- Trinity Blood -4章
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――どうしてそこに手を?
アベルがはっきり見た指の動き。
見逃す筈も無い。
絲を繰り出すその腕輪は、少年の普段使用していた武器の一つ。
しかし、問いかける前に言葉を止めたのには訳があった。
目の前にいたアベルへ硬い表情を向けながら、広いベッドのーー
いや、[#da=3#]にとっては十分広い物だったが、’教授’が仮眠室として設置していたベッドは大人には狭いベッドの上をゆっくりと後退っていく。
前述の通り狭いベッドの為、アベルにとっては容易に手が届く訳だが、その手は伸ばさない。
腕輪の十字架へと手を伸ばす行動は少女にとってこの行動は今や別の意味がある。
反響音を利用して部屋全景を脳内へ映す動作の一つだ。
視力を失った[#da=3#]の為に開発した補助具の一つであり、’教授’が開発したもの。
開発した者が同じ人間ならば、共通して当然のデザインだ。
髪の染色具合の報告書をまとめる為3日間ここで過ごした為、部屋全体の配置は把握しているだろう。
腕に付いた十字架を僅かに震えの始まった指で鳴らしながらベッドの端へ後退っていくと、その小さな背は壁へと当たる。
他に誰が居ないかを確認している様だ。
「あの、すみません――」
アベルは何とか声を掛けるが、声を掛けた人物は返事をしてくれないままでいる。
何を思っているのか、喉奥で何かを言い掛けているようだが、言葉は紡がれない。
意を決した様に長く息を吐いた少女が言葉を紡ぎ掛けて――
「そこで何をしている、アベル・ナイトロード神父」
普段なら気が付く様なトレスの足音は絨毯にかき消されていた様だ。今更になって、僅かに聞こえる機械音が耳に届いた。
「あへ…!こ、これはトレス君…!」
「回答の入力を」
感情などという無駄は省かれている、と普段から冷淡に告げる硝子玉の様な瞳が座った状態のアベルを見下ろしている。
「あの、えー…ね、眠り姫に見惚れてしまって…その」
乾いた声で「はは、」と笑いながら。
言い訳など通じるものではないだろう。
トレスは沈黙の後僅かな機械音と共にアベルに「肯定」と告げ、
同時に愛銃のジェリコ・ディス・イレを取り出したかと思うと、長身の神父の眉間へと寸分違わず銃口を突き付けた。
「不法侵入及び婦女暴行未遂として出頭を要求する。尚抵抗は推奨しない」
口早に投降を求めるトレスに、慌てた様子で長身の神父立ち上がって「や、待って下さいよ」と両手をバタつかせる。
「ちょっと聞いて…!あああ、の、私は'教授'を訪ねたんですよ!そしたらここにはいらっしゃらないし奥には[#da=3#]さんがいらっしゃるしで――」
「俺がこの部屋へ来たのは7秒前だ。廊下を歩いている54秒前からこの部屋の扉は見えていたが卿が前後左右にいた記録は無い。いつから部屋にいた」
定期哨戒のルートにこの地点が登録されていたのだろうか、それとも滞在している[#da=3#]へ対し、一時的にこの地点を登録し様子を確認しに来ていたのだろうか。
真相など今は、どうでも良い。
「ひい…っ!ちょっと、まずは銃を下ろして!トレス君!」
恐怖で心に余裕の無かった少女にとって、目の前で繰り広げられるこのやり取りが徐々に心を落ち着かせていって。
計算され尽くしたものなのだろうか。
それとも――
いや。
以前から知っていたとか、そういう話はないのだろうか。
記憶の蓋を閉じてしまった心に、思いを馳せる。
「辻褄が合わない、アベル・ナイトロード神父。再度回答の入力を要求する」
「少し前からです!あ、あの部屋で待たせて貰おうと思って!」
勘違いであろうに、自分の思い込みから考える暇もなく心を揺らしてしまった事に反省する。
申し訳ない様な気がして、しかしなんと声を掛けたらいいのかと考えを巡らせている。
「[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢」
突然。
トレスから声が掛かる。
「俺のいる位置へ移動しろ」
名を呼ばれると何故か反射的い身体がピンと伸びて。
予想していなかったから返事を返すタイミングを逃してしまったが、トレス方へ身体が向いた。
勿論誰かをその瞳へ映す事も、景色を見る事だって[#da=3#]には出来ないのだが。
「速やかに移動をしろ、[#da=3#]」
言葉に引っ張られる様に壁から離れる。
一度腕輪の十字架を鳴らして位置を確認してから、声のした方へと靴も履かずにトレスの方へ寄る少女を、小柄なその身で覆う様に隠す。
