間が過ぎている様に思う。
誰も居ない静かな時間。
いや、正確にはレオンと二人で過ごしている時間であるがそのレオンは今眠っている。
幼い指先が、ふわふわと髪を撫で続けている。
時折風が入ってきて、頬を撫でるのがくすぐったい。
ぐるぐると回ったりぐにゃりと湾曲する不愉快な世界も、レオンは何故か知っている様だった。
でも、それが何故かは[#da=3#]には知る術はない。
恐らく、消えてしまった過去が関係しているのだろう。
覚えていない事は残念だが「今から作る事ができる」と言ったレオンの言葉通り出会いも幾つもあったし、この環境も何故かとても居心地が良くて好きだった。
抱えられて眠るこの大漢は、時折少年の様な一面を見せる。
可愛いとさえ思えるが、ただ、見えていない。
残念だなと、思ってしまう。
髪を撫でながら次第にウトウトとしている自分が居る事に気が付いていた。
手の動きが、回数を数える毎に悪くなっていって。
意識をしても、身体が脱力していく。
頭を左右に振っても、集中力が途切れて。
ついに手が止まってしまった。
・
髪を触っていた小さな指が、手を止めた。
眠ってはいた。
誤解の無い様に。
手が止まった途端目が覚めてしまった。
愛しい小さな存在。
元々小さな訳ではない。
彼は、[#da=1#]は成長を止めただけだった。
能力と引き換えに失った「成長」は、外見を8歳――いや、言動や豊富な知識を加えて10歳程に見せていた。
少年は十分、その存在を示している。
時を進め、いや自分からの過ぎたアプローチで無理矢理に、隠していた、本来女性である部分を無理矢理暴いてしまった。
乱暴を働いた事実は曲がらない。
俺にとって、お前であれば名前や性別など恐らくは関係無かった。
ただ、相棒として傍に居れたら本当に良かったのに。
けれど、深い傷を作ってしまったのも自分だ。
浅く呼吸を繰り返す頭上の、小柄な女性はただただ愛しい事よ。
レオンにとってこの瞬間は幸福のひと時である。
刑罰1000年の刑があったが、ゲルマニクス王国からの正式な申し出があった事で『派遣』という形でカテリーナに雇われ、派遣されている間は報酬として刑期を相殺する事になった。
カテリーナがゲルマニクス王国の申し出に応える形となった。
互いに利益がある。
お互いの計画や作戦に於いてレオンが懸け橋となる事で事態が有益に働くと、互いが理解した事によりこの話は現実として動いている。
名目上は『派遣』である。
彼は罪人として禁固刑を受けている身である。
その話に彼女を、[#da=3#]を連れて行きたいと進言した。
悩む事は無かった。
ただ、勝手に連れて行く訳には行かなかった。
何故なら再会した彼女は、ローマで枢機卿の影として、彼女の言葉を借りるなら『お務め』をし始めてまだ日が浅い。
これからまた別の作戦を組み上げなければならないのだから。
ただ、そんな心配よりも彼女が少しでも近くに置きたいという欲望が先に立ってしまって。
手を伸ばせば届く距離に居る、というだけでどれだけ毎日が幸せに思える事だろう。
これからの戦況を考えると、近くに置いていない方が良いのかも知れない。
ただ、長く生きる事は無いと知っている彼女の最期だけは、看取りたい。
眠ってしまった幼い女性は、レオンの髪に指を絡めたまま。
耳に少し当たってくすぐったい位だが、心地が良い事には変わりない。
下手に身体を動かすと起こしてしまうかも知れない。
ゆっくりと位置を移動させながら、起こさない様に優しい束縛から抜け出していく。
上半身を少しずつ移動させていき、体重を掛けていた身体をずらしていく。
どうやら起きる様子も無い彼女。
腹筋を使って静かに上半身を起こす。
起こさない様に抜け出せたレオンは、ベッドの空いたスペースに座った。
本当の事を言えば、あのまま横になっていても良かったんだけれど。
ただ、こうやって横に並んでいるのが一番好きだったから、つい隣へ座りたくなる。
