- Trinity Blood -4章
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帰宅の途中で。ペテロ
養父に頼まれた用事を終えて、帰宅の途についていた。
時間までに戻らないとトレスが不機嫌になる。
「よう、お姉ちゃん元気?」
呼び止められたというか、腕を引かれて。
驚いて振り返る。
聞き覚えのない声。
知らない気配。
男が二人目の前に、居る。
「申し訳ありませんあの…どちら様でしょうか」
頭をどれだけ傾けても覚えていないんだから仕方がない。
「え?…覚えてないの?寂しいな!」
「思い出すかもしれないから、一緒にお茶でもどう?」
力強く引くその手が痛い。
これはいけない。
「ごめんなさい、約束が…」
確かに話をすれば、万が一にも思い出す事があるかも知れないが今は悠長にお茶をご馳走になっている場合ではない。
時間迄に戻らないとトレスが不機嫌になる。
焦りを隠せない[#da=3#]に、男達は「ええ、いいじゃん!」と声を上げる。
「あの…困ります」
突然。
「何をしている」
肩を持って誰かが[#da=3#]を引き寄せる。
周囲に気を配るの余裕が無く、情けない事に突然の事に口元で小さく悲鳴を上げてしまった。
「ああっ?何だ黙ってヒイイイ?!」
「で…でけえ」
振り返ったと思ったら急に竦み上がる気配。
一体何が。
いや、聞いたことがあるこの声。
「おい、汝ら!」
巨漢の声が響くと同時に、男達が気配を消した。
「えっと……ペテロ、さん?」
「全く貴女という人は…この地区はあまり治安が良くない。一体何用か?」
やれやれ、とため息。
「ええ…あの、養父に手紙を人に渡すよう言われていたので」
しょんぼりとした様子で頭を下げながら、父からの用事だった事を聞かされた。
「毎度毎度危なっかしい方だ…御送りしよう」
毎度毎度…――?
でも彼とは多分会ったのは、まだ2度目の筈。
「え、でも…」
「なに、同じ方向です」
言われて大人しくついていく事になった。
「…恐れ入ります」ペテロの気配を追いながら歩いていく。
子鴨にでもなった気分でちょっと面白い。
[#da=3#]はしかし、治安が悪いと言いながら彼は何故あの場に居たのか気になってました。
「貴女の事は責めたのに何故某が此処へ、と思っているか」
心が読まれているような。
いや、聞いて欲しかったかの様な口振り。
ペテロは駆け引きがあまり上手ではないのだろうか。
「友人と言うには相応しく無いかも知れないが、知人があの辺によくいると聞いてから何故か足が向いてしまうのだ。彼は既に引退したと聞いたが…」
友人と知人の違いは何だろうか。
顔を見合わせる位なら知人だろうか。
知った仲なら、友人というのだろうか。
言葉は本当に使い方が難しい。
「もう会えないと頭では分かっているのに――」
ブラザー・ペテロはその知人に、会いたい様だった。
力にはなれそうにない。
その知人は一体どういう方だったのだろうか。
思いを巡らせる。
足音が止まった事に気が付いた時には、既に身体が前に出てしまっていた。
「あ…っ!」
油断した。
止まると思っていなかったから、そのまま巨漢に追突――
「…無事か?」
大きなその手が、[#da=3#]を受け止めた。
悲鳴を上げそうになったが、耐えた自分を褒めてやりたい。
ペテロは[#da=3#]を解放しながら体勢を整える。
「貴女は身分あるものだが力は無いし、これだけか細い――
某は、身分こそないが力は有る」
低くその身を落とし、膝をついた様だった。
影が動いた様な感覚。
「危険な地区に入るのは、以後お控え下さい」
とても、丁寧に。
「…あの」
でもこの地区は良く知っていた気が、して。
「勉強不足でした…ブラザー・ペテロ」
同じく身を低くした[#da=3#]は、ペテロが手を置いている膝へそっと、自分の手を重ねた。
「今一度この街を…学ばなければいけませんね…」
でも、この街は何故かよく知っていた様な。
とても、気に入っていた様な。
「道中、宜しくお願いしますね?」
覗き込むように。
[#da=3#]はペテロに笑いかける。
その瞳は前髪で器用に隠れていて見えない為、表情ははっきり読み取れないが。
しかしまっすぐこちらを見ているような気がして。
彼女が盲目である事を忘れてしまいそうになる。
肩からさらりと流れる白髪に触れてしまいそうになる。
ごくり、と喉が鳴る。
「ですからその…――
貴女は少し、危機感が足りませんぞ…」
注意されつつ、ごほんと一つ咳払い。
小柄なその女性は不思議そうに「なぜ?」と首を傾げつつ。
それにしても何故かペテロには注意を受けてばかりの様な。
「教皇庁の一室に宿泊する予定でして、その――」
言い難そうに。
「それであの…時間迄に戻らないと神父トレスがご機嫌斜めになってしまうのでちょっと急がないと…」
「む、なんと!それはいけない!」
突然その身を起こす。
「あの男は非常に小難しい男です!」
慌ててその手を引いて、ペテロは歩き始めた。
「あ、え?」
突然の事に少し混乱したが、スピードはそんなに早くない。
足並みを合わせるのが少し難しい。
引かれた手に体温を感じて、僅かに焦る。
でもこの手を離すと、折角手を引いてくれているのに申し訳無い様な気がして。
目的地まではそんなに距離もない。
耐えられるのかは分からない。
足は追い付いた、というよりリズムを掴んできたと思う。
「あの、もうちょっと…ゆっくり行きたいです」
「む?ああ、失礼…そうですね」
遠慮がちに声を掛けたが、ペテロは気が付いた様にスピードをぐんと落としてくれた。
「服の裾をお借りしても?」
夕日を受けているらしい、この黄金の小道。
この光の感じが好きだった様な。
狭いこの道は石畳。
夕日の朱を吸い込んで中から輝く様な、確かそんな道だった。
「ええ勿論――
ん、…服の裾、ですか?」
「癖でしょうか…そちらの方が歩き易くて…」
そろそろ体温が、とは言えない。
何故か服の裾を持っていた方が慣れない場所でも比較的スムーズに歩ける様に思う。
何故かは、未だに分からない。
薄暗くではあるが瞳の奥ではその世界が浮かんでいる。
訓練の賜物でもあるが、’教授’の骨伝導を応用した装置が一番功績が大きいと言える。
この装置があると、生活は殆ど苦にならない。
一緒に歩くペテロも、知らない筈の横顔も、何故か。
でも…何故?
流石にここまで鮮明なものだろうか――
疑問は、残っている。
並んで歩くその影が、黄金小道から大通りへ消えていった。
・
ああ…
ついに。
管理人はやってしまいました。
まさかの教理聖省。
しかもペテロ夢。
私の夢は確か、
国務聖省中心だった様な…
でも、何故かペテロさんって
妙に嫌いになれないんだよね…
んんん…何故なの…
・