- Trinity Blood -4章
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安全な場所?。 微裏?
ぽとぽとと黒髪から雫が落ちていく。
シャワーを浴びた浅黒の肌の大漢はテーブルに置いた煙草を手に取った。
タオルを被ったまま、煙草を咥えて火を点けると一息深く吸い込んだ。
時折雫を拭いながら、バルコニーへと目をやる。
――癖になっちまってるな
かつて『相棒』と呼んでいた愛しき同僚、[#da=1#]がバルコニーで過ごしている事が多く、つい今でも目をやってしまう。
彼がバルコニーで風を感じたり星や月の光を眺めて過ごすのが好きな様だと気が付いてからは、少し値は張るがなるべくそういったスペースがある部屋を予約する様にしていた。
[#da=1#]と行動する時はあまり飲酒せず、派手に女性に声を掛けずに努めて過ごし、行動する時は半ば強制的に連れて大体一緒にいる様にして。
もう、そんな必要が無くても外へ出る事が出来る部屋を用意して欲しいと、つい頼んでしまう。
考えを巡らせている内に、煙草の灰が落下直前になっている事に気が付いて「おっと」と口元から離して灰皿へ乗せた。
そうえいば、煙草の回数が以前より少し減っている様な。
[#da=1#]と居る時は意識して回数を減らしていたが、あの一件以来特に量が増えていた。
半分自暴自棄になってはいたが、なるべく周囲には気取られない様にと努めてはいたがそうもいかない。
煙草の量は一時期増えて、分かっているとはいえ乗り越えられずに不穏な日々を乗り切る為であるのは理解できていた。
[#da=3#]と出逢い、[#da=1#]の面影をぼんやり感じるようになってから、煙草の量が少し減っている様な気がしている。
「あん?」
考えを巡らせていると、扉がノックされ現実に引き戻される。
ノックの感じからトレスである事は分かったが、特に言葉を発しない。
一瞬警戒をするが、しかし再度扉がノックされる。
考えている暇は無い様だ。
扉を開けると。
「お、」
予想していた人物とは違う、いや正確には予想していた人物は扉の目の前にまるで壁の様にぴたりと立っている。
しかし、その後ろに最愛といえる少女が――
[#da=3#]がトレスに引かれて連れられてきたのだ。
トレスの僧衣を持っている行為は、今までもよく見ていたものだ。
トレスや’教授’にも時折やっている行為だが僧衣を少し持っている事が有る。
レオンにも同様の行為がみられる事が有り、それは不安を解消する時の行為と推測される事から、特にその行動を指摘する事は無かった。
アベルやユーグからこういった行為を聞く事は無く、アベルからは何故か羨ましがられたりする。
そんな事を考えている場合ではない。
トレスから「不適切な行為とみなす、今すぐ服を着ろ」指摘され、レオンは納得がいかず後頭部をバリバリと掻いた。
まだしっかり乾き切っていない髪が時折雫を落としている。
身体を端に寄せ扉を開き切ると端正な顔立ちの小柄な青年は「失礼する」と言って室内へと足を踏み入れる。
続いて更に背の低い、小柄な少女が青年の後ろから「す、すみませんお邪魔、します」と言いながら続いて滞在先の自室へと入ってきた。
「人がプライベートな時間を過ごしてる時に訪ねてきたのはお前らだろ?」
扉を閉めながら、しかし金色の瞳は少女を追い掛けていく。
昨日抱き上げたあの小さな身体のぬくもりがこの腕にまだしっかりと残っている。
鼻腔に残った甘い香りが、ずっと鼻先をくすぐっていて。
結局殆ど寝付けないまま、片付けないといけない書類を終わらせるためにシャワーを浴びたのに。
目の前にまた彼女が現れるなんて。
「肯定。[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢の保護を最優先と判断しこの地点まで移動をした」
「あ?あっちの方がよっぽど安全だろうが」
僅かな機械音と共に「それについては肯定」と言うトレスに「おいこら、そこは遠慮しろ」と短い突っ込みを返す。
「ウィリアム・ウォルター・ワーズワースの研究控室で[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢の婦女暴行未遂の場面に遭遇した」
「いえあの…」とアベルへのフォローへ入ろうする[#da=3#]の声も虚しく「現時点で卿との信頼度が高い為、こちらでの滞在を要求する」と抑揚のない声で告げる。
おろおろした様子で2人のやりとりを聞いている[#da=3#]を横目で見ながら、コーヒーサーバーを手に取ってカップに注ぐ。
「まあいいけど…」
僅かに冷めたコーヒーをすすってから、近くの座席に脱ぎ捨てていた衣服を持ってバスルームのカゴへと持って行く。
髪を雑に拭き上げて、衣服と一緒にカゴへと放り込んだ。
視線を移した先に鏡に映った自分が髭を剃っていなかった事に気が付いたが、今日は仕事の予定も無い。
「俺が襲う可能性は計算に入ってるんだろうな?」
「肯定」
躊躇い無く返事を返すトレスもトレスだが、本人を目の前に繰り広げられる様な内容の話ではない様に思うが。
「じゃ、何で俺なんだよ」
戻ってくるレオンのその手には、カップが2つ持たれている。
小柄な青年とのやりとりをしながら、テーブルへカップを置く。
「俺の記憶領域内で卿への信頼関係が現段階で一番高いと算出している」
「分かったよ――ったく…」
そんな風に言われると、逆に手を出しにくい。
彼女に関しては、特に慎重に。
レオンにとって、彼女は最も大切に扱いたい一人だ。
女性であれば誰でも大切には扱っているが、娘であるファナと、目の前にいるこの[#da=3#]だけは特別だった。
今迄は娘の為だけに、この命を繋いでいたのに。
しかし。
彼女はまた、愛娘とは少し別の存在だった。
「巡回に戻る」
思考を打ち止めたトレスの声は短いものだった。
もしこのまま、考え事をしていたら夜まで掛っていたかも知れない。
無駄な動き一つせず180度向きを変えたと思うと、そのまま扉に向かって足早に歩を進めていく。
幼い少女一人を残して『獣人』の子孫であるこの男の前から去るという事は、最早餌を与えた様なもの。
しかしトレスが[#da=3#]の「保護」が目的でここへ連れて来たという、真意を読み取る事は難しい。
普段’機械’だと言い張るトレスが「信頼」などという不透明で計り知れないもので、[#da=3#]をここへ連れて来た理由とは一体何であろうか。
既に扉のノブへ手を掛けている端正な顔立ちの青年。
その背を見送る様にして金色の瞳が追い掛けている。
「これ以上ここで時間を費やす訳には行かない」
「おう、」
ノブへ手を掛けたかと思うと「失礼する」と一言だけ言い残し、トレスは扉をくぐってしまった。
「…忙しねえ奴だな、ったく」
盛大な溜息をつきながらレオンはテーブルに置いたカップの内一つを差し出してやる。
「ほらよ」
「ありがとう、ございます」
隣へ座って、愛しい少女の横顔を見詰める。
以前とはがらりと変わってしまった様に見える少女。
しかしこの少女には要所要所で、[#da=1#]である事を証明している。
腕に付いた十字架を鳴らし、位置を確認してからゆっくりとカップへと手を伸ばす。
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