「安全領域への移動を確認。状況を報告しろ」
「は、い…あの、大丈夫です」
何故そう思ったのか詳細が分からないが「冷静に」と心の中でそう繰り返しながら、少女はひとつ呼吸をした。
「ナイトロード神父…」
冷静に、努めている様子が見て取れる。
「貴方が悪い訳ではないのに…ごめんなさい」
しかしその手は、トレスの僧衣を僅かに握っている。
怖い思いをさせてしまった事だけは、間違いない。
目が見えない彼女が、乱暴を受けてカテリーナに保護されたのは報告にあったからだ。
トレスから銃を向けられているにも関わらずアベルが「いいえとんでもない!」と言いながら立ち上がる音が聞こえた。
「直径3m以内に近付かない事を推奨する」
「ひ…っ」
短い悲鳴が聞こえる。
目立った足音は聞こえなかった気もするが、近寄ろうとでもしたんだろうか。
それとも――
「速やかに靴を履け、移動する。同行を」
詳細を知る事は出来なかったが、何より今は、申し訳ないと思いながらも自分の身が安全でないと不安で仕方がない。
指示をされた通り、靴を探す。
慌てて腕に付いた十字架を鳴らし、靴を位置を確認する。
裸足のままでベッドからトレスの方へ移動したのだから。
少しヒールのある靴を履き、トレスの方へ再度戻っていく。
「あの、[#da=3#]さん――私こそ…本当にすみませんでした」
直径3m以内に来るなとトレスに言われているのに、間近で聴こえている様な不思議な声。
周囲からの情けないエピソードや頼りない話題をよく聞いてはいたが何故かアベルの事が苦手で、だがその意味はよく分からない。
もしかしたら記憶が無くなる前に何かあったのかも知れないが、理由も詳細も、分からない。
若干の不信感が心に残っている…気がしているだけかも知れないが、少し苦手だった。
しかし、上司となったカテリーナだけはアベルへ何か違う感情が動いている様な、不思議な感覚があった。
声のトーンが少し違う様な、話掛ける時の香りが少し違う様な、それだけ僅かなものだったが。
「同行を」
どこへと言わなかったが、一呼吸置いてすぐにトレスは移動を始める。
「あ、え――」
アベルに返事をしようと言葉を巡らせていた矢先の事。
トレスの僧衣を握ったままの少女は引っ張られる様に後を追っていく。
しかし歩調は早過ぎる訳ではない。
追い着ける程のスピードで前を歩いていくトレスにはすぐに追いつく事ができた。
しかし何故、一体どこへ?
今日はお務めがあるとは聞いていないし、別件で用事でもできたのだろうか。
結局アベルに声を掛ける暇は無いまま距離がどんどん離れている。
「あ、あのナイトロード神父に、」
「否定。俺は卿の安全を優先する様に命令されている」
ということは、別に用事がある訳では無い様だ。
扉の開く音がして、ワーズワースの研究室からは出る事は分かったが。
先導して廊下を歩き始めたトレスが「命令された」と言った事が気になってしまう。
声を掛けたいが、そうはいかない。
そう言えばワーズワースの研究室内仮眠室へ滞在する様になった3日間、毎日トレスが顔を出してくれた。
「…イクス神父」
「何か問題か?」
足は止めない。
進み続けるトレスの歩調は僅かに早く感じられるが、しかし彼なりに気を遣っているのだろう、後ろを続く女性が躓かない程のスピードである。
「あ…いえ」
「何か問題や、平常を保てない状況が起これば速やかな移動と、卿の安全確保をする様にミラノ公から命令を受けている」
まだ質問してはいないのに。
頭の中を覗かれている様な不思議な気分だ。
「俺の判断で算出された、一番安全な位置へ移動する。このまま同行を」
「…はい」
僧衣の端を持ったままの指先が、少し力を宿した。
不安なのだろうか、と自問自答。
誘導されながら足を進めていく。
その先がどこか告げられる事は無いまま。
!読んだよ!
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前回もそうだったけれど、前編後編をじわじわと同時進行しているのですが…
前編より後編の方が先にできてしまうトラブルが発生しています。
(実際これも、6月末から20行手前程で更新が止まったまま後半が完成してしまっていた)
ここに持って行きたい!
けど間を書くのが非常に苦手…
っていうタイプだから
かなりダメダメなんですよね^н^
あとは、ちょっと大切なシーンで何故か管理人が何度もPC前から消える。
本当に謎現象ですね…(え?
20240109・誤字脱字更新