- Trinity Blood -4章
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思考回路を巡らせているのだろうか。
目の前で小さな機械音が鳴っている。
音を追い掛ける様にトレスの方を向く。
瞳は何も映さないが、その瞳には恐らくトレスが映っていて。
差し出された指が位置を確認する様にトレスへと向かってくる。
恐らく悪意あるものだとしたら、トレスは直ぐにその手の動きを封じていただろうが。
トレスは何故か、特に反応を見せず、頬に触れた[#da=3#]の指の感触を受け入れている。
この行動をよく知っているかの様に。
幼い少女の手は震えていて。
「イクス神父…」
幼い子供の声に、トレスは言葉を発しない。
しかし僅かな機械音が[#da=3#]の直ぐ傍で聴こえて。
ゆっくり息を吐いてから「取り乱してしまって…すみません」と言葉を紡ぐ。
「否定。不用意に卿へ触れたのは俺だ、謝罪する」
腰元を支え、身体を起こさせる。
[#da=3#]を椅子へ座らせてから「俺は速やかに髪の染色を行う」と告げる。
「――ありがとう、ございます」
再び元の位置へ戻った少女は、身体に力が入った様子で肩を寄せて座った。
小瓶の中身が噴霧され、少女の白髪は少しずつ色味を帯びて金色を増していく。
「染色2日間の効果を報告書纏める為、染色が完了したらウィリアム・ウォルター・ワーズワース神父の下に移動し3日間滞在する」
「はい」
背後でコチコチと鳴っていた小瓶から発する噴霧音がスッ、スッとその音を変えた。
どうやら中身が終わった様だった。
洗面台へ小瓶が置かれたらしい音がして、同じく洗面台に置かれていた櫛を手に取る。
髪が櫛で梳かれていく。
力の入り方が丁度良いのは、計算されているのだろうか。
緊張が解けた様に、上がっていた肩が落ちて行くのが分かる。
「染色液が浸透する迄15分待機しろ」
髪を梳かし終えてから、櫛を洗面台へ置く。
洗面台へ置かれていた小瓶を取る音が聞こえて。
トレスが離れていく気配に、妙に不安になってしまう。
声を掛けられない。
手がトレスを追い掛けてしまっていた。
指先が触れた瞬間、トレスは足を止める。
[#da=3#]からトレスへと言葉が発せられる事は無い。
普段同僚等は「離せ」と冷淡に言葉を投げ掛けるのに、何故か少女はそういった言葉を受けた記憶が無い。
トレスは少女にだけとても甘く柔軟とも言える、何故か『人間らしい』とも取れる応対をしているのだ。
自分が人間ではなく機械だというトレスにとって、これほど柔軟な応対を取るのは、どういう訳なんだろうか。
「貴方は何故[#da=1#]君にだけ優しいんですか?」
否定…俺は――
記録された発言が突然蘇る。
間も空けず否定した事も記憶に残っている。
記録を消去する事が出来なかった。
何故か、思考回路に問題が生じたというのだろうか。
少女にとってどれ程、トレスが自分を保つものなのだろうかは図り知る事は難しいだろう。
しかし間違いなく今この瞬間[#da=3#]にとって無くてはならないものの様な気がして、ならない。
「空瓶を片付けに行く――
…同行するならそのまま手を離すな」
非情で冷淡に言い放つトレスの表情は伺い知る事は少女には何故か冷たく聞こえない、青年の平坦で抑揚のない言葉。
「あ、あの…いえ――」
突然恥ずかしくなる。
身体が、指が、動いてしまった意味が分からない。
指を離すと、トレスは静かに「その場で待機していろ」と告げて椅子へ座らせる。
洗面台にその身を預ける様にして両腕を乗せた[#da=3#]はその身を小さく丸める。
規則的なリズムで聴こえる足音に耳を澄ませながら、深く深呼吸をして自分に落ち着くように言い聞かせる。
どんな風に自分の髪が染まって、どんな風に自分が仕上がるのか全く想像もつかない。
必要な事であれば今後も定期的に髪を染める事実を受け入れるとしているが、自分の外観がどのように仕上がっているのかを知る術はない。
部屋を挟んだ4m程向こうでトレスが小瓶をジュラルミンケースへと戻しているらしい音が聞こえてくる。
冷静になれと、言い聞かせる様に、大きく息を吐いた。
溜め込んでいたモヤモヤした気持ちが、出ていってくれたらと思って息を吐き出した。
けれど、そんなに簡単に事は運ばない。
だめか――
少女の願いも虚しく心は不安定で、恐怖は去ってくれない。
見えない恐怖の中で組敷かれ、相手の歪んだ性癖で死を間近に感じた事は、処理出来ない程の恐怖生じてしまったのだろう。
ぐらりと揺らぐ世界。
見えない筈の世界が粘土を潰す様にぐにゃりと曲がった。
ぱちり、と部屋の向こうで高い音が聞こえる。
まるで[#da=3#]を引き戻す様に。
静かな空間で聞こえた音は一層に響いた様な印象だった。
[#da=3#]はその身を寄せて、洗面台の縁へ置いた腕に額を強く押し当てる。
強く、目を閉じて。
「[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢」
突然呼ばれた為か、飛び上がる様に身体を起こした[#da=3#]は声の方へと身体を向ける。
「問う。気分不良か?損害状況を報告しろ」
規則正しい足音がこちらへと向かってくる。
たった数歩の事でも、何故か身体は少し身構えてしまって。
「いえ…ごめんなさい」
「何故謝罪する。回答の再入力を」
心配してくれている、のだろう。
トレスの言葉は時折とても堅い。
けれども何故か妙に安心感があって、嫌いでは無かった。
心のどこかでトレスを拠り所にしていた自分が居た様な。
「大丈夫です…ちょっと目眩がして」
機械的な、堅苦しい様な、そんな素っ気ない所がとても心地良く響いてくる理由が分からない。
「了解した」
記憶にはない何処かで、求めていた世界線が存在したとでもいうのだろうか。
「その場で待機する事を推奨する。現在『視界』が歪んでいても、卿のいる地点は安全だ」
見えていないのに、抑揚のない言葉を紡ぐ青年は真摯だ。
勿論これを不愉快と取る者も少なからず居るのが現実だろう。
「有難うございます、イクス神父」
瞳が少し落ちる。
僅かな機械音と共に「肯定」と抑揚のない返事が返ってきた。
「残り12分三八.二四秒その場での待機を要求する」
少女の右側約65cm程離れた先で止まったトレスの言葉に「はい」と、短く返した。
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うん、長い。
長いよ。(文字数じゃないです)
書き込み期間がめちゃくちゃ長かった…
トレス神父を書きたくて一生懸命書いたけど、実際どうなの。
彼は本当難しいです。
でもね!
トレス神父のビジュアルに惚れ込んで入った作品なので、
やっぱり思い入れはめちゃくちゃ強くて、
つい書きたくなる…!!!うおー!