- Trinity Blood -4章
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最初部屋へ入った際に見た時とは、表情が全く違っていて。
しかし確かに、時折誰かの服の一部を持っているのを見掛けた事が有る。
勿論ワーズワース自身も経験があった。
それを指摘する事は無かったが、彼の安心行動であったそれが、今でも名残がある様だ。
先程とは全く違う様子で寝息を立てる少女を見ながら指先で緩やかに髪を撫でてやると、僅かにその身を寄せる。
あまりこういう態度が見られなかった事から、やはり少し驚きは隠せない。
――猫に、木天蓼…か。
あの時の自分は実に上手い事言ったんだなと、ため息を一つつきながら口端を少し上げた。
「改めてレオン君が気の毒に思うよ」
ワーズワースは少女へと語り掛けるが、先程までと違い穏やかな寝息を立てている[#da=3#]からの返事はない。
「彼の葛藤が手に取る様に分かる」
僧衣の一部を握ったその指は無理矢理に引っ張ればきっと離れるのだろう。
だが衣服を握るこの行為が穏やかな眠りの助けになっているのなら、無理に離す必要も無いのだろうとも考えて、この場から離れる事はしない選択をした。
しかしそうなったら、ここで何かできる事を考えないと。
彼女の手を無理に引っ張らない様にと、視界に入るもので何か時間を潰せないかとぐるりと見渡していた。
左右には小さなテーブルがあり、壁に沿って本棚がずらりと整列している。
中にはびっしりと本や資料が詰め込まれていて、一角には丁寧に畳んだ古新聞が隙間なく敷き詰められていた。
新聞は同僚である[#da=1#]が使っていた場所だった。
懐かしい。
彼は新聞が好きでここへ来ては自身のお気に入りの暖炉傍のスペースに座って一字一字丁寧に新聞読んでいた。
おっと。
思いにふけっている場合ではない。
ふと見掛けた、ベッドサイドへ置いていた棚へ手を伸ばし一冊の本を取り出すと、引き寄せた椅子へと再度腰を降ろした。
こうなった以上は身を任せるのが一番良いだろう。
以前、振り返っても随分前になる。
一度、幼い神父がトレスの腕を抱き込んだまま眠っていたのを見掛けた事があった。
トレスは「睡眠を優先、襲撃があっても十分対応可能だ」と返答しそのまま『柔軟』な対応を続けていた。
アベルが『トレス君は[#da=1#]さんにだけは甘い』と何度か漏らしていた事があったり、何度か口論めいた事をしていたのも目撃した事が有った。
トレスと[#da=1#]を組ませていたのはカテリーナによる指示だったが、確かにトレスは[#da=1#]に何かしらの感情を抱いているらしかった。
しかしながら本人にそれを伝える事は無かった。
恐らくこの意見は「否定」と短く切り捨てられるに違いない。
彼女を前にすると思い出すのは[#da=1#]の事ばかり。
「気になってたから、読むとするか…」
あまり思い耽っていてもいけないだろう。
彼女は生きる道を選び直した。
視力を失っても、気高さは変わらない。
性別を取り戻しても、人となりは変わらない。
神はいつも突拍子もない事を選ばせる。
「う…ん」
相変わらず指先は握られていて、離れる事は一度も無かった。
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丸くなった身体を伸ばし、ゆっくりと身体を反らしていく。
喉元で甘く力ない声を漏らしながら、腰を少し浮かせて。
左手がまっすぐ伸びていった。
「んぅ…っ」
その間指先の力は強くはなかったがやはり外れる事はない。
目を擦った少女はゆっくりと何度か瞬きをした後、窓を探す様にベッド上で左右の確認する。
一連の動きに驚きが隠せなかったのはワーズワースだ。
しかし下手に声を上げたり、身体を動かす訳にはいかない。
「ん、」
何かを握っている事に気が付いたらしい指先へ、反対の手を伸ばしていく。
僧衣を伝って肘へ触れたところで。
「え、あ…」
慌てた様子で起き上がった少女。
目が見えていない[#da=3#]にとって、今自分が起きているか否かは流石に分からないだろう。
「…やあ、おはよう」
努めて優しい口調で振る舞う紳士の瞳を追い掛ける。
見えてはいないが、その瞳は、あの時の様にワーズワースの瞳を覗き込んでいる。
透明な硝子玉に、オーロラを閉じ込めた様な靄が薄っすらと浮かんでいる。
正しくは色素が抜けた様な白い瞳だが、色素がない事で『気味が悪い』と指摘を受けた為、透明となった瞳の色気にして普段はその前髪で瞳を隠してしまっている。
美しい虹色の様な色がぼんやりとついている。
寝ている間に少しクセが付いたのか、髪は隠していた瞳を映し出していた。
素敵な瞳だと声を掛けてしまうと慌てて顔を伏せてしまうから、暫くこの瞳を見詰めていてもバチは当たらないだろう。
こちらは夜の間、身体を貸したのだし。
愛しき博識者よ。
君は本当に愛おしい。
「――あの…ワーズワース神父」
消えそうな位、小さな声。
彼女はすっかり赤面して「わたし…あの、すみません」と、自分が今迄手を離さなかったらしい事を謝罪する。
「大丈夫、寝ている間に起こった事だ」
ふふ、と。
こうやって手を離さなかった事で仕事は一つも進まなかったし、眠る事さえ出来なかった。
まあ小説は読み終えたし、久々に前髪で隠れたオーロラの美しい瞳を見る事が出来た。
「改めて、レオン君が気の毒に思うよ――」
言われて再度顔を上げる、一時的に金髪に染まった少女の髪をゆっくり撫でてやる。
やや戸惑った瞳を向ける[#da=3#]の瞳は確かにワーズワースを映していたが、彼女の瞳は既に視力を失っている。
この仕草、身体を伸ばした時に漏れる上擦った様な声、仰け反る腰など、健全な男性にとってはどれもたまらないものだっただろう。
特に性別が女とあらば口説く事以外の選択肢を知らない程のレオンの事だ。
同僚との距離には悩んだ事だろう。
本来年齢的に口説く予定の無い、少女。
外見は変わらないものの、日を追うごとに女性らしくなっていく香りは一度嗅ぐと忘れる事など出来ないだろう。
獣人の遺伝子を持って生まれたレオンにとって[#da=1#]の香りは、実に性的興奮を誘発する、耐え難い木天蓼といっても過言では無かったのではないだろうか。
首を傾げる[#da=3#]に「さあ、朝食にしようか」と、先程迄僧衣を持っていたその指へ優しく触れて。
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ああ…
めちゃくちゃ長くなったな…
でもこの一話は次の話の為に、
とても大切な一話だったので
絶対ちゃんと書かないと…
と思って頑張った…
っていうか
物語が繋がらないといけなかったので、
この前のトレス君との話と、
今回の教授と、
次の話と
同時に3話書き進めていたので、
頭がこんがらがり過ぎて
自分がこの話を書き始めて
合計で1ヶ月半は経過してる…
・・・