- Trinity Blood -4章
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餌を前に『待て』をさせられてる犬の気分だぜ――
カップを両手でゆっくりと包む様にしている[#da=3#]の指先に目がいってしまう。
今、何を思い何を感じながら、ここへ座っているのだろうか。
右手でカップを持ち上げながら柔らかいラインを描く横顔を見ていると、こちらを向いた少女が「あの」と声を掛けてきた。
「ん、…おう、どうした?」
口元まで運んだカップをゆっくりテーブルへ戻しながら[#da=3#]の方へ目をやると、呼びかけはしたものの少し言葉を選んでいる様な少女。
喉元で何かを言っている様な。
一挙手一投足を懐かしく感じてしまう。
それは同僚として出会い、それ以降任務の度によく組まされていた一人の幼い神父の事だが、今目の前に居るのは彼と同じ人物であるとレオンは早い段階で気付いていた。
背の高さも今の方が少し高く、髪の色も違う、瞳の色もすっかり変わっているのに何故か――そう、まずは匂いだった。
不健康そうな肌、小さなその身、抱き締めた時に意識が飛んだその瞬間に――
「これから、私は何とお呼びすれば…」
思考を遮ったのは、[#da=3#]の言葉だった。
「あー、そうだな」
レオンは間もなく、表向きには教皇庁国務聖省特務分室の巡回神父ではなくなる。
ゲルマニクス王国国王、ルードヴィッヒⅡ世が組織する親衛隊へのスカウトを受け、彼女と共に連れて行きたいという申し出をつい先日カテリーナに申し出た所だった。
養子としてその身を保護されたアーチハイド伯爵公の下で静かにその残りの日々を暮らす筈だったが、性的乱暴を受け、再度カテリーナの下へと舞い戻った。
「名前で呼んだら良いんじゃないか?」
そういえば。
「罰ゲーム方式にするか」
レオンは自分の記憶を思い巡らせていくが、果たして彼、いや彼女は自分の事をあまり名前で呼んだ事が無い。
勿論、何度か呼ばれた事が有ったが、それはとても耳に今でも残っている官能的な――
「罰ゲーム?」
反復されて我に返ると、前髪で隠されていたその瞳がこちらを覗き込んでいる。
勿論、この瞳は光を失っている。
だが皮肉なものだ。
一見するとただ色素のない、硝子玉の様に透けた瞳だが、この瞳はオーロラを切り取って移した様な美しい色を宿している。
「名前で呼ばなかったら、一回キスするとか」
「それは…」
いきなり名前で呼ぶなんてハードルが高い気がする。
白髪の少女――[#da=3#]は困惑の色を隠せずにいた。
「試しに一回呼んでみろよ」
耳元に声が届いて、ドキリとする。
カップを包んでいる手が震えたが、その震えが何故起こったのかは全く分からない。
今とても近い距離にいるのでは?
いや。
さっき隣に座った時、1mの距離があった、筈。
もしかして空間把握を間違えたのではと[#da=3#]は不安になったが、そうではない。
目の前のレオンは2mもある大漢である。
遠く感じても身体にリーチがあり過ぎる。
「ほら、」
突然。
大きな手がカップを包んでいた少女の手首を掴んだと思うと、その手が自分の頬へと誘導する。
「あ、の」
思わずその手を引くが、一寸たりとも自分の元へ戻らない腕。
掴んだ大きなレオンの手が左右の細い手首を離さない。
「こっち見ろよ?」
それどころかレオンの頬に自分の手のひらが当たる。
手のひらへ髭がチクリと甘く当たり、痛いというか痒いというかどう言えばいいのか分からない。
指先は頬へ当たっている。
「いや…あの――」
見ろと、言われても。
丁度この指の先――
このはっきりした距離に、レオンが居る。
近い。
見えている世界の方がどれだけ素晴らしいだろうと思って日頃過ごしているが、この瞬間だけは目が見えていない事に感謝さえした。
恐らく直視など、出来なかっただろう。
指先を通して、体温が伝わって来る。
でも何故か、どこか身近に感じていた様な気がして。
見えていない、知らない筈のレオンの表情が間近に映る。
「あ、あ…のっ」
声が出ているのに、言葉が紡げない。
恥ずかしさが鼓動を早くしているのだろう。
今迄あまり聞いた事が無い様な音で、速さで、心臓がバクバクと動いている。
耳まで心臓が上がってきたかの様な気分だ。
この手は引き抜けそうな気配も無い。
だとしたら、もう。
