- Trinity Blood -4章
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食事を終えてすぐ、トレスが体調の確認に来てくれた。
着替えの手伝いをすると進言があり着替えを手伝って貰っていたが、朝にペテロと会って話をしたその内容や、名前が気になってしまってすっかり集中を欠いていた様だった。
突然「回答を要求する」と声を掛けられて我に返る。
「え?」
トレスに何か声を掛けられていた様だったが、[#da=3#]はすっかり聞き逃していた様だった。
「俺の質問に対する回答の入力がない。何か問題が発生しているのか。回答の再入力を要求する」
「あ、いえちょっと…」
考え事をしていただけ、だなんて。
言えない。
「俺は人間の思考を読み取る事は不可能だが、体温、呼吸、脈、心音、顔や表情、手足の動きから何か異常があったのか感知する事は可能だ」
「すみません…眠りが浅かったみたいでちょっと…」
いや、そうではない。
どちらかというと、眠れた方だと思う。
朝、ペテロとの会話の中で尋ねられた名を気にしていた。
あの時何となく聞いたその名は、時間が経過するにつれて聞いた事がある様な気がしてそれだけで頭が一杯になっている。
満腹感はあるので食事はしっかり摂れていると思っているが、考え事をしていた為か食事に集中出来ずにいた。
「本日は午前11時で特務は終了する。その後は速やかに休息に専念する事を推奨する」
「ありがとうございます」
その間手を休めずに動かし衣服を着せていくトレスの手際の良さは感服する。
恐らく一人で着替えていたら、考え事に集中してしまって手が一つも動かなかっただろう。
気になって仕方がない、朝に聞いたその名で頭が破裂しそうだ。
「あの…」
どう聞けばいいのか分からなかったのに、気が付けば勝手に口が問い掛けてしまっていた。
その問い掛けに呼応する様に、僅かな機械音が耳に届く。
トレスの手はぴたりと止まり、[#da=3#]からの質問を待っている様な。
どう質問をするか、どの様に質問をするかなど、そんな事が頭の中を巡っている。
「実は朝に『[#da=1#]』さんという方の名に覚えがあるかと、聞かれて…」
ファミリーネームを聞き逃してしまったが、朝に聞いたその名を告げる。
僅かな機械音が部屋に静かに響いた。
「[#da=1#]・[#da=2#]に於いての質問に対する回答は禁止事項に登録されている」
抑揚のない声で「機密事項重要レベル最大、卿への回答は不可能だ」と続けた。
そして、再びその手を動かし始める。
そうなんだ…と、心の中で呟いた。
そう言われてしまったら、仕方ない。
トレスは「禁止事項」とか「不可能」と発言した際は、これ以上何を聞いても答えてはくれないのだ。
いや…?
今、質問した時に。
「…あの、イクス神父?」
振り返ろうとした時突然。
トレスの手が背後から両手で腰を支えてきた。
「ひゃうっ」
何とも情けない声が部屋に小さく響いた。
「動かない事を推奨する、[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢」
慌てて口元を押さえるが、纏めて持ち上げていた白髪がさらりと揺れ、重力に従って流れて行った。
両肩が上がる。
背中を何かひやりとしたものが走り、無防備にその背中を預けている事実に、突然恐怖の心が産声を上げた。
今迄構築されていた信頼から警戒をしていなかったが、突然身体が危険を告げる。
「いや…っ」
その手から逃れようと足を踏み出そうとするが、腰は壁にでも挟まれたかの様に腰は一切動かない。
反射的に声が上擦ってしまう。
腰に置かれたそのトレスの手に、自らの手を添える。
その手は少し震えてしまっていた。
この手を離して欲しい、もう、動かないから。
そう心の中で言いながら、言葉は形になる事は無かった。
「あの…ごめんなさい」
「問う。何故謝罪する」
反射的に「いえ、すみません」と出てくる。
何をどう説明したらいいか思案しつつ。
動揺しているのか、言葉が紡げない。
「何の謝罪だ。回答の再入力を」
再度質問されても、どうしたらいいかなんて。
まず腰に添えられたその両手をどけて欲しいなど、どういったらいいのだろうか。
正直に伝えたら良いのだろうが、難しくて。
「いえあの、私」
段々と顔が熱くなって。
冷静になれと言い聞かせながら。
でも駄目だ。