向かい合う事も嫌いではないし、見上げるのも、見下ろすのだって好きだったんだが…
一番好きなのはこうやって隣に並ぶ事だった。
視界に入らない位置で、だけど視界に入っていて、その存在を確かに確認する事が出来る。
ずっとそうだ。
ずっとそうだった。
これからもそうでいて欲しい。
レオンにとって大切な一人であるから。
頭を下げて眠る幼い身体を自分の肩へ寄り掛からせる。
僅かに身じろいだその身体は、結局目覚める事は無かった。
過去の事を告白したたったさっきの事を振り返りながら、暫く金色の瞳を閉じ、言ってしまっても良かったのかと自問自答。
ベッド脇に置いていた煙草へ手を伸ばした。
火を点けて一息深く煙を吸い込む。
考えても仕方がない。
もう、たったさっき終わった事なんだから。
けれど、どうしてもさっきの事を考えてしまう。
あの瞬間軽蔑したのでは。
恐怖を感じたのでは。
しかしもう、たったさっき終わったばかりの事を、何故後悔する必要があるのだ。
もう、後悔している場合ではない。
今から、レオンは何もできない。
ここからは罪を重ねない事だ。
きっと神は赦される
私にとってこれは試練となる
間違いなく、同じ事を言った。
[#da=1#]が記憶を失ってしまった事で彼は、いや彼女は記憶を奥底へ閉じ込めた。
レオンは、[#da=1#]のいうところの「神に赦された」のかもしれない。
間違えてはいけないと慎重になって――いや、焦ってはいけないと恐らく知っていたし、普段ならこんな間違いを犯す訳無いのに。
『待つ事』など、得意分野だった筈なのに。
自分には相応しくないと思っていた『恋は盲目』という言葉が一番言葉として正しいのかも知れない。
悔しいが――
煙草の煙が自分のモヤモヤした部分を具現化しているかの様に、今日に限ってなかなか消えない。
再度煙草を吸ってから、煙草は灰皿へと追いやった。
子供の様で、しかし[#da=1#]であった頃より成長した女性。
隣に居るのが居心地よくて、好きだ。
彼女にとっては、どうなんだろうか。
知る由も無くて。
いや、聞いたら、言葉にして返してはくれるだろう。
ただ。
そんな事はあまり関係ない。
自分が、これだけ好きだという事だ。
いやもう多分、傍に居てくれないと――
耳の鼓膜を突く様な小さな音がプツプツと聞こえたのはその時だった。
カフスを弾くと『やあ、レオン君?』と男性の声が聞こえて来る。
「探し人なら拳銃屋がこっちに連れてきてるぜ?」
『ああ、報告は受けているよ――
…すまないが彼女を連れて来てくれるかい?』
彼女は眠っている。
起こしたくないし、このままずっと過ごしていたい。
けれどそうもいっていられない。
「ああ、直ぐそっちへ行かせる」
『頼んだよ』
すぐに通信は切れたが、さてどうやって起こしたものか。
穏やかな寝息を立てている女性を、無理矢理起こしたくない。
ただ、すぐに行かせると約束してしまった手前、急いで起こさなければいけない事も分かっていて。
「[#da=3#]、」
起こしたくない。
「おい、起きろ?」
軽く揺らすと喉奥で「んん…」と、小さな声が漏れる。
このまま寝かせておいてやりたいと思いながら「起きろ、[#da=3#]」と続けて声を掛けてやると、薄っすらとその瞳を覗かせた。
何度か短く瞬きを繰り返していたが、突然大きく目を開ける。
「――あえ…あ、あれ…」
足元に居た筈のレオンが居ない事に混乱しているのか、それともいつの間にか隣にいるレオンに困惑しているのか。
「わた、し…あ…」
戸惑った様子で膝元を触っている。
白髪が肩からするりと零れ落ちていく――不安がこぼれる様に。
しまった――
自分が移動した事で、先程迄あったものが消えてしまったのだ。
眠る前に記憶していた筈のものが失くなっていると思ったのだろう。
恐怖を感じさせてしまった。
「さっき目が覚めてこっちに移動したんだ」
小さな身体を抱き寄せ「記憶が飛んだわけじゃねえから」と声を掛ける。
「…ほんとに、?」
優しい嘘ではないよね…?
