- Trinity Blood -4章
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記憶の波。トレス
「問う。何故教理聖省異端審問局局長ブラザー・ペテロが同行している。説明を」
トレスは怒ってる…様だった。
勿論彼は怒っているか確認すると「怒る?否定。俺は人ではない、機械だ」と返してくるだろう。
「それが…ちょっと色々あって」
「回答になっていない、[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢。回答の再入力を要求する」
何をどこから説明したらいいのか。
「男性に声を掛けられて困っていた所を助けて頂いて――」
「それについては肯定。しかしこの地点迄同行をさせた理由は」
トレスは実に平坦な、抑揚のない声で質問をしているが、自分ではなくペテロが隣にいるこの状況が赦せないと言った風だった。
凄く怒ってる様な…と、[#da=3#]は反省していた。
彼の同行を断っておいて別の人物と戻ったら、確かにあまり良い気はしないだろう。
彼がカテリーナ・スフォルツァ枢機卿の兄フランチェスコ・ディ・メディチ枢機卿が統治する異端審問官の局長その人であれば尚の事、腹も立つだろう。
「彼女の様な身分の者を単独で向かわせる方が如何なものだが?」
「否定。俺は同行を推奨したが単独で行くと回答があった。なお時間迄に戻らなければ今後は断られたとしても同行するとも伝えている」
割って入ったペテロにも容赦ない。
相当怒っている様な口振りだった。
「ごめんなさいイクス神父。一応時間迄に戻ったから…許して頂ければ、と…」
「肯定。俺は、俺ではなくブラザー・ペテロが同行している事について質問している。回答を」
もしかして相当怒っている――?
「以後気を付ける。すまなかった、俺はこの先も聖務があるので失礼する」
「待て、教理聖省異端審問局局長ブラザー・ペテロ」
「同行に関しては謝罪する、某が軽率だった。彼女を責めるのは筋違いだ」
急いでいたのか、トレスの勢いに負けたのか真意の程は分からないが早足で風の様に消えるペテロを、声だけが追い掛ける。
「――あの、イクス神父…ごめんなさい」
トレスがペテロを追わずに見送ったのは、[#da=3#]が僧衣の裾を引いたからだろうか。
「卿が仮に護身の術を持っていたとしても、危険とする人物は多い。今後は俺が同行する。異議は認めない。回答の入力を」
「…はい」
肩を落とししょんぼりと下を向いた[#da=3#]に、トレスは硝子の様に美しいその瞳を向ける。
言い過ぎたか?否定
――彼女は自分は安全だと、何かを根拠に思い込んでいる。
トレスは思考を巡らせる。
根拠は不明。
目の前のこの小柄な女性は何故か、自分は危険な目に遭う事が無いと漠然と思い込んでいる様だ。
しかし実際のところ街の中で異性に声を掛けられている。
異端審問局局長ブラザー・ペテロに助けられた様だがその後の同行を赦した。
同僚の神父アベルには手を取られていた。
神父レオンには手を握られていた。
これだけ自分に対して距離が無い異性に対し、自分は手を出されないと思っているのか。
根拠は何か。
俺が同行すると言った時、彼女は断った。何故か。
「…あの、イクス神父?」
見上げる様に、トレスに声を掛ける。
[#da=3#]のその瞳は、もう光を映す事はない。
しかし間違いなくこちらを見上げている。
「卿は今後重要な任務が控えている。その身は大事にしろ」
「え、あ…はい」
こちらを向いたトレスの、無表情に見えていた筈のその顔がやや曇っている様な。
見えていない筈の、神父の顔。
何故知っている様な気がするのか、[#da=3#]には分からなかったが。
「俺が傍に居る間は卿の身は保証するが、同行できない場面ではその身の危険を回避できない」
アベルみたいに手を取ったり、レオンみたいに肩や腰に触れる事は無いが。
トレスを知っている、いや、よく知っていた様な。
もう既に見る事が出来ないその瞳を凝らす。
ぼんやりと赤く光るその光が、頭の奥の方で形作られていた。
光を失ったその瞳でトレスを覗き込んでいた。
見えないのに、とため息。
「[#da=3#]・アーチハイド伯爵令嬢」
「は、はい」
呼ばれて慌てて返事をする。
姿勢がピンと伸びた。
トレスは指摘をする事が無かったが、嫌な気持になっていないだろうか。
「宿泊用の寝室へ案内する。同行を」
ひと呼吸置いて、トレスは歩き出す。
リズムを一定にして歩くその後ろを、僧衣の裾を握ったまま追い掛けてくる幼い顔立ちの白髪の女性。
寝室へ迷う事なく真っ直ぐ向かうと、トレスは扉を開けた。
後ろから付いて歩いていく。
「着替えを手伝う」
「あ、はい…お手数、おかけします」
山小屋で過ごす間、何度も着替えを助けてくれた。
すっかり慣れた手付きで着替えを手伝うトレス。
するりと衣服が肩を滑る。
「明日は7時から公務だ。伯爵令嬢は明日から特務に就くがその前に、スフォルツァ枢機卿から全体に説明がある。明日6時に合流する。起床時間は5時。遅れぬ様」
「分かりました」
半年の訓練を終えて視野、いや世界が拡がった事をきっかけにスフォルツァ枢機卿から特務を受ける事になった。
この特務に関しては、訓練のサポートを最大限に行う事を約束された時に、カテリーナ・スフォルツァ枢機卿から提示された交換条件の様な特務だった。
説明を受けた後、訓練を終えたらその後必ずこの特務を引き受ける事を約束。
今回正式に特務を開始するにあたり、部屋を今後こちらへ用意して貰える事になっている。
不定期的だがほぼ毎日ここへ足を運ぶ事になりそうだ。
勿論検査も定期的に受ける事になっているのだが。
養父にも、必ずその特務に就く様にと言われた。
何故かは、分からないが――
光栄な事だよと、言われたが真意は隠されている様な気がしていた。
衣類は脱がされ、室内着を纏う。
「身の危険を感じたら必ず呼べ。急行する」
「…はい」
急行するって…枢機卿の過ごす所から考えるとちょっと距離が心配…の様な?
いや、何故寝室を知っている?
「では失礼する」
室内着に着替え終わると、トレスはすぐに部屋を後にする。
一瞬にして静かになる。
部屋がぼんやり明るい様な。
電気がついている。
風に当たりたい…――
窓を探して、左右に意識を集中する。
僅かに風が窓を叩いている。
窓を開けると、ふわりと風が頬を撫でる。
月の光を探してみるがまだ少し、早い様だった。
今日は朝から検査に謁見に用事にと、忙しかった気がする。
流石に疲れた。
窓辺に立つと二度踵を鳴らした。
今日の部屋はバルコニーが無い。
地面が近い。
50㎝程のスペースはあって、石の柵が1m程の高さまである。
石柵に登り壁を背にして座り、頭を壁にその身を預けた。
気持ちがいい。
瞳を閉じたとして、見えていないのは同じなんだが。
風を感じながら、ため息を一つ。
心地よい世界にその身を寄せて。
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トレス神父に惚れて
入ったトリ・ブラ作品
表紙に惚れ込んで
レオンにどっぷりなんだけど…
トリ・ブラはどのキャラも
個性たっぷりで好きです☆
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