- Trinity Blood -4章
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もう一度、キスしたい。
「――[#da=1#]…」
胸元で眠るレオンがぽつりと呼んだ名前。
あまり力無く呼びかけた辺り、やはりレオンは夢の中。
すっかり失い掛けていた、いや、短い時間意識を失っていた様な気がしたが、その名を聞いた途端に意識が引き戻される。
しかし腕の力だけは一向に緩む事が無い。
苦しいのは引き続き変わらないのだろう。
[#da=1#]さん…て、そういえば。
何度かその名を聞いた事を思い出していた。
思い返すと、ブラザー・ペテロから。
「[#da=1#]・[#da=2#]という名に覚えは?」
正直困った。
全く聞き覚えがない。
しかし質問をしてくる位だ。
何か確信でもあるから聞いているのではと、不安になって。
トレスに聞いた時「[#da=1#]・[#da=2#]に於いての質問に対する回答は禁止事項に登録されている。機密事項重要レベル最大、卿への回答は不可能だ」と、つまり答えたくないと拒否をされ、レオンに聞いたら「そいつは教皇庁国務聖省特務分室、派遣執行官の巡回神父で、同僚だった」と言われた。
聞き覚えは無いのに、聞いた事があった様な。
それでももう、全く思い出せない。
何より目が醒めた瞬間からしか、記憶がない。
自分の名でありながら[#da=3#]・アーチハイドとは一体誰なのだろうかとさえ不安に思う。
言葉を発する事も、何かを理解する事も、食事も、全て分かっているのに、何故か何も覚えていないと気が付いた瞬間、ショックを隠せなかった。
養父であるアーチハイド伯爵の研究所へ何日も検査検査の日が続いていたが、記憶を取り戻す事は無いだろうという見解に心は空っぽになってしまい、暫く塞ぎ込む日々が続いた。
記憶が無い事を不便に思う瞬間も、もの悲しい瞬間も、ただ辛いという感情が渦巻いて。
しかしこういう感情がぐるぐると回り始めると、意識が飛んでしまう事が有る。
何度も、助けられて。
見えても居ないのに、世界がぐにゃりと景色を変える。
暗いだけの空間が粘土の様に潰されていく様な、何とも気味が悪い世界が、見えてもいないのに視界一杯に広がって。
奥底から湧き上がってくる吐き気が――
胸元で眠るレオンが「ごめんな」と、誰かに対して小さく呟いた。
その後突然、腕の力が抜ける。
麻痺し掛ていた痛みから解放された身体は、突然の自由を受け入れられる器用さなど持ち合わせていない。
「は…あっ」
どうにかなり掛けていた肋骨の感覚も、意識が途切れそうだったぼんやりとした感覚も。
酸素を求める身体は、呼吸を急いで咳込んでしまった。
両腕で固定されたままの身体は動かす事が難しい。
レオンを起こさない様にと思って、咳よ止まれと気持ちだけが焦って。
少しずつ、途切れそうだった意識がはっきりしていく。
景色は、相変わらず真っ暗だが。
胸元で「んあ、おっと…」声が聞こえてきたと思った途端、世界が大きく、揺らいだ様な気がした。
「すまん、…やっぱり寝ちまってたんだな」
レオンが起き上がったらしい。
ソファへ横たえたままの小さな身体を、大きな掌が[#da=3#]を支えてゆっくり体制を戻した。
「有難うな」
そう言ったレオンの声は、どこか悲しいトーンで。
引き寄せられた小さな身体を、すっぽり覆う様に抱き締めて「すげーいい夢、だった」と、ポツリとそう言った。
柔らかなレオンの声に、背筋が僅かに反り返る。
どうしても、体温を感じる事が怖くて。
それでも[#da=3#]は、この体温が記憶にある様な気がして。
「あの……レオン?」
まだ、呼び慣れない名前ではある。
ただこの名で呼ばないと、厳しいペナルティが待っている。
「んー?」
夢心地のレオンは、大型の猫の様で…
少し前には犬と言ってしまったけれど、いまの行為を受けて犬とは少し違うかもと、ふと思ったのだ。
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、把大きな身体がじゃれついてくる様な感覚。
自分身体が支え切れない。
けれど、この身体はレオンがしっかりと支え切っている。
大きな掌がレオンに借りたままのシャツごと抱きしめられて。
「私の、着替えって…」
「あ、」
そうだ。
何故自分は出ていって、何故バルコニーで眠っている少女をここまで運んだのかをやっと思い出す。
「お前がそんな格好のまま寝ちまって…、いいか?男っていう奴は足出して眠ってる様な――
そうやって無防備に過ごすなって、言ってるのに」
「ちょっ――いや、っ」
シャツより白い不健康そうな肌を太い指が捉える。
少女の身体が硬直していく事など意図もせずに、抵抗する小さな両手など障害ともせずに。
折角起こしたのに、再びソファへ押し倒す。
「部屋に入ってきたのが俺じゃなかったら今頃、今頃はっ」
大漢の指が腰を捉え、反対側の手がか細い太腿を撫でると仔犬が鳴くかの様にキュンキュンと声を上げる。
声が出た事が恥ずかしかったのか、慌てて口元に手を当てようとするのが可愛い。
思わずその手首を捕らえる。
組敷かれた少女は、その瞳に光を宿していないのに。
やや紅潮した素肌を、身体に合わない大きさのシャツから覗かせている。
見下ろした景色は最高で。
このままもう一度キスしたい位だ。
そう思った時。
「あの…っ、やめ、て?」
上擦った声がレオンに届く。
途端。
喉奥で「それは誘ってるって、言うんだ」と呟き、喉を鳴らす。
金色の瞳が少女を捉えて――
「キスして、いい?」
左手が、[#da=3#]の両手首を離さない。
戸惑う少女が可愛くて。
彼女は何も見えていない。
レオンが一番慎重にならないといけないのは、恐怖を与えてしまわない事。
「やめて」と言われた途端、服を脱がしてしまう所だった。
抱いてしまうところだった。
思い留まった自分を讃えたい。
だが、もう。
我慢できそうにない。
下腹部が疼き出している事に気付いたが、冷静になれる気がしない。
ただ、乱暴に扱いたくはない。
「い、いや…はずかしい」
横を向いて、消えそうな声でそう言った途端。
「ひゃうっ」
首筋を甘噛みする。
我慢できない。
今すぐ、今すぐ――
レオンにとって、理性との闘いが開始している。
柔らかな肌、甘い香り、我慢なんてできないと、しかし、ここだけは我慢をしないと。
あの時の失敗だけは――
「あ、あ…っ」
反り上がる腰を支えると、両手首を引き抜こうと必死に腕に力を入れている。
抵抗しているつもりなのだろうか。
柔らかくて、弾力のある肌。
歯を立てると、身体が僅かに強張る。
可愛い。
反応して、もっと――
首筋をゆったり舌で撫でる。
小さな悲鳴が聞こえて、もう我慢できそうにない。
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