- Trinity Blood -4章
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定期巡回。×
「なんですって?」
剃刀色の瞳を鋭く光らせ、緋の麗人は身体を少し前傾にした。
「彼女からはっきりそう聞いた訳ではありませんがね――」
一方男性は、杖を傍に置いて座った。
少女の困惑した表情を思い出すと、居る訳でもないのに子を持つ親の様な気分になった事に自分が戸惑いを隠せなかった瞬間を同じく思い出してしまう。
「しかし『足手まといになるから』と、すっかり狼狽えていたから、恐らくもう彼からは求婚と同等のアプローチがあった筈だよ」
「――そうですか…」
求婚まで。
そうか、あの申し出の後。
彼女に逢ったのね――
彼がそこまで本気だったという事に、驚かされっ放しだ。
女性とあれば隅々まで声を掛ける程の女好きと例えられる程のレオンの中で、いつの間にか存在が大きくなっていた事が証明された。
性別を隠して過ごす少女へと――
いや、元派遣執行官の巡回神父[#da=1#]・[#da=2#]へと思いを巡らせる。
何度もレオンを付かせた事が間違いだったのだろうか。
いや。
男性には興味が無いレオンの察しの良さを逆手に取って、あくまで男性として接してくれるであろう事を計算した上で組ませていたのだ。
レオンは勘の良い男だ。
勿論直ぐに、彼が少年ではなく女性である事に気が付いていたのだろうが、期待通り男性としての扱いを続けていた。
[#da=1#]とレオンの間で、性行為があったという事実はあったが、それが同意のものだったのか、一方的な行為だったのか詳細は聞けなかった。
しかしその後任務を中断し帰還、精神的な疲弊を強く訴え病院へ入っていた少年が病院から抜け出し行方を眩ませたのち、脱退を申し出てきた事を踏まえれば勿論後者であろう事は安易に予測できたが。
何があったのか真実を知る事などもう、二度と叶わない。
そして当時、何があったのかを聞き出す事など流石にできなかった。
・
「[#da=1#]さん…」
期待を込めて呼んでみたが、勿論返事など返ってこない。
僅かに身動いだ少女の姿に目を奪われる。
目の前の少女はアベルに返事をする事も無い。
こんな所に居るべきでは無い事位は分かっている。
しかし、アベルは動けない。
浅く呼吸をしながらベッドで静かに寝息を立てている少女からすっかり目が離せなくなっていた。
髪も脱色し切って一時的に染めていた金髪も綺麗に白髪へとその色を取り戻している。
幼い顔立ちの、以前より少しだけ背が伸びた様な少女の頬に触れてしまいそうになるが、アベルはその手を止める。
触れてはいけないと言い聞かせながら。
「――[#da=1#]さん」
目の前に居るのに。
相手は返事をしてくれない。
目の前に、いるのに。
その時。
「ん…っ」
身体の向きを変え、一見色素のない瞳がゆっくりと開いた。
その瞳は普段前髪で器用に隠されているが、オーロラを映した様な美しい瞳を覗かせていた。
何度か瞬きをしてベッドの端へ寄って上半身をゆっくり起こした少女の髪が、重力に従ってさらりと落ちる。
左右へぐるりと見渡した少女は、気配に気付き「だれか、いるの?」と注意深く声を掛けてきた。
絹糸の様に薄く肩に残った髪に目がいって。
覗き込んだ少女の瞳は、勿論光を宿していないけれど。
思わず肩に手を伸ばしてしまう。
「誰なの?」
触れるか触れないかの所で。
応えない相手に警戒した少女は、僅かに声を大きくした。
腕についた腕輪の十字架へと手を伸ばし――
しかしその手はぴたりと止まる。
「あ、す…すみませんあの…」
気配の主であるアベルが声を発したからだ。
「…え――ナイトロード、神父?」
「どうして…」
危うく声が重なるところだった。
少女の問い掛けは恐らく『何故そこに居るのか』というものだろうが、アベルの問い掛けは『十字架へ手を伸ばした事』だ。
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