全然冷静になれないまま、身体は熱くなっていく。
「体温の上昇を確認」
髪をその手で改めて纏め上げながら、呼吸を落ち着かせる。
腰に添えられたその手はまだ、離れない。
上半身が仰け反っていく。
「…離し、て――」
冷静でいないと、と言い聞かせるが、身体が勝手に警戒の色を強めてしまって。
僅かに掠れた声で、消えそうな声で訴える。
「――肯定」
トレスの手がゆっくりと腰を離した。
「動いてすみません…」
「問題ない」
突然の事に僅かにパニックになったが、ふと先程の事を思い出す。
[#da=1#]…さんは――
[#da=1#]・[#da=2#]…、って言うんだ――
ペテロが言っていた「知人」の名はファミリーネームまで聞き取れなかったものだから、ここでファミリーネームが判明しただけありがたい。
思案している間に、何事も無かったかの様にトレスは作業を再開して手早く紐を結び切っていた。
「次は髪をセットする、早く座れ」
「うあ、はい」
踵を鳴らして。
鏡台の椅子へと足を進めた。
・
午前の特務を終えてすぐ。
指先の意識集中させる事に集中する訓練を行いながら『お留守番』として控えている。
現在訓練中だ。
こんな事でお役に立てているのだろうか。
私は目が見えないのに…――
不安はあるが、上司となったカテリーナ・スフォルツァ枢機卿には感謝をされお給金を頂ける事になった。
ワーズワースが普段使用している研究室へ辿り着く。
ノックをしても、返答はない。
「あれ、」
しかし、何故かあまり躊躇う事無く扉を開けて。
「ワーズワース神父?」
返事をする者はいない。
踵を2度鳴らして。
暖炉が傍にあるスペースの、窓際へと足を進めていく。
君のお気に入りの場所だからね――
という言葉を思い出す。
ゆっくり腰を降ろしてその場で座る。
もう景色も見えないのに、脳裏へ景色が浮かぶ様だった。
窓へ身を寄せて、瞳を閉じる。
窓越しに鳥の声が聞こえ、空が窓を叩いて。
ぼんやりと暖かい光に包まれて。
ただ風が隙間から通る為、身体を暖める事はない。
心地のいい場所。
記憶を失う前の自分がそこで過ごしていた事を聞いて、最初は驚いたが、今では納得出来る。
穏やかな心地に身体を任せて、窓枠へとその身を寄せた。
途端に意識が途切れそうになって。
「'教授'!居らっしゃいますか!」
びくりと肩が上がる。
ノックが先か言葉が先か。
どうやら寝入ってしまっていた様だ。
声の主に応える者は誰も居ない。
「あれ…、ああ![#da=3#]さんじゃないですか!」
トタトタと近付いてくるこの足音、この声。
「ナイトロード神父?」
長身で、とても線の細い神父。
ブラザー・ペテロや、レオンと並ぶ長身だが、彼は非常に細身で頼りなく感じてしまう。
しかし、そうではないと何故か知っているようで。
見えている訳でも、ないのに。
「あれ…、でもさっき」
そう、先程『お留守番』から上がる時にすれ違ったのだ。
「'教授'はお留守でしたか…残念…」
何か急ぎの用事だったのか。
ふと考えを巡らせていたが、思い付く訳もなく。
「あー、今日は厄日です…カテリーナさんに叱られちゃったり、落とし物をしちゃったり…」
ため息を付きながら、その声は近くで座り込む。
何かあったのか、改めて聞く事は無い。
よく聞き慣れた、というべきか。
座り込んだ神父を白髪の女性が覗き込んだ。
アベルのため息は実に弱々しく、悲壮感が強い。
まるで身体中から何かが抜け出ていきそうな位重々しい。
静かな空間で、大きな音を聞いたのはその時だった。
「あ、はは…これは失敬」
腹の虫が盛大に鳴いたアベルが「3日程まともに食べていなくて」と頼りなく笑った。
「私もまだで…」
「ご一緒しますよ!」
ああ、と。
[#da=3#]は思いを巡らせた。
ワーズワース神父への用事は、今度の方が良いかも知れない。
これは天のお告げなのかも。
「では、行きましょうか」
優しい声で呼ぶ。
差し出されたその手へ導かれる。
見えている訳でもないのに。
こちらから差し出したその手の先、腕輪についた小さな十字架はアベルの胸を強く痛めた。
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ああ…
ギリギリの展開に持って行きたいのに
なかなかいい展開が思いつかないー;u;
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