目の前にいるこの大漢の名を呼ぶ以外に解放される術はないのだろう。
しかし恥ずかしさがその名を呼ばせない。
できれば赦して欲しい。
そう思いながら。
喉の奥で、言葉が詰まって。
かといってこのままでいる事など、できないだろう。
意を決して息を吸い込んで――
「レオ、――っ?!」
最後まで言い切れなかった。
それは自分の喉が詰まった訳でも、息が続かなかったわけでもない。
「…フライングだな、悪い」
腕の中にいると、全身で声を受けている様な錯覚になる。
悪いと言いながら、力が緩む気配は無い。
「あ、あの…ちょ、」
腕の中でもがいても意味が無いのは分かっているけれど。
押しても引いても、レオンから逃れる事など出来そうにない。
苦しい。
「は、離し…」
途端、身体が浮いて。
「――んうっ」
バランスが崩れ、身体が支えを求める。
右手が何かに触れる迄に。
何かが割れる音がしたが、その音が何かが分からないし確認する余裕も無い。
陶器の様な音がした様な気はしているが、それが何かすら思い当たる迄に至らないまま身体が横たえた。
ただ背中に当たった平らで硬いものの正体が一体何なのかを気にする事など許されない位に、それらが一瞬の出来事である事は分かった。
「わた、し…」
床に寝かされた訳ではない様だ。
足は膝から折れて、地面には当たらない。
指が床ではない何か平らなものに当たる感じでは、滑りの良さそうな布が敷かれている様だが。
「[#da=3#]」
耳元で聴こえる低い声にぞくりとして、反射的に腰が反り返った。
「ちょ、…と」
見逃さない大漢の掌が、腰を支える。
「もう一回呼んだら、解放してやるよ?」
「ああっ」
ゆっくりと声を耳に流し込んでいく。
掠れた声が、耳に届いた。
瞬間。
欲望が疼く。
我慢できなくなって、耳を甘噛みする。
「あ、あ――っ」
一層声を高くして身体を仰け反らしていく[#da=3#]の仕草がたまらない。
ゆっくりと耳裏へ舌を這わせていき、柔らかいその首元を噛んで。
「だ…、だめっ」
甘い香りが鼻腔を刺激する。
音を立てて水音を立てるともう、上擦った声を上げて腰を捩った。
「あ、お願い…待…っ――」
必死に声を上げる[#da=3#]の言葉を遮る様に、レオンは丁寧に首元を舐めていく。
抵抗する両手もレオンの前では無力である。
この不思議な感覚から逃れようと、腰が段々と反り返ってくる。
腰元を支え、身体をぴったりと合わせて。
切羽詰まった時、この名で呼ぶ事が有った事を忘れていない。
自身が合わせている腰元で、下腹部が硬くなっていく。
今日の目的は、名前を呼んで貰う事だ。
興奮した下腹部へ[#da=3#]の意識はいっていない様だが、今回の目的を忘れてはいけない。
冷静に、冷静に。
しかし、その行為は全く留まる気配がない。
自分の行為がエスカレートしてしまわない様に「ほら、呼べよ?」と声を掛けて。
耳を咥え、舌の腹から舌先でべろりと舐めると高い悲鳴が小さく上がる。
「いやっ、あ…レオ、ンッ」
ああ。
愛しい人。
再び少女を抱き上げると、突然姿勢が変わった恐怖からかレオンの髪を少し引いてしまう。
反射的に「いて、」と小さな声で言ってしまったが、こんな痛み、快楽の一部だ。
「今度から俺の事、ちゃんと名前で呼べよ?」
強く抱いて。
もうこの腕から解き放つ事なんて、本当はしたくない。
「わたし…あ…っ」
足元が宙に浮いたままの[#da=3#]が、バランスが崩れるが怖い様子で、首へとその細い腕を回してきた。
「すみませ…あ、髪を…」
今髪を引いた事を、気にしている場合なのだろうか。
彼女はそう言ったところも妙に真面目で。
少し呼吸が乱れたまま、今自分が受けた行為より先に、相手に謝罪してしまって。
「もう一回名前呼んだら、許してやろうか?」
今度は先程迄座っていた、椅子に降ろされる。
「え?いや、え、あ…待っ――」
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トレスに引かれ、保護された先だった筈なのに[#da=3#]さん…
レオンさんそんなにスパルタだったのかな…?
うん…
いや。
多分これを書いてる時、ちょっと酔っぱらっていたと思うんだけど…
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