起きたら、失っているとか。
眠ったら、忘れるとか。
そういう恐怖はついて回る。
[#da=3#]にとって『今』でさえ、積み上げつつある記憶を失うのは怖いのだ。
「ごめんな――」
本当に。
慎重に接してきたつもりだったが、記憶を失うという恐怖に対して鈍感だった。
落ち着くまで刺激をしない様に。
ゆっくりと髪を撫でて。
目が覚めた時の事を考えてなかった。
記憶を失う事がどれほど怖い事か、彼女は知っている。
記憶を取り戻したいとも思っている。
けれど一方で、一度記憶を失くしたあの日から積み上がった記憶を忘れてしまうのではと不安で。
記憶を取り戻した途端、過去の自分に塗り替えられるかも知れない。
その記憶は今の自分を消してしまうかも知れない。
記憶をどちらも持ったまま、元に戻る場合も事実としてはある。
ただその場合、過去の自分が本当なのか、今ここに居る自分は全て嘘なのだろうか。
出会った人達との記憶が混在だけなのにが許容量を超えてパンクしてしまうのではないか。
自分とは一体?
どこに居て、ここに居るのは誰なのか。
ぐるぐると思考が渦巻いている。
腕の中で難しく考えているのだろう。
「あ…わたし、――あの…取り乱してしまっ…、っ」
引き寄せた腕に一層力が入ってしまう。
離したくない。
もう俺の前から、居なくならないで欲しい。
「これからも――お前が怖いと思う事は全部、教えてくれ」
腕の中で戸惑ったままでいる[#da=3#]。
何も見えない視界、記憶を失ったままの心。
不安で仕方ないだろうに、何故こうやって無理をしようとするのだろうか。
子供の様で、子供ではない。
幼い子供の様でもそれは成長を止めただけの外見で、中身はもう17歳を迎える女性である。
レオンの腕には自然と力が宿る。
「…っあ、…れ、レオ、」
苦しい、と腕の中で。
成長を止めたままの身体は、ほんの8歳――いや、10歳程の子供だ。
「悪い、」
腕の力を緩めてやると、腕の中で背中を伸ばす様に姿勢を戻す[#da=3#]の小さな身体。
「そうだお前、――’教授’の所に行かねえと、」
こうやって過ごす時間が取り上げられてしまうのは残念だと思う。
子供の様な思考に、レオン自身が戸惑ってしまう位だった。
見上げる女性の瞳には自分が確かに映っているが、何も映らない。
一見硝子玉の様なその瞳は、薄っすらとオーロラを切り取った様な美しい瞳だが、普段は前髪で器用に隠されている。
見惚れてしまう程美しいオーロラの瞳が、レオンを見上げている。
あまりこの腕からいなくなって欲しくないのが本音だが、彼女を早くワーズワースの元へ連れて行かなければいけない。
「用事の内容は分かんねえけど、一人で行けそうか?」
そういって突然抱き上げるレオンに小さな悲鳴が喉元で上がる。
慌ててしがみつく場所を探す様な[#da=3#]の小さな手。
見えていない分バランス感覚を掴むのは難しいのだろう。
突然立ち上がってしまった事を反省する。
身体を支えながら、バランスを崩さない様にしてゆっくりと身体を降ろしてやる。
焦ってるんだろうか、俺は――
まあいい。
少しでも距離は近い方が嬉しいのが本音である。
ただ[#da=3#]の為には、もう少しゆっくり行動してやらないといけないとも、思っている。
ワーズワースが開発した補助具をつけて、日常生活に3割程の支障が無いとはいえ、彼女は暗く闇の世界で過ごしているのだ。
準備をしなければいけないという焦りもあって少しの配慮が足りなかったかも知れない。
身長差が顕著に出る。
地面に足が付いた事を確認したらしい足がバランスを整え直す迄腕で身体を支えてやる。
長身のレオンにとって勿論この姿勢は少し無理があるのだが、今レオンにとって[#da=3#]がここに居るという事実を実感できる瞬間だから苦にも思わない。
「あの、…はい」
下ろしてやる時に指に絡まった女性の髪は、重力に従ってするすると指の間をすり抜けていく。
「…レオン?」
強い力ではないものの、離さないままでいるレオンの優しい拘束に戸惑った声が呼び掛ける。
「もう一回だけ、キスしていいか?」
「え?…あっ」
今度は返事を、待てなかった。
レオンはその小さな唇へとキスを落とした。
・
小説ができる度に
終わりにも近付いていって、
けれど原作は終わる事がないし結末も描かれる事は無い
悲しいなっておもいながら、
ずっと、自分の為だけに小説を書いてます
この小説が、誰かに読まれる事なんて無いと思うので
自分の為にずっと書いていたいし、
終わらせたいなとも、ちょっと思っている……
・